レバレッジ比率規制の基礎とシステム実務

Tier1資本と総エクスポージャーから、銀行の過度なレバレッジをリスク・ウェイトに依存せず確認する

基準時点:2026年8月16日 対象:日本の銀行向け規制を中心に整理 作成:AddWisteria Lab

【本稿の対象と前提】

本稿は、銀行向けレバレッジ比率告示に基づき、国際統一基準行の連結・単体レバレッジ比率を中心に整理する。 銀行持株会社、農林中央金庫、信用金庫連合会、最終指定親会社等には、それぞれの業態に応じた告示がある。

レバレッジ比率は、リスク・アセットを用いる自己資本比率を置き換えるものではない。 リスクの高低を反映する自己資本比率と、エクスポージャーの総量をみるレバレッジ比率を併用し、 異なる角度から銀行の健全性を確認する制度である。

制度の数値、適用対象、日銀預け金、連結範囲、相殺、担保、オフ・バランス取引の扱いは改正され得る。 実際の算出・報告では、算出基準日時点の告示、開示告示、金融庁Q&A、監督指針および各契約条件を確認する必要がある。

1. レバレッジ比率規制とは

レバレッジ比率規制は、銀行が自己資本に比べて過大な資産・取引を抱えることを抑えるための規制である。 レバレッジとは、借入や預金等の負債を利用して自己資本を上回る規模の資産・取引を保有することをいう。

世界金融危機前には、リスク・ウェイトを用いる自己資本比率が一見高くても、 オン・バランスとオフ・バランスの取引を大量に積み上げていた銀行があった。 危機時に資産圧縮が一斉に進むと、損失の拡大や実体経済への信用供給の縮小につながり得る。

レバレッジ比率 = Tier1資本の額 ÷ 総エクスポージャーの額 × 100

リスク・ウェイトに依存しない

原則として、信用力が高い資産であることだけを理由に分母を大幅に軽くしない。 低リスク資産を大量に積み上げる場合にも、資産規模に対する資本の厚みを確認する。

自己資本比率の安全網

リスク・ウェイト、外部格付、内部モデル、担保効果等に依存する自己資本比率を、 より単純な総量指標で補完する。

簿外取引も対象

貸借対照表上の資産だけでなく、デリバティブ、レポ、コミットメント、保証等も所定の方法で分母へ含める。

単純な総資産比率ではない

会計上の総資産をそのまま使うのではなく、重複排除、自己資本控除項目、相殺要件、簿外取引等を告示に従って調整する。

主な根拠:銀行向けレバレッジ比率告示第2条、第4条、第6条。 バーゼル銀行監督委員会(BCBS:国際的な銀行監督基準を策定する組織)は、 レバレッジ比率をリスクベースの自己資本規制を補完する非リスクベースの安全網と位置付けている。

2. 適用対象・最低水準・日銀預け金

2-1. 銀行向け告示の主な対象

銀行向け告示では、国際統一基準の連結自己資本比率および単体自己資本比率を補完する指標として、 連結レバレッジ比率と単体レバレッジ比率を定めている。 国内基準行の自己資本比率へ同じ最低水準を直接適用するものではない。

銀行持株会社等については別の告示があるため、システムでは法人・業態・適用基準・連結範囲を先に確定する必要がある。

2-2. 最低水準

区分 水準 意味
基本の最低水準 3%以上 日銀預け金を除外しない一般の算式に対応する最低水準である。
日銀預け金を除外する現行枠組み 3.15%以上 分母から日銀預け金を除外する一方、最低所要水準を0.15ポイント引き上げる。
一定のG-SIB 追加バッファーあり G-SIB(世界の金融システム上重要な銀行)には、最低水準に加えてレバレッジ・バッファーが適用される。

2-3. 日銀預け金の扱い

本稿の基準時点における日本の現行枠組みでは、日本銀行に対する預け金を総エクスポージャーから除外し、 最低所要水準を3%から3.15%へ調整している。 一方、開示では日銀預け金を含む値と除外した値の双方を示す。

「計算上の最低水準」と「開示する比率」を混同しないことが重要である。 日銀預け金の除外区分、除外額、含む総エクスポージャー、除外後総エクスポージャー、 それぞれの比率を別項目として保持する。
金融庁は、2024年4月1日以降、日銀預け金を総エクスポージャーから除外し、 最低所要水準を3.15%とする枠組みを公表している。 G-SIBのレバレッジ・バッファーには、日銀預け金除外に対応する0.05ポイントの調整が加わる。

3. 算式と資本の額

3-1. 分子はTier1資本

分子の資本の額は、自己資本比率告示に基づくTier1資本の額である。 Tier1資本は、普通株式等Tier1資本(CET1:普通株式や利益剰余金等を中心とする最も基礎的な資本)と、 その他Tier1資本(AT1:一定の損失吸収条件を備えた追加的な資本)から構成される。

資本の額 = 普通株式等Tier1資本 + その他Tier1資本

Tier2資本(劣後債務等を中心とする補完的な自己資本)は、レバレッジ比率の分子には含まれない。 また、貸借対照表上の純資産や株主資本をそのまま用いるのではなく、 自己資本比率告示に基づく調整項目反映後のTier1資本を使用する。

3-2. 分子と分母の整合

Tier1資本から控除した一定の資産は、告示に基づきオン・バランス資産からも控除する。 これは、分子で既に認識した資本控除の影響を、分母側で不整合に残さないためである。 ただし、控除対象・控除額は告示上の定義に従い、会計上の資産額を機械的に全額除外するものではない。

自己資本比率計算から取得するのは「最終比率」ではなく、 適用基準、連結・単体区分、Tier1資本、各調整項目およびルール版である。 分子の算出基準日と分母の算出基準日も一致させる。

4. 総エクスポージャーの全体像

総エクスポージャーは、次の四つの区分の合計である。 エクスポージャーとは、銀行が資産・取引・契約を通じて負う金額的な規模を、規制上の方法で測定したものである。

総エクスポージャー = オン・バランス資産 + デリバティブ取引等 + レポ取引等 + オフ・バランス取引
構成区分 主な対象 計測の中心
オン・バランス資産 貸出金、有価証券、現金・預け金、その他の資産 貸借対照表上の総資産を基礎に、告示上の加算・控除を行う。
デリバティブ取引等 金利・為替等のデリバティブ、長期決済期間取引、信用プロテクション提供 再構築コスト、将来の潜在的なエクスポージャー、一定の想定元本を測る。
レポ取引等 現先、債券貸借、信用取引等 現金の受取債権と、担保価値を考慮した取引相手方エクスポージャーを測る。
オフ・バランス取引 コミットメント、保証、信用状、貿易関連偶発債務等 想定元本等に告示上の掛目を適用する。

4-1. 単純化した計算例

項目 日銀預け金除外後の金額
オン・バランス資産160兆円
デリバティブ取引等10兆円
レポ取引等15兆円
オフ・バランス取引15兆円
総エクスポージャー200兆円
Tier1資本6.3兆円
レバレッジ比率6.3兆円 ÷ 200兆円 = 3.15%

仮に除外した日銀預け金が10兆円であれば、日銀預け金を含む総エクスポージャーは210兆円となり、 含む値の比率は6.3兆円 ÷ 210兆円 = 3.00%となる。 この例は制度構造を示すための単純化であり、実際の各区分には個別の調整がある。

5. オン・バランス資産

オン・バランス資産とは、貸借対照表に計上される資産を基礎とする区分である。 ただし、会計上の総資産をそのまま採用せず、デリバティブやレポとの重複、自己資本控除項目等を調整する。

5-1. 主な調整

  • ・デリバティブ取引等に関連する一定の資産を控除し、デリバティブ区分で改めて計測する。
  • ・レポ取引等に関連する現金の受取債権等を控除し、レポ区分で改めて計測する。
  • ・Tier1資本の調整項目として控除した一定の資産を、告示に従って控除する。
  • ・会計上相殺された差入担保、変動証拠金、受領証券等について所定の加算・控除を行う。
  • ・有価証券売買の約定日認識・受渡日認識に応じ、未収金・未払金の扱いを調整する。
  • ・一定のキャッシュ・プーリングや証券化取引について、告示上の要件を確認する。
  • ・現行枠組みに従い、日本銀行に対する預け金を識別して除外する。

5-2. 担保があっても資産が消えるわけではない

貸出金に十分な担保があることや、相手先の信用力が高いことだけを理由として、 オン・バランス資産を総エクスポージャーから控除するものではない。 レバレッジ比率は、信用リスクの精緻な軽減効果ではなく、資産・取引の総量を捉えることを目的とするためである。

主な根拠:銀行向けレバレッジ比率告示第7条。 オン・バランス資産は総資産を出発点とするが、デリバティブ・レポの重複排除、 自己資本調整項目、日銀預け金等について告示上の調整を行う。

6. デリバティブ取引等

デリバティブ取引等は、会計上の時価だけでは将来の相手方エクスポージャーを十分に表せない。 そのため、再構築コスト、将来の潜在的なエクスポージャー、信用プロテクションを提供する一定の取引の想定元本を計測する。

デリバティブ取引等に関する額 = 1.4 × 再構築コスト + 1.4 × 将来の潜在的なエクスポージャー + 信用プロテクション提供に係る一定の想定元本

6-1. 再構築コスト

再構築コスト(RC:相手方が直ちに不履行となった場合に、同等取引を再構築するための現在の費用)は、 法的に有効な相対ネッティング契約の対象となる取引集合ごとに算出する。 現金で授受した変動証拠金を反映する場合は、分別管理、日々の時価評価、通貨、契約等の要件を確認する。

6-2. 将来の潜在的なエクスポージャー

将来の潜在的なエクスポージャー(PFE:取引価値が将来変動して増加し得る相手方エクスポージャー)は、 原資産、想定元本、残存期間、取引方向、ネッティング・セット、オプション性等を用いて算出する。

6-3. 信用プロテクションを提供する取引

クレジット・デリバティブ等で銀行が信用プロテクションを提供する場合は、 再構築コストやPFEだけではなく、経済効果を反映した想定元本も分母へ含める。 購入したプロテクションによる控除には、参照組織、参照債務、優先順位、残存期間等の要件がある。

デリバティブの総エクスポージャーは、「時価」「想定元本」「証拠金」のいずれか一つでは決まらない。 個別取引、法的ネッティング単位、担保契約、清算関係、信用プロテクションを関連付けて管理する。
主な根拠:銀行向けレバレッジ比率告示第8条、レバレッジ比率告示に関するQ&A第8条関係。

7. レポ取引等

レポ取引等は、債券等を用いて資金または証券を調達・運用する取引である。 レバレッジ比率では、現金の受取債権と、取引相手方に対するエクスポージャーを合計する。

レポ取引等に関する額 = 現金の受取債権 + 取引相手方に対するエクスポージャー

7-1. 現金債権・債務の相殺

同一相手方との現金の受取債権と支払債務を相殺するには、主として次の要件を確認する。

  • ・両取引の最終清算日が同一であること。
  • ・両取引が行われる国・地域で相殺が法的に有効であること。
  • ・純額決済または同時決済の意図があること、または同一の決済の仕組みにより実質的に同等の結果となること。

DVP(証券の引渡しと資金の支払いを条件付ける決済方式)であることは重要な情報であるが、 DVP区分だけで上記全要件を自動的に満たすとは限らない。 最終清算日、法的有効性、当事者の決済意図、利用する決済の仕組みを個別に確認する。

7-2. 取引相手方エクスポージャー

個別取引では、相手方へ提供している資産の時価から、相手方から受領している資産の時価を控除し、 ゼロを下限として算出する。法的に有効な相対ネッティング契約がある場合は、告示上の要件を満たす取引集合で算出できる。

7-3. 公式Q&Aの単純例

取引 前提 レポ取引等に関する額
債券を差し出して資金調達 時価110の国債を差し出し、現金100を調達 現金受取債権0+取引相手方エクスポージャー10=10
債券を受け入れて資金運用 時価110の国債を受け入れ、現金100を運用 現金受取債権100+取引相手方エクスポージャー0=100

会計上引き続き計上される受領現金や差出国債は、別途オン・バランス資産へ含まれ得る。 レポ区分だけを見て取引全体の分母寄与を判断しないことが重要である。

主な根拠:銀行向けレバレッジ比率告示第9条、レバレッジ比率告示に関するQ&A第9条-Q1。

8. オフ・バランス取引

オフ・バランス取引とは、契約時点では貸借対照表上の貸出残高等として全額計上されていなくても、 将来の信用供与や資産取得につながり得る契約である。 レバレッジ比率では、想定元本や未使用額等に告示上の掛目を乗じて分母へ含める。

代表的な相手方信用リスクに係る区分と掛目
区分 掛目 代表例
無条件取消可能または信用悪化時に自動取消可能なコミットメント 10% 告示上の取消可能性を満たす未使用融資枠等
短期かつ流動性の高い貿易関連偶発債務 20% 銀行が発行・確認した一定の貿易信用状等
その他のコミットメント 40% 取消可能区分に該当しない融資枠等
特定の取引に係る偶発債務等 50% 契約履行保証等の一定の偶発債務、短期証券引受契約等
信用供与に直接代替する偶発債務等 100% 支払保証等、その他100%区分に該当する取引

例えば未使用額100に10%、20%、40%、50%、100%の各掛目を適用すると、 エクスポージャー額はそれぞれ10、20、40、50、100となる。 どの掛目を使うかは商品名ではなく、取消条件、契約内容、相手方、信用供与の性質等から判定する。

8-1. 一定の取消可能な取引の例外

告示上の10%区分に該当する取引のうち、法人等向けであり、手数料を受領せず、 引出しの都度申請・銀行承認・信用力評価を行うなど、全ての要件を満たす場合には、 エクスポージャー額を算出しない取扱いがある。 単に「いつでも取消可能」と登録されているだけでは、この例外を適用できない。

自己資本比率規制にもオフ・バランス取引の信用変換係数があるが、 レバレッジ比率の掛目と計算目的は別である。 共通する契約データを再利用しつつ、規制区分・掛目・適用条文・ルール版は分離して管理する。
主な根拠:銀行向けレバレッジ比率告示第10条。 表の掛目は本稿基準時点の銀行向け告示に基づく。

9. 相殺・担保・会計との関係

会計上の純額表示、契約上の相殺、規制上認められる相殺は同じではない。 また、担保があることと、総エクスポージャーから控除できることも同義ではない。

会計上の相殺

財務諸表上で資産・負債を純額表示できるかという会計上の判断である。

法的ネッティング

倒産・債務不履行時を含め、複数取引を一つの債権・債務として決済できる法的有効性の判断である。

規制上の相殺

告示が定める取引範囲、日付、決済、担保、時価評価等の全要件を満たす場合に限って反映する。

担保・証拠金

種類、時価、評価日、通貨、差入・受入、分別管理、再利用可否、契約との対応関係を確認する。

9-1. 商品をまたぐ相殺

金融庁Q&Aでは、複数のデリバティブ取引間、または複数のレポ取引間で所定のネッティング効果を反映できる一方、 デリバティブ取引等とレポ取引等の間のクロス・プロダクト・ネッティング (異なる商品区分をまたぐ相殺)の効果は反映できないとしている。

9-2. 現金変動証拠金

デリバティブの再構築コストと現金変動証拠金を相殺するには、 受領者側で分別管理されていないこと、営業日ごとの時価評価、所定の通貨・契約要件等を満たす必要がある。 現金で授受したという事実だけで相殺しない。

相殺可否を一つの共通フラグで管理すると、会計・自己資本比率・レバレッジ比率・決済で誤用しやすい。 「対象規制」「商品区分」「ネッティング・セット」「法的意見」「適用期間」「満たした要件」を分けて管理する。

10. 自己資本比率との違い

比較観点 自己資本比率 レバレッジ比率
主な目的 信用・市場・オペレーショナル等のリスクに対する資本の十分性をみる。 リスク測定に依存せず、資産・取引総量に対するTier1資本の厚みをみる。
分子 普通株式等Tier1、Tier1、総自己資本等の各比率に応じた資本。 Tier1資本。
分母 リスク・アセット(RWA:リスクに応じた掛目等を反映した資産額)。 総エクスポージャー。
リスク・ウェイト 使用する。 原則として使用しない。
低リスク資産 低いリスク・ウェイトとなる場合がある。 低リスクであることだけを理由に分母を大幅に軽減しない。
デリバティブ・レポ 自己資本比率告示の目的と手法で計測する。 レバレッジ比率告示の再構築コスト、将来エクスポージャー、現金債権等で計測する。
オフ・バランス 信用変換係数等を用いてリスク・アセットへ反映する。 レバレッジ比率告示の掛目で総エクスポージャーへ反映する。

例えば、信用力が高く自己資本比率上のリスク・ウェイトが低い資産でも、 レバレッジ比率では原則として会計額を基礎に総エクスポージャーへ含まれる。 したがって、自己資本比率に余裕があってもレバレッジ比率が制約となる場合があり、逆の場合もある。

自己資本比率のRWAをレバレッジ比率の分母へ流用することはできない。 両規制は基礎データを共有できるが、判定・計算・調整・集計結果を別々に保持する必要がある。

11. 連結・単体・バッファー・開示

11-1. 連結と単体

連結レバレッジ比率は、告示上の連結範囲に基づく連結財務諸表を基礎に算出する。 会計連結と規制上の連結範囲が常に同一とは限らず、金融子会社、保険会社等、特別目的会社等の扱いを確認する。

単体レバレッジ比率は銀行単体を基礎とするが、一定の特別目的会社等について告示上の調整がある。 連結・単体で同じ取引を単純に複製するのではなく、内部取引、連結消去、連結範囲、資本額を別に確定する。

11-2. G-SIB向けレバレッジ・バッファー

一定のG-SIBには、最低水準に加えてレバレッジ・バッファーが適用される。 基本的には自己資本比率規制上のG-SIB追加比率の50%に連動し、 日銀預け金除外の現行枠組みでは、さらに0.05ポイントを加える。

対象銀行、自己資本比率規制上の追加比率、レバレッジ・バッファー、適用開始日をルールとして管理し、 最低水準とバッファーを分けて判定する。

11-3. 開示

開示では、比率だけでなく、Tier1資本、総エクスポージャー、各構成区分、会計総資産からの調整等を示す。 現行の日本の枠組みでは、日銀預け金を含む値と除外した値の双方を開示する。

算出値、最低水準判定値、バッファー判定値、開示値は用途が異なる。 一つの「レバレッジ比率」項目へ上書きせず、算出目的・分母定義・適用水準を識別する。
金融システム実務

12. システムでは何を管理するのか

レバレッジ比率システムでは、最終比率だけでなく、 分子・分母の各明細がどの元データ、契約、会計値、ルール、調整を経て算出されたかを再現できることが重要である。

管理領域 主なデータ 主な判定・統制
適用区分・組織 業態、国際統一基準、法人、連結・単体、連結範囲、内部取引、基準日 適用告示、算出単位、連結対象・除外、報告単位を確定する。
Tier1資本 CET1、AT1、各調整項目、自己資本比率計算版 分子の基準日・適用範囲を分母と一致させる。
オン・バランス 会計科目、総資産、帳簿価額、未収・未払、自己資本控除項目、日銀預け金 デリバティブ・レポとの重複、告示上の加算・控除を管理する。
デリバティブ 個別取引、時価、想定元本、残存期間、原資産、ネッティング・セット、RC、PFE 法的ネッティング、現金変動証拠金、清算関係、信用プロテクションを判定する。
レポ 現金債権・債務、提供・受領資産、時価、相手方、最終清算日、勘定区分 現金相殺、相手方エクスポージャー、法的有効性、同時決済を判定する。
オフ・バランス 契約、想定元本、使用額・未使用額、取消条件、手数料、引出・承認条件 取引区分、10%から100%までの掛目、例外要件を判定する。
担保・証拠金・法務 担保種類、時価、評価日、通貨、分別管理、契約、法的意見、有効期間 規制別の相殺・控除要件を判定し、会計上の相殺と分離する。
日銀預け金・開示 日銀預け金額、除外可否、含む分母、除外後分母、双方の比率 3%・3.15%の対応関係と開示値を混同しない。
制度ルール・証跡 告示版、Q&A、適用開始日、掛目、例外、手修正、承認履歴 過去基準日の再現、変更差分、例外理由、承認を保存する。

12-1. システム間データ連携

会計、自己資本比率、デリバティブ、担保、レポ、融資枠、法務、連結管理等からデータを受け取るため、 システム間データ連携では、送信元、元レコード識別子、業務基準日、データ版、受信日時、処理状態、 訂正元、再処理回を保持する。

件数・金額だけでなく、総資産からの調整額、デリバティブ・レポの重複排除、 オフ・バランスの想定元本、日銀預け金の含む値・除外値を照合する。 元システムで訂正が生じた場合は、影響する総エクスポージャー、比率、開示値まで追跡して再処理する。

12-2. 判定理由を保存する

  • ・どの総エクスポージャー区分へ計上したか。
  • ・対象外、控除、相殺、例外とした根拠は何か。
  • ・どの契約、法的意見、担保、証拠金、決済情報を用いたか。
  • ・どの告示版、掛目、計算式、基準日を適用したか。
  • ・会計、自己資本比率、開示との間に生じた差額を説明できるか。

13. 処理の基本順序

  1. 適用対象を確定する。
    業態、国際統一基準、法人、連結・単体、基準日、告示版を確定する。
  2. Tier1資本を確定する。
    自己資本比率計算から、同じ範囲・基準日のCET1、AT1、調整項目を取得する。
  3. 会計総資産を固定する。
    貸借対照表、会計科目、帳簿価額、未収・未払、内部取引消去等を基準日時点で固定する。
  4. オン・バランス調整を行う。
    デリバティブ・レポとの重複、自己資本控除項目、日銀預け金等を調整する。
  5. デリバティブ取引等を計算する。
    ネッティング単位ごとにRC、PFE、信用プロテクション提供に係る想定元本等を算出する。
  6. レポ取引等を計算する。
    現金の受取債権、相手方エクスポージャー、相殺・担保要件を判定する。
  7. オフ・バランス取引を計算する。
    契約区分、想定元本・未使用額、取消条件、掛目、例外要件を判定する。
  8. 総エクスポージャーを集計する。
    四区分を合計し、重複・欠落・負値・対象外理由を検証する。
  9. 比率と水準を判定する。
    日銀預け金除外後の比率、最低水準、G-SIBバッファーを別々に判定する。
  10. 照合・開示・証跡保存を行う。
    会計、自己資本比率、日銀預け金を含む値・除外値、前期値と照合し、判定過程を保存する。
計算順序には依存関係がある。例えば、オン・バランス資産を確定する前に、 デリバティブ・レポ関連資産の重複排除対象を識別する必要がある。 手修正で最終比率だけを合わせず、明細・調整・集計の各段階で差額を説明する。

14. よくある論点・具体例

Q1. 国債等の低リスク資産は総エクスポージャーへ含めなくてよいか

原則として含める。自己資本比率で低いリスク・ウェイトが適用されることと、 レバレッジ比率の総エクスポージャーから除外されることは別である。 日銀預け金等、告示が明示する調整項目は個別に判定する。

Q2. Tier2資本を分子へ含められるか

含めない。レバレッジ比率の分子はTier1資本であり、 普通株式等Tier1資本とその他Tier1資本から構成される。

Q3. レポ取引がDVP決済なら現金債権・債務を相殺できるか

DVPであることだけでは足りない。 最終清算日の同一性、相殺の法的有効性、純額決済・同時決済の意図、 または同一決済の仕組みによる実質的な同等性等を確認する必要がある。

Q4. デリバティブとレポを同じ相手方・同じ基本契約で相殺できるか

レバレッジ比率告示に関するQ&Aでは、デリバティブ取引間またはレポ取引間の所定の相殺は認められ得るが、 デリバティブ取引等とレポ取引等をまたぐ相殺効果は反映できないとしている。

Q5. 現金変動証拠金を授受していれば、デリバティブ時価と相殺できるか

現金であることだけでは足りない。 分別管理されていないこと、営業日ごとの時価評価、所定の通貨・法的契約等の要件を確認する。 証拠金の差入・受入方向と、どちらの当事者で分別管理されるかも管理する。

Q6. 未使用コミットメントは貸借対照表にないためゼロでよいか

原則としてゼロではない。 取消条件や契約性質に応じて10%、40%等の掛目を適用する。 一定の取引を算出対象外とする例外には、手数料、引出申請、銀行の承認権限、都度の信用力評価等の全要件が必要である。

Q7. 日銀預け金を除外した3.15%だけ保存すればよいか

不十分である。最低所要水準判定に用いる除外後の値に加えて、 開示に必要となる日銀預け金を含む総エクスポージャーと比率も保持する。 除外額、含む値、除外後値の差額が日銀預け金明細と一致することを照合する。

Q8. 自己資本比率とレバレッジ比率で同じデータを使えるか

会計、契約、相手先、担保、デリバティブ、レポ、融資枠、Tier1資本等の基礎データは共有できる。 ただし、対象区分、掛目、相殺、調整、集計目的が異なるため、規制ごとの判定結果と計算過程を分離する。

AddWisteria Labの取組み

AddWisteria Labでは、金融規制を比率や条文の説明だけで終わらせず、 金融商品・契約・会計・決済・担保・システム間データ連携がどのように計算結果へつながるかを整理している。

レバレッジ比率規制についても、 「何を分母へ含めるか」「どの単位で相殺・調整するか」「どのデータとルール版で再現するか」 という金融系システムエンジニアの視点から、一般化できる設計・処理・統制を示す。

主な参照資料

  1. 金融庁 自己資本比率規制等(バーゼル規制)について 現行告示・Q&Aの掲載ページ。本稿基準時点で確認。
  2. 金融庁 銀行法第十四条の二の規定に基づき、銀行がその保有する資産等に照らし自己資本の充実の状況が適当であるかどうかを判断するための基準の補完的指標として定めるレバレッジに係る健全性を判断するための基準 平成31年金融庁告示第11号・金融庁掲載の全体版。
  3. 金融庁 レバレッジ比率告示に関するQ&A 平成31年3月15日公表、令和5年3月28日追加・修正。
  4. 金融庁 「レバレッジ比率規制に関する府省令及び告示の一部改正(案)」等に対するパブリック・コメントの結果等の公表について 令和4年11月11日公表。日銀預け金除外後の枠組み等。
  5. バーゼル銀行監督委員会 Basel III: Finalising post-crisis reforms 2017年12月7日公表。レバレッジ比率の最終化を含む。
本ページは制度の基本構造とシステム実務上の観点を一般化したものであり、 個別金融機関の規制判定、法的判断、会計判断または当局報告を代替するものではない。 実務では、最新の官報掲載告示、金融庁公表資料、契約、法的意見および内部規程を確認する必要がある。