約定照合
銘柄、売買区分、数量、価格、約定日等の経済条件が双方で一致しているか確認する。
決済・清算の基本構造
金融SE(金融システムエンジニア)向けに、約定・取引確認・照合・清算・決済の違いから、参加者とインフラの経路、決済サイクル、決済指図の状態、最終性までを一連の流れとして整理する
| 段階 | 何をするか | 代表的なデータ | システム上のポイント |
|---|---|---|---|
| 約定 | 売買・取引条件を当事者間で成立させる。 | 銘柄、数量、価格、通貨、売買区分、約定日、決済日、相手先 | 経済条件が成立した時点。まだ証券・資金が動いたわけではない。 |
| 取引確認(コンファメーション) | 成立した取引条件を当事者間で確認し、合意内容を文書・メッセージ等で確定する。 | 取引確認書、約定番号、経済条件、送信・受信時刻、承認状態 | 「何を合意したか」を証跡化する。照合処理と一体のサービスで行われる場合もある。 |
| 照合(マッチング) | 双方が保持する約定・決済データを比較し、一致・不一致を判定する。 | 約定番号、数量、金額、決済日、口座、決済代理人等 | 不一致項目を特定し、未照合・不一致のまま決済指図へ流さない。 |
| 清算 | 債権・債務を確定し、中央清算機関が債務を引き受ける場合は相手方を置き換え、差引計算等を行う。 | 清算参加者、中央清算機関、差引後の決済数量・金額、決済予定額・数量 | 原約定と清算後債務を分ける。 |
| 決済 | 最終的に証券・資金を移転し、債権債務を履行する。 | 決済指図、証券口座、資金口座、決済時刻、処理状態 | 処理待ち、決済済み、決済未了等を管理する。 |
実務では「照合」の周辺でコンファメーション、マッチング、リコンシリエーションという言葉が使われるが、対象と時点が異なる。会社・商品・サービスにより用語法は異なるため、名称だけでなく「何と何を、いつ比較・確認するか」で判断する。
| 用語 | 主な意味 | 主な時点・対象 | システムで持ちたい状態 |
|---|---|---|---|
| 取引確認(コンファメーション) | 当事者間で成立した経済条件を確認し、合意内容を文書・メッセージ等で確定する。 | 約定後。取引条件、法的・事務的な確認内容 | 作成、送信、受信、承認、否認、取消し |
| 照合(マッチング) | 双方の約定・決済データの項目を比較し、一致・不一致を判定する。 | 約定後から決済指図前後。数量、価格、決済日、口座等 | 未照合、一致、不一致、保留、修正中、取消し |
| 残高照合(リコンシリエーション) | 自社帳簿と外部機関の残高・明細を比較し、差異を検出・解消する。 | 主に決済後・日次等。証券残高、資金残高、入出庫・入出金明細 | 未実施、一致、差異あり、調査中、調整済み |
証券保管振替機構(JASDEC)の決済照合システムは、機関投資家取引における運用会社、証券会社、信託銀行、カストディ銀行、生損保等の間で、約定・決済内容を電子的に照合する。国内取引では、約定情報の照合後に決済情報の照合を行う仕組みがある。
銘柄、売買区分、数量、価格、約定日等の経済条件が双方で一致しているか確認する。
決済日、決済金額、決済口座、決済代理人等、実際の受渡しに必要な条件を確認する。
中央清算機関(CCP)は、売方・買方の間に入り、取引から生じた債務を双方から引き受ける。 日本証券クリアリング機構(JSCC)は、清算機関の主要機能を、債務引受け、差引計算、決済指図、決済保証として整理している。
日本証券クリアリング機構は、差引計算(ネッティング)を、複数取引の売付数量と買付数量、支払金額と受取金額を相殺し、差額について決済する仕組みとしている。
清算・決済は一つの機関だけで完結するとは限らない。 取引・商品ごとに、取引情報の伝送、照合、債務引受け、差引計算、証券振替、資金の最終決済を担う機関が異なる。 証券集中保管・振替機関(CSD)は、証券を振替口座簿等で管理し、証券の移転を実行する市場インフラである。
| 取引・サービス | 実在する主な機関・システム | 主な役割 | 最終的な資金・証券の移転 |
|---|---|---|---|
| 国内の銀行振込 | 全国銀行資金決済ネットワーク(全銀ネット)が運営する全国銀行データ通信システム(全銀システム) | 振込通知の送受信、銀行間の為替決済額の算出・清算。平日夜間・土日祝日はモアタイムシステムが対応する。 | 1件1億円以上の大口取引は日銀ネットで即時グロス決済。1件1億円未満の取引は差額を日本銀行当座預金で最終決済する。 |
| 取引所の株式等 | 日本証券クリアリング機構、証券保管振替機構、日本銀行または資金決済銀行 | 日本証券クリアリング機構が債務引受け・差引計算・決済指図・決済保証を行う。 | 証券は証券保管振替機構、資金は日本銀行または日本証券クリアリング機構が指定する資金決済銀行で決済する。 |
| 国債取引 | 日本銀行、取引・利用形態により日本証券クリアリング機構 | 日本銀行は国債振替決済制度と日銀ネット国債系を運営し、日本証券クリアリング機構を利用する取引では清算を行う。 | 日銀ネットで国債と日本銀行当座預金を連動させて決済する。 |
| 取引所清算を伴わない株式等の一般振替 | 証券保管振替機構、ほふりクリアリング、日本銀行 | 照合一致後、ほふりクリアリングが証券・資金の債務を引き受ける。 | 証券は証券保管振替機構で1件ごとのグロス決済、資金は日銀ネットで差引後の金額を決済する。 |
| 外国為替取引 | CLS(外国為替取引の決済リスクを削減する国際決済基盤)が運営するCLSSettlement等 | 対象通貨の両方の支払いを同時に決済する通貨同時決済(PVP)により、外国為替の決済リスクを削減する。 | 対象通貨の即時グロス決済システムと接続し、二つの通貨の支払指図を連動させる。 |
投資家・顧客が、中央清算機関や証券決済システムに直接指図を送るとは限らない。証券会社・取引参加者、清算参加者、決済代理人・カストディアン(証券の保管・決済を代行する機関)等を通じて、中央清算機関、証券集中保管・振替機関、資金決済機関へつながる。
| 区分 | 例 | 帳簿上で何が動くか | システム上の注意 |
|---|---|---|---|
| 中央銀行マネー | 日本銀行当座預金 | 中央銀行の帳簿上で、参加金融機関間の残高が移転する。 | 銀行間債権債務の最終決済に用いられる。参加資格のない主体は直接保有・利用できない。 |
| 商業銀行マネー | 資金決済銀行等に対する預金 | 商業銀行の帳簿上で、顧客・参加者の預金残高が移転する。 | どの銀行の債務を決済資産とするかを識別する。その後、銀行間の最終決済が中央銀行マネーで行われる場合がある。 |
証券・資金同時受渡(DVP)は、証券の引渡しと代金支払いを相互に関連付け、一方だけが先に履行されることで生じる元本リスクを削減・排除する仕組みである。
即時グロス決済(RTGS)は、支払指図を受ける都度、他の支払と差し引かずに1件ずつ即時決済する方式である。日本銀行は日銀ネットの説明で、この「即時」「グロス」の性質を明確にしている。
| 観点 | 即時グロス決済 | 差額決済 |
|---|---|---|
| 処理 | 1件ずつグロスで決済 | 複数取引を差し引き、差額を決済 |
| 長所 | 決済ファイナリティを早く得やすく、システミックリスクを抑えやすい | 必要な資金・証券量を圧縮できる |
| 課題 | 日中流動性を多く必要とする場合がある | 差額決済まで未決済状態が残るため制度的なリスク管理が重要 |
国債決済では、日銀ネットを利用したグロス=グロス型DVP(RTGS)が利用されている。日本銀行は国債DVPを円滑化するため、受け取る国債を直ちに担保として日中当座貸越を利用できる仕組みも提供している。
日本国内の取引所市場で成立した有価証券売買はJSCCが清算を行う。清算された株式等については、証券はJASDEC、資金は日本銀行またはJSCCが指定する資金決済銀行で決済される。
国債の振替決済制度では日本銀行が証券集中保管・振替機関の役割を担う。 日本証券クリアリング機構で清算される上場国債・国債店頭取引では、同機構と清算参加者との間で日銀ネットを利用したDVP決済が行われる。
T(取引日)から何営業日後に決済するかは、商品・市場・取引種別によって異なる。「T+1」は取引日の翌営業日、「T+2」は2営業日後を意味する。
| 商品・取引 | 代表的な決済サイクル | 実務上の注意 | システム上の持ち方 |
|---|---|---|---|
| 国内上場株式の普通取引 | T+2 | 2026年8月17日時点の現行制度。普通取引以外の取引や個別の市場ルールでは、受渡日が異なる場合がある。 | 標準日数をマスタ化し、実際の決済日は市場営業日カレンダーと取引種別から算出する。 |
| 国債店頭取引 | T+1(代表的な受渡し) | 日本証券業協会の国債取引の決済期間短縮によりT+1化されている。取引条件・制度上の例外は別途確認する。 | 株式と同じ日数・カレンダーを流用せず、国債市場の営業日と受渡条件を保持する。 |
| クロスボーダー取引 | 市場・通貨・商品による | 取引市場、証券決済システム、資金決済システム、通貨ごとに休業日が異なる。 | 複数カレンダーの共通営業日、時差、締切時刻を考慮して決済日を決定する。 |
取引所取引の清算に伴わない株式等の一般振替についても、JASDECには一般振替DVP制度がある。決済当事者双方から入力されたデータが決済照合システムで一致すると、DVP振替請求データが口座振替システムへ自動送信される。一般振替DVPでは、ほふりクリアリングがDVP参加者間の証券引渡債務または資金支払債務を引き受け、同時に対応する債権を取得するため、各参加者の決済相手方はほふりクリアリングに一本化される。証券はJASDECで日中随時1件ごとのグロス決済、資金は日銀ネットを利用して差引計算後のネット決済が行われ、両者を制度的にリンクして元本リスクを削減する。
JSCCが債務を引き受け、決済保証・差引計算等を行ったうえでDVP決済へ進む。
決済照合一致後にDVP振替請求データが口座振替システムへ連携され、ほふりクリアリングが証券・資金の債務を引き受ける。証券はグロス、資金はネットで決済する。
外国為替では証券を渡すのではなく、二つの通貨を交換する。このため元本リスク削減の仕組みとして 通貨同時決済(PVP)が用いられる。CLSが運営するCLSSettlementは、外国為替取引に伴う二つの通貨の支払いを同時に決済し、外国為替の決済リスクを削減する代表的な仕組みである。
決済指図は、作成してから送信すれば直ちに「決済済み」になるわけではない。外部機関での受付、相手方指図との照合、決済条件待ち、決済処理を経て完了する。未照合、不一致、拒否、保留、取消しは、決済フェイルと同じ状態ではない。
決済日に必要な証券・資金が用意できない、口座情報に誤りがある、締切時刻までに条件を満たせない等により、決済が予定どおり完了しないことがある。これを一般に決済フェイルと呼ぶ。
売渡し予定の証券在庫が不足し、証券を渡せない。
決済資金が不足し、資金側条件を満たせない。
銘柄、数量、金額、口座、決済日等が相手方と一致していない。
外部接続、送信時刻、休日、口座設定、ステータス更新等の問題で決済できない。
| 工程 | 代表的な資料・データ | 画面で確認する内容 | 主な例外 |
|---|---|---|---|
| 約定・取引確認・照合 | 約定報告、売買報告、取引確認書・確認メッセージ、決済指図、照合結果、不一致項目 | 約定番号、取引確認番号、銘柄、数量・金額、決済日、口座、相手方、確認・照合状態 | 未受信、重複、否認、未照合、数量・金額差、口座誤り、相手方不一致 |
| 清算 | 債務引受結果、清算後債務、差引計算結果、証拠金・担保所要額 | 原約定との対応、清算参加者、中央清算機関、差引前後の数量・金額 | 清算対象外、取込拒否、参加資格・口座不備、担保不足 |
| 証券決済 | 証券振替請求、振替結果、証券残高明細 | 渡方・受方口座、銘柄、数量、拘束・利用可能残高、振替状態 | 証券不足、口座停止、振替条件未充足、部分決済 |
| 資金決済 | 資金振替指図、差引決済額、口座入出金明細、決済結果 | 通貨、金額、資金口座、締切時刻、待ち行列、資金手当、最終決済状態 | 資金不足、締切時刻超過、待ち行列滞留、決済銀行・接続障害 |
| 決済未了管理 | 未了理由、再処理予定、取消し・再指図、手数料・ペナルティー | 未決済数量・金額、経過日数、担当者、期限、相手方連絡、解消履歴 | 翌日繰越し、長期未了、原因未特定、誤った再送、二重決済 |
| データ領域 | 主な項目例 | 理由 |
|---|---|---|
| 原取引 | 取引識別子、商品、取引市場、約定日、決済日、原約定相手、発生元システム識別子 | 決済の起点となる約定を特定する。 |
| 決済サイクル | 標準決済日数、取引種別、適用開始日・終了日、市場・通貨・決済機関の営業日カレンダー | T+1・T+2等を固定値にせず、取引日から適切な決済日を算出する。 |
| 取引確認 | 取引確認識別子、文書・メッセージ種別、送受信相手、送受信時刻、承認・否認状態 | 約定成立と、取引条件の確認・証跡化を分ける。 |
| 照合 | 照合識別子、照合種別、対応する相手方データ識別子、一致/不一致、不一致項目・理由、照合時刻 | 約定成立と照合完了を分ける。 |
| 残高照合 | 照合基準日、自社残高・明細、外部残高・明細、差異量・金額、差異理由、調整状態 | 決済状態と、決済後の帳簿・外部残高の一致を分けて管理する。 |
| 清算 | 中央清算機関、清算参加者、清算後取引識別子、差引計算単位、差引後の決済数量・金額 | 原約定と清算後債務を関連付ける。 |
| 証券 | ISIN(証券の国際識別コード)、数量、証券口座、証券振替機関、渡し/受け | 証券側の決済指図を特定する。 |
| 資金 | 通貨、決済金額、資金口座、資金決済銀行、支払い/受け取り、決済資産種別(中央銀行マネー/商業銀行マネー) | 資金側の決済指図と、何を決済資産とするかを特定する。 |
| 決済方式 | DVP/FOP/PVP、即時グロス決済/差額決済、差引前/差引後 | 証券・資金の連動方式と処理方式を表す。 |
| 決済指図 | 指図識別子、原指図・取消し・再指図の関連、外部参照番号、送受信時刻、締切時刻、処理優先度 | 外部機関へ送信した指図と、修正・再送信の履歴を追跡する。 |
| 処理状態 | 作成、送信、受付、未照合、照合一致、不一致、拒否、決済待ち、保留、決済処理中、決済済み、決済フェイル、取消し | 取引確認・照合・清算・決済で別々のステータスを持ち、外部状態コードと自社状態を対応付ける。 |
| ファイナリティ | 最終性の状態、最終性獲得時刻、判定根拠となる制度・イベント、訂正・反対取引の関連 | 画面の処理完了と、制度上・法的な最終性を分ける。 |
| 決済未了 | 未了理由、未決済数量、未決済金額、再処理日、ペナルティー等 | 未決済残高と再処理を管理する。 |
| 市場インフラ | 取引市場、執行ブローカー、清算参加者、中央清算機関、証券振替機関、証券・資金決済システム、決済代理人、直接/間接参加 | 「誰の資格・口座を使い、どこを通って決済されたか」を再現する。 |
| 口座 | 自己/顧客、混蔵/分別、口座名義人、カストディアン | 顧客資産・自己勘定・分別口座を識別する。 |
| 証跡 | 発生元システム識別子、業務識別子、メッセージ識別子、外部参照番号、記録時刻、利用者、手動修正、応答コード | 端から端までの追跡、外部接続・障害・再送・二重取込みを調査できるようにする。 |
約定成立、取引確認、データ照合、清算、決済は別イベントとする。1約定から複数の決済明細や分割決済が発生するため、1対1前提にしない。
原約定相手、中央清算機関、清算参加者、証券振替機関の参加者、カストディアン、決済代理人等を役割で管理する。
取引確認、約定照合、決済照合、清算、決済指図、決済、残高照合の状態を独立させる。
T+1・T+2を固定値にせず、商品・取引種別・適用日・複数の営業日カレンダーから実際の決済日を算出する。
元取引の差引前債務と、差引計算後の決済債務を関連付け、差引計算の単位・ルールも保持する。
証券側・資金側のシステム、連動方式、決済口座、中央銀行マネー/商業銀行マネーの別を保持する。
外部機関の完了応答、自社記帳、制度上・法的な最終性獲得を別イベントとし、根拠と時刻を記録する。
発生元・自社・外部機関の識別子を相互参照できるようにし、再送時の二重取込み・二重決済を防ぐ。