発行・利払・償還から、公開資料・取引画面・決済例外までを実務に沿って整理する

基準時点:2026年8月17日 / 作成:AddWisteria Lab
債券は、発行体が投資家から資金を調達し、契約条件に従って利子・元本を支払う金融商品である。 一見すると単純だが、システムでは発行条件、銘柄、利払スケジュール、価格・利回り、 経過利子、信用状態、繰上償還、決済、会計・規制属性まで管理する必要がある。
本ページは一般的な学習用の整理であり、個別銘柄の勧誘・投資判断を目的としない。 実際の発行条件、税務・会計・規制上の取扱い、取引・決済手順は、目論見書、発行要項、契約書、 各機関の最新規則・手続等で確認する。掲載する機関・銘柄は代表例であり、網羅的な一覧ではない。

1.債券とは何か

債券は、国、地方公共団体、企業、金融機関等が資金を調達するために発行し、 投資家に対して契約どおりの利子・元本を支払う有価証券である。 例えば国債は国が発行し、利子と元本の支払を行う。 社債は企業が事業資金等を調達するために発行する。

基本構造 発行体:資金を調達する
投資家:債券を保有し、利子・償還金を受ける
債券:発行体の支払義務と投資家の権利を表す
株式と違い、債券は原則として「会社の所有権」を表すものではない。 投資家は発行体に対する債権者として、契約条件に従う元利金請求権を持つ。

2.誰が登場するのか

役割 具体例 主な役割 システム上の注意
発行体 財務省(国債)、地方公共団体、国際協力機構(JICA)、企業、金融機関、外国法人等 債券を発行し、利子・元本等の支払義務を負う。 信用リスクの主体。保証者・特別目的会社(SPV)等が別に存在する場合は分離する。
引受会社・主幹事 証券会社等 発行条件の調整、需要調査、引受、販売等を行う。 発行体と販売・引受主体を混同しない。
投資家 銀行、保険会社、年金、投資信託、事業法人、個人等 債券を購入・保有し、売却または償還まで保有する。 自己勘定・顧客預り・信託勘定等の保有区分を持つ。
発行・支払代理人等 金融機関等 商品・制度に応じ、発行、利払、償還等の事務を担う。 全債券に同一ロールがあるわけではないため契約属性として管理。
振替・決済機関 日本銀行、証券保管振替機構(JASDEC)等 口座振替による権利移転・決済を処理する。 国債と一般債でインフラが異なる。

3.発行市場の流れ

債券が最初に発行されて投資家へ販売される市場を発行市場(プライマリー市場)という。 社債では、発行体と引受主幹事等が条件を調整し、需要調査等を経て発行条件を決定する。

発行体と主幹事・引受会社が発行条件を調整し、主幹事・引受会社が投資家へ債券を募集・販売する。投資家資金は主幹事・引受会社を通じて発行体の資金調達につながり、発行条件確定後は発行額、発行日、償還日、利率、利払日、通貨、劣後性、コール等を銘柄マスタへ反映する流れを示す。
図1 債券の発行市場の概念図。 発行条件確定前の参考条件と、確定した銘柄条件は版管理する方が安全である。

実務で照合する発行資料

銘柄マスタは、営業部門から届いた表計算ファイルだけで確定せず、法定開示書類、発行体の公表資料、 振替機関の銘柄情報と突き合わせる。仮条件から条件決定までに利率・発行額等が変わるため、 資料の版、取得日時、承認者、確定状態を残す。

資料・画面 主な確認項目 使い方と注意点
国債の入札発行通知・入札結果 名称・回号、表面利率、発行日、利払日、償還期限、発行予定額、入札方式、募入価格・利回り 財務省の発行通知で条件を確認し、入札結果と照合する。発行予定額と実際の発行額を混同しない。
有価証券届出書・発行登録追補書類・目論見書 発行条件、資金使途、保証・担保、劣後・期限前償還、引受、リスク情報 公募債等の法定開示は金融庁の電子開示システム(EDINET)で確認する。適用される書類は発行方式により異なる。
発行体の条件決定資料・発行要項 発行額、発行価格、利率、払込日、利払日、償還日、上場、格付、主幹事 対外公表された最終条件を基準にする。仮条件、訂正版、最終版を上書きせず版管理する。
証券保管振替機構の銘柄公示情報 銘柄名称、国際証券識別番号(ISIN)、払込日、償還期日、通貨、利率、オプション、発行・支払代理人 一般債の銘柄公示情報と社内マスタを照合する。公示の更新時刻と自社取込時刻も記録する。
社内の発行案件・銘柄登録画面 案件番号、暫定・確定区分、銘柄コード、ISIN、各日付、利率、承認状態、原資料へのリンク 入力者と承認者を分離し、確定後の手修正には理由・承認・変更前後値を残す。

4.利払・償還のキャッシュフロー

固定利付債では、通常、発行時に定めた表面利率(クーポンレート)に基づき定期的に利子が支払われ、 満期時に元本が償還される。 国債では、国庫短期証券を除く利付国債について半年ごとに利子が支払われる。

発行・取得 利払 利払 利払 満期 利子 利子 利子 利子+元本償還 システムでは各利払日・利率適用期間・営業日調整を持つ 変動利付・物価連動・コール付等ではキャッシュフローが固定でない場合がある
図2 固定利付債の単純化したキャッシュフロー。 実際には利払頻度、日数計算、休日調整、償還方式等を銘柄条件から生成する。

5.債券の主な種類

種類 主な特徴 システム上の重要項目
固定利付債 発行時に定めた利率に基づき利子を支払う。 表面利率、利払頻度、日数計算方式、利払予定。
変動利付債 基準金利等に応じて各利子計算期間の利率が変動する。 参照金利、上乗せ幅、利率決定日、下限金利等。
割引債 途中利払を行わず、額面を下回る価格で発行し、満期時に額面償還する。 発行価格、額面、償還日、利払なし。
物価連動債 物価指標に連動して元金額等が変化する。 参照物価指数、基準指数、連動係数、元本保証の下限、調整後元金。
コール付債 発行体が所定日以降に期限前償還できる。 期限前償還可能日、償還価格、通知期間、行使状態。
劣後債 一般債務より弁済順位が劣後する。 弁済順位、規制資本適格性、損失吸収条項、期限前償還等。
新株予約権付社債 社債に、所定の条件で発行会社の株式を取得できる新株予約権を組み合わせる。 社債条件、新株予約権数、行使期間、行使条件、転換価額、取得株式数、調整条項、行使状態。
仕組債 デリバティブにより利子・償還等へ条件分岐を組み込む。 参照資産、バリア、観測日、条件式、早期償還等。

現在の日本国債にも、固定利付国債、国庫短期証券、物価連動国債、個人向け国債等、 異なる商品性を持つ複数種類がある。 したがって「国債だから同じキャッシュフロー」と固定しない。

新株予約権付社債――債券と株式の接点

新株予約権付社債は、社債に新株予約権(あらかじめ定めた条件で発行会社の株式を取得できる権利)を付した商品である。 社債部分には利子・償還・信用リスクがあり、新株予約権部分には行使期間、転換価額(取得する株式数を決める基準価格)、 取得株式数、株式分割等に伴う調整条件がある。会社法上、社債部分と新株予約権部分は原則として分離して譲渡できない。

名称 位置付け 読み分け
新株予約権付社債 現在の会社法上の名称。社債と新株予約権を組み合わせた複合金融商品(複数の金融商品の性質を組み合わせた商品)である。 社債条件と新株予約権条件を別領域で管理し、一つの商品として関連付ける。
転換社債型新株予約権付社債(CB:社債を株式へ転換する仕組みを持つ債券) 新株予約権の行使時に、その社債を現物出資(金銭の代わりに社債を払い込むこと)して株式を取得する代表的な形態である。 権利行使により株式を取得し、対応する社債債務は消滅する。権利を行使しない場合は、社債条件に従って利払・償還へ進む。
新株引受権付社債 旧商法下の資料等で用いられる歴史的な名称である。 現在の商品区分へ名称だけで機械的に読み替えず、発行時の法令、分離譲渡の可否、行使時の払込方法等を原資料で確認する。

図3 新株予約権付社債の二つの構成要素と権利行使

債券としての元利金請求権と、株式を取得できる権利を一つの商品として管理する。

新株予約権付社債 一つの商品として発行・管理 社債部分 利子・償還元本 発行体の信用リスク 利率・満期・劣後性・コール 新株予約権部分 発行会社の株式を取得する権利 行使期間・転換価額・取得株式数 株式分割等に伴う調整条項 権利を行使しない 社債として存続 契約条件に従って利払・償還 新株予約権は期限到来等で消滅 CBで権利を行使 社債を現物出資 投資家は株式を取得 対応する社債債務は消滅 行使前の社債残高と潜在株式数、行使後の社債消滅と株式交付を連動管理する
転換社債型では、株価が転換価額を上回る方向に動けば株式取得の利益が期待できる一方、 株価低下、新株予約権の価値低下、発行体の信用悪化等のリスクがある。

投資家から見た性質

社債の利子・償還を受ける地位に加えて、株価上昇時に株式取得を選べる可能性がある。 ただし、同じ発行体の普通社債より利率が低い場合があり、信用リスクも残るため、株式取得の権利が無償の利益となるわけではない。

発行会社から見た性質

将来の株式転換可能性を組み込むことで資金調達条件を調整できる。 一方、権利行使時には発行済株式数や議決権割合が変化し、既存株主の持分割合が低下する希薄化が生じ得る。

金融システム担当者の観点: 社債残高、新株予約権数、潜在株式数(将来交付され得る株式数)を別々に持ち、 行使受付、行使条件確認、社債消滅、株式交付、端数処理、会計計上を一つの権利イベントとして関連付ける。 株式数・議決権割合・希薄化への影響は、株式の基本構造と併せて確認する。

実在する発行条件の例

次は、商品性と公開資料の読み方を確認するための代表例である。2026年8月14日時点の公表内容であり、 投資推奨、販売中の商品一覧、時価情報ではない。

実例 公表された主な条件 システムでの着眼点
10年利付国債(第383回) 発行体は日本国。表面利率は年2.7%、発行日は2026年7月3日、利払日は毎年6月20日・12月20日、償還期限は2036年6月20日。 回号、発行日、利払日、償還日を別項目で持つ。同じ「10年債」でも回号ごとに条件・識別番号・残存期間が異なる。
国際協力機構 第11回政府保証外債 米ドル建て10億ドル、表面利率は年4.375%、発行日は2026年5月28日、償還日は2031年5月28日、日本国政府保証付きのサステナビリティボンド。 発行体と保証者、通貨、上場先、格付、資金使途属性を分ける。「政府保証付き」と「国債」は同一ではない。

6.価格・クーポン・利回りの違い

クーポンレートは債券の額面に対して支払われる利子の割合であり、 流通市場で投資家が得る利回りとは同じではない。 最終利回りは、購入価格、表面利率、償還までの期間等によって変化する。

市場金利が上昇 既発債の固定クーポンの魅力が相対的に低下 債券価格が低下 同じ利子・元本を低い価格で購入 利回りが上昇 価格と利回りは一般に逆方向
図4 固定利付債の価格と利回りの基本関係。 一般に市場金利が上がると既発固定利付債の価格は下がり、利回りは上がる方向となる。

利回りは想定する償還日と計算条件で分ける

コール付債では、最終満期まで保有する前提の利回りと、期限前償還日に償還される前提の利回りが一致しない。 システムでは利回りの数値だけでなく、利回り種別、計算基準日、想定償還日、償還価格、使用したキャッシュフローを保持する。

利回り種別 前提 システム上の確認点
最終利回り(Yield to Maturity) 最終満期まで保有し、契約上の利子と満期償還元本を受け取る前提の利回り。 最終満期日、満期償還価格、利払予定を用いた値であることを明示する。
期限前償還利回り(Yield to Call) 特定のコール日に所定の価格で期限前償還されると仮定した利回り。 対象としたコール日・償還価格を保持し、実際の行使確定と分ける。
コール可能日は、実際の償還日でも予定満期でもない。 複数のコール可能日がある場合は、どの日付を前提に算定した利回りかを識別する。

金利感応度を数値で持つ

デュレーション

債券のキャッシュフローの回収時期を加重平均した指標、またはそれを基に金利変動に対する価格感応度を表す指標。マコーレー・デュレーションと修正デュレーション等は定義が異なる。

DV01

Dollar Value of 01。利回りが1ベーシスポイント(0.01パーセントポイント)変化した場合の債券価格の変化額を表す指標。

金融システム担当者の観点: 表面利率、時価、利回りを別項目として管理し、「利率」と「利回り」を同じ項目にしない。 指標名だけでなく、算定基準日、価格・利回り、想定キャッシュフロー、コール前提、通貨、計算方式を保持する。 デュレーションとDV01を同じ項目へ格納しない。

7.経過利子と受渡金額

利付債を利払日の途中で売買すると、 買い手は前回利払日の翌日から受渡日までに対応する利息相当分を売り手へ支払う。 これが経過利子である。

裸値段(クリーンプライス)

経過利子を含まない債券の売買単価。市場価格表示で利用される。

利含み値段(ダーティープライス)

経過利子を含めて債券の売買単価を計算する考え方。

システム上の分離 同じ単価単位で表す場合、利含み値段 = 裸値段 + 経過利子相当分となる。
約定単価・額面・約定代金と、経過利子、最終的な受渡金額を別々に保持する。
「価格100円だから受渡額も額面どおり」とは限らない。

経過利子の計算には、前回利払日、次回利払日、受渡日、日数計算方式等が必要となる。 利払日の前後・休日調整等は市場慣行・商品条件に従う。

約定確認・受渡計算画面で分ける項目

画面項目 内容 検証・例外
銘柄・売買条件 銘柄コード、ISIN、売買区分、額面、約定単価、約定日、受渡日、相手方 銘柄、額面、売買区分、受渡日の相手方照合不一致を検知する。
約定代金 経過利子を含まない単価から算出した債券本体の代金 価格の表示単位、額面単位、通貨、小数桁、端数処理を条件として保持する。
経過利子 前回利払日、次回利払日、受渡日、経過日数、日数計算方式、計算額 利払日付近、初回・最終利払、変則期間、休日調整、取引慣行による差を確認する。
受渡金額 約定代金、経過利子、手数料、税等を売買区分に応じて合算した最終金額 計算結果だけでなく各構成額と計算規則の版を保存し、再計算可能にする。

8.発行体信用・劣後性・コール

債券は将来キャッシュフローが定められていても、 その支払が確実とは限らない。 発行体の信用状態、債券の弁済順位、保証、担保、コール条項等によりリスクは異なる。

信用リスク

発行体が利子・元本を契約どおり支払えないリスク。格付等はその判断材料の一つ。

劣後性

発行体の破綻等の際に、一般債権者より弁済順位が低い場合がある。

保証・信用補完

発行体とは別に保証者等が支払義務を負う商品では、法的発行体と信用補完主体を分けて管理する。

コール

発行体が契約条件に従い期限前償還できる。最終満期とコール可能日は同じではない。

劣後の対価とオプションの向きを分ける

劣後債は、普通社債より弁済順位が低く、元利金の支払停止や損失負担が生じる可能性もあるため、 一般に同一発行体の普通社債より高い利率・利回りが設定されることがある。 ただし、この上乗せは追加リスクの対価であり、投資家に利益を保証するものではない。

要素 権利・リスクの所在 金融システム上の扱い
劣後性 投資家は普通社債より低い弁済順位を受け入れ、損失負担の可能性が高くなる。 弁済順位、利払停止・繰延条件、損失吸収条項等を個別に保持する。
上乗せ利率・利回り 追加的な信用リスク、流動性リスク、期間リスク等に対する投資家側の経済的な対価となり得る。 普通社債との差を固定値とせず、発行条件、格付、市場スプレッド等と分けて管理する。
発行者コール 期限前償還を選択する権利は発行者側にある。投資家には再投資リスクや、非行使時の期間長期化・価格下落リスクが生じ得る。 コール可能日と行使確定日を分け、行使・非行使の両方のキャッシュフローを保持する。
投資家側のオプション プット権、または転換社債型新株予約権付社債の転換権等が契約に明記されている場合に限り、投資家側の権利となる。劣後債であること自体から当然に生じるものではない。 権利保有者、行使条件、行使期間、行使価格、通知、行使状態を明示する。
自己資本比率規制上のTier2資本(補完的な資本)等の調達手段では、単なる「劣後債」よりさらに、 満期、残存期間、コール、損失吸収条項、規制上の適格性を確認する必要がある。 コール可能日は予定満期ではない。通知受領、行使条件の充足、対象残高の確定をイベントとして処理し、 行使されなかった場合も最終満期までの予定を保持する。

9.流通市場では何が起きるか

発行後の債券が投資家間で売買される市場を流通市場(セカンダリー市場)という。 日本の公社債では店頭取引が重要な役割を持ち、日本証券業協会は売買参考統計値や一定の社債取引情報を公表している。

  1. 価格提示:ディーラー等が単価・利回り・スプレッド等を提示する。
  2. 約定:銘柄、額面、価格、売買区分、決済日等を確定する。
  3. 経過利子計算:利付債では受渡日までの経過利子を算定する。
  4. 照合:約定・決済情報を相手方と確認する。
  5. 決済:証券と資金を口座振替で受け渡す。
  6. 残高更新:保有額、簿価、時価、未収利息等を更新する。

「参考値」「提示価格」「約定値」を混同しない

データ 実際の公開・画面例 システム上の扱い
市場の参考値 日本証券業協会の公社債店頭売買参考統計値。協会員から報告された気配値を基に参考価格・利回りが公表される。 実際にその価格で売買できることを保証する値ではない。情報源、基準時刻、価格種別、利回り種別を付けて保存する。
ディーラーの提示 個別銘柄について、買値・売値、額面、回答期限等を取引画面や通信で提示する。 約定前の提示として保持し、約定単価と分離する。期限切れ・撤回・部分成立も状態管理する。
約定・報告値 社債の取引情報の報告・発表制度では、ISIN、約定日、決済日、額面100円当たりの取引単価、額面金額、売買の別、取扱協会員の識別コード等が報告項目となる。 報告対象と公表対象は制度上の範囲が異なる。社内約定、当局・協会向け報告、公表データの各状態を分ける。

10.国債と一般債の決済

国債と社債等では、振替決済インフラが異なる。 国債は日本銀行が運営する国債振替決済制度で管理され、 日銀ネット国債系による帳簿上の口座振替で権利が移転する。

一方、社債、地方債、投資法人債、一定の外債等の一般債は、 JASDECの一般債振替制度でペーパーレスの振替管理が行われる。 同制度は発行から流通・償還までを電子的に処理し、証券引渡しと代金支払いを連動させる DVP(Delivery versus Payment)決済にも対応する。

国債 日本銀行:国債振替決済制度 日銀ネット国債系で振替 資金決済と証券振替を連動可能 一般債 JASDEC:一般債振替制度 社債・地方債・投資法人債・外債等 ペーパーレス・DVP決済対応 商品種類だけでなく、利用する決済インフラを持つ 振替機関/証券口座/決済代理人/DVP方式/締切時刻等を設定
図5 国債と一般債の決済インフラの違い。 金融システム担当者は、銘柄属性から利用すべき振替・決済インフラを判定できるようにする。

一般債のDVP決済を画面に落とす

一般債の売買取引では、JASDECの決済照合で取引・決済指図を照合し、 一般債振替制度側へ証券振替情報、資金決済会社側へ資金決済情報を連係する。 日本銀行の当座預金決済完了後に資金支払済通知が連係され、それを受けて証券振替が行われる。 画面では「照合済」と「資金決済済」「証券振替済」を一つの完了状態にまとめない。

一般債振替制度では、元利払期日前営業日や満期償還期日等に振替制限が生じる場合がある。 システムでは商品カレンダーと決済可否を別途管理する。
決済例外 画面で確認する情報 処理例
照合不一致 銘柄、額面、売買区分、相手方、約定日、決済日、口座、単価 不一致項目を差分表示し、訂正・再照合・取消を選ぶ。元の指図を上書きしない。
証券残高不足 帳簿残高、決済可能残高、担保差入・貸出・他取引への引当 利用可能残高を再計算し、振替入庫、引当解除、決済日の変更等を承認付きで行う。
資金不足 必要資金、資金口座残高、入金予定、日中流動性、通貨 資金手当て後に再実行する。証券側だけを完了扱いにしない。
締切・休日・振替制限 市場・通貨別営業日、機関別締切時刻、利払・償還に伴う制限期間 当日再実行、翌営業日への繰越、取消等をルールに従って選択し、理由を記録する。
未決済・取消 失敗理由、再決済予定日、相手方合意、利息・費用の取扱い 保留、再指図、取消を別状態で管理し、残高・資金・会計への二重反映を防ぐ。

11.債券のライフサイクル

  1. 銘柄設定:発行体、通貨、発行額、利率、日付、償還・オプション条件等を登録する。
  2. 発行:発行条件確定、払込、振替記録を行う。
  3. 取得・売買:投資家のポジション、取得価額、経過利子、決済を処理する。
  4. 日次・決算評価:価格、利回り、信用スプレッド、格付、簿価、償却原価等を更新する。
  5. 利払:利払対象残高を確定し、利子・未収利息等を処理する。
  6. イベント:格付変更、コール通知、条件変更、デフォルト等を反映する。
  7. 期限前償還:コール・プット等が行使された場合、対象元本を減少させる。
  8. 満期償還:最終利子・元本を受け取り、ポジションを終了する。

実務画面と状態の例

画面・機能 主な状態 確認事項
銘柄マスタ 下書き、確認中、承認済、有効、償還済、停止 確定前条件の利用を防ぎ、原資料・版・変更履歴を表示する。
約定・決済 入力済、照合待ち、照合済、決済待ち、決済済、未決済、取消 取引状態と資金・証券の決済状態を分け、失敗理由と再処理回数を残す。
ポジション・保管 保有中、売却引当、担保差入、貸出中、償還引当、残高なし 帳簿残高、決済済残高、利用可能残高を分け、口座・ブック・保管場所別に確認する。
利払・償還 予定、権利確定、金額確定、入金待ち、入金済、差異あり、取消 対象残高、税・手数料、予定額と入金額の差、会計反映を照合する。
コール等のイベント 通知待ち、通知受領、対象確認中、行使確定、非行使、処理済 可能日と実際の行使日を分け、通知原文、対象元本、行使価格、承認を保持する。
時価・格付 取得済、検証済、要確認、手動補正、期限切れ 情報源、基準日時、格付種別、有効日、補正理由を表示する。

12.銀行が債券を保有するとき何を見るか

銀行が債券を保有する目的は一つではない。 投資運用、流動性バッファ、担保利用、マーケットメイク、顧客取引、資産・負債の総合管理(ALM)等、 利用目的によって重視する属性が変わる。

保有目的区分と会計処理を分ける

日本基準では、有価証券を保有目的等に応じて区分し、区分ごとに貸借対照表価額や評価差額の処理を定める。 債券について代表的な区分を単純化すると、次のように整理できる。

代表的な保有目的区分 評価・会計処理の基本 システム上の確認点
売買目的有価証券 時価で評価し、評価差額を当期の損益として処理する。 短期的な価格変動から利益を得る目的、対象ブック、時価情報源、評価損益を管理する。
満期保有目的の債券 取得原価を基礎とし、取得価額と債券金額との差額が金利調整部分と認められる場合は償却原価法を適用する。 満期まで保有する意思と能力、取得価額、額面、償却原価、区分要件の継続確認を管理する。
その他有価証券 時価で評価し、評価差額は原則として純資産へ反映する。 時価、取得原価、評価差額、税効果、減損、売却時の振替等を区分して管理する。
同一銘柄を異なる保有目的区分で保有することがあるため、保有目的区分を銘柄マスタの固定属性にしない。 ポジション、保有口、会計ブック等の単位で、適用開始日、変更理由、承認、変更前後の区分を履歴管理する。 実際の判定と会計処理は、適用する会計基準、金融機関の会計方針、個別取引の実態に従う。

取得価額と額面の差を満期まで配分する

償却原価法では、取得価額と額面との差額のうち金利調整部分と認められる金額を、満期までの各期間に配分して帳簿価額へ加減する。 額面を上回って取得した場合は帳簿価額が額面へ向かって逓減し、アモチゼーションと呼ばれる。 額面を下回って取得した場合は帳簿価額が額面へ向かって逓増し、アキュムレーションと呼ばれる。

図6 償却原価法による帳簿価額の推移

額面を100とした場合に、取得価額が満期へ向けて額面へ近づく概念図。

簿価 取得日 満期 額面100 額面超過で取得 逓減(アモチゼーション) 額面未満で取得 逓増(アキュムレーション) 額面で取得した場合 市場価格の推移ではなく、償却原価法による帳簿価額の概念図
実際の各期の配分額は、適用する会計基準、償却方法、利払条件、取得日、満期日等によって異なる。 市場価格・時価評価額とは別に管理する。

信用

発行体、格付、保証、劣後性、信用スプレッド、デフォルト状態。

金利・市場

残存期間、クーポン、利回り、価格感応度、スプレッド、通貨。

流動性

市場性、適格流動資産(HQLA)としての適格性、担保利用状況、自由処分性、決済可能性。

会計・勘定

保有目的、勘定区分、簿価・時価、評価差額、未収利息等。

規制

信用リスク、マーケット・リスク、流動性カバレッジ比率(LCR)、安定調達比率(NSFR)、レバレッジ比率等。

利用状態

自己保有、顧客預り、信託勘定、担保差入、レポ使用、貸借中等。

13.金融システム担当者が持ちたいデータと状態

データ領域 主な項目例 理由
銘柄識別 銘柄内部番号、国際証券識別番号(ISIN)、銘柄コード、発行回号、商品種類 同一発行体の複数債券を識別する。
発行体 発行体、業種、国・地域、保証者、特別目的会社等 信用リスク・規制区分に利用する。
発行条件 発行日、発行額、発行価格、通貨、額面 発行・取得・残高管理の基礎。
利子 利率区分、表面利率、参照指標、上乗せ幅、利払頻度、日数計算方式 固定・変動等のキャッシュフロー生成に必要。
日付 償還日、利払日、利率決定日、権利確定日、受渡日 一つの「満期日」だけでは足りない。
償還・オプション コール・プット、権利保有者、行使日、行使価格、通知期間、分割償還 発行者側と投資家側の権利を区別し、期限前償還・分割償還に対応する。
新株予約権 新株予約権数、行使期間、転換価額、取得株式数、転換価額調整、対象株式、行使受付日、行使数量、潜在株式数 社債条件と株式取得条件を分け、行使前の権利、社債消滅、株式交付を関連付ける。
劣後・資本性 弁済順位、劣後性、その他Tier1資本(AT1)・Tier2資本属性、損失吸収条項 信用・自己資本規制の判定に必要。
格付 格付機関、発行体格付・銘柄格付、長期・短期、有効日 格付の種類・有効日を区別する。
保有目的・会計区分 売買目的、満期保有目的、その他有価証券、会計ブック、適用開始日、変更日、変更理由、承認 銘柄マスタの固定属性にせず、ポジション・保有口・会計ブック等の単位で履歴管理する。
市場評価 価格、価格種別、利回り、利回り種別、想定償還日、スプレッド、利回り曲線、デュレーション種別・値、DV01、評価日、情報源 時価・リスク・損益と、計算時に置いた満期・コール前提を再現する。
簿価・償却原価 取得価額、額面、帳簿価額、償却原価、アモチゼーション額、アキュムレーション額、償却方法、計算規則の版 帳簿価額と市場価格を分け、各期の増減と満期までの予定を再計算可能にする。
経過利子 前回利払日、受渡日、経過日数、経過利子 売買代金と受渡額を分ける。
ポジション 口座、ブック、数量、額面、取得原価、取得日、保管場所 銘柄マスタと実際の保有を分離する。
担保・利用状態 担保差入中、レポ使用中、貸出中、利用可能、保管場所 適格流動資産・担保・在庫管理に必要。
決済 振替機関、決済代理人、DVP区分、証券口座、資金口座 国債・一般債等の決済経路を管理する。
イベント 利払、期限前償還、満期償還、新株予約権行使、株式交付、格付変更、債務不履行、権利イベント 保有期間中の業務イベントを追跡する。
証跡 情報源、版、手動修正、承認、計算規則の版 銘柄条件・評価・規制判定を再現する。
データモデル上の分離 発行体 ≠ 銘柄マスタ ≠ ポジション ≠ 保有目的・会計区分 ≠ 帳簿価額 ≠ キャッシュフロー ≠ 新株予約権 ≠ 株式交付 ≠ 市場データ ≠ 格付 ≠ 担保利用 ≠ 決済。
「債券マスタ1テーブル」にすべてを押し込むと、時系列・複数口座・権利行使・担保利用・格付変更等を扱いにくい。

14.規制横断で見ると

自己資本比率規制

発行体、格付、劣後性、担保等に応じて信用リスクを評価する。

流動性カバレッジ比率(LCR)

国債・社債等について適格流動資産(HQLA)としての適格性、市場流動性、格付、担保拘束・自由処分性等を見る。

安定調達比率(NSFR)

適格流動資産区分、残存期間、処分制約等に応じて所要安定調達額(RSF)を判定する。

レバレッジ比率

低リスクの国債であっても、原則としてオンバランス資産として総エクスポージャーへ反映する。

金融システム担当者の観点: 同じ銘柄マスタを規制別にコピーするのではなく、 発行体・銘柄・格付・期間・担保利用等の共通データから、 各規制の区分を別ロジックで判定する。

15.参考資料

主な公開資料