自己資本比率規制の基礎とシステム実務

― 銀行はなぜ「利益が出ている」だけでは損失に耐えられないのか ―

基準時点:2026年8月16日 作成:AddWisteria Lab

【本稿の対象と前提】

本稿は、日本の銀行に関する自己資本比率規制を、制度の目的、比率の構造、自己資本の構成、リスク・アセット、資本バッファー、資本調達手段の期間構造、レバレッジ比率、システム上の考慮点の順に整理したものである。

主な根拠は、金融庁の「銀行法第十四条の二の規定に基づき、銀行がその保有する資産等に照らし自己資本の充実の状況が適当であるかどうかを判断するための基準」(平成18年金融庁告示第19号。以下「自己資本比率告示」という。2026年5月22日更新)と、「自己資本比率規制に関するQ&A」(2026年7月14日修正版)である。国際的な制度趣旨については、バーゼル銀行監督委員会(BCBS:各国の銀行監督当局などで構成される国際的な基準設定主体)が公表したバーゼルIII関連文書を参照している。

自己資本比率告示では、海外営業拠点を有する銀行に国際統一基準が、海外営業拠点を有しない銀行に国内基準が適用される。また、それぞれに単体自己資本比率と連結自己資本比率がある。国際統一基準と国内基準では、分子となる自己資本の構成、最低比率、資本バッファーの適用などが異なるため、本稿では両者を区別して記載する。

本稿は、公開資料に基づく一般的な制度解説である。個別の資本調達手段、貸出、有価証券、担保、保証、デリバティブ、証券化商品、ファンド等に係るエクスポージャー(銀行が損失を負う可能性のある資産・取引)の規制上の取扱いは、適用基準、単体・連結の別、契約条件、会計処理、取引相手方、格付、残存期間、法的な相殺可能性などによって異なる。実際の報告・制度対応では、最新の官報、金融庁告示、監督指針、公式Q&Aおよび各金融機関の内部規程を確認する必要がある。

1. 自己資本比率規制とは

1-1. 自己資本と流動性は何が違うのか

銀行の健全性を考えるとき、「自己資本」と「流動性」は分けて考える必要がある。

自己資本は、貸出先の倒産、保有有価証券の値下がり、事務ミス、システム障害などによって損失が発生した場合に、その損失を吸収するための備えである。これに対して流動性は、預金の払戻し、借入金の返済、証拠金の差入れ、融資実行など、期限の到来した支払を必要な時点で行える能力を意味する。

十分な自己資本があっても、直ちに利用できる資金が不足すれば資金繰りに行き詰まる可能性がある。一方、当面の支払に必要な現金を保有していても、多額の損失によって資本が毀損すれば、銀行の健全性を維持できない可能性がある。

このため、自己資本比率規制と流動性比率規制は、同じ銀行の健全性を異なる側面から確認する補完的な制度である。

1-2. なぜ銀行に自己資本が必要なのか

銀行は、預金や市場から調達した資金をもとに、貸出、有価証券投資、デリバティブ取引などを行う。銀行の資産の多くは、将来の返済や市場価格に依存しており、必ず額面どおりに回収できるとは限らない。

例えば、次のような事象によって損失が発生する可能性がある。

  • ・貸出先が倒産し、貸出金を回収できなくなる
  • ・保有する債券、株式または証券化商品の価格が下落する
  • ・為替、金利、信用スプレッド等の変動によって取引価値が悪化する
  • ・デリバティブ取引の相手方が債務を履行しない
  • ・事務ミス、不正、サイバー攻撃、システム障害または自然災害によって損失が生じる
  • ・他の金融機関等への出資や保証により損失を負担する

損失が発生したとき、直ちに預金者や一般債権者へ負担を及ぼすのではなく、まず銀行自身の資本で損失を吸収できることが重要である。自己資本比率規制は、銀行が保有するリスクに見合うだけの規制上の自己資本を確保しているかを測る仕組みである。

1-3. 損失吸収力という考え方

自己資本比率規制における「自己資本」は、会計上の純資産をそのまま用いるものではない。損失が生じた場面で実際に利用できるか、銀行が業務を継続している段階または破綻に近い段階で損失を負担できるかという観点から、算入できる項目と調整すべき項目を規制上あらためて判定する。

このため、普通株式、利益剰余金、優先株式、劣後債、貸倒引当金、無形固定資産、繰延税金資産などは、それぞれ異なる取扱いとなる。

資本調達手段についても、名称だけでは判断できない。劣後性、満期、利払いまたは配当の裁量性、元本削減または普通株式への転換、期限前償還の条件、担保・保証の有無、発行者または関係会社による保有など、契約上の要件を確認する必要がある。

また、自己資本から控除される項目には、会計上は資産として計上されていても、ストレス時に損失吸収へ直ちに利用できないものや、銀行グループ全体として実質的な資本増強にならないものが含まれる。

1-4. バーゼル規制と日本の自己資本比率規制

バーゼル規制は、バーゼル銀行監督委員会が策定する国際的な銀行規制の枠組みである。日本では、国際合意を踏まえ、金融庁が告示、監督指針、Q&A、開示様式などを整備している。

日本の銀行に対する自己資本比率規制は、大きく次の二つに分かれる。

  • ・国際統一基準:海外営業拠点を有する銀行に適用される基準
  • ・国内基準:海外営業拠点を有しない銀行に適用される基準

国際統一基準では、普通株式等Tier1資本、その他Tier1資本、Tier2資本という資本区分を用いる。国内基準では、コア資本に係る基礎項目からコア資本に係る調整項目を控除する構造を用いる。

さらに、それぞれについて、銀行単体を対象とする単体自己資本比率と、所定の子会社等を含む連結自己資本比率がある。単体と連結では、連結範囲、内部取引の消去、非支配株主持分、他の金融機関等への出資などの取扱いが異なる。

バーゼル規制は、最低所要自己資本を定める第1の柱、銀行自身のリスク管理と監督上の検証を扱う第2の柱、開示を通じた市場規律を扱う第3の柱から構成される。本稿では、主として第1の柱における自己資本比率の計算を扱う。

主な根拠:自己資本比率告示第1条、第2条、第14条、第25条、第37条、BCBSバーゼルIII関連文書

2. 自己資本比率の基本構造

2-1. 自己資本比率の意味

自己資本比率は、銀行が保有する規制上のリスクに対し、どの程度の規制上の自己資本を確保しているかを示す指標である。

基本的な考え方は次のとおりである。

自己資本比率 = 規制上の自己資本 ÷ リスク・アセットの額

RWA(Risk-Weighted Assets、リスク・アセット)は、銀行の資産や取引を、規制上のリスクの大きさに応じて換算した金額である。総資産そのものではなく、信用リスク、マーケット・リスク、オペレーショナル・リスク等を規制上の方法で計測した額が分母となる。

したがって、自己資本比率は、自己資本の額が増減した場合だけでなく、貸出や有価証券の増加、債務者の信用力悪化、担保価値の変動、格付変更、リスク・ウェイト(エクスポージャーの規制上のリスクの大きさを表す掛目)の変更、取引構成の変化、内部モデルの変更などによっても変動する。

2-2. 分子と分母の基本構造

国際統一基準における分子は、次の三つの資本区分から構成される。

  • ・普通株式等Tier1資本
  • ・その他Tier1資本
  • ・Tier2資本

普通株式等Tier1資本とその他Tier1資本の合計がTier1資本であり、Tier1資本とTier2資本の合計が総自己資本である。

分母の基本構造は次のとおりである。

分母 = 信用リスク・アセットの額の合計額
   + マーケット・リスク相当額の合計額 ÷ 8%
   + オペレーショナル・リスク相当額の合計額 ÷ 8%

信用リスク・アセットの額の合計額には、通常の貸出や有価証券に係る信用リスクだけでなく、証券化エクスポージャー、CVAリスク相当額を8%で除した額、中央清算機関関連エクスポージャーなども含まれる。

CVA(Credit Valuation Adjustment、信用評価調整)リスクは、取引相手方の信用スプレッド等の変動によってデリバティブ取引等の信用評価調整額が変動するリスクである。

マーケット・リスクとオペレーショナル・リスクは、告示上、まず所要自己資本に相当する「リスク相当額」として算出し、8%で除すことで信用リスク・アセットと同じ分母の単位へ換算する。

また、内部格付手法、内部モデル方式、期待エクスポージャー方式(デリバティブ等の将来の取引相手方信用リスクを内部モデルで測る方式)などの承認手法を使用する場合には、資本フロア(承認手法による所要自己資本が一定の下限を下回らないようにする仕組み)による加算額が分母へ加わることがある。

2-3. 国際統一基準の三つの比率

国際統一基準では、連結・単体のそれぞれについて、次の三つの比率を計算する。

普通株式等Tier1比率 = 普通株式等Tier1資本の額 ÷ 分母
Tier1比率 = Tier1資本の額 ÷ 分母
総自己資本比率 = 総自己資本の額 ÷ 分母

三つの比率は、同じ分母を用いるが、分子の範囲が異なる。最も質の高い普通株式等Tier1資本だけで測る比率、その他Tier1資本まで含める比率、Tier2資本まで含める比率を段階的に確認する仕組みである。

例えば、総自己資本比率が高くても、その多くをTier2資本に依存し、普通株式等Tier1比率が低い場合には、銀行が業務を継続している段階で利用できる損失吸収力が十分とは限らない。このため、三つの最低比率がそれぞれ設けられている。

2-4. 国内基準の自己資本比率

国内基準では、次の一つの自己資本比率を計算する。

国内基準の自己資本比率 = 自己資本の額 ÷ 分母

分子となる自己資本の額は、コア資本に係る基礎項目の額からコア資本に係る調整項目の額を控除して算出する。

分母は、国際統一基準と同様に、信用リスク・アセットの額、マーケット・リスク相当額を8%で除した額、オペレーショナル・リスク相当額を8%で除した額から構成される。ただし、所定の要件を満たす銀行は、マーケット・リスク相当額を分母へ算入しない取扱いを選択できる場合がある。

国内基準の分子は、国際統一基準の普通株式等Tier1、その他Tier1、Tier2という三層構造ではない。そのため、国際統一基準の総自己資本比率と国内基準の自己資本比率は、数値だけを単純に比較できない。

2-5. 単体と連結

単体自己資本比率は、原則として銀行単体の財務諸表を基礎に計算する。連結自己資本比率は、所定の連結範囲に基づく連結財務諸表を基礎に計算する。

ただし、規制上の連結範囲は、一般的な会計上の連結範囲と完全に一致するとは限らない。金融子会社について重要性の原則を適用しない取扱い、保険子法人等を連結範囲から除外する取扱い、一定の金融業務を営む関連法人等に対する比例連結などがある。

また、連結子法人等が第三者から調達した資本は、連結貸借対照表上の非支配株主持分等として計上されていても、親銀行グループ全体の損失吸収へ無制限に利用できるとは限らない。このため、調整後非支配株主持分等として規制上算入できる額に上限が設けられている。

主な根拠:自己資本比率告示第2条から第4条、第10条から第13条、第14条から第16条、第21条から第24条、第25条から第27条、第33条から第36条、第37条から第39条、第44条から第47条

3. 自己資本の構成

3-1. CET1

CET1(Common Equity Tier 1、普通株式等Tier1資本)は、銀行が業務を継続している段階から損失を吸収できる、最も質の高い規制資本である。

国際統一基準における主な基礎項目には、次のものがある。

  • ・普通株式に係る株主資本の額から社外流出予定額を除いた額
  • ・その他の包括利益累計額およびその他公表準備金の額
  • ・普通株式に係る株式引受権の額
  • ・普通株式に係る新株予約権の額
  • ・普通株式等Tier1資本に係る調整後非支配株主持分の額

社外流出予定額とは、剰余金の配当の予定額である。会計上の利益剰余金に含まれていても、近く社外へ流出する予定の額は、損失吸収へ継続的に利用できる資本として扱わない。

普通株式には、残余財産の分配について最も劣後すること、償還期限がないこと、配当を発行者の完全な裁量で決定できること、担保・保証等による優先性がないこと、払込済みであることなど、告示上の要件がある。

CET1は、会計上の株主資本をそのまま合計した額ではない。無形固定資産、一定の繰延税金資産、退職給付に係る資産、自己保有普通株式、他の金融機関等が発行した資本調達手段の保有などについて、規制上の調整を行う。

3-2. AT1

AT1(Additional Tier 1、その他Tier1資本)は、CET1に次ぐ損失吸収力を持ち、銀行が業務を継続している段階で損失を吸収することが求められる資本である。

永久劣後債や一定の優先株式が該当し得るが、商品名だけで算入可否は決まらない。主な要件には、次のものがある。

  • ・発行済みかつ払込済みであること
  • ・一般債務およびTier2資本調達手段より劣後すること
  • ・担保・保証等による同順位の資本調達手段に対する優先性がないこと
  • ・償還期限がないこと
  • ・ステップ・アップ金利等、償還の蓋然性を高める特約がないこと
  • ・配当または利息の支払を発行者の完全な裁量で停止できること
  • ・支払停止が債務不履行とならないこと
  • ・負債性の手段では、普通株式等Tier1比率が一定水準を下回った場合に元本削減または普通株式への転換が行われること
  • ・実質破綻認定時に元本削減または普通株式への転換によって損失を負担すること
  • ・発行者または関係会社が取得しておらず、取得資金が発行者から直接または間接に融通されていないこと

発行者が任意償還を行う場合は、原則として発行後5年を経過した日以後であり、自己資本の充実についてあらかじめ金融庁長官の確認を受けることなどが必要となる。コール日が到来したことだけで、自動的に償還されるものではない。

3-3. Tier2資本

Tier2資本は、AT1より補完的な位置付けにあり、主として破綻・清算に近い局面で損失を吸収する規制資本である。

主な基礎項目には、所定の要件を満たすTier2資本調達手段、特別目的会社等が発行する一定の資本調達手段、調整後非支配株主持分等、上限の範囲内の一般貸倒引当金、内部格付手法における適格引当金の超過額などがある。

期限付きのTier2資本調達手段には、次のような要件がある。

  • ・発行済みかつ払込済みであること
  • ・一般債務より劣後すること
  • ・担保・保証等による同順位の資本調達手段に対する優先性がないこと
  • ・償還期限がある場合、発行時から償還期限までの期間が5年以上であること
  • ・ステップ・アップ金利等、期限前償還の蓋然性を高める特約がないこと
  • ・原則として発行後5年を経過する前に任意償還できないこと
  • ・債務不履行時の期限の利益喪失に関する特約がないこと
  • ・実質破綻認定時に元本削減または普通株式への転換によって損失を負担すること
  • ・発行者または関係会社が取得しておらず、取得資金が発行者から融通されていないこと

Tier2資本調達手段に償還期限があり、その償還期限までの期間が5年以内になると、規制資本への算入額は残存日数に応じて段階的に減少する。会計上の負債残高が同じであっても、規制上の資本算入額は基準日ごとに変化する。

3-4. 国内基準のコア資本

国内基準では、CET1、AT1、Tier2という三層構造ではなく、コア資本に係る基礎項目からコア資本に係る調整項目を控除して自己資本の額を算出する。

主な基礎項目には、次のものがある。

  • ・普通株式または強制転換条項付優先株式に係る株主資本の額から社外流出予定額を除いた額
  • ・普通株式または強制転換条項付優先株式に係る株式引受権の額
  • ・普通株式または強制転換条項付優先株式に係る新株予約権の額
  • ・コア資本に係る調整後非支配株主持分の額
  • ・一般貸倒引当金のうち所定の上限までの額

強制転換条項付優先株式には、無期限性、劣後性、配当停止の裁量性、一定時期の到来による普通株式への転換など、告示上の要件がある。

国内基準では、国際統一基準のTier2資本調達手段を独立したTier2階層として分子へ算入する構造ではない。「劣後債であるため国内基準の自己資本に算入できる」と一律に判断することはできない。

3-5. 資本調整項目・控除項目

規制上の自己資本は、実際の損失吸収に利用できることが重視される。そのため、次のような項目は、全部または一定の基準を超える部分が調整対象となる。

  • ・のれんその他の無形固定資産
  • ・一定の繰延税金資産
  • ・退職給付に係る資産または前払年金費用
  • ・自己保有する自らの資本調達手段
  • ・意図的な相互持合いに係る他の金融機関等の資本調達手段
  • ・他の金融機関等が発行した資本調達手段の一定の保有額
  • ・証券化取引に伴い増加した自己資本に相当する額
  • ・内部格付手法における期待損失額が適格引当金を上回る部分
  • ・自らの信用状態の悪化によって生じた負債の評価益

調整方法は一律ではない。全額を普通株式等Tier1資本から控除するもの、10%基準または15%基準を超える部分を控除するもの、対応するTierから控除するもの、当該Tierで控除しきれない不足額を上位の資本区分へ繰り上げるものなどがある。

また、調整項目となった部分については信用リスク・アセットの算出対象外となる場合がある一方、調整項目とならなかった部分には所定のリスク・ウェイトを適用する場合がある。分子控除と分母計上の境界を明確にする必要がある。

3-6. 非支配株主持分と特別目的会社

連結子法人等が外部の第三者から調達した資本は、当該子法人等の損失吸収には利用できても、親銀行グループ全体の損失吸収へ自由に移転できるとは限らない。

このため、非支配株主持分等のうち連結自己資本へ算入できる額は、連結子法人等の所要自己資本、親銀行の連結リスク・アセットのうち当該子法人等に関連する部分、第三者持分割合などを用いて調整される。連結貸借対照表に計上された非支配株主持分の全額が、そのまま規制資本になるわけではない。

また、特別目的会社等を通じてAT1またはTier2資本調達手段を発行する場合には、発行代り金の全額を親銀行が即時かつ無制限に利用できること、資金を親銀行へ供給するための資本調達手段も所定の資本性要件を満たすことなどが必要となる。

主な根拠:自己資本比率告示第5条から第9条、第17条から第20条、第28条から第32条、第40条、第41条、Q&A第5条、第6条、第7条、第8条、第28条関係

4. リスク・アセット

4-1. 信用リスク

信用リスクは、貸出先、債券の発行体または取引相手方が契約どおりに支払わないことによって損失が生じるリスクである。

信用リスクの対象は貸出金や債券だけではない。支払承諾、コミットメントなどのオフ・バランス取引(貸借対照表に全額が計上されていない契約上の信用供与・保証等)、デリバティブ取引、レポ形式の取引(有価証券の貸借または買戻・売戻条件付売買)、未決済取引、証券化エクスポージャー(信用リスクを優先劣後構造に分けて移転する取引に係るエクスポージャー)、ファンド向け出資、中央清算機関関連エクスポージャーなども含まれる。中央清算機関は、デリバティブ等の売り手と買い手の間に入り、取引に係る債務を引き受ける機関である。

信用リスク・アセットの主な算出手法は、次の二つである。

  • ・標準的手法:告示で定める区分、リスク・ウェイトおよび計算方法を用いる手法
  • ・内部格付手法:金融庁長官の承認を受け、銀行内部の格付や推計値を用いる手法

どちらの手法でも、商品名だけで区分を決めることはできない。債務者属性、取引の法的形式と経済的実態、返済原資、担保、保証、格付、残存期間、延滞状況、証券化の優先劣後構造などを確認する必要がある。

4-2. 標準的手法

標準的手法では、エクスポージャーの額に、告示で定められたリスク・ウェイトを乗じて信用リスク・アセットを算出する。

代表的な区分には、次のものがある。

  • ・中央政府および中央銀行向け
  • ・地方公共団体および公共部門向け
  • ・金融機関等向け
  • ・事業法人向け
  • ・中堅中小企業向け
  • ・個人向けその他リテール向け
  • ・居住用不動産向け
  • ・事業用不動産関連
  • ・ADC向け
  • ・延滞等の状態にあるエクスポージャー
  • ・株式等エクスポージャー
  • ・ファンド向け出資
  • ・証券化エクスポージャー

ADC(Acquisition, Development and Construction、土地取得・開発・建設)向けエクスポージャーは、土地の取得、開発または建物の建設に係る一定の信用供与であり、通常の不動産担保貸出とは異なる区分である。

外部格付を用いる区分では、個別債務格付、債務者信用力格付、長期格付、短期格付などの使い分けが必要となる。また、外部格付が存在する場合でも、銀行自身がデュー・ディリジェンス分析(債務者またはエクスポージャーの信用リスクを内部で確認する分析)を行う体制が求められる。

不動産向けエクスポージャーでは、不動産の種類だけでなく、担保価値に対するエクスポージャーの割合、返済が不動産から生じるキャッシュ・フローへどの程度依存するか、債務者の属性、物件の利用目的などが判定に影響する。

4-3. 内部格付手法

内部格付手法では、銀行の内部格付制度と内部推計値を用いて信用リスク・アセットを算出する。

主なパラメータには、次のものがある。

  • ・PD(Probability of Default、1年間に債務者がデフォルトする確率)
  • ・LGD(Loss Given Default、デフォルト時エクスポージャー額に対する損失割合)
  • ・EAD(Exposure at Default、デフォルト時におけるエクスポージャーの額)
  • ・M(Maturity、残存期間)

内部格付手法には、事業法人等向けエクスポージャーについてLGDおよびEADの自行推計値を用いない基礎的内部格付手法と、自行推計値を用いる先進的内部格付手法がある。

内部格付手法を採用するためには、承認手続、内部格付制度の設計、格付付与、データの維持管理、ストレス・テスト、内部統制、推計値の検証など、多数の最低要件を満たす必要がある。

内部モデルを用いることは、銀行が任意の方法でリスクを小さく見積もってよいという意味ではない。承認された方法、最低要件、継続的な検証、資本フロアによる下限が一体となっている。

4-4. オフ・バランス取引と信用リスク削減手法

オフ・バランス取引は、貸借対照表に全額が資産として計上されていなくても、将来の信用供与または支払義務を生じさせる取引である。

コミットメント、保証、信用状、支払承諾、証券引受契約などについては、契約額または未使用額にCCF(Credit Conversion Factor、信用換算係数)を乗じて与信相当額を算出し、その後にリスク・ウェイトを適用する。

CCFは、オフ・バランス取引が将来どの程度オン・バランスの信用供与へ転化するかを規制上見積もる掛目である。契約の取消可能性、当初期間、取引の性質などにより適用率が異なる。

担保、保証、クレジット・デリバティブ等は、所定の要件を満たす場合に信用リスク削減効果を反映できる。主な確認事項は次のとおりである。

  • ・契約が全ての関係法域で法的に有効であること
  • ・担保または保証が適格な種類に該当すること
  • ・担保価値を適切な頻度で評価できること
  • ・担保または保証の残存期間が十分であること
  • ・通貨ミスマッチおよび残存期間ミスマッチを反映すること
  • ・保証者またはプロテクション提供者(クレジット・デリバティブで信用保護を提供する者)が適格であること
  • ・銀行が信用リスク削減効果を適切に管理できること

適格金融資産担保の取扱いには、簡便手法と包括的手法がある。包括的手法では、エクスポージャーと担保の価格変動を反映するボラティリティ調整率(価格変動を反映する規制上の調整率)を用いる。

4-5. デリバティブ、レポ、証券化およびファンド

デリバティブ取引では、現在の時価だけでなく、将来の市場変動によりエクスポージャーが増加する可能性を反映する。法的に有効な相対ネッティング契約(同一相手方との取引から生じる債権・債務を相殺する契約)がある場合には、告示上の要件を満たす範囲で取引をネッティング・セット(当該契約に基づき一体として計算する取引の集合)として計算できる。

レポ形式の取引では、現金債権・債務、受渡証券、担保価値、ボラティリティ調整、相殺契約などを考慮する。同じ相手方との取引であっても、法的有効性や契約条件を満たさなければ相殺できない。

証券化エクスポージャーでは、優先劣後構造、原資産プール、外部格付、内部格付、STC(簡素性・透明性・比較可能性)要件、証券化方式などに応じた専用の計算方法を用いる。通常の社債や貸出と同じリスク・ウェイト表をそのまま適用するものではない。

ファンド向け出資では、裏付資産を直接把握するルックスルー方式、ファンドの運用基準から最大のリスク構成を推計するマンデート方式、必要な情報を得られない場合に保守的な取扱いを行うフォールバック方式などがある。ファンドの会計科目だけでなく、裏付資産、レバレッジ、デリバティブ、投資上限等の情報が必要となる。

また、ファンドを通じて自らの資本調達手段または他の金融機関等の資本調達手段を間接保有する場合には、リスク・アセット計算だけでなく、自己資本の調整項目としての取扱いも確認する必要がある。

4-6. マーケット・リスク

マーケット・リスクは、金利、信用スプレッド、株価、外国為替、コモディティ等の市場価格の変動によって損失が生じるリスクである。

自己資本比率告示では、商品をトレーディング勘定またはバンキング勘定へ分類し、マーケット・リスクの計測対象を特定する。商品の保有目的、会計上の取扱い、マーケット・メイク、引受け、ヘッジなどを踏まえて分類する。

主な算出方式には、次のものがある。

  • ・標準的方式
  • ・内部モデル方式
  • ・一定の銀行に認められる簡易的方式

標準的方式では、リスク感応度方式によるデルタ・リスク、ベガ・リスク、カーベチャー・リスク、デフォルト・リスク、残余リスク・アドオンなどを組み合わせる。

デルタ・リスクはリスク・ファクターの変動に対する線形的な価値変化、ベガ・リスクはインプライド・ボラティリティ(オプション価格から逆算される予想変動率)の変動による価値変化、カーベチャー・リスクはオプション性に伴う非線形な価値変化に係るリスクである。

内部モデル方式では、期待ショート・フォール(一定の確率を超える深刻な損失の平均を測る指標)などを用いる。トレーディング・デスク(市場取引のリスクを一体で管理する明確な業務単位)単位の承認、バック・テスティング、損益要因分析テスト、リスク・ファクターのモデル化可能性などの要件がある。

4-7. オペレーショナル・リスク

オペレーショナル・リスクは、銀行の業務の過程、役職員の活動、システムが不適切であること、機能しないこと、または外生的な事象によって損失が生じるリスクである。法的リスクを含むが、戦略リスクおよび風評リスクは定義上除かれている。

具体例には、次のものがある。

  • ・役職員による横領その他の内部不正
  • ・第三者による詐欺またはサイバー攻撃
  • ・労働災害、ハラスメントまたは差別行為
  • ・適合性原則違反、マネー・ローンダリング等対策の不備
  • ・自然災害、感染症、テロ等による有形資産の損傷
  • ・システム障害による事業活動の中断
  • ・注文、送達、決済その他の業務上の事務ミス

現行告示では、標準的計測手法を用いる。オペレーショナル・リスク相当額は、次の基本構造で算出する。

オペレーショナル・リスク相当額 = BIC × ILM

BIC(Business Indicator Component、事業規模要素)は、銀行の事業規模を表すBI(Business Indicator、事業規模指標)に所定の掛目を適用して算出する。

BIは、金利要素、役務要素、金融商品要素から構成され、原則として直近3年間の平均値を用いる。

ILM(Internal Loss Multiplier、内部損失乗数)は、一定の銀行について直近10年間の内部損失データを用いて算出する。銀行の事業規模、内部損失データの品質、金融庁長官の承認の有無などにより、ILMの算出方法または用いる値が異なる。内部損失データでは全てのオペレーショナル・リスク損失事象を記録し、内部損失実績を用いるILMの計算では、特殊損失(一定の条件の下で内部損失データから除外できる損失)を除く200万円を超える全てのネット損失(回収額控除後の損失)を用いる。

4-8. 各リスクを合算する考え方と資本フロア

信用リスク、マーケット・リスク、オペレーショナル・リスクは、対象と計測方法が異なる。自己資本比率の分母では、マーケット・リスク相当額とオペレーショナル・リスク相当額を8%で除してリスク・アセット相当額へ換算し、信用リスク・アセットと合算する。

内部格付手法、内部モデル方式、期待エクスポージャー方式などを用いる銀行には、承認手法による所要自己資本が標準的な手法による所要自己資本に比べて過度に小さくならないよう、資本フロアが設けられている。

本則では、標準的な手法により算出した所要自己資本の72.5%が、承認手法により算出した所要自己資本を上回る場合、その差額に12.5を乗じた額を自己資本比率の分母へ加算する。

ただし、旧制度下で内部格付手法の承認を受けていた銀行には、各銀行が新制度による計算を開始した基準日から5年間、資本フロア率を50%、55%、60%、65%、70%と段階的に引き上げる経過措置がある。このため、2026年8月16日時点で実際に適用される率は、銀行ごとの基準日および経過期間によって異なり得る。

資本フロアは、個別のエクスポージャーへ一律にリスク・ウェイトを上乗せする仕組みではなく、標準的な手法と承認手法による所要自己資本を比較し、銀行全体の分母へ下限を反映する仕組みである。

主な根拠:自己資本比率告示第48条から第139条の2、第140条から第245条、第246条から第270条、第270条の2から第270条の9、第271条から第302条の9、第303条から第320条、第13条、第24条、第36条、第47条、令和4年金融庁告示第22号附則第5条、自己資本比率規制に関するQ&A

5. 最低所要自己資本と各種バッファー

5-1. 最低自己資本比率

国際統一基準では、連結・単体のそれぞれについて、次の最低比率が定められている。

  • ・普通株式等Tier1比率:4.5%以上
  • ・Tier1比率:6%以上
  • ・総自己資本比率:8%以上
最低自己資本比率の整理
適用基準比率最低水準
国際統一基準普通株式等Tier1比率4.5%以上
Tier1比率6%以上
総自己資本比率8%以上
国内基準自己資本比率4%以上

三つの最低比率は同時に満たす必要がある。例えば、総自己資本比率が8%以上であっても、普通株式等Tier1比率が4.5%を下回る場合には最低基準を満たさない。

国内基準では、連結・単体の自己資本比率について4%以上が求められる。

最低比率は、通常時に経営上確保すべき十分な水準と同義ではない。銀行は、将来の損失、配当、資本調達手段の償還、RWAの増加、格付変動、ストレス・シナリオなどを考慮し、最低基準を上回る内部管理水準を設定する必要がある。

5-2. 資本保全バッファー

国際統一基準では、最低所要自己資本に加えて、2.5%の資本保全バッファーが設けられている。

資本保全バッファーは、金融市場の動向または経済情勢の変化によって生じるおそれのある損失を吸収するため、平常時に普通株式等Tier1資本を積み上げる仕組みである。

バッファーを下回った場合、直ちに銀行が破綻したと扱われるわけではないが、剰余金の配当、自己株式取得、役員賞与などの社外流出に制限がかかる監督上の枠組みと結び付いている。

5-3. カウンター・シクリカル・バッファー

カウンター・シクリカル・バッファーは、金融市場における信用供与が過剰な場合に資本を積み増し、将来の景気変動によって生じる損失へ備える仕組みである。

銀行ごとの比率は、本邦および本邦以外の国・地域に係る信用リスク・アセット等の構成割合と、各国・地域の金融当局が定める比率を用いて計算する。

国・地域別の割当てでは、可能な限り最終リスクベースを用いることがQ&Aで示されている。保証、支店、現地法人、ファンド、証券化商品などでは、債務者の所在地だけでは最終的なリスク所在国を判定できない場合がある。

このため、システム上は、記帳地、債務者所在地、保証者所在地、最終リスク所在国などを区別して管理する必要がある。

5-4. システム上重要な銀行に対する追加要件

G-SIB(Global Systemically Important Bank、グローバルな金融システム上重要な銀行)またはD-SIB(Domestic Systemically Important Bank、国内の金融システム上重要な銀行)として指定された銀行には、その破綻が金融システムへ与える影響の大きさに応じて追加の資本バッファーが求められる。

国際的な重要性と国内の重要性の双方に該当する場合、自己資本比率告示では、それぞれの追加比率を単純に合算するのではなく、いずれか高い比率を加える。

具体的な対象銀行および比率は、金融庁長官が別に指定する。指定状況は変わり得るため、算出基準日時点の公表資料を確認する必要がある。

5-5. 最低比率とバッファーの関係

資本バッファーは、最低自己資本比率とは別に、最低比率を超えて保有する普通株式等Tier1資本を用いて満たす。

単純に「総自己資本比率8%+資本保全バッファー2.5%=10.5%」とだけ理解すると不十分である。普通株式等Tier1比率4.5%、Tier1比率6%、総自己資本比率8%をそれぞれ満たした上で、バッファーに利用可能な普通株式等Tier1資本を測る必要がある。

例えば、AT1またはTier2が最低所要額に不足し、その不足分を普通株式等Tier1資本で補っている場合、その補填に使用した普通株式等Tier1資本を資本バッファーへ重複して使用することはできない。

また、資本保全バッファー、カウンター・シクリカル・バッファー、G-SIBまたはD-SIBに係る追加バッファーは、原則として国際統一基準における枠組みである。国内基準の最低4%と同一の構造として扱わないことが必要である。

主な根拠:自己資本比率告示第2条、第2条の2、第7条の2、第14条、第14条の2、第19条の2、第25条、第37条、Q&A第2条の2関係

6. Tier1・Tier2商品の期間構造

6-1. 劣後債等の位置付け

劣後債や劣後ローンは、一般債務より返済順位が低く、一定の局面で債権者が損失を負担することにより、規制資本としての役割を果たす。

ただし、「劣後債」「永久劣後債」といった名称だけで、AT1またはTier2への算入が認められるわけではない。

少なくとも、次の事項を契約単位で確認する必要がある。

  • ・一般債務および他の資本調達手段に対する劣後順位
  • ・担保・保証その他の優先性を与える特約の有無
  • ・発行日および払込状況
  • ・契約上の満期日
  • ・コールその他の期限前償還条項
  • ・ステップ・アップ金利等の償還インセンティブ
  • ・利払いまたは配当停止の裁量性
  • ・元本削減または普通株式への転換条項
  • ・実質破綻認定時の損失吸収条項
  • ・発行者または関係会社による取得の有無
  • ・取得資金の直接または間接の融通の有無

Q&Aでは、告示上の要件を満たす金銭消費貸借であれば、借入れ形式であってもAT1またはTier2資本調達手段に該当し得ることが示されている。社債か借入れかという法形式だけではなく、契約内容を確認する必要がある。

6-2. 満期・コール・残存期間

満期は、契約上、元本を返済する期限である。コールは、発行者が一定の日以後に期限前償還を選択できる権利である。両者は同じではない。

AT1は原則として無期限である。発行後5年を経過した後にコール可能な設計であっても、発行者が必ずコールを行うものではなく、金融庁長官の確認などの要件を満たす必要がある。

期限付きTier2は、発行時から償還期限までの期間が5年以上である必要がある。コール日が設定されていても、期限前償還を行う期待を発行者が生じさせてはならず、ステップ・アップ金利等によって償還の蓋然性を高めることも認められない。

したがって、システム上は、最終満期日とコール可能日を別々に管理する必要がある。コール日を一律に規制上の満期日として扱うと、Tier2算入額の逓減や残存期間判定を誤る可能性がある。

6-3. Tier2資本の段階的な算入

償還期限の定めがあるTier2資本調達手段は、償還期限までの期間が5年以内になると、次の考え方で規制資本算入額が減少する。

Tier2算入額 = 貸借対照表計上額
      × 算出基準日から償還期限までの日数
      ÷ 残存期間が5年となった日から償還期限までの日数

この計算は、残存5年間を5つの年次区分に分けて20%ずつ減額する単純な年次計算ではなく、告示上は日数の割合を用いる。

したがって、残存期間が1年未満となった時点で直ちに全額がゼロになるわけではない。満期へ近づくにつれて日割りで算入額が減少し、償還期限に算入額がなくなる。

6-4. 会計残高と規制資本算入額

Tier2資本調達手段の貸借対照表計上額が100であっても、残存期間が5年以内であれば、規制資本へ算入される額は100を下回る。

さらに、自己保有、他の金融機関等による保有に係る調整、非支配株主持分の上限、Tier2調整項目、買戻し、元本削減などがあれば、最終的なTier2資本の額は、個別商品の算入額の単純合計と一致しない。

このため、システムでは少なくとも次の金額を区別する必要がある。

  • ・会計上の発行残高
  • ・自己資本算入要件を満たす対象残高
  • ・残存期間による逓減後の基礎項目算入額
  • ・自己保有その他の調整項目
  • ・非支配株主持分等に係る調整後算入額
  • ・最終的なTier2資本の額

6-5. 経過措置と制度バージョン

資本調達手段の規制上の取扱いは、発行時期、契約条件、適用基準および制度改正によって異なる場合がある。

旧制度下で発行された資本調達手段には、grandfathering(旧制度の商品に対する経過的な算入措置)その他の経過措置が関係することがある。また、契約変更、金利指標の変更、期限前償還、買戻し、元本削減等によって、当初の適格性または算入額が変化する可能性がある。

現行商品の判定ロジックだけで全ての既発商品を処理せず、発行日、契約版、適用開始日、経過措置区分、制度ルール版を紐付けて管理することが重要である。

主な根拠:自己資本比率告示第6条第4項、第7条第1項・第5項、第18条第4項、第19条第1項・第5項、Q&A第6条-Q2、第6条-Q8、第6条-Q9、第6条-Q13、第7条関係、附則

7. レバレッジ比率

7-1. レバレッジ比率の意味

レバレッジ比率は、自己資本比率を補完する非リスクベースの指標である。銀行向けレバレッジ比率告示では、国際統一基準の連結自己資本比率および単体自己資本比率を補完する指標として定められており、国内基準の自己資本比率へ同じ最低基準を直接適用するものではない。

銀行向けレバレッジ比率告示における基本構造は次のとおりである。

レバレッジ比率 = Tier1資本の額 ÷ 総エクスポージャーの額

自己資本比率では、資産や取引ごとにリスク・ウェイトまたは内部モデルを用いてRWAを計算する。これに対してレバレッジ比率では、原則としてリスクの高低による細かな軽重を付けず、銀行が保有するエクスポージャーの総量に対して十分なTier1資本があるかを確認する。

7-2. 自己資本比率との違い

同じ資産であっても、自己資本比率とレバレッジ比率では分母への反映方法が異なる。

例えば、自己資本比率では、信用力の高い相手方へのエクスポージャーに低いリスク・ウェイトが適用されることがある。一方、レバレッジ比率では、低いリスク・ウェイトであることを理由に総エクスポージャー額から大幅に除外するものではない。

また、自己資本比率で普通株式等Tier1資本またはその他Tier1資本から控除した一定の項目は、レバレッジ比率のオン・バランス資産からも所定の方法で控除されるが、会計上の相殺と規制上の相殺が常に同じとは限らない。

このため、自己資本比率のRWAをそのままレバレッジ比率の分母として使用することはできない。

7-3. なぜRWAを使わない指標が必要なのか

RWAは、リスクに応じた精緻な計測ができる一方、リスク・ウェイトの前提、外部格付、担保評価、内部モデルの推計、データ品質などに影響される。

また、個々の資産のリスク・ウェイトが低くても、その資産を大量に積み上げれば、銀行全体の資産規模と負債依存度が拡大する可能性がある。

レバレッジ比率は、モデル・リスク、計測誤差、低リスク資産の過度な積み上がりに対する安全網として機能する。自己資本比率とレバレッジ比率は、どちらか一方を満たせばよい関係ではなく、異なる角度から銀行の健全性を確認する補完関係にある。

7-4. 総エクスポージャーの構成

総エクスポージャーの額は、主として次の項目から構成される。

  • ・オン・バランス資産の額
  • ・デリバティブ取引等に関する額
  • ・レポ取引等に関する額
  • ・オフ・バランス取引に関する額

デリバティブ取引等では、再構築コスト、将来の潜在的なエクスポージャー、信用プロテクションを提供するクレジット・デリバティブ等の想定元本などを計測する。

レポ取引等では、現金の受取債権と取引相手方に対するエクスポージャーを計測する。現金債権・債務の相殺には、最終清算日、法的有効性、純額決済または同時決済の意図等の要件がある。

オフ・バランス取引では、コミットメント、保証その他の取引へ所定の信用換算率を適用する。自己資本比率のオフ・バランス計算と共通するデータが多いが、適用する規定と計算目的は別に管理する必要がある。

7-5. 最低水準とレバレッジ・バッファー

銀行向けレバレッジ比率告示上、最低基準は3%である。ただし、日本銀行に対する預け金を総エクスポージャー額へ算入しない規定の適用がある場合は3.15%となる。現行の枠組みでは、日銀預け金の除外を前提とする最低所要水準の調整が設けられている。

また、一定のG-SIBには、レバレッジ・バッファーが追加される。自己資本比率のG-SIBバッファーと連動するが、算式および追加率はレバレッジ比率告示に基づいて別に計算する。

数値、対象銀行および日銀預け金の取扱いは改正される可能性があるため、算出基準日時点のレバレッジ比率告示および関連告示を確認する必要がある。

主な根拠:「銀行法第十四条の二の規定に基づき、銀行がその保有する資産等に照らし自己資本の充実の状況が適当であるかどうかを判断するための基準の補完的指標として定めるレバレッジに係る健全性を判断するための基準」第2条から第10条、レバレッジ比率告示に関するQ&A
AddWisteria Labのシステム実務の視点

8. システムでは何を管理するのか

8-1. システム化の目的

自己資本比率規制のシステム対応で重要なのは、最終的な比率を計算することだけではない。

各資本項目または取引がなぜその区分になったのか、どのデータを用いたのか、どの条文・Q&A・内部ルールに基づくのか、基準日時点で再現できることが重要である。

そのため、システムには、残高集計機能だけでなく、適用区分の判定、資本性要件の管理、エクスポージャー分類、担保・保証の適格性判定、相殺、期間調整、リスク・ウェイト適用、内部モデル結果の取込み、資本フロア、連結処理、会計との照合、証跡管理が必要となる。

8-2. 必要となる主なデータ

(1)適用区分・組織データ

  • ・国際統一基準または国内基準
  • ・単体または連結
  • ・算出基準日
  • ・信用リスクの標準的手法または内部格付手法
  • ・マーケット・リスクの標準的方式、内部モデル方式または簡易的方式
  • ・期待エクスポージャー方式等の承認手法の適用有無
  • ・親法人、子法人等、関連法人等、保険子法人等の区分
  • ・本店、支店、海外営業拠点
  • ・法域、通貨、記帳地
  • ・連結対象、連結除外、比例連結の区分
  • ・内部取引および連結消去の対象

(2)会計・資本データ

  • ・資本金、資本剰余金、利益剰余金
  • ・その他の包括利益累計額およびその他公表準備金
  • ・社外流出予定額
  • ・無形固定資産、のれん、モーゲージ・サービシング・ライツ(住宅ローン債権の管理・回収業務から生じる権利)
  • ・繰延税金資産および関連する繰延税金負債
  • ・退職給付に係る資産または前払年金費用
  • ・一般貸倒引当金、個別貸倒引当金、適格引当金、期待損失額
  • ・自己保有資本調達手段
  • ・他の金融機関等への出資
  • ・非支配株主持分
  • ・貸借対照表科目、帳簿価額、時価、評価差額

(3)資本調達手段データ

  • ・発行者、発行主体、特別目的会社等の有無
  • ・資本調達手段の名称および法形式
  • ・規制上の候補区分
  • ・発行日、払込日、発行残高
  • ・契約上の満期日
  • ・初回および各回のコール可能日
  • ・利払日、配当日、利率または配当率
  • ・劣後順位
  • ・担保・保証その他の優先性を与える特約
  • ・利払いまたは配当停止の裁量性
  • ・ステップ・アップ金利その他の償還インセンティブ
  • ・元本削減または普通株式転換条項
  • ・実質破綻認定時の損失吸収条項
  • ・金融庁長官の確認を要する償還・買戻しの状況
  • ・自己保有、関係会社保有、取得資金融通の有無
  • ・経過措置区分および適用ルール版

(4)取引相手方・エクスポージャーデータ

  • ・債務者、取引相手方、保証者、発行体
  • ・個人、中小企業、事業法人、金融機関、中央政府、公共部門等の属性
  • ・業種、売上高、総資産
  • ・所在地、最終リスク所在国
  • ・商品、勘定科目、取引種類
  • ・オン・バランスまたはオフ・バランス
  • ・元本、未収利息、帳簿価額、時価
  • ・契約額、未使用額、実行額
  • ・契約日、満期日、返済スケジュール、残存期間
  • ・延滞日数、信用状態、引当状況
  • ・不動産の用途、返済原資、担保価値、LTV
  • ・証券化、ファンド、株式等、ADC等の特殊区分

LTV(Loan to Value、不動産価値に対するエクスポージャーの割合)は、不動産向けエクスポージャーの一部でリスク・ウェイト判定に用いられる。

(5)格付・担保・保証データ

  • ・格付機関
  • ・個別債務格付、債務者信用力格付、短期格付、長期格付
  • ・依頼格付か否か
  • ・格付付与日、格付基準日、有効日
  • ・複数格付がある場合の選択結果
  • ・デュー・ディリジェンス分析の結果
  • ・担保または保証の種類
  • ・担保評価額、評価日、評価頻度
  • ・担保提供者、保証者、プロテクション提供者
  • ・担保、保証、クレジット・デリバティブの残存期間
  • ・通貨
  • ・法的有効性
  • ・ボラティリティ調整率
  • ・エクスポージャーとの紐付けおよび配分額
  • ・簡便手法または包括的手法の適用区分
  • ・残存期間ミスマッチおよび通貨ミスマッチ

(6)デリバティブ・レポ・証券化・ファンドデータ

  • ・個別取引、ネッティング・セット、担保契約の対応関係
  • ・時価、再構築コスト、将来の潜在的エクスポージャー
  • ・想定元本、原資産、残存期間
  • ・当初証拠金、変動証拠金、清算基金
  • ・中央清算機関、直接清算参加者、間接清算参加者の区分
  • ・レポ取引の現金債権・債務、受渡証券、担保プール
  • ・証券化の原資産プール、トランシェ(優先劣後構造における各階層)、優先順位、格付
  • ・ファンドの裏付資産、投資上限、レバレッジ、デリバティブ
  • ・ルックスルー可能性および情報基準日
  • ・他の金融機関等の資本調達手段の間接保有額

(7)マーケット・リスクデータ

  • ・トレーディング勘定またはバンキング勘定
  • ・商品の保有目的
  • ・トレーディング・デスク
  • ・ポジション、通貨、残存期間
  • ・リスク・ファクター
  • ・デルタ、ベガ、カーベチャー等の感応度
  • ・バケット(同種のリスク・ファクターをまとめた区分)、リスク・ウェイト、相関
  • ・デフォルト・リスク、残余リスク
  • ・ヘッジ関係
  • ・市場データおよび評価モデル
  • ・内部モデルの承認範囲
  • ・バック・テスティングおよび損益要因分析の結果

(8)オペレーショナル・リスクデータ

  • ・BIを構成する財務項目
  • ・直近3年間の対象値
  • ・BICの算出区分
  • ・内部損失データの発生日、認識日、会計計上日
  • ・損失事象の種類
  • ・グロス損失、回収額、ネット損失
  • ・関連損失の統合
  • ・全てのオペレーショナル・リスク損失事象の記録
  • ・ILM算出に用いる200万円超のネット損失の抽出条件
  • ・特殊損失の除外
  • ・直近10年間のデータ保有状況
  • ・ILMの算出方法、承認状況、使用値

(9)規制ルール・報告データ

  • ・告示、Q&A、監督指針、内部方針の適用開始日
  • ・資本算入要件、調整項目、閾値
  • ・リスク・ウェイト、CCF、ボラティリティ調整率
  • ・資本フロア率
  • ・最低比率および各種バッファー
  • ・レバレッジ比率の計算ルール
  • ・判定条件と優先順位
  • ・経過措置およびルール改定履歴
  • ・当局報告様式および開示様式とのマッピング

8-3. どの単位で判定するか

自己資本比率規制では、全てを同じ単位で判定することはできない。主な判定単位は次のように分かれる。

  • ・普通株式等Tier1資本:会計科目、発行主体、法人、連結範囲の単位
  • ・AT1・Tier2資本調達手段:銘柄、契約、発行回号、元本返済部分の単位
  • ・調整項目:会計項目、投資先金融機関、保有商品、直接・間接保有の単位
  • ・貸出:債務者、契約、ファシリティ、返済キャッシュ・フローの単位
  • ・オフ・バランス取引:契約、未使用枠、取消条件、取引相手方の単位
  • ・担保・保証:担保物または保証契約と被保全エクスポージャーの対応単位
  • ・デリバティブ:個別取引、法的に有効なネッティング・セット、担保契約単位
  • ・レポ:個別取引、相手方、最終清算日、担保プールの単位
  • ・証券化:トランシェ、原資産プール、証券化取引の単位
  • ・ファンド:ファンド持分、裏付資産、投資割合、情報基準日の単位
  • ・マーケット・リスク:トレーディング・デスク、ポジション、リスク・ファクター、感応度の単位
  • ・オペレーショナル・リスク:法人、事業部門、損失事象、会計処理の単位
  • ・連結計算:法人、内部取引、非支配株主持分、連結消去の単位

例えば、Tier2資本の会計残高は勘定科目単位で取得できても、残存5年間の逓減を計算するためには、個々の資本調達手段または元本返済部分の満期日を把握する必要がある。

また、他の金融機関等の資本調達手段をファンド経由で間接保有する場合には、ファンド持分の残高だけでなく、裏付資産に含まれる資本調達手段と自らの投資割合を把握する必要がある。

8-4. 処理の基本順序

システム処理は、概ね次の順序で構成すると整理しやすくなる。

  1. 適用基準、単体・連結、算出手法、基準日、ルール版を確定する
  2. 基準日時点の会計残高、時価、契約情報を固定する
  3. 法人、相手先、商品、格付、担保、保証、満期等の属性を付与する
  4. 資本項目の基礎項目・調整項目および資本調達手段の適格性を判定する
  5. エクスポージャー区分、与信相当額、リスク・ウェイトまたは内部モデル結果を確定する
  6. 担保、保証、ネッティング、残存期間ミスマッチ等を反映する
  7. 信用リスク、マーケット・リスク、オペレーショナル・リスクを算出する
  8. 資本フロア、最低比率、各種バッファーおよびレバレッジ比率を計算する
  9. 法人、単体・連結、報告区分ごとに集計する
  10. 会計残高、開示様式、当局報告様式と照合し、判定理由とデータの系譜を保存する

8-5. 主な統制・検証項目

  • ・全ての会計残高およびオフ・バランス残高が対象、対象外または保留のいずれかに分類されていること
  • ・国際統一基準と国内基準、単体と連結のロジックが混在していないこと
  • ・資本の基礎項目、調整項目、RWAの間で二重計上または計上漏れがないこと
  • ・分子から控除した部分について、分母計上の要否が正しく判定されていること
  • ・資本調達手段の発行日、満期日、コール日、残存日数、契約条件が整合していること
  • ・格付の有効日、依頼格付の有無、使用する格付順位が確認できること
  • ・デュー・ディリジェンス分析の結果をリスク・ウェイト判定へ反映できること
  • ・担保、保証、クレジット・デリバティブの法的有効性と適格性が確認されていること
  • ・オフ・バランス取引の未使用額、取消条件、CCFが整合していること
  • ・ネッティングした取引を個別取引まで追跡できること
  • ・トレーディング勘定とバンキング勘定の分類が方針および会計処理と整合していること
  • ・BI、BIC、ILMと内部損失データが会計データと整合していること
  • ・資本フロアの標準的手法ベースと承認手法ベースを再現できること
  • ・単体計数と連結計数の差額を、連結消去、連結範囲、非支配株主持分等で説明できること
  • ・自己資本比率、レバレッジ比率、開示様式、当局報告の差額を説明できること
  • ・手修正には理由、承認者、変更前後の値が残ること
  • ・規制改定時に、旧ルールと新ルールを基準日別に再現できること

8-6. システム設計上の要点

制度上の区分を一つの固定コードへ押し込むと、改正、経過措置、例外処理、複数規制への再利用に対応しにくくなる。

基礎データ、規制判定、係数・算式、相殺・調整、集計、報告様式を分離し、同じ基礎データから、自己資本比率、レバレッジ比率、開示、必要に応じて流動性比率等をそれぞれの規制ロジックで判定できる構造が望まれる。

また、最終結果だけでなく、判定に使用した属性、適用条文、Q&A、内部ルール、ルール版、例外理由、手修正履歴を保存することで、報告値の再現性と検証可能性を高められる。

9. よくある論点・具体例

自己資本比率規制では、商品名や会計科目だけでは取扱いを決められない論点が多くある。個別論点は、本編の基本構造を前提に、Q&A形式で順次追加することが適している。

9-1. 資本調達手段の名称と算入要件

「劣後債」「永久劣後債」「優先株式」といった名称だけでは、CET1、AT1またはTier2への算入可否は決まらない。

劣後順位、満期、利払い・配当停止の裁量性、償還インセンティブ、元本削減・普通株式転換、実質破綻時の損失吸収、担保・保証、自己保有等を契約単位で確認する必要がある。借入れ形式であっても要件を満たせばAT1またはTier2となり得るため、法形式だけで除外しないことも重要である。

9-2. 満期・コール・Tier2の残存5年間

コール日は発行者が期限前償還を選択できる日であり、契約上の満期日ではない。コール可能日が到来しても、必ず償還されるわけではない。

Tier2の残存5年間の逓減は、原則として契約上の償還期限までの日数を基礎に計算する。会計残高、資本算入対象残高、逓減後算入額を区別し、最終満期日とコール日を別々に管理する必要がある。

9-3. 他の金融機関等の資本調達手段とファンド経由の間接保有

他の金融機関等が発行する普通株式、AT1、Tier2、その他外部TLAC(総損失吸収力)関連調達手段等を保有する場合には、保有先、議決権割合、資本区分、直接保有・間接保有、意図的な相互持合い等を確認する。

ファンド経由の間接保有では、原則としてルックスルーを行う。正確なルックスルーができない場合でも、運用基準に基づく推計または合理的かつ保守的な見積りが必要となる。分子控除となる部分とRWAを計上する部分を区別することが重要である。

9-4. 担保・保証・クレジット・デリバティブ

担保または保証が存在するだけで、信用リスク削減効果を反映できるわけではない。

担保・保証の種類、法的有効性、評価方法、保証者の適格性、残存期間、通貨、エクスポージャーとの対応関係を確認する必要がある。簡便手法と包括的手法、保証・クレジット・デリバティブの置換方法では計算構造が異なるため、最終リスク・ウェイトだけを手入力する設計は検証性を損ないやすい。

9-5. コミットメント・オフ・バランス取引

コミットメントでは、実行済残高だけでなく、未使用枠のうち規制上の対象となる額を把握する必要がある。

契約が無条件に取消可能か、取消しに事前通知が必要か、当初期間はどの程度か、取引相手方および資金使途は何かによってCCFが異なる。会計仕訳が発生していない未使用枠も対象となるため、契約管理システムと自己資本比率計算を連携させる必要がある。

9-6. デリバティブ・レポ・中央清算機関

デリバティブやレポでは、会計上の時価または現金債権だけでなく、将来の潜在的エクスポージャー、担保、証拠金、ネッティング、中央清算機関との関係を計測する。

同じ取引が、取引相手方信用リスク、CVAリスク、中央清算機関関連エクスポージャー、マーケット・リスク、レバレッジ比率の各計算へ関係することがある。各規制要素の対象範囲を区別し、同一金額の二重計上または計上漏れを防ぐ必要がある。

9-7. 不動産向けエクスポージャー

不動産担保が付いているという事実だけでは、適用するリスク・ウェイトは決まらない。

居住用か事業用か、自己居住か賃貸か、返済が不動産からの収益へ依存するか、LTVはどの程度か、土地取得・開発・建設に係るADC向けかなどを確認する必要がある。担保物件データ、債務者データ、資金使途、返済原資を組み合わせて判定することが重要である。

9-8. 単体・連結・非支配株主持分

単体計算と連結計算は、単に子会社残高を加算する関係ではない。連結範囲、保険子法人等の除外、内部取引消去、他の金融機関等への出資、比例連結、非支配株主持分等の調整が必要となる。

連結貸借対照表上の非支配株主持分を全額規制資本へ算入することはできない。子法人等の所要自己資本、親銀行の連結RWAとの関係、第三者持分割合を用いた上限計算を行い、会計連結と規制連結の差額を説明できるようにする必要がある。

10. 参考:標準的手法の主な掛け目一覧

以下は、信用リスクの標準的手法で用いる主要なリスク・ウェイト(RW)と、オフ・バランス取引の主要な信用換算掛目(CCF)を整理したものである。RWは、エクスポージャーの額に乗じて信用リスク・アセットの基礎額を求める割合である。CCFは、コミットメントや保証等の想定元本額を与信相当額へ換算する割合である。

本表は制度の全体像を確認するための主要項目一覧であり、網羅表ではない。実際の判定では、適用基準、相手方区分、格付、LTV比率、延滞状況、担保・保証、通貨ミスマッチ、経過措置等を確認する必要がある。また、本表は個別エクスポージャーに適用するRWおよびCCFを対象とし、総額上限や構成上限は扱わない。

10-1. 一般的なエクスポージャーの主なRW

一般的なエクスポージャーの主なリスク・ウェイト
主な対象RW主な条件・留意点
現金0%外国通貨および金を含む。
日本国政府・日本銀行向け0%円建てで、かつ円建てで調達されたエクスポージャー。
国際決済銀行等向け0%国際決済銀行、国際通貨基金、欧州中央銀行等の告示所定の機関。
我が国の地方公共団体向け0%円建てで、かつ円建てで調達されたもの。特定事業の収入のみを返済原資とするものを除く。
中央政府・中央銀行向け0%・20%・50%・100%・150%格付またはカントリー・リスク・スコアに応じて判定する。無格付は原則100%。
金融機関向け(格付あり)20%・30%・50%・100%・150%信用リスク区分およびデュー・ディリジェンス分析に応じて判定する。一定の短期取引には軽減措置がある。
金融機関向け(無格付)40%・75%・150%相手方金融機関のグレード区分A・B・Cに応じて判定する。一定の短期取引には軽減措置がある。
法人等向け(格付あり)20%・50%・75%・100%・150%信用リスク区分およびデュー・ディリジェンス分析に応じて判定する。
法人等向け(無格付)100%所定の中堅中小企業等に該当する場合は85%を適用できる。
適格中堅中小企業等向け・適格個人向け75%一債務者当たりの金額、分散性等の要件を満たすもの。所定のトランザクターは45%、適格要件を満たさない個人向けは100%。
信用保証協会等による保証部分10%国による所定の財政措置が講じられた全額保証等は0%となる場合がある。
右記以外のエクスポージャー100%告示第55条から第76条の5までの個別区分に該当しないもの。
主な根拠:自己資本比率告示第55条から第67条、第74条、第77条

10-2. 不動産・延滞等の主なRW

LTV(Loan to Value)比率は、原則としてエクスポージャーの額を担保物件の価値で除して求める割合である。物件の用途、返済原資、担保順位、評価方法等によって適用区分が異なる。

不動産・延滞等の主なリスク・ウェイト
主な対象RW主な条件・留意点
自己居住用不動産等向けLTV50%以下:20%
LTV50%超60%以下:25%
LTV60%超80%以下:30%
LTV80%超90%以下:40%
LTV90%超100%以下:50%
LTV100%超:70%
所定の対象要件および適格性要件を満たすもの。適格性要件を満たさない場合は75%。
自己居住用不動産等向け(国内基準行の特例)完全保全:35%
完全保全でない場合:75%
国内基準行は、所定の適格性要件を満たす場合にこの特例を適用できる。適格性要件を満たさない場合は75%。
賃貸用不動産向けLTV50%以下:30%
LTV50%超60%以下:35%
LTV60%超80%以下:45%
LTV80%超90%以下:60%
LTV90%超100%以下:75%
LTV100%超:105%
返済が専ら住宅の賃料等に依存し、所定の適格性要件を満たすもの。適格性要件を満たさない場合は150%。
賃貸用不動産向け(国内基準行の特例)完全保全:60%
完全保全でない場合:105%
国内基準行は、所定の適格性要件を満たす場合にこの特例を適用できる。適格性要件を満たさない場合は150%。
事業用不動産関連LTV60%以下:70%
LTV60%超80%以下:90%
LTV80%超:110%
返済が専ら不動産からの賃料等に依存し、所定の適格性要件を満たすもの。適格性要件を満たさない場合は150%。
その他不動産関連60%上記の不動産区分に該当せず、担保設定、LTV60%以下等の要件を満たすもの。
ADC向け150%土地の取得・開発・建物の建築に係る所定のエクスポージャー。一定の居住用不動産で適格性要件等を満たす場合は100%。
延滞エクスポージャー引当率20%未満:150%
20%以上50%未満:100%
50%以上:50%
個別貸倒引当金等の割合に応じて判定する。信用リスク削減効果が反映されない部分が対象。
自己居住用不動産等向けの延滞100%自己居住用不動産等向けエクスポージャーが延滞エクスポージャーに該当する場合。
劣後債権その他資本性証券150%他の個別区分に該当しない劣後債権その他資本性証券。
株式および株式と同等の性質を有するもの250%
投機的な非上場株式:400%
重要な出資、他の金融機関等の資本調達手段、ファンド、旧制度からの経過措置等は別途判定する。
主な根拠:自己資本比率告示第68条から第72条、第70条の2から第70条の6、第76条

10-3. オフ・バランス取引の主なCCF

オフ・バランス取引では、原則として「想定元本額 × CCF」により与信相当額を求め、その与信相当額に相手方または対象資産に応じたRWを適用する。

オフ・バランス取引の主な信用換算掛目
CCF主な取引主な条件・例
10%無条件取消可能なコミットメント等任意の時期に無条件で取消し可能、または相手方の信用状態悪化時に自動的に取消し可能なもの。
20%短期かつ流動性の高い貿易関連偶発債務満期1年未満で、船荷により担保された商業信用状の発行または確認。
40%その他のコミットメント10%の区分に該当しないコミットメント。
50%特定取引に係る偶発債務、NIF・RUF契約履行保証、入札保証、品質保証等。NIF・RUFは証券発行枠に対する引受・買取り等の約束。
100%信用供与に直接代替する偶発債務等一般的な債務保証、手形引受け、元本補填信託契約、有価証券の貸付・担保提供、買戻条件付または求償権付資産売却、先物資産購入等。
主な根拠:自己資本比率告示第78条

10-4. 適用時の確認順序

最初に、取引相手方、資金使途、返済原資、担保物件等からエクスポージャー区分を判定する。次に、格付、LTV比率、適格性要件、延滞状況、保証等を確認してRWを決定する。オフ・バランス取引は、想定元本額とCCFから与信相当額を算出した上でRWを適用する。

貸出通貨と債務者の収入通貨が異なる一定の個人向け・不動産向けエクスポージャーについて、為替リスクの90%以上がヘッジされていない場合は、通常のRWに1.5を乗じ、150%を上限とする取扱いがある。証券化、ファンド、デリバティブ、レポ、中央清算機関関連エクスポージャー等は、それぞれ別の計算枠組みを確認する必要がある。

主な根拠:自己資本比率告示第48条、第77条の2、第78条以降

AddWisteria Labの取組み

AddWisteria Labでは、金融庁告示、監督指針、公式Q&A、バーゼル銀行監督委員会文書などの公開資料に基づき、金融規制の制度構造とシステム実務の接点を整理する。

主な検討対象は、次のような内容である。

  • ・制度文書と報告・開示項目の対応整理
  • ・用語、定義、条文条件の確認
  • ・資本項目および取引を規制区分へ分類するための判定観点の整理
  • ・必要なデータ項目と判定単位の整理
  • ・算入要件、調整項目、閾値、リスク・ウェイト、CCF等の検証観点の整理
  • ・担保、保証、ネッティング、残存期間、資本フロアの計算過程の整理
  • ・単体、連結、自己資本比率、レバレッジ比率、開示様式の整合性確認
  • ・会計、信用リスク管理、市場リスク管理、オペレーショナル・リスク管理、流動性比率規制等との接続整理

特定の金融機関の顧客情報、非公開案件、固有の内部仕様は使用せず、公開情報に基づく一般化可能な制度整理を行う。また、個別取引の法的判断や規制適合性を保証するものではなく、最終的な判断には最新の制度文書、契約内容、事実関係および必要に応じた専門家・当局への確認が必要である。

主な参照資料

  1. 金融庁 「銀行法第十四条の二の規定に基づき、銀行がその保有する資産等に照らし自己資本の充実の状況が適当であるかどうかを判断するための基準」 平成18年金融庁告示第19号、2026年5月22日更新
  2. 金融庁 「自己資本比率規制に関するQ&A」 2006年3月31日公表、2026年7月14日修正
  3. 金融庁 「銀行法第十四条の二の規定に基づき、銀行がその保有する資産等に照らし自己資本の充実の状況が適当であるかどうかを判断するための基準の補完的指標として定めるレバレッジに係る健全性を判断するための基準」 平成31年金融庁告示第11号、金融庁現行規制掲載版
  4. 金融庁 「レバレッジ比率告示に関するQ&A」 2019年3月15日公表、2023年3月28日追加・修正
  5. Basel Committee on Banking Supervision “Basel III: A global regulatory framework for more resilient banks and banking systems” 2011年6月改訂
  6. Basel Committee on Banking Supervision “Basel III: Finalising post-crisis reforms” 2017年12月
  7. Basel Committee on Banking Supervision “Minimum capital requirements for market risk” 2019年1月
  8. 金融庁 「自己資本比率規制等(バーゼル規制)について」 2026年8月16日確認
注:金融庁ウェブサイトに掲載される告示の統合版は利便性向上のために作成されたものであり、正本は官報に掲載された告示である。制度改正後に本稿を利用する場合は、最新の官報および金融庁公表資料を確認する必要がある。