30日間の資金流出入とコミットメント・担保・デリバティブを整理する
E01 個人預金と法人預金で、LCRの流出率が異なるのはなぜですか?
ストレス時の引出行動が異なると想定されるためである。多数の個人から集めた預金は一般に分散され、預金保険や取引関係によって比較的安定しやすい。一方、大口の法人・金融機関預金は、専門的な資金管理の下で短期間に移動しやすく、一件の引出しが大きい。
ただし、個人預金でも預金保険の対象、取引関係、金利条件等により区分が異なる。法人預金でも、一定の業務に不可欠な適格オペレーショナル預金には別の扱いがある。
E02 通知預金は、通知期間と契約満期のどちらを基準に資金流出を判定しますか?
契約上、預金者が最も早く払戻しを受けられる時点を基礎に判断する。通知を行えば30日以内に払戻し可能である場合は、名目上の満期が先であってもLCRの30日間に流出し得る。
既に通知が行われているか、基準日後に通知できるか、通知撤回の条件、違約金、中途解約の実務等も確認する必要がある。商品名や会計上の満期日だけでなく、預金者が有する払戻請求権の内容が重要である。
E03 キャッシュ・マネジメント、カストディ、清算等に伴う預金は、通常の法人預金と何が違いますか?
これらの業務に伴う預金は、決済、資金集中、証券保管、清算等のサービスを利用するために顧客が銀行へ維持する残高である。サービスの継続に必要で、短期間に他行へ移しにくい部分は、通常の余裕資金より安定的な可能性がある。
LCRでは、契約上・実務上の依存関係、必要残高の推定、過去の流出実績等の要件を満たす部分だけが適格オペレーショナル預金となる。サービスに必要な額を超える余剰残高まで同じ扱いにはできない。
E04 コルレス、カストディ、クリアリング、プライム・ブローカレッジに伴う預金は、どのような場合にオペレーショナル預金となりますか?
顧客が当該業務を利用するために預金を維持する必要があり、銀行を変更すると業務継続に重大な支障又は相応のコストが生じ、ストレス時にも残高が維持される蓋然性が高い場合に候補となる。
業務契約があるだけでは足りない。預金残高とサービス利用の対応、必要額の推定方法、余剰残高の分離、継続的な検証が必要である。なお、他行へ預けるコルレス預け金等の資金流入側の扱いは、受け入れる預金の流出側とは別に判定する。
E05 信用供与枠と流動性供与枠は、LCRでどのように区別されますか?
信用供与枠は、顧客の一般的な資金需要に応じて信用を供与する枠である。流動性供与枠は、CPや証券化商品等の市場調達が困難になった場合に、その償還等を支える目的の枠である。
市場調達の代替となる流動性供与枠は、ストレス時に引き出される可能性が高いため、一般により厳しい流出率が設定される。契約名ではなく、資金使途、引出条件、裏付ける債務、相手方等により区別する。
E06 カードローンの未使用枠は、LCR上のコミットメントに含まれますか?
銀行が顧客の引出要求に応じて資金を供給する契約上の義務を負う部分は、原則として未使用の信用供与枠として対象になり得る。個人向けか事業向けか、取消可能性、審査・承認条件等によって流出率や対象額が変わる。
単に極度額が設定されているだけでなく、銀行が流動性ストレス時に無条件で取消せるか、顧客に引出権があるかを確認する必要がある。自己資本比率規制やレバレッジ比率の取消可能性要件と、LCRの要件が同一とは限らない。
E07 契約上の資金流出と偶発的な資金流出は、どのように区別されますか?
契約上の資金流出は、基準日時点の契約により30日以内の支払時期・金額が確定又は合理的に見積もれるものをいう。偶発的な資金流出は、保証履行、顧客行動、風評対応等の将来事象が起きた場合に支払が生じるものをいう。
ファンド出資を例にすると、既に有効な払込通知があり30日以内の支払義務が確定している額と、未通知の出資約束枠から将来請求される可能性がある額は区別して検討する。二重計上を避けつつ、契約内容と発生条件を確認する。
E08 ファンドへの未使用の出資約束枠と、通知済みのキャピタルコールは、LCRで同じように扱われますか?
同じではない。通知済みのキャピタルコールで30日以内の払込義務が確定している額は、契約に基づく資金流出として捉えるのが基本である。これに対し、未使用の出資約束枠は、まだ払込時期が確定していない潜在的な支払義務であり、偶発事象等としての評価が問題となる。
実際の区分は、契約上の払込義務、通知期間、取消可能性、過去の請求実績、重要性等による。通知済み額を未使用枠にも残したまま二重に認識しないよう、出資約束額、払込済額、通知済未払額を分けて管理する必要がある。
E09 デリバティブの契約上の受払、追加担保、格下げ条項、IM、VMは、LCRでどのように区別されますか?
契約上の受払は、30日以内に予定されるデリバティブのキャッシュフローである。追加担保は、時価変動、担保価値の低下、担保差替え等によって必要となる。格下げ条項は、自行の格付低下に伴う追加担保・期限前支払等を捉える。
VMは現在の時価損益を調整するため、一定の要件の下でデリバティブの受払との相殺が関係する。IMは将来の潜在損失に備えて分別・拘束される性質が強く、VMと同じには扱われない。各項目を契約、担保、ストレス想定ごとに分ける必要がある。
E10 LCRで資金流入額に上限が設けられているのはなぜですか?
将来の貸出回収等だけに依存してHQLAの保有を減らすことを防ぐためである。ストレス時には、相手方の返済遅延、貸出のロールオーバー、取引関係維持のための再貸出等が起こり、予定どおりの流入を全て利用できるとは限らない。
このため、原則として資金流入額は資金流出額の一定割合を上限とし、銀行自身がHQLAを保有することを求める。一部の業態・取引には別の上限又は例外があるため、適用区分の確認が必要である。
E11 30日以内に返済される貸出金は、全額を資金流入として見込めますか?
一律に全額とはならない。契約上30日以内に弁済期が到来し、全額弁済の見込みが十分高く、リボルビング型や期限の定めのない貸出等に該当しないことが必要である。
さらに、相手方が中央銀行・金融機関等か、それ以外かによって資金流入率が異なる。貸出を回収した直後に同額を再貸出する契約上の義務がある場合等は、資金提供義務との関係も確認する。元本、利息、延滞、相手方を分けて判定する必要がある。
E12 HQLAに算入する資産の30日以内の償還額を、資金流入にも重ねて計上できますか?
できない。HQLAである有価証券の30日以内の償還は、その資産が現金へ形を変えるだけであり、HQLAと資金流入の双方に計上すると同じ流動性を二重に評価することになる。
このため、LCRでは適格流動資産の有価証券償還に係る資金流入率は0%とされる。HQLAでない有価証券の確実な償還は、所定の要件の下で資金流入となり得る。
