C.自己資本比率規制
自己資本・RWA・資本調達手段・信用リスクの基本論点を整理する
C01
自己資本比率が高ければ、銀行は必ず安全だといえますか?
必ず安全とはいえない。自己資本比率は重要な健全性指標であるが、計算時点の資本と規制上評価されたリスクの関係を示すものであり、流動性、金利リスク、集中リスク、収益力、ガバナンス等を単独で表すものではない。
また、同じ比率でも、資本の質、リスク・アセットの構成、内部モデルの使用、含み損、将来の損失発生可能性等は異なり得る。安全性は、LCR、NSFR、レバレッジ比率、ストレステスト、開示情報等と合わせて見る必要がある。
C02
自己資本比率の分子と分母には、何が入りますか?
分子には、国際統一基準ではCET1、AT1、Tier2から所定の調整項目を控除した自己資本が入る。国内基準ではコア資本を中心とする別の構成となる。
分母には、信用リスク・アセット、市場リスク相当額及びオペレーショナル・リスク相当額を所定の方法で換算した額等が入る。単純な総資産ではなく、資産・取引のリスクに応じて調整した額である。このため、資産残高が同じでも、構成によって比率は異なる。
C03
CET1、AT1、Tier2は、損失を吸収する場面や方法がどのように異なりますか?
CET1は普通株式や内部留保等からなり、銀行が通常の事業を継続している段階から損失を吸収する中核的な資本である。AT1は永久性、配当・利払の裁量、元本削減又は株式転換等の要件を通じて、破綻前の段階でも損失を吸収するよう設計される。
Tier2は、主に劣後債等からなり、破綻・清算時の損失吸収を補完する。一般にCET1、AT1、Tier2の順に損失吸収力の質が高いと評価されるため、最低所要水準も資本区分ごとに設けられている。
C04
「劣後債」や「優先株式」という名称だけで、自己資本への算入可否は決まりますか?
決まらない。自己資本への算入には、払込済みであること、劣後順位、満期、償還・買戻し、利払・配当の裁量、損失吸収条項、担保や保証の有無等、詳細な要件を満たす必要がある。
同じ名称でも契約条件が異なれば、CET1、AT1、Tier2のいずれに該当するか、又はいずれにも算入できないかが変わる。法的形式や商品名ではなく、契約の実質と告示上の要件を照合することが必要である。
C05
Tier2資本は、満期が近づくと算入額が減るのはなぜですか?
満期が近い資本調達手段は、銀行が将来にわたり損失を吸収できる期間が短くなり、恒久的な資本としての性質が弱まるためである。バーゼル基準では、期限付きTier2は当初満期が5年以上であることが求められ、最終5年間は規制資本への算入額が段階的に減額される。
これは会計上の負債残高が減るという意味ではない。契約上の元本は残っていても、健全性規制上の損失吸収力として認める額を逓減させる仕組みである。
C06
コール日と最終満期日は、Tier2資本の判定でどのように使い分けますか?
コール日は発行銀行が期限前償還を選択できる日、最終満期日は契約上元本を返済する最終日である。両者は同じではない。
Tier2の適格性では、コールが発行後一定期間経過後に限られること、償還等又は買戻しに際して自己資本の充実についてあらかじめ金融庁長官の確認を受けること、コールを強く誘発する条件がないこと等を確認する。残存期間や逓減の判定では契約上の最終満期が基本となるが、他の規制や内部流動性管理では、市場の償還期待やコール条項を別途考慮する場合がある。契約条件と適用する規制を分けて確認する必要がある。
C07
銀行が他の金融機関の株式、AT1またはTier2を保有すると、なぜ自己資本から控除されることがあるのですか?
金融機関同士が互いの資本調達手段を保有すると、金融システム全体では同じ資本が重複して損失吸収力として数えられるおそれがあるためである。また、発行金融機関の損失が保有銀行にも波及し、資本の相互依存を強める。
このため、発行体との関係、保有割合、自行の対応する資本区分等に応じて、CET1、AT1又はTier2から控除する仕組みが設けられている。全ての保有が直ちに全額控除されるわけではなく、告示上の区分・閾値を確認する必要がある。
C08
ファンドを通じて他の金融機関の資本調達手段を保有する場合、ルック・スルー(ファンドの中身を確認する方法)は必要ですか?
必要となる場合がある。直接保有だけを控除対象とすると、ファンドを介在させることで規制を回避できるため、間接保有についても裏付資産を確認する仕組みが設けられている。
実際の取扱いは、ファンドの裏付資産情報をどこまで取得できるか、自己資本比率告示上のルック・スルー方式等の要件を満たすか、金融機関の資本調達手段への投資額を特定できるかによって異なる。情報が不足する場合には、より保守的な扱いとなり得る。
C09
リスク・ウェイトとは何ですか。また、同じ金額の資産でもRWAが異なるのはなぜですか?
リスク・ウェイトは、エクスポージャー額を信用リスク・アセットへ換算するための割合である。例えば、同じ金額の貸出や債券でも、相手方の区分、信用力、担保、延滞、残存期間等が異なれば、損失発生の可能性や回収可能性も異なる。
標準的手法では告示上の区分・格付等に応じたリスク・ウェイトを用い、内部格付手法では銀行が推計するデフォルト確率等を所定の算式に反映する。RWAは単なる残高ではなく、規制上のリスク評価を加えた金額である。
C10
担保や保証があれば、必ず信用リスクを小さく計算できますか?
必ずではない。信用リスク削減効果を認めるには、担保又は保証が告示上の適格要件を満たし、法的に有効で、適時に実行でき、価値を適切に管理できる必要がある。
担保では価格変動、通貨・期間の不一致、相関、再評価頻度等が問題となる。保証では保証人の適格性、保証範囲、直接請求可能性、条件の有無等を確認する。実務上担保価値があっても、規制上の要件を満たさなければRWA削減には使えない。
C11
未使用の融資枠は、貸借対照表に計上されていなくても自己資本比率規制の対象になりますか?
対象となる。未使用枠は現時点では貸出金でなくても、相手方の請求等により将来貸出へ転化し得るため、オフ・バランス取引として信用リスクを認識する。
未使用額にCCF(与信換算率)を乗じて与信相当額を求め、さらに相手方のリスク・ウェイト等を適用する。取消可能性、契約条件、商品の種類等によりCCFは異なるため、「未実行だからゼロ」とは限らない。
C12
不動産担保が付いていれば、貸出のリスク・ウェイトは一律に低くなりますか?
一律には低くならない。居住用不動産向け、事業用不動産向け、ADC(用地取得・開発・建設)向け等で区分が異なり、担保物件の種類、返済原資、LTV(担保価値に対する貸出額の割合)、担保評価、法的実行可能性等を確認する必要がある。
特に、返済が物件の売却・賃貸収入に大きく依存する貸出は、借り手の一般的な返済能力に基づく貸出とリスク特性が異なる。単に抵当権が設定されていることだけで低いリスク・ウェイトを適用できるわけではない。
