収益を守り、創る
貸出・有価証券の運用利回りと、預金・借入等の調達費用を将来の金利シナリオで見積もり、 資金利益の安定性と収益機会を評価する。
資産・負債、金利、流動性、資金調達、収益性を一体で捉え、バランスシートを経営判断へつなげる
ALMはAsset Liability Management(資産・負債の総合管理)の略である。 銀行全体の資産、負債、オフバランス取引について、金利、期間、通貨、資金調達、流動性、収益性を一体で捉え、 経営方針、リスク許容度、収益計画に沿うようバランスシートを運営する枠組みをいう。
本ページでは、契約キャッシュフローと顧客行動を反映したキャッシュフロー、満期・金利更改ギャップ、 NII(Net Interest Income:資金利益)とEVE(Economic Value of Equity:資本の経済価値)、 流動性・資金調達、通貨、ヘッジ、ストレステスト、FTP(Funds Transfer Pricing:行内の資金移転価格)、 ALCO(Asset and Liability Management Committee:資産・負債管理委員会)による意思決定までを整理する。 後半では、ALMシステムのデータ、計算、システム間データ連携、照合、統制を扱う。
銀行は、要求払いまたは比較的短期の預金を受け入れ、その資金を中長期の貸出や有価証券へ運用する。 この満期変換は銀行の重要な機能であり、収益の源泉である一方、金利変動と資金流出に対する構造的なミスマッチを生む。 ALMは、このミスマッチをゼロにするのではなく、銀行の経営体力と戦略に照らして許容可能な範囲に管理する。
貸出・有価証券の運用利回りと、預金・借入等の調達費用を将来の金利シナリオで見積もり、 資金利益の安定性と収益機会を評価する。
将来キャッシュフローの現在価値が金利変動でどの程度変わるかを把握し、 資産・負債とデリバティブを含む全体の金利リスクを管理する。
資金流出、担保需要、未使用枠の実行等を見積もり、平常時とストレス時に必要な資金を調達できる状態を維持する。
会計上の貸借対照表は基準日時点の資産、負債、純資産を示す。 ALMでは、それぞれを残高だけでなく、金利条件、次回金利更改日、契約満期、顧客行動、通貨、担保利用、換金可能性、 将来の実行・更新見込みへ分解する。オフバランス取引と将来計画も含めなければ、将来の収益と資金繰りを捉えられない。
| 会計で見えるもの | ALMで追加して見るもの | 主な用途 |
|---|---|---|
| 基準日残高・簿価 | 元本、未収未払、時価、金利感応残高、利用可能残高 | 基準残高、経済価値、流動性準備を区別する。 |
| 契約満期日 | 次回金利更改日、返済予定、期限前返済、早期解約、ロール見込み | 金利更改ギャップ、NII予測、行動キャッシュフローを作る。 |
| 表面金利 | 参照金利、スプレッド、金利フロア・キャップ、改定ルール | 金利シナリオ別の利息とオプション性を計算する。 |
| 会計科目・商品区分 | ALMポートフォリオ、通貨、拠点、法人、部門、顧客セグメント | 経営管理の集計軸と責任単位へ変換する。 |
| オフバランス残高 | 実行率、取消可能性、担保需要、デリバティブ将来受払 | 偶発的な資金需要と金利・流動性リスクを見積もる。 |
| 実績 | 予算、新規実行、解約、再投資、調達、ヘッジの計画 | 静態分析から動態的なバランスシート予測へ広げる。 |
会計区分、銀行勘定・トレーディング勘定の区分、ALMポートフォリオの区分は目的が異なる。 一つのコードを三つの目的へ流用せず、元取引を共通識別子で関連付けながら、それぞれの分類結果を保持する必要がある。
ALMは計測部門だけで完結しない。取締役会・経営会議が経営方針とリスク許容度を定め、ALCOが資産・負債運営を横断的に審議し、 財務・資金・市場・営業・リスク管理等の部門が施策を実行する。独立したリスク管理部門は、計測、限度遵守、モデル、ストレス結果を検証し、 内部監査部門は枠組みと統制の有効性を評価する。
経営戦略、リスクアペタイト、重要な方針・限度、資本・流動性・収益の目標を承認し、重大な超過やストレスへの対応を決定する。
金利見通し、残高計画、NII・EVE、資金繰り、調達構成、ヘッジ、FTP、限度使用状況を横断して審議し、実行方針を調整する。
資金調達、運用、ヘッジ、商品金利、販売計画を実行する。実行責任と、独立した計測・監視責任を混同しない。
計測方法、前提、データ品質、限度、例外を検証する。モデル開発者と検証者、実行部門と監視部門の独立性を確保する。
ALMの対象範囲は、銀行の規模、業務、法人構造、通貨構成、管理目的によって異なる。 ただし、連結合計だけを見ると、法人・拠点間で資金を移動できない場合や、特定通貨の不足を別通貨の余剰で埋められない場合を見落とす。 銀行全体の集計と、意思決定に必要な細分化を両立させる。
| 管理軸 | 主な区分 | 確認する理由 |
|---|---|---|
| 組織 | 連結、単体、法人、支店、海外拠点、部門、ブック | 資金移動制限、現地規制、責任部署、内部取引消去を反映する。 |
| 通貨 | 円、米ドル、ユーロ、その他重要通貨 | 金利曲線、調達市場、流動性、為替換算が通貨ごとに異なる。 |
| 商品・ポートフォリオ | 預金、貸出、有価証券、短期市場、デリバティブ、オフバランス | 金利改定、顧客行動、換金性、ヘッジ方法が異なる。 |
| 期間帯 | 翌日、1か月、3か月、6か月、1年、3年、5年、10年超等 | 資金受払、満期、金利更改、現在価値感応度を時間軸へ配置する。 |
| 金利指標 | 固定、短期プライムレート、TIBOR(Tokyo Interbank Offered Rate:東京銀行間取引金利)、TONA(Tokyo Overnight Average rate:無担保コール翌日物金利)、国債利回り等 | 同じ期間でも異なる指標間の動きが一致しないベーシス・リスクを捉える。 |
| 顧客・行動 | 個人、法人、金融機関、安定性、期限前返済、早期解約、実行率 | 契約どおりでない実際のキャッシュフローと金利追随を見積もる。 |
| シナリオ | 基準、金利上昇・低下、カーブ変化、預金流出、市場閉鎖、複合ストレス | 単一の予測では見えない損失・資金不足と対応余力を確認する。 |
貸出、預金、債券、デリバティブ等の元本、金利条件、満期、受払を保持する最小単位である。 契約変更、部分返済、ロット、ヘッジ関係を追跡する。
元本、利息、手数料、担保、証拠金等を支払日・受取日へ展開する単位である。 一契約から複数のキャッシュフローが生じる。
普通預金の滞留、貸出の期限前返済等を、顧客・商品・チャネル等の同質的な集団で推計する単位である。
法人、部門、通貨、ポートフォリオ、期間帯、限度等へ集計する単位である。 集計値から元の契約・モデルへ遡れることが必要となる。
ALM計測の土台は、資産・負債・オフバランス取引から生じる将来キャッシュフローである。 まず契約条件どおりの元本・利息・手数料を生成し、そのうえで、預金の滞留、貸出の期限前返済、定期預金の早期解約、 コミットメントの実行等の行動仮定を目的別に反映する。
| 対象 | 主な項目 | 注意点 |
|---|---|---|
| 元本 | 実行日、返済日、満期日、分割返済、残高、償還率 | 契約全体を最終満期へ置かず、元本部分ごとに展開する。 |
| 利息 | 利払日、固定・変動、参照金利、スプレッド、日数計算、営業日調整 | 利息支払日と、金利が決まる更改日・決定日を区別する。 |
| オプション | 期限前返済、早期解約、コール、プット、延長、フロア、キャップ | 契約上の権利と、顧客が実際に行使する見込みを分ける。 |
| オフバランス | 未使用枠、保証、信用状、担保・証拠金、デリバティブ受払 | 現在の会計残高がゼロでも、将来の資金需要が生じ得る。 |
| 新規・更新 | 新規実行、満期更新、再投資、預金増減、商品金利、調達計画 | 既存残高だけの静態計測と、将来計画を含む動態計測を区別する。 |
契約上の期日と条件に基づく受払である。再現性が高く、契約データとの照合に向く。 一方、要求払い預金を全額翌日流出とするなど、実際の行動と大きく異なる場合がある。
過去実績、顧客属性、金利差、経済環境等を用いて、実際の残存・返済・解約・実行を推計する。 モデル、仮定、適用範囲、検証、保守性、版の管理が不可欠である。
ギャップ分析は、資産と負債を期間帯へ配置し、その差を把握する基本的な方法である。 ただし、何の日付で期間帯へ置くかによって意味が変わる。資金繰りを見る満期ギャップと、金利変動への反応を見る金利更改ギャップを分ける。
ある期間帯の資金流入と資金流出の差を見る。元本返済、償還、預金払戻し、調達満期等を時間軸へ置き、 資金不足がいつ生じるかを把握する。
一定期間内に金利が改定される資産と負債の差を見る。変動金利商品は最終満期ではなく次回更改日、 固定金利商品は原則として満期・返済日へ配置する。
この計算は方向感をつかむ近似にすぎない。実際には、資産・負債の金利改定時点、金利追随率、参照指標、フロア・キャップ、 顧客行動、新規取引、日数、通貨、複利、残高変化を反映する。正のギャップであっても、預金金利が貸出金利より速く上昇すれば収益が悪化する場合がある。
NIIはNet Interest Income(資金利益)の略で、主として貸出・有価証券等の利息収益から、預金・借入等の利息費用を差し引いたものである。 ALMでは、基準シナリオと金利変動シナリオの下で、一定期間のNIIがどのように変化するかを予測する。 これは収益の時間軸から金利リスクを見る視点である。
| 仮定 | 内容 | 主な影響 |
|---|---|---|
| 金利経路 | 短期・長期金利、通貨別カーブ、参照指標、変動時期 | 更改後金利、再投資利回り、調達費用を決める。 |
| 金利追随 | 市場金利変化のうち、貸出・預金金利へ反映する割合と遅れ | 預貸金利鞘の拡大・縮小を左右する。 |
| 残高計画 | 新規貸出、預金増減、満期更新、有価証券再投資、調達 | 静態バランスシートと動態バランスシートの差を生む。 |
| 顧客行動 | 期限前返済、早期解約、普通預金の流出・移替、未使用枠実行 | 利息発生残高と金利更改時期を変える。 |
| 商品条件 | スプレッド、フロア、キャップ、優遇、手数料、キャンペーン | 市場金利との非線形な関係を生む。 |
基準日の残高構成を概ね維持する、または既存取引だけを満期まで展開する。 金利感応構造の比較がしやすい一方、事業計画や新規取引を表さない。
新規取引、更新、商品金利、調達・運用方針等を計画へ反映する。 経営計画と結び付くが、前提が増えるため、基準ケース・施策・市場要因を分けて管理する必要がある。
EVEはEconomic Value of Equity(資本の経済価値)の略で、資産・負債・オフバランス取引の将来キャッシュフローを現在価値へ換算し、 資産側の現在価値から負債側の現在価値を差し引いて捉える考え方である。 金利シナリオごとのEVE変化は、バランスシートが持つ中長期的な経済価値の金利感応度を示す。
資産のキャッシュフローが負債より長期であるため、金利上昇時に資産価値の減少が相対的に大きくなった例である。 実際の計測では、利息を含む全キャッシュフロー、通貨別の割引曲線、期間別ショック、スプレッド、顧客行動、オプション、ヘッジを反映する。
| 比較項目 | NIIの視点 | EVEの視点 |
|---|---|---|
| 主な問い | 今後一定期間の資金利益がどう変わるか。 | 将来キャッシュフロー全体の現在価値がどう変わるか。 |
| 時間軸 | 1年、2年、3年等の収益予測期間。 | 原則として残存する全期間。 |
| 主な感応 | 金利更改、金利追随、残高計画、新規・更新。 | キャッシュフローの時期、デュレーション(キャッシュフローの期間と金利感応度を表す指標)、割引率、オプション。 |
| 経営上の意味 | 期間収益と予算への影響。 | 長期的な価値と資本への潜在的影響。 |
| 弱点 | 予測期間外の価値変化を捉えにくい。 | 直近の会計利益・資金繰りを直接示さない。 |
金利収益が見込めても、支払期日に必要な通貨の資金を用意できなければ業務を継続できない。 ALMでは、契約上・行動上の資金流入と資金流出、利用可能な流動性資産、担保、調達余力を期間別・通貨別に把握し、 平常時とストレス時の資金繰りを管理する。
| 要素 | 主な内容 | ALM上の問い |
|---|---|---|
| 資金流入 | 貸出返済、債券償還、預け金回収、デリバティブ受取、新規調達 | 予定日に全額受け取れるか。再運用するか。 |
| 資金流出 | 預金払戻し、借入・社債返済、貸出実行、担保・証拠金、決済 | 契約外・偶発的な流出をどこまで見込むか。 |
| 流動性バッファー | 現金、中央銀行預け金、売却・担保利用可能な高流動性資産 | 法的・業務的に自由に利用でき、ストレス時に換金できるか。 |
| 調達構成 | 個人・法人預金、市場調達、担保付・無担保、短期・長期、中央銀行 | 特定の市場、顧客、期間、通貨へ集中していないか。 |
| 調達余力 | 借入枠、担保余力、発行余力、資産売却、通貨スワップ | 平常時の名目枠ではなく、ストレス時に実行できる金額はいくらか。 |
| 危機対応 | 早期警戒指標、エスカレーション、CFP(Contingency Funding Plan:緊急時資金調達計画)、連絡・実行手順 | 誰が、どの兆候で、どの調達・資産処分を発動するか。 |
CFPでは、ストレステストで判明した不足へ対応するため、発動条件、責任者、調達手段、担保、優先順位、対外連絡、実行手順を平常時から定める。 計画書があるだけでなく、利用可能担保と市場アクセスを定期的に確認し、訓練・更新することが重要である。
報告通貨へ換算した連結合計が均衡していても、特定通貨の資金不足は解消されない。 通貨ごとに資金市場、決済時間、中央銀行制度、担保、調達先、金利曲線が異なるため、重要通貨は個別に管理する。 通貨間の資金移転に外国為替スワップや通貨スワップを使う場合は、満期、ロール、担保、相手方、市場流動性も含める。
通貨別の流入・流出、流動性バッファー、担保、調達余力を管理する。 外貨余剰を円換算しただけで、外貨支払能力があるとは限らない。
資産・負債の通貨不一致と、将来受払の為替感応を把握する。 換算差額と実際の資金不足を区別する。
一通貨で調達し別通貨へ交換する場合、金利差だけでなくベーシス、ロール、担保、決済、相手方集中を評価する。
ベーシス・リスクとは、同じ期間または通貨であっても、資産と負債が参照する金利指標や金利改定規則が異なり、 その差が変動するリスクである。例えば、貸出金利がTIBORに連動し、ヘッジがTONAを参照する OIS(Overnight Index Swap:翌日物金利を参照する金利スワップ)に連動する場合、TIBORとTONAの差が動けば、期間が揃っていても受払は完全には相殺されない。
| 区分 | 主なデータ | 主な計測・統制 |
|---|---|---|
| 通貨 | 取引通貨、元本通貨、決済通貨、担保通貨、報告通貨 | 通貨別残高・キャッシュフローと換算後合計を併存させる。 |
| 金利指標 | 参照指標、テナー、スプレッド、リセットラグ、フォールバック | 指標別ギャップ、ベーシス感応、指標変更時の契約処理を管理する。 |
| 曲線 | 予測曲線、割引曲線、FTP曲線、通貨・担保別曲線 | 用途ごとの曲線を区別し、市場データ日・構築方法・版を保存する。 |
| 為替 | 直物、フォワード、換算レート、シナリオ、決済日 | 経済的ポジション、会計換算、実際の資金受払を分ける。 |
銀行商品のキャッシュフローは、契約書だけでは確定しないことが多い。 顧客は金利、経済環境、資金需要、競合商品、デジタルチャネル等に応じて、預金を移す、貸出を期限前返済する、定期預金を中途解約する、 コミットメントを実行する。こうした行動オプション性を重要性に応じて反映する。
| 対象 | 契約上の姿 | 行動上の論点 | 主な影響 |
|---|---|---|---|
| 流動性預金 | 要求に応じて払い戻す。 | 残高の安定部分、減衰、金利追随、他商品への移替。 | 満期、デュレーション、NII、EVE、流動性。 |
| 固定金利貸出 | 契約返済日まで固定金利。 | 金利低下時の期限前返済、借換え、繰上返済手数料。 | 資産期間の短期化、再投資利回り低下。 |
| 定期預金 | 満期まで固定条件。 | 早期解約、満期更新、更新後テナー・金利。 | 調達期間、費用、資金流出。 |
| コミットメント | 条件内で将来実行可能。 | 実行率、信用状態・市場環境との連動、取消可能性。 | 貸出残高、資金需要、流動性、収益。 |
| 有価証券・調達 | 発行条件どおりに利払・償還。 | 発行体コール、投資家プット、償還延期、期限前償還。 | 期間、価値、再投資・再調達。 |
NMDはNon-Maturity Deposits(満期の定めがない預金)の略で、普通預金・当座預金等が代表例である。 このうち、預金者が随時払い出せるにもかかわらず、実績上一定期間滞留すると見込む部分をコア預金として扱う場合がある。 定義、残高上限、満期配分、金利追随の仮定によって金利リスク量が大きく変わるため、過去データだけで機械的に決めない。
目的、対象セグメント、説明変数、推計期間、外れ値、構造変化、保守性、限界を文書化する。
理論、データ、実装、感応度、バックテスト、ベンチマーク、限界を開発者から独立した立場で確認する。
実績との差、顧客構成、商品条件、金利環境、チャネル変化を監視し、再推計・再承認の条件を定める。
内部NII、内部EVE、監督上のIRRBB、流動性、FTPで用いる仮定を区別し、差異理由を説明できるようにする。
ALMでは、資産・負債の構成変更に加え、金利スワップ、先物、債券、外国為替スワップ、通貨スワップ等を用いて、 金利、通貨、資金調達のミスマッチを調整する。ただし、ヘッジは一つの指標だけを改善するものではなく、収益、経済価値、流動性、会計、担保、相手方リスクへ影響する。
| アクション | 主な目的 | 同時に確認する事項 |
|---|---|---|
| 固定受け・変動払いの金利スワップ | 固定金利運用を経済的に増やす、または変動金利負債とのミスマッチを調整する。 | NII、EVE、ベーシス、CSA(Credit Support Annex:担保授受に関する契約文書)に基づく担保、中央清算、相手方、会計ヘッジ。 |
| 固定払い・変動受けの金利スワップ | 固定金利資産の金利上昇リスクを抑える。 | 金利低下時の機会損失、預金金利追随、解約・期限前返済。 |
| 有価証券の売却・入替え | デュレーション短縮、流動性確保、利回り・信用構成の変更。 | 実現損益、会計区分、税、売却可能性、再投資、資本への影響。 |
| 長期調達・預金施策 | 資金調達期間の延長、通貨不足の解消、調達集中の低減。 | 調達費用、商品金利、顧客行動、担保、発行余力、FTP。 |
| 外国為替・通貨スワップ | 通貨別資金不足、為替・金利ミスマッチを調整する。 | ベーシス、満期ロール、担保通貨、決済、相手方、市場閉鎖。 |
経済的な金利・為替・流動性リスクを減らす目的で行う。ALM上の感応度やキャッシュフローが相殺されるかを重視する。
会計上の要件を満たすヘッジ関係について、ヘッジ手段と対象の損益認識時期の不一致を調整する。 経済的に有効でも会計要件を満たさない場合や、その逆の管理差があり得る。
ALMは基準日のリスク計測だけでなく、将来の事業計画と市場環境を結び付ける。 残高、商品金利、新規取引、満期更新、資金調達、ヘッジ、経費・信用コスト等の計画を整合させ、 基準シナリオ、代替シナリオ、厳しいが起こり得るストレスで収益・価値・流動性・資本を評価する。
一つの変数を動かし、金利+0.25%、預金金利追随率+10%等の影響を確認する。要因理解に向く。
金利曲線、残高、顧客行動、信用、調達市場等を整合的な物語として同時に変化させる。
重大な損失・資金不足を生む厳しい状況を想定し、限度・資本・流動性と経営対応の実行可能性を確認する。
| 要素 | 代表例 | 主な影響経路 |
|---|---|---|
| 金利 | 平行上昇・低下、短期先行、長期先行、スティープ化(長短金利差の拡大)、フラット化(長短金利差の縮小) | 貸出・預金金利、債券価格、再投資、調達費用、NII、EVE。 |
| 顧客行動 | 預金流出、普通から定期への移替、期限前返済、未使用枠実行 | 残高、金利追随、資金需要、キャッシュフロー時期。 |
| 市場流動性 | 無担保調達停止、レポ掛目上昇、資産売却価格下落、ヘッジ困難 | 調達余力、担保需要、実現損失、CFP発動。 |
| 信用・評判 | 格下げ、信用スプレッド上昇、預金流出、担保追加差入 | 調達費用、流動性、評価、相手方制限。 |
| 事業計画 | 貸出成長鈍化、預金減少、証券運用増加、調達長期化 | 収益、期間構造、リスク量、資本、流動性。 |
FTPはFunds Transfer Pricing(行内の資金移転価格)の略である。 顧客部門が行った貸出・預金等について、資金の調達費用・運用便益、期間、通貨、流動性、オプション等を内部価格として付与し、 顧客取引の採算と銀行全体の金利・流動性リスクを分けて管理する仕組みである。
顧客から得る貸出金利から、同じ通貨・期間の資金コスト、流動性プレミアム、オプション費用等を控除し、 さらに信用コスト・経費を考慮して顧客取引の採算を評価する。
預金が銀行全体へ提供する資金価値をFTPクレジットとして付与し、顧客へ支払う預金金利や業務コストとの差から、 預金部門の貢献を評価する。
| 要素 | 主な内容 | 統制上の論点 |
|---|---|---|
| 基準曲線 | 通貨・期間別の無リスクまたは調達基準となる曲線 | 市場データ、構築方法、適用日、例外を版管理する。 |
| 期間対応 | 契約満期、金利更改、行動満期、償還スケジュール | 一律の短期FTPで長期資産を評価しない。 |
| 流動性 | 安定調達コスト、流動性バッファー費用、偶発流動性 | 費用だけでなく、安定預金等が提供する便益も一貫して配分する。 |
| オプション | 期限前返済、早期解約、未使用枠、金利フロア等 | 商品特性に応じた費用を価格と採算へ反映する。 |
| 責任分離 | 顧客スプレッド、信用コスト、資金・金利リスク | 顧客部門とALM・財務部門の管理責任を明確にする。 |
ALM指標は計算するだけでは意味を持たない。経営方針とリスクアペタイトに沿って限度・警戒水準・目標を設定し、 実績、予測、ストレス結果を定期的に比較する。超過または悪化の兆候がある場合は、原因、影響、対応策、責任者、期限を明確にしてエスカレーションする。
| 領域 | 代表的な指標 | 悪化時の主な確認・対応 |
|---|---|---|
| 期間収益 | NII、NII感応度、預貸金利鞘、金利追随率、予算差 | 商品金利、残高計画、預金移替、再投資、ヘッジ、FTPを見直す。 |
| 経済価値 | EVE、ΔEVE、期間別感応度、デュレーション、通貨別金利リスク | 有価証券期間、固定・変動構成、スワップ、行動仮定、資本余力を確認する。 |
| 流動性 | 期間別資金ギャップ、生存期間、バッファー、担保余力、LCR | 追加調達、資産売却、担保確保、預金施策、CFP発動可能性を評価する。 |
| 安定調達 | 調達期間、調達先集中、預金構成、無担保・担保付比率、NSFR | 長期調達、通貨別調達、顧客・市場分散、資産成長計画を見直す。 |
| 市場・通貨 | 為替ポジション、指標別ギャップ、クロスカレンシー調達、担保需要 | ヘッジ、通貨スワップ、期間ロール、相手方・市場容量を確認する。 |
| モデル・データ | バックテスト差、未分類残高、データ欠損、手修正、処理遅延 | 保守的代替、再処理、モデル再検証、データ是正、利用制限を行う。 |
超えてはならない、または超過時に正式な承認・是正を要する境界である。例外承認を常態化させない。
限度へ達する前に分析・報告・予防措置を始める境界である。先行指標や予測値にも設定する。
経営として目指す収益・構成・余力の水準である。規制最低水準や限度と同じ値にしない。
ALMは、銀行会計、リスク管理、規制報告、経営計画の間に位置する。 会計残高を出発点としながら、将来キャッシュフロー、行動仮定、市場シナリオ、経営計画を加えて内部管理指標を作る。 同じ貸出・預金・債券・デリバティブでも、目的ごとに対象範囲と計算方法が異なる。
| 領域 | 主な目的 | 主な基準・結果 | ALMとの関係 |
|---|---|---|---|
| 財務会計 | 財政状態・経営成績を外部報告する。 | 簿価、時価、利息、評価損益、財務諸表。 | 基準残高・実績損益を提供する。ALMの経済価値・行動満期とは一致しない場合がある。 |
| ALM | 収益・価値・流動性・調達を横断してバランスシートを運営する。 | NII、EVE、ギャップ、流動性余力、FTP、シナリオ。 | 経営判断のため、会計・リスク・計画を結ぶ。 |
| 市場リスク管理 | 金利、為替、株価等の変動による価値・収益の損失を管理する。 | 感応度、VaR(Value at Risk:一定の確率水準で想定する損失額)、ストレス、限度等。 | ALMの金利・通貨リスクと重なるが、トレーディングを含む範囲や日次管理が異なり得る。 |
| IRRBB | 銀行勘定に内在する金利リスクを識別・計測・監視・管理する。 | 監督上のΔEVE、将来収益への影響、行動仮定、開示等。 | ALMの主要領域であるが、監督上のシナリオ・計算要件を別管理する。 |
| 流動性リスク管理 | 支払義務を履行し、調達困難・不利な資産売却を避ける。 | 資金繰り、流動性バッファー、ストレス、CFP、通貨別管理。 | ALMの資金調達・流動性視点を、日中・危機対応まで深掘りする。 |
| 流動性規制 | 短期流動性と中長期の安定調達を客観的基準で確保する。 | LCR、NSFR、告示上の区分・係数。 | 内部ALM結果と並行管理し、規制固有の範囲・仮定へ変換する。 |
| 資本・統合リスク管理 | 銀行全体のリスクを資本・収益・戦略と整合させる。 | リスク資本、自己資本、ストレス損失、リスク調整後収益。 | ALM施策が資本・他リスクへ与える影響を受け渡す。 |
ALMシステムでは、会計残高の集計値だけでなく、契約条件、金利更改、キャッシュフロー、顧客行動、通貨、担保、調達、計画、 市場データ、モデル・シナリオを再現可能な形で管理する。基準日、処理時点、適用版を明示し、同じ入力と版から同じ結果を再計算できることが基本となる。
| 領域 | 主な項目 | 設計上の着眼点 |
|---|---|---|
| 組織・範囲 | 連結・単体、法人、拠点、部門、ブック、内部取引、法域、報告通貨 | 会計連結、規制連結、ALM管理範囲、資金移動可能性を別属性にする。 |
| 契約・商品 | 契約ID、商品、顧客、元本、通貨、約定・実行・満期、返済方式、ステータス | 元取引、変更、更新、部分返済、取消し、後続取引を追跡する。 |
| 金利条件 | 固定・変動、参照指標、スプレッド、次回更改日、リセット、フロア、キャップ、日数計算 | 支払日、金利決定日、金利更改日、適用期間を一つの日付へ集約しない。 |
| 残高・会計 | 元本、簿価、未収未払、時価、評価損益、引当、勘定科目、会計日 | 会計残高とALM残高の調整項目を保持し、GL(General Ledger:総勘定元帳)へ照合できるようにする。 |
| キャッシュフロー | 元本・利息・手数料、受払日、金額、通貨、契約・行動・計画区分、生成元 | 一契約から複数明細を生成し、生成ルール・仮定・シナリオへ紐付ける。 |
| 顧客行動 | セグメント、滞留率、減衰、期限前返済率、早期解約率、実行率、金利追随率 | 実績、モデル値、上書き、保守的代替を分け、適用範囲と有効期間を管理する。 |
| 市場・曲線 | 金利、為替、信用・流動性スプレッド、予測・割引・FTP曲線、ボラティリティ | 情報源、観測時刻、休業日、補間、構築方法、用途、品質状態、版を保存する。 |
| 流動性・担保 | 利用可能資産、担保設定、掛目、借入枠、調達先、決済口座、証拠金、処分制約 | 保有額ではなく、特定時点・通貨・法人で実際に利用できる額を判定する。 |
| デリバティブ・ヘッジ | 取引、レッグ、ネッティング、CSA、担保、清算、ヘッジ対象・手段、会計関係 | 経済的受払、担保流動性、会計ヘッジ、相手方を別々に追跡する。 |
| 計画・シナリオ | 残高計画、商品金利、新規・更新、調達・運用・ヘッジ計画、金利・行動・ストレス | 実績、基準計画、施策、代替・ストレスをシナリオIDで分離する。 |
| モデル・ルール | キャッシュフロー、行動モデル、割引、FTP、集計、限度、マッピングの版 | 適用開始・終了日、承認、検証、変更理由、旧版、ロールバックを管理する。 |
| 結果・証跡 | NII、EVE、ギャップ、流動性、FTP、限度、要因分解、手修正、承認、アクション | 集計結果だけでなく、入力スナップショット、中間計数、実行ID、判断記録を保存する。 |
取引日、実行日、受渡日、会計日、利払日、金利決定日、金利更改日、返済日、契約満期日、行動満期日、評価日、 市場データ日、シナリオ基準日、処理日時、承認日時を区別する。一つの「基準日」や「満期日」だけでは、再計算と差異分析ができない。
契約条件、元本、取引状態、顧客、通貨、実際の受払等である。更新責任を持つ業務システムを明確にする。
行動満期、予測キャッシュフロー、EVE、NII、FTP、限度使用等である。入力、モデル、シナリオ、実行IDへ紐付ける。
ALMは、預金、融資、有価証券、デリバティブ、市場、会計、顧客、担保、計画等の複数システムからデータを集める。 したがって、計算ロジックだけでなく、システム間データ連携の完全性、適時性、再処理、照合、データ系譜が結果の信頼性を左右する。
| 管理項目 | 主な内容 | 検証例 |
|---|---|---|
| 連携契約 | 送信元・受信先、データ責任者、項目定義、粒度、頻度、締切、再送条件 | 仕様変更時に送受信双方が同じ版を承認しているか。 |
| 識別 | 連携ID、ファイル・メッセージID、基準日、抽出時点、処理日、版 | 重複受信・欠落・順序逆転を検知できるか。 |
| 件数・金額 | 送信・受信・採用・除外・保留の件数、元本、簿価、通貨別金額 | 差異が許容範囲内か、除外理由を明細で説明できるか。 |
| 品質状態 | 正常、警告、エラー、保留、代替、手修正、再処理、確定 | エラーを正常値へ上書きせず、状態遷移と承認を残しているか。 |
| 再送・再処理 | 元実行、再送理由、対象範囲、再実行ID、取消し、差分・全件 | 同一データを二重計上せず、変更前後を比較できるか。 |
| データ系譜 | 元項目、変換、マッピング、計算、中間結果、集計、報告セル | 経営指標から元契約・市場データ・仮定へ遡れるか。 |
2026年8月15日基準の残高を、8月16日に計算し、8月17日に再処理する場合、残高基準日は変わらないが処理日時と実行版は変わる。 システム間データ連携では、業務上の基準日、元システム抽出時点、受信時刻、計算実行時刻、確定時刻を別々に保持する。 遡及訂正がある場合は「当時利用可能だった情報による結果」と「後日訂正後の結果」を区別する。
| 照合 | 確認すること | 代表的な差異 |
|---|---|---|
| 業務システム ↔ 会計 | 対象を揃えた元本、簿価、未収未払、通貨、法人、勘定。 | 計上時点、評価、引当、決算調整、未処理、科目マッピング。 |
| 会計 ↔ ALM入力 | 会計残高が網羅され、対象・除外・調整へ分類されていること。 | オフバランス追加、内部取引、ALM対象外、集計時点、手修正。 |
| 契約 ↔ キャッシュフロー | 元本収支、利息条件、残存元本、満期、通貨が整合すること。 | 金利更改、休日調整、期限前返済、端数、最終回、欠落。 |
| ALM ↔ 資金繰り | 短期の実際受払と予測キャッシュフローの差を説明できること。 | 決済時点、日中流動性、未確定取引、担保、予測更新頻度。 |
| ALM ↔ 規制 | 共通残高から、IRRBB・LCR・NSFR固有の変換差を説明できること。 | 範囲、シナリオ、行動仮定、期間帯、適格性、係数、相殺。 |
| 計算 ↔ ALCO資料 | 承認済み実行IDの結果だけが報告され、転記・集計が一致すること。 | 旧版使用、Excel補正、丸め、再処理未反映、報告マッピング。 |
一時的なデータ補正や経営シナリオの試算に表計算を使う場合でも、入力元、数式、版、作成者、確認者、承認、利用期限、最終システム結果との差を管理する。 手修正を恒久的なシステム間データ連携や計算ロジックの代替にせず、根本原因と恒久対応を追跡する。
金利リスクは重要な中心領域だが、それだけではない。 資産・負債構成、期間、通貨、資金調達、流動性、収益性、FTP、計画、ストレス、経営アクションまでを横断する。
一致しているとは限らない。貸借対照表は資産=負債+純資産として一致するが、満期、金利更改、通貨、金利指標、行動特性が異なれば、 NII、EVE、流動性のミスマッチが生じる。
ゼロとは限らない。期間帯内の実日付、金利追随、参照指標、カーブ形状、オプション、通貨、顧客行動が異なればリスクが残る。 ギャップは有用な一次指標だが、NII・EVE・ストレス分析と併用する。
必ずしもプラスではない。資産・負債の更改速度、預金金利追随、固定金利資産、有価証券評価、期限前返済、調達構成、ヘッジによって異なる。 NIIが増えてもEVEが減少し、流動性・信用コストが悪化する場合もある。
契約上の保守的な見方として必要な場面はあるが、内部NII・EVEでは実際の滞留と金利追随を捉えられない。 契約上の扱い、行動モデル、規制上の扱い、ストレス流出を目的別に保持する。
同じ方向とは限らない。NIIは一定期間の資金利益、EVEは将来全期間の現在価値を見る。 長期固定金利資産を増やすと当面の利息収益を固定できても、金利上昇時の経済価値感応が大きくなる場合がある。
共通データは再利用できるが、計算は目的別に分ける。 内部ALMと規制指標では対象範囲、キャッシュフロー、行動仮定、期間、適格性、係数、相殺が異なるためである。
完了ではない。ベーシス、担保・証拠金、相手方、中央清算、流動性、会計ヘッジ、ロール、市場容量等の新しいリスクを確認する。
商品・通貨・期間・オプション・流動性が重要であれば、平均金利だけでは採算とリスクの責任を適切に分けられない。 ただし、複雑化自体を目的にせず、重要性、説明可能性、運用負荷を踏まえて設計する。
対象を揃えた元本・簿価は照合すべきだが、オフバランス、行動仮定、計画、内部取引、連結範囲、経済価値等により差が生じる。 誤りか正当な調整かを、明細と調整表で説明する。
解決しない。契約条件、日付、通貨、金利指標、残高、顧客セグメント、履歴が不正確であれば、精緻なモデルほど誤った確信を与える。 データ品質、単純な基準計測、モデル検証を段階的に整備する。
規模・複雑性によるが、手作業が多い場合は、再現性、適時性、変更管理、属人性、誤転記、危機時の追加分析に限界がある。 まずシステム間データ連携、共通残高、キャッシュフロー、版管理、照合を整備し、判断に必要な手動分析との役割を分ける。