流動性比率規制(LCR・NSFR)の基礎とシステム実務

― 銀行はなぜ「資産がある」だけでは資金繰りを守れないのか ―

基準時点:2026年8月16日 作成:AddWisteria Lab

【本稿の対象と前提】

本稿は、日本の銀行に関する流動性比率規制を、制度の目的、規制の仕組み、項目別の考え方、実務上の意味、システム上の考慮点の順に整理したものである。

主な根拠は、金融庁の「銀行法第十四条の二の規定に基づき、銀行がその経営の健全性を判断するための基準として定める流動性に係る健全性を判断するための基準」(平成26年金融庁告示第60号。以下「流動性比率告示」という。2026年5月22日更新)と、「流動性比率規制に関するQ&A」(2022年10月19日追加版)である。国際的な制度趣旨については、バーゼル銀行監督委員会(BCBS:各国の銀行監督当局などで構成される国際的な基準設定主体)が公表したLCRおよびNSFRの規則文書を参照している。

流動性比率告示におけるLCRおよびNSFRの直接の適用対象は、海外営業拠点を有する銀行である。海外営業拠点を有しない銀行であっても流動性リスク管理が不要になるわけではないが、適用される監督上の枠組みや報告・開示の範囲は、個別に確認する必要がある。

本稿は、公開資料に基づく一般的な制度解説である。個別取引の規制上の取扱いは、契約条件、会計処理、取引相手方、担保、残存期間、法的な相殺可能性などによって異なる。実際の報告・制度対応では、最新の官報、金融庁告示、監督指針、公式Q&Aおよび各金融機関の内部規程を確認する必要がある。

1. 流動性比率規制とは

1-1. 自己資本と流動性は何が違うのか

銀行の健全性を考えるとき、「自己資本」と「流動性」は分けて考える必要がある。

自己資本は、貸出先の倒産や保有有価証券の値下がりなどによって損失が発生した場合に、その損失を吸収するための備えである。これに対して流動性は、預金の払戻し、借入金の返済、証拠金の差入れ、融資実行など、期限の到来した支払を必要な時点で行える能力を意味する。

したがって、資産の総額が負債の総額を上回っていても、直ちに利用できる現金が不足し、保有資産を十分な価格で売却できず、新たな資金調達もできなければ、銀行は支払に行き詰まる可能性がある。これは、損失を吸収できるかという問題ではなく、支払期限に間に合うかという問題である。

1-2. なぜ資産があっても資金繰りに行き詰まるのか

銀行の資産には、貸出金、国債、社債、株式、デリバティブ取引に係る債権などがある。しかし、すべての資産が同じ速さ、同じ価格、同じ条件で現金化できるわけではない。

流動性ストレス時には、例えば次のような事象が同時に発生する可能性がある。

  • ・預金者による預金の引出しが増える
  • ・事業法人や金融機関からの無担保調達を継続できなくなる
  • ・レポ取引(有価証券を担保として資金を調達または運用する取引)の借換え条件が悪化する
  • ・銀行の格付低下により追加担保が必要になる
  • ・市場価格の下落により担保価値が減少する
  • ・顧客がコミットメントラインなどの未使用枠を引き出す
  • ・風評悪化を防ぐため、契約上は義務のない資金支援が必要になる

このため、単に「資産を保有しているか」ではなく、「ストレス時に、どの資産を、どの程度、どの場所で、どれだけ速く現金化できるか」を把握する必要がある。

1-3. バーゼルIIIにおける流動性規制

バーゼルIII(世界的な金融危機後に整備された銀行の健全性に関する国際的な規制枠組み)では、流動性リスクに関する主要な定量基準として、LCRとNSFRが設けられた。

LCRは、30日間の厳しいストレスに耐えられるだけの流動資産があるかを確認する短期の指標である。

NSFRは、資産やオフバランス取引に見合う安定した資金調達があるかを、おおむね1年間の期間構造を念頭に確認する指標である。

両者は同じ流動性リスクを扱うが、LCRは短期の資金繰り、NSFRは資産と調達の期間構造を見ている。どちらか一方だけを満たせば十分という関係ではなく、相互に補完する仕組みである。

主な根拠:流動性比率告示第1条第22号、第2条、第74条、BCBS「Basel III: The Liquidity Coverage Ratio and liquidity risk monitoring tools」、BCBS「Basel III: the net stable funding ratio」

2. LCRとは

2-1. LCRの意味

LCR(Liquidity Coverage Ratio、流動性カバレッジ比率)は、銀行固有または市場全体の要因による厳しい流動性ストレスが30日間続いた場合に、必要となる資金を適格流動資産で賄えるかを確認する指標である。

流動性比率告示における基本式は次のとおりである。

LCR = 算入可能適格流動資産の合計額 ÷ 純資金流出額

海外営業拠点を有する銀行について、連結LCRおよび単体LCRは100%以上であることが求められる。

2-2. LCRの目的

LCRの目的は、短期的な資金調達環境が急速に悪化しても、銀行が一定期間、自ら保有する流動性を用いて支払を継続できるようにすることである。

ここで重要なのは、適格流動資産が単なる「規制上の飾り」ではないという点である。バーゼル銀行監督委員会の規則文書では、平常時には100%を最低水準として扱う一方、実際のストレス時には流動資産を使用することが想定されている。したがって、LCRは資産を固定して保有することだけを求める制度ではなく、必要なときに実際に現金化できる状態を維持する制度である。

2-3. なぜ30日なのか

30日間は、通常の予算や資金繰り見通しを表す期間ではない。銀行固有の信用不安と市場全体の混乱が重なる厳しい共通ストレスを想定し、その間に経営陣や監督当局が必要な対応を行うための時間を確保するという考え方に基づいている。

対象期間は、基準日から30日を経過する日までである。30日後が休業日であっても、その日までを対象期間とする。

2-4. 分子と分母の基本構造

分子は、適格流動資産のうち、規制上の算入率、構成上限、運用上の要件を反映した後の金額である。

分母は、30日間の資金流出額から資金流入額を控除した純資金流出額である。ただし、資金流入額として控除できる額は、原則として資金流出額の75%が上限である。

したがって、LCRは単純な「流動資産 ÷ 短期負債」ではない。資産の種類、担保状況、相手先、契約条件、期限、流入の確実性、二重計上の有無などを反映した規制上のストレス計算である。

主な根拠:流動性比率告示第2条から第8条、Q&A第1条-Q1、BCBS LCR規則文書

3. HQLA

3-1. HQLAとは

HQLA(High Quality Liquid Assets、適格流動資産)は、流動性ストレス時にも大幅な価値下落を伴わず、容易かつ速やかに現金化できると規制上認められる資産である。

保有する有価証券が市場で取引されているだけでは、直ちにHQLAとして算入できるわけではない。まず、資産の種類、発行体、リスク・ウェイト、格付、市場取引の活発さ、過去のストレス時の価格下落、商品構造などに基づき、レベル1、レベル2Aまたはレベル2Bの資産に該当するかを判定する。

さらに、実際にHQLAとして算入するためには、自由処分性、管理の適正性、自由移動性などの運用上の要件を満たす必要がある。このため、同じ銘柄であっても、担保への使用状況、保有場所、管理体制などによって、HQLAへ算入できるかどうかが異なる。

3-2. HQLAの資産区分

HQLAの候補となる資産は、流動性、発行体、信用力、市場での取引状況、ストレス時の価格下落などに応じて、レベル1、レベル2Aまたはレベル2Bに区分される。資産区分によって適格資産算入可能率が異なり、レベル2資産には構成上限も適用される。

3-2-1. レベル1資産

レベル1資産は、最も高い流動性を有するとされる区分である。代表例には、現金、一定の中央銀行預け金、所定の条件を満たす国債や政府保証債などがある。

運用上の要件を満たすレベル1資産の適格資産算入可能率は100%である。規制上の算入額を計算する際に、レベル2資産のような構成上限は設けられていない。

ただし、発行体、リスク・ウェイト、市場流動性、通貨、海外拠点との関係などの条件があるため、「国債であれば常に無条件で100%算入できる」という意味ではない。

3-2-2. レベル2A資産

レベル2A資産には、所定の要件を満たす公共部門等の債券、事業法人の社債・コマーシャルペーパー、カバードボンドなどが含まれる。

コマーシャルペーパー(CP:企業などが短期資金を調達するために発行する短期の有価証券)や社債については、発行体が金融機関等ではないこと、劣後性がないこと、所定の格付条件を満たすこと、広く活発に取引されていること、過去の市場流動性ストレス期の価格下落等が一定範囲内であることなどが求められる。

適格レベル2A資産の算入可能率は85%である。これは、時価の15%を規制上差し引いて評価することに相当する。

3-2-3. レベル2B資産

レベル2B資産には、所定の住宅ローン担保証券、公共部門等の債券、事業法人の社債・コマーシャルペーパー、株式などが含まれる。

住宅ローン担保証券には75%、その他の所定のレベル2B資産には50%の算入可能率が適用される。対象資産ごとに、発行体、格付、市場流動性、価格下落、株価指数への採用、決済方法などの要件が異なる。

3-3. 運用上の要件

レベル1、レベル2Aまたはレベル2Bの資産に該当するだけでは、HQLAとして算入できない。銀行が流動性ストレス時に当該資産を実際に現金化し、その資金を必要な場所で利用できるよう、自由処分性、管理の適正性および自由移動性を確認する必要がある。

3-3-1. 自由処分性

自由処分性とは、基準日から30日間、銀行がその資産を現金化することを妨げる法令上、契約上または実務上の制約がないことを意味する。

代表的な確認項目は次のとおりである。

  • ・担保や差入資産として実際に使用されていないこと
  • ・信用補完のために拘束されていないこと
  • ・一般管理費などの支払用として区分管理されていないこと
  • ・受入担保である場合、売却または再担保が認められていること
  • ・無担保で借り入れた有価証券である場合、30日以内に返還を求められないこと
  • ・市場売却や資金利用に法令上または内部管理上の制限がないこと

中央銀行、公共部門、中央清算機関等にあらかじめ差し入れた資産であっても、基準日時点で担保として実際に使用されていない超過部分は、所定の条件の下で自由処分性を満たし得る。

3-3-2. 管理の適正性

管理の適正性とは、資産を保有しているだけでなく、流動性管理部署がストレス時に実際に現金化し、その資金を利用できる体制が整っていることを意味する。

具体的には、流動性管理部署による管理、現金化の手続とシステム、必要情報の収集体制、通常必要な期間内に現金化できる能力、現金化に必要な権限などが求められる。

このため、銘柄属性がレベル1、レベル2Aまたはレベル2Bの要件を満たしていても、現金化の事務手続や管理権限が整っていなければ、HQLAには算入できない。

3-3-3. 自由移動性

自由移動性とは、海外拠点などが保有する資産またはその現金化資金を、グループ内で必要な場所へ移動できることを意味する。

現地法令や規制によって資金移動が制限される場合でも、その海外拠点について日本の告示に準じて計算した純資金流出額までの範囲は、現地の資金流出に対応するための資産として扱える場合がある。一方、現地で必要とされる額が現地の純資金流出額を超える部分などは、自由に利用できない可能性がある。

3-4. 算入率・ヘアカットと構成上限

ヘアカットとは、ストレス時の価格下落や換金能力の低下を考慮し、資産の時価から一定割合を規制上差し引く考え方である。

代表的な算入率は、レベル1が100%、レベル2Aが85%、レベル2Bの住宅ローン担保証券が75%、その他の所定のレベル2B資産が50%である。

さらに、レベル2資産全体には算入可能適格流動資産の40%、レベル2B資産には15%の構成上限がある。この上限は、30日以内に満期となるレポ取引等を解消したとみなした調整後残高を用いて計算する。

したがって、HQLAの算入額は、単純に各資産の時価へ算入率を乗じた合計ではない。資産区分、運用上の要件、二重計上の排除、レポ取引等の解消後残高、レベル2資産の上限を順番に反映する必要がある。

主な根拠:流動性比率告示第3条、第9条から第17条、Q&A第3条-Q1からQ3、第9条-Q6、第10条-Q1・Q2、第14条-Q1、第15条-Q1からQ5、第17条-Q1

4. 資金流出

4-1. 基本的な考え方

資金流出額は、30日間のストレス期間に銀行から流出すると規制上想定される金額である。基本的には、対象となる残高や支払額に、項目ごとの資金流出率を乗じて計算する。

同じ商品名であっても、預金者や取引相手方の属性、預金保険の対象、満期、解約条件、担保、ファシリティの種類、取消可能性などにより流出率は異なる。

4-2. リテール預金

リテール預金は、個人から受け入れた預金等である。中小企業等預金についても、所定の条件の下でリテール預金に準じた取扱いが行われる。

代表的な区分は次のとおりである。

  • ・安定預金:継続的な取引関係または日常利用口座という条件を満たし、実効的な預金保険制度で保護される部分
  • ・準安定預金:安定預金に該当しないリテール預金
  • ・安定的定期預金:30日以内の払戻しが契約上制限されている、または著しく高い解約ペナルティーがある預金

流出率の代表例は、安定預金が5%、所定の追加要件を満たす預金保険制度で保護される安定預金が3%、準安定預金が10%、リテール安定的定期預金が0%である。

日本の預金保険制度・貯金保険制度は、公式Q&A上、実効的な預金保険制度および3%特例の要件を満たす制度とされている。ただし、保護対象額、口座の利用実態、取引関係、契約上の中途解約条件などを個別に確認する必要がある。

4-3. ホールセール調達

ホールセール調達は、個人または中小企業等以外の主体からの資金調達である。

事業法人等、中央政府、中央銀行、国際開発銀行または公共部門からの無担保調達については、預金保険による保護状況に応じて20%または40%の流出率が適用される。それ以外のホールセール無担保調達や、30日以内に弁済期が到来する負債性有価証券には、原則として100%の流出率が適用される。

ただし、適格オペレーショナル預金(決済、清算、カストディなど顧客に不可欠な業務に伴って維持される預金)のうち、所定の定量・定性基準を満たす部分には、特例的な流出率を適用できる場合がある。

4-4. 有担保取引

有担保資金調達では、30日以内に満期を迎えた取引を同じ条件で全額借り換えられるとは限らない。担保の質が低いほど、追加担保の差入れまたは調達額の減少が大きくなると想定される。

代表的には、差入資産がレベル1資産である取引は0%、レベル2A資産は15%、レベル2Bの住宅ローン担保証券は25%、その他のレベル2B資産は50%、その他の資産は100%の流出率となる。中央銀行取引、公共部門との取引、プライム・ブローカレッジ業務などには個別の規定がある。

担保交換のように有価証券同士を交換する取引では、反対方向の有担保資金調達と有担保資金運用を擬制し、その差額を流出額として計算する。

4-5. デリバティブ

デリバティブ取引(金利、為替、株価などに連動して価値や受払額が変動する派生商品)では、契約上の満期時キャッシュフローだけでなく、担保や信用力の変化に伴う追加的な資金需要を計測する。

資金流出の主な構成は次のとおりである。

  • ・契約に基づく30日以内の支払超過額
  • ・時価変動に伴う追加担保額
  • ・格下げ時に必要となる追加担保または支払
  • ・差入担保の価値下落に伴う追加担保
  • ・取引相手方へ返還する可能性がある超過受入担保
  • ・契約上必要だが未提供となっている担保
  • ・受入担保をより質の低い資産へ差し替えられることによる流出

契約上の資金流出入は、取引単位または法的に有効な相対ネッティング契約の単位で相殺する。ネッティング(法的に有効な範囲で支払と受取を相殺して計算すること)は、単に同一顧客であるという理由だけで行えるものではない。

4-6. コミットメント

コミットメントラインなどのファシリティでは、基準日時点の実行済残高ではなく、30日以内に顧客が利用できる未使用枠も資金流出の対象となる。

与信ファシリティと流動性ファシリティでは流出率が異なり、さらに個人・中小企業、事業法人、金融機関、ファンド、特別目的事業体など、取引相手方の属性によっても異なる。ファンド、特別目的事業体または銀行の資金調達に用いられる事業体に対するファシリティ未使用枠には、100%の流出率が適用される。

流動性ストレス時に銀行が取消可能なファシリティについても、事前通知の要否などに応じて0%または3%の流出率が定められている。

4-7. その他契約・偶発的資金流出

契約に基づき30日以内に支払が発生し、流動性リスク管理上重要なものは、「その他契約に基づく資金流出額」として100%の流出率を適用する。公式Q&Aでは、自社株買い、他社への出資、固定資産の購入、課徴金の納付などが例示されている。

一方、発生するかどうかが基準日時点で確定していない重要な事象は、「その他偶発事象に係る資金流出額」として扱う。公式Q&Aでは、投資ファンドとの契約に基づくキャピタルコール(出資約束額の範囲内で行われる払込請求)などが例示されている。

実務上は、単に「ファンド出資」「コミットメント」という商品名で分類するのではなく、支払義務が既に確定しているのか、将来の請求により発生する偶発的な義務なのかを区別する必要がある。

主な根拠:流動性比率告示第18条から第60条、Q&A第20条-Q1からQ5、第27条-Q1・Q2、第33条-Q1からQ6、第35条-Q1からQ6、第48条-Q1、第53条-Q1、第60条-Q1

5. 資金流入

5-1. 基本的な考え方

資金流入額は、30日以内に契約に基づいて受け取ることが見込まれる金額である。将来の新規借入や、契約上確定していない資産売却代金を自由に見込むことはできない。

資金流入は、流入が確実であること、他の項目との二重計上がないこと、流動性管理に利用できることなどを確認した上で計上する。

5-2. 貸付金等の回収

貸付金等の回収については、全額が弁済される見込みが十分に高く、契約上30日以内に返済される元本部分が対象である。リボルビング形式や弁済日が定められていない貸付金は、原則として対象外である。

取引相手方が中央銀行または金融機関等である場合は100%、それ以外の者である場合は50%の資金流入率が適用される。

公式Q&Aでは、LCRにおける「全額が弁済される見込みが十分に高い」とは、原則として正常先または正常先相当の信用格付が付与された債務者への貸付金等を指すとされている。

5-3. 有担保取引

有担保資金運用では、30日以内に返済される現金の全額を常に流入とするわけではない。取引満期後も、受入担保の種類に応じて一定部分が再運用される、または担保を手元に残すと想定する。

代表的な資金流入率は、受入資産がレベル1資産の場合は0%、レベル2A資産は15%、レベル2Bの住宅ローン担保証券は25%、その他のレベル2B資産は50%、その他の資産は100%である。

受入担保に処分制約があり、ストレス時に銀行の判断で担保を返還して現金を回収できる取引などは、通常の貸付けに準じた取扱いとなる場合がある。

5-4. デリバティブ

デリバティブ取引では、取引単位または法的に有効な相対ネッティング契約単位で計算した30日以内の受取超過額に、100%の資金流入率を適用する。

同じネッティング単位について支払超過であれば資金流出、受取超過であれば資金流入として扱うため、同じ取引を流出と流入の双方へ重複計上しない。

5-5. 有価証券の償還とその他の資金流入

30日以内に償還される有価証券について、適格流動資産の償還には0%、それ以外の有価証券の償還には100%の資金流入率が適用される。

適格流動資産の償還が0%となるのは、当該資産が既にLCRの分子へ算入されており、償還金を分母の資金流入にも計上すると、同じ価値を二重に認識することになるためである。

その他契約に基づく資金流入には、契約上確定した資金調達、増資、営業譲渡、固定資産売却などが含まれ得る。ただし、流動性管理部署が利用できる資金であること、または特定の資金流出へ充当されることが確定している必要がある。

5-6. 資金流入額の上限

純資金流出額は、資金流出額から資金流入額を差し引いて計算する。ただし、控除できる資金流入額は、原則として資金流出額の75%が上限である。

この上限は、銀行が他者からの入金に全面的に依存せず、少なくとも一定部分の資金流出を自ら保有するHQLAで賄うことを求めるものである。ストレス時には、銀行が受け取る予定の資金も遅延または不履行となる可能性があるためである。

主な根拠:流動性比率告示第4条、第61条から第73条、Q&A第62条-Q1・Q2、第64条-Q1・Q2、第71条-Q1、第73条-Q1

6. LCR計算の全体像

LCRの計算は、商品別残高に係数を掛けるだけでは完結しない。実務上は、次の順序で整理することが重要である。

6-1. 計算範囲と基準日を確定する

まず、単体または連結の計算範囲、基準日、対象通貨、海外拠点、連結子法人等を確定する。連結計算では、内部取引の消去と、各拠点から資金を移動できるかという自由移動性の確認が必要である。

6-2. HQLA候補を特定する

有価証券、現金、中央銀行預け金などについて、資産区分、発行体、リスク・ウェイト、格付、市場流動性、ストレス時の価格下落、担保状況、管理体制を確認する。

この段階では、「レベル1候補」「レベル2A候補」といった銘柄属性だけでなく、基準日時点の保有ポジションが自由に処分できるかを確認する必要がある。

6-3. 30日以内のキャッシュフローを展開する

預金、借入、有価証券、貸出、レポ、デリバティブ、コミットメント、未受渡取引などについて、基準日から30日以内の支払・受取を契約条件に沿って展開する。

満期だけでなく、コール条項、プット条項、通知期間、自動継続、中途解約、期限前償還の蓋然性、オプション行使の可能性を反映する。

6-4. 各取引を規制区分へ分類する

分類は商品名だけでは決まらない。少なくとも、次の要素を組み合わせて判断する。

  • ・取引の法的形式と経済的実態
  • ・資金調達または資金運用の別
  • ・取引相手方の属性
  • ・残存期間と支払期日
  • ・担保の種類と利用可能性
  • ・預金保険の対象範囲
  • ・ファシリティの種類と取消可能性
  • ・支払または受取の確実性
  • ・相殺契約の法的有効性

6-5. 流出率・流入率を適用する

分類結果に応じて、流出率または流入率を適用する。デリバティブの時価変動、格下げ、担保価値変動など、基準日の契約キャッシュフローとは別に計測するストレス項目も加算する。

6-6. 二重計上と相殺条件を確認する

LCRには、同じ資産またはキャッシュフローを複数箇所へ重複して計上しないという原則がある。

代表例は次のとおりである。

  • ・ファシリティ未使用枠とのネッティングに用いた流動資産をHQLAにも算入しない
  • ・適格流動資産の時価に含まれるクーポンを資金流入へ重ねて計上しない
  • ・適格流動資産の償還金を資金流入へ計上しない
  • ・デリバティブの同じネッティング単位を流出と流入の双方へ計上しない
  • ・相殺は、告示上の条件や法的有効性を満たす範囲に限定する

6-7. 上限調整を行いLCRを算出する

資金流入額には75%上限を適用する。HQLAについては、各資産の算入可能率を適用した後、30日以内のレポ取引等を解消したとみなした残高を用いて、レベル2Bの15%上限とレベル2全体の40%上限を反映する。

最後に、算入可能適格流動資産を純資金流出額で除して、LCRを算出する。

6-8. 実務上の重要点

計算結果だけでなく、各残高がどの条文に基づいてどの区分へ分類されたかを説明できることが重要である。

属性が不明な取引相手方は、特定できる範囲で最も保守的に扱う。資金流出では流出率が高くなる区分、資金流入では流入率が低くなる区分を用いる。

また、会計残高、資金繰りデータ、担保管理データ、有価証券データ、格付データ、契約データの間で金額を照合し、未分類、重複、漏れがないことを確認する必要がある。

主な根拠:流動性比率告示第2条から第73条、Q&A第3条-Q2・Q3、第27条-Q1、第35条-Q1、第71条-Q1

7. NSFRとは

7-1. NSFRの意味

NSFR(Net Stable Funding Ratio、安定調達比率)は、銀行の資産およびオフバランス取引に対し、それを支えるために必要な安定した資金調達が確保されているかを確認する指標である。

基本式は次のとおりである。

NSFR = 利用可能安定調達額(ASF)÷ 所要安定調達額(RSF)

海外営業拠点を有する銀行について、連結NSFRおよび単体NSFRは100%以上であることが求められる。

7-2. LCRとの違い

LCRは、30日以内に発生する資金流出入と、短期間で現金化できる資産を計測する。

NSFRは、基準日時点の資産・負債・資本・オフバランス取引を、安定性、残存期間、相手先、流動性、処分制約などに応じて分類する。したがって、NSFRは「今後1年間の全キャッシュフローをそのまま積み上げる計算」ではない。

7-3. なぜ期間構造を見るのか

長期貸出や流動性の低い資産を、短期の市場調達だけで賄うと、短期調達を継続できなくなった際に大きな資金不足が生じる。

NSFRは、長期または流動性の低い資産ほど多くの安定調達を必要とし、短期で流出しやすい負債ほど安定調達として認める割合を低くすることで、過度な短期調達依存を抑制する。

主な根拠:流動性比率告示第74条から第78条、BCBS NSFR規則文書

8. ASF

8-1. ASFとは

ASF(Available Stable Funding、利用可能安定調達額)は、銀行の負債と資本のうち、一定期間にわたり安定的に利用できると規制上認められる金額である。

負債・資本の帳簿額へ、安定性に応じた利用可能安定調達算入率を乗じて計算する。代表的な算入率は100%、95%、90%、50%、0%である。

8-2. 資本

普通株式等Tier1資本(損失吸収力の高い中核的な自己資本)とその他Tier1資本は、原則として100%のASFとなる。

Tier2資本(劣後債などを中心とする補完的な自己資本)については、Tier2資本の基礎項目から、基準日から1年を経過する前に弁済期が到来する部分を控除した額に、100%の算入率を適用する。

したがって、自己資本比率規制上Tier2資本に算入されているという事実だけでは、全額がNSFR上100%のASFになるとは限らない。残存1年未満の部分は、100%区分から除外した上で、残存期間等に応じた他の区分を検討する必要がある。

8-3. 預金

安定預金のうち、要求払または残存1年未満のものには95%、準安定預金のうち、要求払または残存1年未満のものには90%の算入率が適用される。中小企業等預金についても、所定の条件の下で同様の取扱いとなる。

同じ要求払預金であっても、リテール・中小企業等預金か、事業法人や金融機関からの預金かにより、ASF算入率は異なる。

8-4. 市場性調達

基準日から満期までの期間が1年以上の負債または資本は、原則として100%のASFとなる。

残存6か月以上1年未満の資金調達には、相手先や項目に応じて50%の算入率が適用される。金融機関や中央銀行からの残存6か月未満の資金調達は、原則として0%である。

金融機関等以外からの短期調達には50%となる区分があるが、預金、オペレーショナル預金、中央政府等からの調達などには個別の規定があるため、相手先属性と商品属性を併せて判断する。

8-5. 残存期間

NSFRでは、原則として契約上の残存期間を用いる。元本を分割返済する商品は、契約上の返済スケジュールに沿って元本を期間帯へ配分する。

コールオプションやプットオプションが組み込まれた商品は、権利行使主体、市場の償還期待、レピュテーショナルリスク(市場の期待に反する行動によって信用が損なわれるリスク)、価格算定モデルによる期待償還年限などを考慮する。

したがって、システム上は最終満期日だけを管理するのでは不十分である。元本返済スケジュール、次回コール日、オプション保有者、期限前償還の期待、契約上の延長権などが必要になる。

8-6. 相手先属性

同じ残存期間の負債であっても、個人、中小企業、事業法人、金融機関、中央銀行、中央政府、公共部門など、資金提供者の属性によってASF算入率が異なる。

属性が不明な場合は、特定できる範囲でASF算入率が最も低くなるように保守的に扱う。

主な根拠:流動性比率告示第79条から第86条、Q&A第82条-Q1からQ3、第83条-Q1・Q2、第85条-Q1、第86条-Q1からQ3

9. RSF

9-1. RSFとは

RSF(Required Stable Funding、所要安定調達額)は、資産やオフバランス取引を維持するために必要と規制上みなされる安定調達額である。

資産等の帳簿額へ、流動性、残存期間、相手先、信用リスク、担保・処分制約などに応じた所要安定調達算入率を乗じて計算する。代表的な算入率は0%、5%、15%、50%、65%、85%、100%である。

9-2. 現金・有価証券

現金、日本銀行等への預け金、一定の中央銀行向け短期債権、処分上制約のないレベル1資産には、原則として0%のRSF算入率が適用される。

処分上制約のないレベル2A資産には15%、レベル2B資産には50%が適用される。

流動資産に該当しない上場株式や残存期間1年以上の有価証券のうち、所定の信用条件を満たすものには85%、それ以外の有価証券や資産には100%となる場合がある。

9-3. 貸出

金融機関等への貸出と、金融機関等以外への貸出では、RSF算入率の体系が異なる。

金融機関等への残存6か月未満の貸出やレポ取引は、担保や処分制約に応じて0%または15%となり、残存6か月以上1年未満は50%となる。

金融機関等以外への残存1年未満の貸出は、処分上制約がなければ50%となる区分がある。残存1年以上の貸出は、標準的手法によるリスク・ウェイトが35%以下であれば65%、35%を超える場合は85%となる。

正常な回収が十分に見込まれない貸出金等には、100%のRSF算入率が適用される。

9-4. 担保と処分上制約

NSFRでは、資産そのものの種類だけでなく、どの期間その資産を処分できないかが重要である。

処分上制約が1年以上続く資産には、原則として100%のRSF算入率が適用される。処分上制約が6か月以上1年未満の場合は、処分上制約がない場合の算入率との関係により、50%または本来の算入率を適用する。処分上制約が6か月未満であれば、原則として資産本来の算入率を用いる。

差入担保の満期がレポ取引の満期より短い場合でも、取引継続のために担保差替えが必要となるため、処分上制約期間は原則としてレポ取引の年限に基づいて判断する。

9-5. デリバティブ

デリバティブ資産とデリバティブ負債は、法的に有効な相対ネッティング契約の単位など、告示上の単位で再構築コストを計算する。

デリバティブ資産がデリバティブ負債を上回る部分には100%のRSF算入率が適用される。また、デリバティブ取引等に関連して預託した当初証拠金や清算基金には、原則として85%が適用される。

さらに、デリバティブ負債の算定に用いる一定の額の5%相当額も、100%のRSF算入率を適用する項目として計上される。

デリバティブ資産から受入変動証拠金を控除するためには、現金または処分上制約のないレベル1資産であること、分別管理されていないこと、日次評価、通貨の一致、同一の法的に有効なネッティング契約などの要件を満たす必要がある。一方、デリバティブ負債の算定では、差し入れた変動証拠金を第80条の方法に従って控除するため、資産側と負債側で要件が同一ではない。

9-6. オフバランス項目

オフバランス項目(貸借対照表に全額が資産・負債として計上されていない契約上または偶発的な義務)も、RSFの対象となる。

与信ファシリティおよび流動性ファシリティの未使用枠には、原則として5%のRSF算入率が適用される。流動性ストレス時に取消可能なファシリティは0%または3%、信用保証は2%、その他主要な偶発事象は内部の流動性リスク管理区分に応じて設定した率を用いる。

LCRでは30日以内に利用可能な部分を中心に計測するが、NSFRのファシリティ未使用枠には、30日を超える日に顧客が利用できる部分も含まれる。

主な根拠:流動性比率告示第87条から第100条、Q&A第87条-Q1、第91条-Q1からQ4、第94条-Q1、第95条-Q1・Q2、第96条-Q1からQ3、第97条-Q1、第98条-Q1からQ5、第99条-Q1、第100条-Q1

10. LCRとNSFRの違い

LCRとNSFRの主な違いは次のとおりである。

項目LCRNSFR
対象期間30日間のストレス期間おおむね1年間を念頭に置いた資産・調達構造
主に見るリスク短期の資金流出に耐えられるか長期・非流動的な資産を安定調達で支えているか
分子算入可能適格流動資産利用可能安定調達額(ASF)
分母30日間の純資金流出額所要安定調達額(RSF)
中心となるデータ30日以内の契約キャッシュフロー、HQLA、担保貸借対照表、残存期間、相手先、処分制約、オフバランス
預金の見方30日間に流出すると想定する割合安定した調達として認める割合
貸出の見方30日以内の回収額と流入率残存期間、相手先、リスク・ウェイト等に応じたRSF
有担保取引30日以内の借換え能力低下を計測現金債権・債務、残存期間、担保の処分制約を計測
コミットメント30日以内の引出しを想定した流出率未使用枠等にRSF算入率を適用

10-1. 同じ取引でも扱いが異なる理由

LCRとNSFRは、同じ取引の異なる側面を測定している。

例えば、30日以内に満期を迎えるレポ取引は、LCRでは担保の種類に応じた借換え能力の低下を計測する。NSFRでは、レポ取引から生じる現金債権・債務、残存期間、相殺条件、差入資産の処分上制約を計測する。

また、30日以内に回収予定の貸付金は、LCRでは回収の確実性と取引相手方に応じた資金流入率を適用する。NSFRでは、残存期間、取引相手方、リスク・ウェイト、処分上制約に応じてRSFを計算する。

適格流動資産の償還は、LCRでは分子との二重計上を避けるため資金流入率0%であるが、NSFRでは基準日時点の資産として、その種類や処分上制約に応じたRSFを計算する。

このため、システム上も「LCR区分」と「NSFR区分」を一つのコードへ単純に統合するのではなく、共通の基礎データから、それぞれの規制ロジックで判定する構造が適している。

主な根拠:流動性比率告示第2条から第101条
AddWisteria Labのシステム実務の視点

11. システムでは何を管理するのか

11-1. システム化の目的

流動性比率規制のシステム対応で重要なのは、最終的な比率を計算することだけではない。

各取引がなぜその区分になったのか、どのデータを用いたのか、どの条文・Q&A・内部ルールに基づくのか、基準日時点で再現できることが重要である。

そのため、システムには「残高集計機能」だけでなく、属性付与、契約キャッシュフロー展開、担保関係の追跡、ルール判定、相殺・上限調整、会計との照合、証跡管理が必要になる。

11-2. 必要となる主なデータ

(1)商品・取引データ

  • ・預金、貸出、有価証券、借入、レポ、デリバティブ、ファシリティなどの取引種類
  • ・契約上の元本、残高、時価、通貨
  • ・約定日、受渡日、満期日、次回返済日
  • ・分割返済スケジュール
  • ・要求払、通知期間、自動継続、中途解約条件
  • ・コール、プット、延長権などのオプション条件
  • ・支払または受取の確定状況

(2)取引相手方データ

  • ・個人、中小企業等、事業法人等、金融機関等、中央銀行、中央政府、公共部門などの属性
  • ・健全性監督対象の金融機関であるか
  • ・ファンド、特別目的事業体などの区分
  • ・預金保険の対象および保護額
  • ・国、地域、海外拠点との関係
  • ・関連当事者、連結対象、内部取引の区分

(3)有価証券・発行体データ

  • ・証券種類、発行体属性、保証主体
  • ・リスク・ウェイト
  • ・個別格付、債務者信用力格付、短期格付
  • ・格付機関、依頼格付か否か、格付基準日
  • ・劣後性、転換権などの商品構造
  • ・市場で広く活発に取引されているか
  • ・過去のストレス期における価格下落または担保掛目変動
  • ・株価指数の構成銘柄か
  • ・HQLA候補区分

(4)担保データ

  • ・差入または受入の別
  • ・所有資産、受入担保、借入有価証券の別
  • ・担保の銘柄、時価、契約上の担保掛目
  • ・担保として実際に使用されている額
  • ・超過担保、未提供担保
  • ・分別管理の有無
  • ・売却、再担保、差替えの可否
  • ・担保プールと個別取引の対応関係
  • ・処分上制約の終了日

(5)デリバティブ・相殺契約データ

  • ・取引単位、契約単位、法的に有効な相対ネッティング契約単位
  • ・担保契約の有無
  • ・当初証拠金と変動証拠金の区分
  • ・信用極度額、最小引渡担保額などの契約条件
  • ・格下げ時の追加担保条項
  • ・担保差替権
  • ・過去の担保授受実績
  • ・ストレスシナリオ計算に必要な感応度または評価データ

(6)会計・自己資本データ

  • ・貸借対照表科目、帳簿価額、時価
  • ・デリバティブ資産・負債
  • ・レポ取引の現金債権・債務
  • ・普通株式等Tier1、その他Tier1、Tier2の基礎項目
  • ・自己資本の調整項目
  • ・貸倒引当金
  • ・オフバランス残高

(7)組織・連結データ

  • ・単体、連結の対象法人
  • ・本店、支店、海外拠点
  • ・法域、通貨
  • ・内部取引と外部取引
  • ・連結消去の対象
  • ・資産または現金を移動できる範囲

(8)規制ルールデータ

  • ・告示、Q&A、内部方針の適用開始日
  • ・HQLA算入率、流出率、流入率、ASF算入率、RSF算入率
  • ・判定条件と優先順位
  • ・上限、相殺、二重計上排除の条件
  • ・ルール改定履歴

11-3. どの単位で判定するか

流動性比率規制では、すべてを同じ単位で判定することはできない。主な判定単位は次のように分かれる。

  • ・HQLA:銘柄だけでなく、保有ポジション、口座、担保利用状況などを反映した資産単位
  • ・預金:口座、預金者、名寄せ後残高、預金保険保護部分などの単位
  • ・貸出:契約または返済キャッシュフロー単位
  • ・レポ:個別取引、取引相手方、最終清算日、担保プールなどの単位
  • ・デリバティブ:取引単位、法的に有効な相対ネッティング契約単位、担保契約単位
  • ・ファシリティ:契約、未使用枠、取引相手方、利用可能期間の単位
  • ・NSFRの資産・負債:貸借対照表計上単位と契約上の期間帯を組み合わせた単位
  • ・連結計算:法人、拠点、法域、通貨、内部取引消去の単位

例えば、社債のHQLA区分は銘柄属性だけで判定できるが、最終的に適格流動資産へ算入できるかは、その保有分が担保として使用されているか、流動性管理部署が現金化できるかというポジション単位の情報が必要である。

また、Tier2資本のNSFR判定では、自己資本比率規制の集計額だけでなく、個々の資本調達手段または元本返済部分の残存期間を把握する必要がある。

11-4. 処理の基本順序

システム処理は、概ね次の順序で構成すると整理しやすくなる。

  1. 基準日時点の残高・時価・契約情報を固定する
  2. 商品、相手先、証券、格付、担保、会計情報を付与する
  3. 契約キャッシュフローを必要な期間帯へ展開する
  4. LCRまたはNSFRの規制区分を判定する
  5. 各算入率を適用する
  6. 相殺、二重計上排除、構成上限、処分制約を反映する
  7. 法人、拠点、通貨、単体・連結の単位で集計する
  8. 会計残高、資金繰り残高、報告様式と照合する
  9. 判定理由とデータの系譜を保存する

11-5. 主な統制・検証項目

  • ・全残高が対象、対象外または保留のいずれかに分類されていること
  • ・同一資産またはキャッシュフローが二重計上されていないこと
  • ・30日、6か月、1年の期間境界が一貫して判定されていること
  • ・属性不明時の保守的な扱いが統一されていること
  • ・格付の有効日、依頼格付の有無、使用する格付順位が確認できること
  • ・担保の差入、受入、再担保、分別管理、処分制約が整合していること
  • ・相殺した取引を個別に追跡できること
  • ・単体計算と連結計算の差額を内部取引消去等で説明できること
  • ・会計残高と規制計算残高の差額を説明できること
  • ・手修正には理由、承認者、変更前後の値が残ること
  • ・規制改定時に、旧ルールと新ルールを基準日別に再現できること

11-6. システム設計上の要点

制度上の区分をそのまま一つの固定コードへ押し込むと、改正や例外処理に対応しにくくなる。

基礎データ、規制判定、係数適用、集計を分離し、同じ取引データからLCRとNSFRを別々に判定できる構造が望まれる。また、判定結果だけでなく、判定に使用した属性、適用条文、ルール版、例外理由を保存することで、報告値の再現性と検証可能性を高められる。

12. よくある論点・具体例

流動性比率規制では、商品名だけでは取扱いを決められない論点が多くある。個別論点は、本編の基本構造を前提に、Q&A形式で順次追加することが適している。

12-1. レポ・現先

確認すべき点は、資金調達か資金運用か、取引満期、差入・受入資産、担保のHQLA区分、中央銀行取引か、同一相手方との相殺条件、担保の処分制約である。

LCRでは30日以内の借換え能力低下、NSFRでは現金債権・債務と資産の処分制約を中心に見る。

12-2. デリバティブ

契約上の受払だけでなく、時価変動、追加担保、格下げ、担保価値変動、担保差替え、当初証拠金、変動証拠金を分けて管理する必要がある。

相殺単位もLCRとNSFRで無条件に同じとは限らないため、法的に有効な相対ネッティング契約と担保契約の対応関係が重要である。

12-3. ファンド出資・キャピタルコール

少なくとも、払込済みのファンド持分、未使用の出資約束枠、既に通知されたキャピタルコール、将来の分配または償還を分けて考える必要がある。

LCRでは、30日以内の支払義務が既に確定しているか、将来の請求により発生する偶発的義務かが重要である。NSFRでは、保有するファンド持分の流動性・ロックアップ期間と、将来の偶発的な資金需要を別々に検討する。

12-4. 劣後債

発行側では、自己資本比率規制上の資本区分と、NSFR上の残存期間を区別する。Tier2資本のうち残存1年未満の部分は、100%ASFの対象から除外される。

保有側では、劣後性の有無がHQLA適格性やRSF区分へ影響するため、通常の社債と同じ判定にはならない。

12-5. コミットメント

契約が与信ファシリティか流動性ファシリティか、ストレス時に取消可能か、事前通知が必要か、取引相手方が誰か、担保による控除が可能かを確認する。

LCRでは30日以内に利用可能な未使用枠、NSFRではより広い未使用枠が対象となり得るため、対象残高が一致しないことがある。

12-6. 担保

「HQLAに該当する資産であること」と「基準日時点で自由に使用できること」は別の条件である。

差入担保、受入担保、超過担保、未提供担保、分別管理資産、再担保可能資産を区別し、担保がどの取引に使用され、いつまで処分できないかを追跡する必要がある。

13. 参考:主な算入率・流出率・流入率一覧

ここでは、HQLA(High-Quality Liquid Assets、高品質流動資産。流動性比率告示上の「適格流動資産」)、資金流出、資金流入、ASF(Available Stable Funding、利用可能安定調達額)およびRSF(Required Stable Funding、所要安定調達額)の主な掛け目を一覧にする。

以下は、制度の全体像を確認するための早見表である。実際の分類は、資産・負債の種類だけでなく、取引相手方、預金保険の対象範囲、残存期間、担保、処分制約、格付、リスク・ウェイト、契約条件などによって変わる。本一覧は主要区分を示すものであり、全ての例外・特例を網羅するものではない。また、HQLAの構成上限や資金流入額の上限など、算入率・流出率・流入率とは異なる上限調整は一覧に含めていない。

13-1. HQLAの主な適格資産算入可能率

適格資産算入可能率は、要件を満たす資産の時価のうち、HQLAとして算入できる割合である。

HQLAの主な算入率
区分主な対象適格資産算入可能率
レベル1資産現金、所定の中央銀行預け金、リスク・ウェイト0%の中央政府・中央銀行等の債券など100%
レベル2A資産所定の公共部門等の債券、事業法人の社債・コマーシャルペーパー、カバードボンドなど85%
レベル2B資産:住宅ローン担保証券所定の要件を満たす住宅ローン担保証券75%
レベル2B資産:その他所定の公共部門等の債券、事業法人の社債・コマーシャルペーパー、株式など50%

上表の率を適用する前提として、各資産が告示上の定義を満たし、かつ、自由処分性、管理の適正性、自由移動性などの運用上の要件を満たす必要がある。レベル2資産全体の40%上限およびレベル2B資産の15%上限は、上表の算入率とは別の計算段階で適用する。

13-2. 資金流出の主な資金流出率

資金流出率は、30日間のストレス期間において、対象残高または支払額のうち流出すると規制上想定する割合である。

預金・ホールセール無担保調達
主な区分主な条件資金流出率
安定預金:3%特例所定の追加要件を満たす預金保険制度により保護される部分3%
安定預金:一般継続的な取引関係または日常利用口座の要件を満たし、実効的な預金保険制度により保護される部分5%
準安定預金安定預金に該当しないリテール預金10%。外貨預金等は実績に応じて10%超となる場合がある
リテール安定的定期預金30日以内の払戻しが契約上制限されるなど、告示上の要件を満たすもの0%
中小企業等預金所定の条件の下でリテール預金の区分を準用0%・3%・5%・10%
事業法人等・中央政府等からの無担保調達全額が実効的な預金保険制度により保護される預金口座20%
事業法人等・中央政府等からの無担保調達上記以外40%
適格オペレーショナル預金所定の適格業務要件、オペレーショナル預金要件、定量的基準および定性的基準を満たす部分25%。預金保険で保護される部分は3%または5%となる場合がある
その他のホールセール無担保調達上記の事業法人等・中央政府等からの調達に該当しないもの100%
負債性有価証券によるホールセール無担保調達30日以内に弁済期が到来するもの100%
有担保資金調達等
主な区分差入資産等資金流出率
有担保資金調達等レベル1資産0%
有担保資金調達等レベル2A資産15%
有担保資金調達等レベル2B資産に該当する住宅ローン担保証券25%
有担保資金調達等住宅ローン担保証券以外のレベル2B資産50%
有担保資金調達等上記以外の資産100%

中央銀行有担保資金取引、一定の中央政府・公共部門等との取引、プライム・ブローカレッジ業務などには個別の区分がある。

ファシリティ・その他の主な流出項目
主な区分取引相手方・条件資金流出率
与信ファシリティの未使用枠個人・中小企業等5%
与信ファシリティの未使用枠事業法人等、中央政府、中央銀行等、公共部門、国際開発銀行10%
与信ファシリティの未使用枠金融機関等40%
与信ファシリティの未使用枠上記以外100%
流動性ファシリティの未使用枠個人・中小企業等5%
流動性ファシリティの未使用枠事業法人等、中央政府、中央銀行等、公共部門、国際開発銀行30%
流動性ファシリティの未使用枠健全性監督対象の金融機関等40%
流動性ファシリティの未使用枠上記以外100%
ファンド・特別目的事業体等へのファシリティファンド、特別目的事業体、銀行等の資金調達に用いられる事業体100%
流動性ストレス時に取消可能なファシリティ利用時に銀行への事前通知が必要0%
流動性ストレス時に取消可能なファシリティ上記以外3%
信用保証に係る偶発的な資金流出告示上の信用保証に相当するもの2%
顧客のショート・ポジションに係る資金流出非流動資産の受入証券を顧客のショート・ポジション充足のために差し入れている場合50%
デリバティブ契約に基づく資金流出30日以内に予想される契約上の資金流出額100%
資金提供義務に基づく所要貸出額告示上の資金提供義務に該当するもの100%
その他契約に基づく主要な資金流出30日以内に発生し、流動性リスク管理上重要なもの100%

13-3. 資金流入の主な資金流入率

資金流入率は、30日以内に契約上受け取る金額のうち、資金流入として認識できる割合である。

有担保資金運用等
主な区分受入資産等資金流入率
有担保資金運用等レベル1資産0%
有担保資金運用等レベル2A資産15%
有担保資金運用等レベル2B資産に該当する住宅ローン担保証券25%
有担保資金運用等住宅ローン担保証券以外のレベル2B資産50%
有担保資金運用等上記以外の資産100%
マージン貸出適格流動資産以外の資産を担保とするもの50%
カバード・ショート・ポジションに用いる取引当該ポジションに用いられるレポ形式の取引等0%
貸付金回収・有価証券償還・その他
主な区分取引相手方・対象資金流入率
貸付金等の回収中央銀行等・金融機関等100%
貸付金等の回収上記以外の者50%
有価証券の償還適格流動資産0%
有価証券の償還適格流動資産以外の有価証券100%
デリバティブ契約に基づく資金流入30日以内に予想される受取超過額100%
金利・配当・手数料等の受取30日以内に発生するもの100%
無担保の有価証券貸出レベル1資産100%
無担保の有価証券貸出レベル2A資産85%
無担保の有価証券貸出レベル2B資産に該当する住宅ローン担保証券75%
無担保の有価証券貸出住宅ローン担保証券以外のレベル2B資産50%
無担保の有価証券貸出上記以外の有価証券0%
その他契約に基づく主要な資金流入30日以内に発生し、流動性リスク管理上重要なもの100%

純資金流出額の計算で控除できる資金流入額は、原則として資金流出額の75%が上限である。この75%は個々の資金流入率ではなく、資金流入額の合計に対して別途適用する上限であるため、上表には含めていない。

13-4. ASFの主な利用可能安定調達算入率

ASF算入率は、負債または資本の帳簿額のうち、安定した調達として認識できる割合である。

ASFの主な算入率
算入率主な負債・資本主な条件
100%普通株式等Tier1資本、その他Tier1資本、一定のTier2資本、長期の負債・資本Tier2資本は1年以内に弁済期が到来する部分を除く。その他の負債・資本は、原則として残存期間1年以上
95%安定預金要求払または残存期間1年未満。中小企業等預金も所定の条件の下で準用
90%準安定預金要求払または残存期間1年未満。中小企業等預金も所定の条件の下で準用
50%金融機関等以外からの短期調達、適格オペレーショナル預金、中央政府等からの短期調達相手先および項目に応じ、残存期間1年以内または要求払
50%金融機関等・中央銀行等からの調達、その他の負債・資本残存期間6か月以上1年未満
0%金融機関等・中央銀行等からの短期調達、デリバティブ負債等、その他の非該当項目金融機関等・中央銀行等からの調達は、原則として残存期間6か月未満

要求払または期限の定めのない負債であっても、安定預金、準安定預金、適格オペレーショナル預金などの個別区分に該当すれば、それぞれの算入率を適用する。繰延税金負債などには別途特例がある。

13-5. RSFの主な所要安定調達算入率

RSF算入率は、資産またはオフバランス取引を維持するために必要とみなされる安定調達の割合である。率が高いほど、より多くの安定調達が必要となる。

資産等に適用するRSFの主な算入率
算入率主な資産等主な条件
0%現金、中央銀行等への預け金、一定の中央銀行向け短期債権、レベル1資産レベル1資産は処分上制約がないこと。一定の金融機関等向け短期貸出・レポも含む
5%中央銀行等が特別に実施するオペレーションにより生じた中央銀行等への債権告示第92条の対象
15%レベル2A資産、金融機関等向け短期貸出・レポ、金融機関等への短期預金処分上制約がなく、貸出・レポ・預金は原則として残存期間6か月未満
50%レベル2B資産、中央銀行等・金融機関等向け貸出等、金融機関等以外への貸出等、その他の非流動資産レベル2B資産は処分上制約がないこと。貸出等は相手先に応じて残存期間6か月以上1年未満または1年未満。その他の非流動資産は、処分上制約がなく、残存期間1年未満で全額の弁済見込みが十分に高いもの
65%金融機関等以外への貸出・レポ処分上制約がなく、残存期間1年以上、リスク・ウェイト35%以下。住宅ローン債権を含む
85%金融機関等以外への貸出・レポ、当初証拠金・清算基金、一定の非HQLA有価証券、コモディティ貸出等は処分上制約がなく、残存期間1年以上、リスク・ウェイト35%超
100%デリバティブ資産の純額、自己資本の調整項目、回収見込みが十分に高くない貸出等、その他の非該当資産告示第97条の対象
オフバランス取引に適用するRSFの主な算入率
主な区分主な条件RSF算入率
与信・流動性ファシリティの未使用枠原則5%
流動性ストレス時に取消可能なファシリティ利用時に銀行への事前通知が必要0%
流動性ストレス時に取消可能なファシリティ上記以外3%
信用保証告示上の信用保証に相当するもの2%
その他主要な偶発事象1年以内に生じると見込まれるもの内部の流動性リスク管理区分に基づき設定
処分上制約がある資産への上書きルール
処分上制約の残存期間適用するRSF算入率
1年以上100%
6か月以上1年未満:本来の算入率が50%以下50%
6か月以上1年未満:本来の算入率が50%超本来の算入率
6か月未満本来の算入率

処分上制約がある資産の取扱いには、現金、中央銀行等への預け金、一定の金銭の信託、当初証拠金・清算基金、中央銀行等の特別オペレーションに係る担保などについて個別の規定がある。

13-6. 一覧を使うときの注意

  • ・最初に取引の法的形式、経済的実態、取引相手方、残存期間、担保、処分制約を確定し、その後に掛け目を適用する。
  • ・同じ商品名でも条件により区分が変わるため、商品コードだけで掛け目を固定しない。
  • ・HQLAの構成上限、LCRの資金流入額上限、相殺、二重計上の排除などは、個々の掛け目を適用した後に別途確認する。
  • ・告示改正や公式Q&Aの追加に備え、掛け目と根拠条文、適用開始日、例外条件を履歴管理する。
主な根拠:流動性比率告示第9条から第11条、第18条から第73条、第79条から第100条、および「流動性比率規制に関するQ&A」。基準時点:2026年8月16日。なお、本一覧では、HQLAの構成上限、資金流入額の上限その他の総額調整は、個々の算入率・流出率・流入率と区別している。

14. 主な公開資料

  1. 金融庁 「銀行法第十四条の二の規定に基づき、銀行がその経営の健全性を判断するための基準として定める流動性に係る健全性を判断するための基準」 平成26年金融庁告示第60号、2026年5月22日更新
  2. 金融庁 「流動性比率規制に関するQ&A」 2014年12月11日公表、2018年3月7日追加・修正、2021年3月31日追加・修正、2021年11月29日修正、2022年10月19日追加
  3. Basel Committee on Banking Supervision “Basel III: The Liquidity Coverage Ratio and liquidity risk monitoring tools” 2013年1月
  4. Basel Committee on Banking Supervision “Basel III: the net stable funding ratio” 2014年10月
  5. 金融庁 「自己資本比率規制等(バーゼル規制)について」 2026年8月16日確認
注:金融庁ウェブサイトに掲載される告示の統合版は利便性向上のために作成されたものであり、正本は官報に掲載された告示である。制度改正後に本稿を利用する場合は、最新の官報および金融庁公表資料を確認する必要がある。