個別与信の管理
債務者・取引相手の返済能力、資金使途、返済財源、契約条件、担保・保証、格付、限度、早期警戒、回収方針を管理する。
債務者・取引相手の信用状態を、与信判断、格付、エクスポージャー、担保・保証、損失、自己資本へつなげる
信用リスクとは、信用供与先の財務状況の悪化、契約上の支払不履行、取引相手の破綻等により、 貸出・債券・デリバティブ・保証・コミットメント等の価値が減少または消失し、銀行が損失を被るリスクである。 本稿では、与信判断から契約、実行、モニタリング、条件変更、回収までの流れと、 債務者、取引、担保・保証、格付、損失、規制計測をどのように結び付けるかを整理する。
本稿は一般的な構造を示すものであり、個別銀行の審査基準、格付モデル、限度額、引当方針、非公開の管理手法を示すものではない。 実際の与信判断・算出・報告では、基準日時点の法令、告示、金融庁Q&A、監督指針、会計基準、契約条件、法的意見、内部規程を確認する必要がある。
信用リスクは、貸出先が返済できなくなる場合だけを指すものではない。 債券発行体の信用悪化、デリバティブ取引相手の破綻、保証履行に伴う求償不能、未使用融資枠の追加実行、決済相手の不履行等も含む。 現時点の残高だけでなく、将来増え得るエクスポージャー(損失にさらされる金額)も管理対象となる。
債務者・取引相手の返済能力、資金使途、返済財源、契約条件、担保・保証、格付、限度、早期警戒、回収方針を管理する。
全体を業種、企業グループ、国・地域、商品、格付、満期等へ集約し、集中、分散、格付遷移、損失見込みを確認する。
信用状態の悪化やデフォルトを早期に捉え、回収可能性、担保価値、将来キャッシュフロー等を踏まえて損失・引当を評価する。
規制上の対象範囲、エクスポージャー区分、信用リスク削減、計測手法に従い、信用リスク・アセットを算出する。
信用リスク管理は、審査時の一回限りの判定ではない。 新規取引の検討前から完済・契約終了・回収完了まで、同じ債務者・取引・担保・保証を継続して追跡する。
| 商品・取引 | 主な信用リスク | 主な判定・管理単位 |
|---|---|---|
| 貸出・当座貸越 | 元本・利息の不履行、追加実行、条件変更、回収不足。 | 債務者、企業グループ、ファシリティ(融資枠・信用供与枠)、契約、返済予定、担保・保証。 |
| コミットメント・保証・信用状 | 未使用枠の実行、保証履行、求償債権の回収不能。 | 枠、利用者、受益者、保証先、取消可否、契約期限、未使用額。 |
| 債券・CP(Commercial Paper、コマーシャル・ペーパー) | 発行体の信用悪化、利払・償還不履行、スプレッド拡大、回収不足。 | 発行体、銘柄、順位、残高、満期、格付、保有口座。 |
| デリバティブ | 正の時価等を有する取引で相手方が履行できないこと、将来時価が拡大すること。 | 相手方、法的ネッティング・セット(法的に有効な相殺を認識する取引集合)、担保契約、個別取引、満期。 |
| レポ・証券貸借 | 相手方不履行、担保価格下落、マージン不足、決済・換価リスク。 | 相手方、取引、ネッティング・セット、担保プール、値洗い、ヘアカット(価格変動等を考慮して担保価値を減額する率)、清算日。 |
| 決済取引 | 資金または証券を先に引き渡した後、反対給付を受けられないこと。 | 相手方、通貨・証券、決済システム、決済日、支払・受取状態。 |
| 証券化・ファンド | 原資産の信用悪化、優先劣後構造、スポンサー・保証者等への依存、情報不足。 | 保有持分、原資産、トランシェ、関係者、信用補完、ルック・スルー(保有持分を通じて裏付資産を確認する方法)情報。 |
商品名だけで信用リスクを決めてはならない。例えば債券には発行体信用リスクと市場価格変動リスクがあり、 デリバティブには市場リスク、カウンターパーティ信用リスク、CVAリスク(取引相手の信用力を反映する評価調整の変動リスク)がある。 一つの取引を複数のリスク管理へ関連付ける。
債務者は契約上返済義務を負う者、取引相手はデリバティブ・レポ・決済等の相手方である。 保証者、担保提供者、発行体、参照先、親会社・子会社、実質的支配者も信用リスクへ影響する。 顧客番号だけでなく、法的主体を識別する番号、企業グループ、経済的相互依存関係を管理する。
契約、権利義務、倒産手続、相殺、担保・保証の有効性を判断する基本単位である。
資本関係、支配関係、共通経営、保証関係等を踏まえ、グループ全体の財務・与信を把握する。
主要な収入源、返済原資、顧客、資金提供者等を共有し、一方の不芳が他方の支払能力へ波及する関係を把握する。
借手、保証者、担保提供者、スポンサー、運用者、プロテクション提供者(信用損失の補償を提供する者)等を役割別に持ち、同一主体を横断集約する。
融資、証券、市場取引、貿易金融、保証、決済の各システムが別々の顧客番号を持つ場合、 同じ法的主体へのエクスポージャーが分断される。主体マスターで名寄せし、元システムの顧客番号を別名IDとして保持する。 統合の根拠、適用開始日、履歴、統合・分割の承認を保存する。
信用格付は、債務者または個別取引の信用リスクを段階へ分類する仕組みである。 債務者格付は主として債務者の支払能力を、案件・債権格付は担保、保証、弁済順位、契約条件等を含む個別取引の損失特性を表す。 リテール取引では、似た特性を持つ多数の債権をプール単位で管理することがある。
| 区分軸 | 主な目的 | 主な判定材料 | 結果の使い道 |
|---|---|---|---|
| 内部信用格付 | 信用力を相対的・定量的に管理する。 | 財務、定性情報、返済能力、業界、モデル、専門判断。 | 審査、金利、限度、モニタリング、資本配賦、リスク計量。 |
| 外部格付 | 外部格付機関による信用評価を参照する。 | 格付機関、債務者・債務、長期・短期、有効日、依頼・非依頼。 | 投資判断、限度、規制上認められる場合のリスク・ウェイト判定等。 |
| 自己査定上の債務者区分 | 資産の健全性、回収可能性、償却・引当を評価する。 | 財務、返済状況、経営改善計画、実態、担保・保証等。 | 資産査定、不良債権管理、償却・引当。 |
| 規制上のエクスポージャー区分 | 自己資本比率規制の計測区分を決める。 | 相手先属性、商品、担保、不動産、規模、用途、延滞、適用手法等。 | リスク・ウェイト、デフォルト確率・デフォルト時損失率・デフォルト時エクスポージャー、信用リスク・アセット。 |
| 会計上の引当・減損区分 | 財務諸表へ信用損失を反映する。 | 適用会計基準、信用状態、将来キャッシュフロー、担保、シナリオ等。 | 貸倒引当金、減損損失、財務報告。 |
デフォルト(債務不履行またはそれに準ずる信用事象)は、単に破産した場合だけではない。 延滞、返済可能性の著しい低下、重大な経済的損失を伴う売却、限度超過、条件変更等が関係することがある。 ただし、契約上、内部管理上、自己資本比率規制上、会計上の定義・判定単位・解除条件は同一とは限らない。
| 管理項目 | 主な内容 | システム上の注意 |
|---|---|---|
| デフォルト事由 | 延滞、法的整理、回収不能見込み、重大な経済損失を伴う売却、規制上の所定事由等。 | 事由コード、発生日、認識日、根拠、対象債務者・取引を保存する。 |
| 伝播範囲 | 一取引の事由を同じ債務者の他取引へ及ぼすか、リテールは取引単位とするか等。 | 主体、商品、規制、ポートフォリオごとの伝播ルールを版管理する。 |
| 解除・再デフォルト | 正常化要件、観察期間、再度の信用事象。 | 単純なフラグ解除にせず、事由、期間、承認、履歴を残す。 |
| 損失・回収実績 | 回収額、担保処分、保証履行、費用、回収期間。 | デフォルト時損失率等の推計・検証へ戻せる粒度で保存する。 |
デフォルトを認識してから対応するだけでは遅い。入出金減少、延滞兆候、限度超過、財務悪化、格下げ、株価・社債価格の急変、 コベナンツ違反、担保価値低下、監査意見、経営者交代、訴訟、災害、取引先喪失等を早期警戒指標として管理する。
エクスポージャーとは、信用事象が生じたときに損失へさらされる金額またはポジションである。 会計残高と同じとは限らず、未使用枠、保証、デリバティブの将来変動、未決済取引、担保・相殺等を踏まえて測定する。 EAD(Exposure at Default、デフォルト時エクスポージャー)は、デフォルト時点で損失にさらされる金額を表す。
| 対象 | 残高だけでは不足する理由 | 追加して必要な情報 |
|---|---|---|
| 貸出 | 未収利息、未使用枠、返済予定、条件変更、担保等が影響する。 | 実行残高、未使用額、元利金、返済日、延滞、担保・保証。 |
| コミットメント | 現在の未使用額が将来実行される可能性がある。 | 枠、実行額、未使用額、取消可否、期限、利用条件、信用換算。 |
| 保証 | 貸借対照表に元本残高がなくても、履行時に支払義務が生じる。 | 保証額、受益者、被保証債務、期限、履行条件、求償先。 |
| デリバティブ | 時価が変動し、将来の正のエクスポージャーが拡大し得る。 | 再構築コスト、将来エクスポージャー、ネッティング、担保、証拠金。 |
| レポ等 | 受渡資産と受入担保の価格が別々に動き、換価までの時間もある。 | 取引額、担保価値、ヘアカット、マージン、通貨、満期、法的相殺。 |
自己資本比率規制の標準的手法では、一定のオフバランス取引について、想定元本額に取引種類ごとの掛目を乗じて与信相当額を求める。 この掛目をCCF(Credit Conversion Factor、信用換算率)と呼ぶことがある。 取消可能性、商品区分、契約条件等により取扱いが異なるため、未使用額へ一律の率を適用してはならない。
信用リスクを定量化する代表的な要素が、PD(Probability of Default、デフォルト確率)、 LGD(Loss Given Default、デフォルト時損失率)、EAD(Exposure at Default、デフォルト時エクスポージャー)である。 内部管理、引当、自己資本比率規制では、推計期間、景気の扱い、保守性、担保効果、デフォルト定義等が異なり得るため、 同じ略語でも用途と版を明示する。
| 要素 | 意味 | 主なデータ | 主な注意点 |
|---|---|---|---|
| PD | Probability of Default(デフォルト確率)。一定期間内にデフォルトする確率。 | 格付、財務・行動情報、デフォルト履歴、景気、モデル。 | 一年PDか期間累積PDか、長期平均か将来予測か、下限、デフォルト定義。 |
| LGD | Loss Given Default(デフォルト時損失率)。デフォルト時のエクスポージャーに対して最終的に失う割合。 | 回収額、担保処分、保証履行、回収費用、回収期間、割引。 | 担保・保証、順位、景気下降期、回収期間、直接・間接費用。 |
| EAD | Exposure at Default(デフォルト時エクスポージャー)。デフォルト時点で損失にさらされる金額。 | 実行残高、未使用枠、追加引出、利息、デリバティブ時価、相殺。 | オン・オフバランス、商品別換算、追加引出、ネッティング、担保。 |
EL(Expected Loss、期待損失)は、多数の与信を保有したときに平常的・平均的に見込まれる信用損失の考え方である。 内部格付手法における一定のエクスポージャーでは、次の基本構造を用いる。
実際の損失は期待損失どおりにはならず、景気悪化や集中により大きく上振れし得る。 この期待値を超える変動部分をUL(Unexpected Loss、予想外損失)として捉え、自己資本、限度、ストレステスト、価格設定等へ接続する。 期待損失を引当・価格へ、予想外損失を資本へ結び付ける考え方は有用であるが、規制上の期待損失額と適格引当金の取扱いは告示に従って別途計算する。
担保、保証、クレジット・デリバティブ、法的に有効なネッティング(複数債権債務を一定の単位で相殺する仕組み)は、 信用リスクを削減し得る。ただし、契約上存在することと、内部管理・会計・自己資本比率規制で効果を認識できることは同じではない。
| 手段 | 主な効果 | 主な確認事項 |
|---|---|---|
| 金融資産担保 | 換価して回収へ充当する。 | 担保種類、時価、評価日、ヘアカット、通貨、処分権限、分別管理、相関、法的有効性。 |
| 不動産・債権等の担保 | デフォルト後の回収額を高める。 | 権利順位、登記、担保範囲、再評価、換価期間、費用、先順位、環境・法的制約。 |
| 保証 | 債務者不履行時に保証者へ請求する。 | 保証範囲、期限、無条件性、取消可否、保証者信用力、強制執行、通貨・期間ミスマッチ。 |
| クレジット・デリバティブ | 参照先の信用事象に対する損失補償を得る。 | 参照債務、信用事由、決済、満期、プロテクション提供者、ベーシス、法的有効性、費用。 |
| ネッティング | 一定の条件下で総額エクスポージャーを純額化する。 | 法的ネッティング単位、対象取引、法域、倒産時有効性、契約版、法的意見、担保契約。 |
規制上の信用リスク削減効果は、適格性、法的有効性、残存期間・通貨ミスマッチ、ボラティリティ調整、保証者への置換等の要件に従う。 名目的に保証が付いていても、費用が過大、損失認識を遅らせる、実質的なリスク移転がない等の場合は、経済効果と規制取扱いを慎重に確認する。
個別与信がそれぞれ妥当でも、同じ企業グループ、業種、地域、商品、担保、返済原資へ集中すると、共通の事象で損失が同時に発生する。 限度管理は、単一債務者だけでなく、接続先とポートフォリオの両方で行う。
債務者、企業グループ、経済的相互依存先への貸出、債券、デリバティブ、保証、決済等を横断集約する。
景気、金利、商品価格、災害、地政学等の共通要因へさらされるセクターを定義し、残高・リスク量を管理する。
不動産向け、レバレッジド・ファイナンス、特定保証者、同種担保、同一証券化スポンサー等への偏りを把握する。
事前承認、一時超過、期限、削減計画、責任者、エスカレーションを管理し、恒常的な例外を放置しない。
貸出残高だけを限度使用額とすると、未使用枠、保証、債券、デリバティブ、レポ、決済、同一グループの他社取引が抜ける。 商品ごとに異なるエクスポージャーを比較可能な尺度へ変換し、グロス・ネット、担保前・担保後、現在・将来・ストレス時を区別して集約する。
| 限度軸 | 主な集約対象 | 主な確認 |
|---|---|---|
| 承認額 | ファシリティ限度、債券保有限度、相手方取引限度等。 | 承認主体、通貨、期間、有効日、商品範囲。 |
| 現在エクスポージャー | 実行残高、時価、未収、保証履行見込等。 | 基準日、担保前後、相殺前後、換算相場。 |
| 潜在的将来エクスポージャー | 未使用枠、デリバティブ将来変動、証券金融取引等。 | 期間、モデル、シナリオ、追加引出、取引終了までの変動。 |
| ストレス時エクスポージャー | 格下げ、担保下落、相関上昇、証拠金、換価遅延等を反映。 | シナリオ、前提、二次影響、限度との比較。 |
CCR(Counterparty Credit Risk、カウンターパーティ信用リスク)とは、デリバティブ、レポ、証券貸借等で、 取引の最終決済前に相手方がデフォルトし、取引を再構築する際に損失が生じるリスクである。 通常の貸出と異なり、エクスポージャーが市場価格の変動に応じて増減する点が重要である。
| 要素 | 意味 | 主な管理データ |
|---|---|---|
| 現在エクスポージャー | 相手方が現在デフォルトした場合の正の再構築コスト等。 | 時価、取引方向、ネッティング、受入・差入担保。 |
| 潜在的将来エクスポージャー | 市場変動により将来エクスポージャーが拡大する可能性。 | 商品、想定元本、満期、ボラティリティ、相関、モデル。 |
| ネッティング・セット | 法的に有効な相殺を認識する契約上の取引集合。 | 基本契約、法域、法的意見、対象取引、解約・一括清算条項。 |
| 担保・証拠金 | VM(Variation Margin、時価変動に応じて受け渡す変動証拠金)・IM(Initial Margin、将来損失に備える当初証拠金)等によりエクスポージャーを削減する一方、流動性需要も生む。 | CSA(Credit Support Annex、デリバティブ担保契約の付属文書)、閾値、最低移転額、担保種類、ヘアカット、マージンコール、紛争。 |
| 清算・決済 | 中央清算機関、清算参加者、決済期間、清算基金等の固有リスク。 | CCP(Central Counterparty、中央清算機関)区分、清算参加関係、トレード・エクスポージャー、清算基金、未決済。 |
WWR(Wrong-Way Risk、誤方向リスク)とは、相手方の信用力が悪化する局面で、同じ相手方へのエクスポージャーも増える関係をいう。 例えば、相手方自身または強く関連する資産を担保として受け入れている場合、相手方不芳時に担保価値も下がる可能性がある。 特定の相関だけでなく、業種、国、資金調達、担保、市場流動性を含むストレスで確認する。
カントリーリスクは、国際的な与信・投資において、取引先の母国の経済・社会・政治的環境により損失が生じるリスクである。 トランスファーリスク(債務者に現地通貨の支払能力があっても、外貨不足や送金規制により外貨へ交換・送金できないリスク)を含む。
登記国だけでなく、実質事業、収益源、保証者、担保所在地、最終リスク所在国、決済・送金経路を把握する。
国別・地域別の格付、限度、残高、未使用枠、投資、保証、貿易金融、市場取引を集約する。
外貨準備、対外債務、政治・社会情勢、制裁、資本規制、法制度、金融市場、自然災害等を確認する。
送金停止、通貨急落、国債・銀行不芳、担保換価不能等を想定し、限度縮小、追加保全、引当、撤退方針を検討する。
平常時の格付・PD・担保価値だけでは、景気後退や市場混乱時の損失集中を捉えにくい。 ストレステストでは、マクロ経済、市場、業種、地域、相手方、担保、資金・流動性の悪化が信用リスクへどう伝わるかを評価する。
| ストレス | 信用リスクへの伝播 | 主な結果 |
|---|---|---|
| 景気後退 | 売上・利益・雇用・所得が減少し、格下げ・デフォルトが増える。 | PD上昇、格付遷移、期待損失・信用リスク・アセット増加。 |
| 金利上昇 | 利払い負担が増え、変動金利借手や不動産案件の返済余力が低下する。 | 債務返済比率悪化、条件変更、担保価値低下、デフォルト増加。 |
| 資産価格下落 | 不動産・株式・債券等の担保価値が低下し、回収不足が拡大する。 | LGD上昇、追加担保、マージンコール、担保集中の顕在化。 |
| 為替・商品価格急変 | 外貨債務、輸入コスト、資源関連収益が悪化する。 | 借手のキャッシュフロー悪化、カントリー・業種集中損失。 |
| 市場流動性低下 | デリバティブ・レポの終了コストと担保換価期間が増える。 | CCR・将来エクスポージャー増加、担保不足、誤方向リスク。 |
信用状態が悪化した債権は、内部の早期警戒・格付見直し、自己査定、会計上の引当・減損、 金融再生法開示債権、自己資本比率規制上のデフォルト・延滞エクスポージャー等へ影響し得る。 ただし、各制度の目的、定義、判定単位、基準日、解除条件は同じではない。
| 管理・制度 | 主な目的 | 主な結果 | 連携上の注意 |
|---|---|---|---|
| 早期警戒・問題先管理 | 信用悪化を早く検知し、損失の発生・拡大を抑える。 | 監視強化、取組方針、限度見直し、条件変更、支援・回収。 | 会計・規制より早く管理対象となることがある。 |
| 自己査定 | 資産の回収可能性と健全性を評価する。 | 債務者区分、分類、担保・保証による保全、償却・引当。 | 内部格付との対応関係を定義するが、同一コードにしない。 |
| 会計上の引当・減損 | 適用会計基準に従い、信用損失を財務諸表へ反映する。 | 貸倒引当金、減損、損益、注記。 | 使用する将来情報、シナリオ、割引、範囲を明示する。 |
| 自己資本比率規制 | 信用リスクに対応する自己資本の充実度を測る。 | デフォルト判定、リスク・ウェイト、期待損失、適格引当金、信用リスク・アセット。 | 規制上の定義・適用手法・基準日に従う。 |
自己資本比率規制では、信用リスクに係るエクスポージャーを所定の区分・手法で測定し、信用リスク・アセット(RWA)を算出する。 日本の銀行向け告示では、第6章に標準的手法、第7章に内部格付手法が置かれ、証券化、CVA、中央清算機関関連等には別章の取扱いがある。
オフバランス取引は、まず想定元本額へ所定の掛目を適用して与信相当額を求める。 デリバティブ、証券金融取引、証券化、ファンド等は、それぞれの規定に従うため、すべてを上の一行式だけで処理できるわけではない。
| 観点 | 標準的手法 | 内部格付手法 |
|---|---|---|
| 基本構造 | 告示上のエクスポージャー区分と所定のリスク・ウェイト等を適用する。 | 当局承認の下、内部格付とPD等のパラメータを規制式へ用いる。 |
| 主な入力 | 相手先属性、外部格付、商品、用途、不動産、延滞、担保・保証、オフバランス区分等。 | 債務者・案件格付、PD、LGD、EAD、満期、デフォルト・回収実績、担保・保証等。 |
| 内部モデルの役割 | 規制リスク・ウェイトは所定値だが、内部審査・限度・価格には内部格付等を用いる。 | 内部推計値を規制計測へ用いるため、最低要件、利用実績、独立検証、監査、データ履歴が必要となる。 |
| 信用リスク削減 | 適格担保、保証、クレジット・デリバティブ、ネッティング等を所定の方法で反映する。 | 基礎的・先進的手法、対象アセットクラス等に応じ、LGD・EADまたは保証者置換等へ反映する。 |
| データ・統制 | 区分判定、外部格付選択、適格性、掛目、リスク・ウェイト、ルック・スルー等の証跡が必要。 | 格付履歴、モデル、PD・LGD・EAD推計・実績、デフォルト・回収、検証、承認、変更管理が必要。 |
内部格付手法には、対象エクスポージャーに応じて、基礎的内部格付手法と先進的内部格付手法がある。 概念的には、基礎的手法では銀行が主にPDを推計し、LGD等には規制上の値を用いる領域があり、 先進的手法では要件を満たす範囲でLGD・EADも自行推計する。対象区分、パラメータ下限、適用除外等は現行告示を確認する。
ユーステストとは、格付・推計値が規制計算専用ではなく、実際の内部管理へ利用されていることを確認する考え方である。 規制計算のためだけに格付・PD等を作るのではなく、与信審査、リスク管理、内部資本配賦、内部統制で重要な役割を持つことが求められる。 規制用と内部管理用の推計値が異なる場合は、その差異と理由を明示する。 開発、利用、独立検証、監査の役割を分け、モデル変更・例外・オーバーライド(モデル等の結果を専門判断で変更すること)を統制する。
信用リスクシステムでは、最終的な格付、期待損失、限度使用率、信用リスク・アセットだけを保持しても再現できない。 主体、契約、残高、担保・保証、信用状態、モデル、ルール、承認、計算過程を基準日時点で結び付ける。
| データ領域 | 主な項目 | 主な粒度・履歴 |
|---|---|---|
| 主体・関係 | 法的主体ID、顧客番号、企業グループ、支配関係、経済的相互依存、業種、国、役割。 | 主体・関係ごとの有効開始・終了日、根拠、承認。 |
| ファシリティ・契約 | 枠、契約、商品、通貨、元本、未使用額、金利、満期、返済、取消可否、コベナンツ。 | ファシリティ、契約、元本部分、キャッシュフロー、条件変更履歴。 |
| 残高・エクスポージャー | 帳簿価額、時価、未収、実行・未使用、想定元本、与信相当額、EAD、担保前後、相殺前後。 | 取引・ネッティング・セット・相手方・基準日・計算回。 |
| 格付・信用状態 | 内部・外部格付、モデル、付与日、有効日、見直日、延滞、警戒、デフォルト事由、解除。 | 債務者、案件、プール、格付履歴、オーバーライド。 |
| 担保・保証 | 担保・保証ID、種類、提供者、受益者、対象債権、順位、時価、評価日、ヘアカット、法的有効性。 | 担保明細、配賦、契約、法的意見、再評価、解除・差替え。 |
| 損失・回収 | デフォルト時残高、回収額、担保処分、保証履行、回収費用、期間、償却、引当。 | デフォルト事象、回収キャッシュフロー、最終クローズまでの履歴。 |
| 限度・承認 | 限度種類、対象、額、通貨、期間、使用額、超過、例外、決裁者、削減計画。 | 個社、グループ、業種、国、商品、担保、計算回。 |
| モデル・パラメータ | モデルID・版、PD、LGD、EAD、相関、シナリオ、適用範囲、検証、調整、承認。 | 推計値・実績値、モデル版、有効日、実行ID。 |
| 規制・会計判定 | 適用基準、エクスポージャー区分、手法、リスク・ウェイト、CCF、適格性、自己査定・引当結果。 | 目的別判定、ルール版、基準日、理由、例外、承認。 |
信用状態には格付、警戒、延滞、デフォルト、自己査定、会計、規制等があり、金額には帳簿価額、時価、未使用額、 担保前後、相殺前後、現在・将来・ストレス時、EAD等がある。 項目名だけで意味を推測させず、測定目的、単位、通貨、基準日、計算方式、ルール版を付ける。
信用リスクは、顧客・融資・証券・デリバティブ・担保・決済・会計・自己査定・規制報告等の複数システムにまたがる。 システム間データ連携では、ファイルを受け渡すだけでなく、同じ主体・契約・担保・基準日・ルール版へ結び付いたことを検証する。
| 連携元 | 主な連携データ | 主な利用先 | 主な照合キー・統制 |
|---|---|---|---|
| 顧客・主体管理 | 法的主体、顧客番号、企業グループ、業種、国、関係者。 | 審査、限度、格付、与信集約、規制計算。 | 主体ID、元顧客ID、有効日、名寄せ根拠、重複・未紐付。 |
| 融資・保証・貿易金融 | 契約、実行残高、未使用枠、返済、延滞、保証、信用状。 | 与信管理、EAD、限度、自己査定、引当、規制。 | 契約ID、ファシリティID、主体ID、残高・件数・通貨照合。 |
| 証券・市場取引 | 債券、デリバティブ、レポ、時価、ネッティング、担保、決済。 | 発行体・相手方与信、CCR、限度、規制計算。 | 取引ID、銘柄ID、相手方ID、ネッティング・セット、時価基準。 |
| 担保・保証管理 | 担保、評価、順位、配賦、保証範囲、法的有効性。 | 審査、LGD、保全、引当、信用リスク削減。 | 担保・保証ID、対象債権ID、配賦合計、重複利用、評価日。 |
| 格付・早期警戒 | 格付、モデル、財務、警戒事由、延滞、デフォルト、オーバーライド。 | 審査、価格、限度、引当、PD、規制、経営報告。 | 主体・案件・プール、付与日、有効日、モデル版、承認。 |
| 会計・自己査定 | 帳簿価額、勘定科目、引当、償却、債務者区分、分類。 | 信用リスク集計、自己資本比率、開示、照合。 | 契約・勘定・法人・基準日、残高差、対象範囲差、調整表。 |
| 規制計算・報告 | 区分、EAD、リスク・ウェイト、RWA、期待損失、適格引当金。 | 自己資本比率、当局報告、開示、経営管理。 | 計算実行ID、ルール版、報告セル、明細から集計までの系譜。 |
全残高・オフバランス・市場取引が対象、対象外、保留のいずれかに分類され、未取込・重複を説明できること。
主体、残高、格付、延滞、担保、保証、期間、換算、モデル、係数、リスク・ウェイトが承認済み条件と一致すること。
審査、限度、会計、自己査定、引当、内部管理、自己資本比率、開示・報告間の差額を説明できること。
基準日、元データ、名寄せ、モデル、ルール、手修正、承認、計算回から過去結果を再現できること。
顧客名寄せ、残高、格付、担保評価、デフォルト日、モデル、規制ルール等を訂正した場合、旧結果を消さず再処理回を追加する。 どの入力が変わり、限度使用、格付別残高、期待損失、引当、EAD、信用リスク・アセット、報告値がどの程度変わったかを追跡する。
そうではない。貸出に加え、債券、保証、コミットメント、デリバティブ、レポ、証券貸借、決済、証券化、ファンド等に信用リスクがある。 オンバランス残高だけでなく、オフバランスと将来増え得るエクスポージャーを含める。
必ずしも同じではない。標準的手法では規制上の相手先・商品・用途・不動産・外部格付・延滞等の区分を使う。 内部格付手法でも、アセットクラス、PD、LGD、EAD、満期、担保・保証等が影響する。
ゼロとは限らない。価格下落、先順位、換価費用・期間、法的有効性、通貨・期間ミスマッチ、担保と債務者の相関、処分制約がある。 規制上の効果も、適格性と所定の調整を満たす範囲に限られる。
それだけではない。適用する制度・商品に応じ、返済可能性、自己査定上の事由、重大な経済損失を伴う売却、限度超過等が関係する。 定義、判定単位、伝播、解除、再デフォルトを目的別に確認する。
必ずしもならない。PD × LGD × EADは信用リスク計量の基本構造であるが、会計上の引当は適用会計基準、対象期間、将来情報、 シナリオ、割引等に従う。規制上の期待損失額と適格引当金の比較にも独自のルールがある。
不十分である。将来の市場変動で正のエクスポージャーが拡大するため、潜在的将来エクスポージャー、ネッティング、担保、 マージン、誤方向リスク、終了コスト、ストレス時の市場流動性を併せて見る。
集中管理では合算が必要となる一方、契約、倒産手続、担保・保証、相殺、規制区分は法的主体単位で確認する。 法的主体とグループ集約を両方保持し、目的ごとに使い分ける。
不要ではない。標準的手法は規制計測の方式であり、健全な与信判断、価格、限度、早期警戒、ストレス、回収、ポートフォリオ管理には、 内部格付、デフォルト、回収、担保、集中等のデータが必要である。
不十分である。主体名寄せ、契約、残高、格付、担保・保証、デフォルト、区分、掛目、パラメータ、モデル、ルール、例外、再処理から、 最終値と報告セルまで追跡できる必要がある。