店頭デリバティブの基本構造――金利スワップを中心に

相対契約、取引確認、法的相殺、担保、中央清算をつなぎ、金利スワップが約定後にどのように管理されるかを整理する

基準時点:2026年8月18日 / 作成:AddWisteria Lab
本ページは、店頭デリバティブ(OTCデリバティブ:取引所を介さず、当事者間で条件を合意するデリバティブ)の実務構造を扱う。 契約書類、取引確認、相殺、担保、中央清算、金利スワップの金利計算と取引期間中の変更に重点を置く。 実際の契約解釈、規制適用、会計処理は、準拠法、当事者属性、取引条件、基準時点により異なる。

1.店頭デリバティブとは何か

店頭デリバティブは、当事者間で想定元本、通貨、期間、受払条件、参照指標、決済方法などを合意して成立する金融契約である。 取引条件を目的に合わせやすい一方、約定した取引だけでなく、その取引へ適用する契約、相殺範囲、担保条件、清算状況を一体として管理する必要がある。

図1 店頭デリバティブ取引の全体像

相対で条件を合意した取引を、契約・担保・清算・決済・記録まで一体で管理する。

店頭デリバティブ取引の全体像。投資家・事業法人、銀行等の取引相手、相対取引の約定、CSAに基づく担保管理、相対清算または中央清算、決済・記録までの流れと、先渡取引、スワップ、オプション、信用デリバティブ、商品デリバティブ、株式デリバティブの主な商品群を示す。

店頭デリバティブは、取引所で売買する上場商品とは異なり、当事者間で条件を合意する。約定後は、契約条件に応じて担保管理を行い、相対決済または中央清算を経て、決済・記録・報告まで管理する。

図2 店頭デリバティブを支える四つの管理層

同じ取引識別番号から、取引条件、契約、担保、清算・決済へたどれることが重要である。

店頭デリバティブを支える四つの管理層取引、契約、担保、清算・決済の四つの管理層と、それぞれで保持する主要情報を示す。取引商品、想定元本、通貨、期間、受払方向、参照金利、決済条件契約基本契約、個別修正条項、取引確認書、期限前終了、法的相殺担保担保契約、変動証拠金、当初証拠金、適格担保、担保評価、差異照合清算・決済相対決済または中央清算、支払相殺、決済指図、未決済・失敗管理

店頭で成立した取引でも、要件を満たせば中央清算機関へ送られる。取引場所と清算方法は別の属性である。

ページの中心店頭デリバティブのシステム化では、個別取引だけでなく、「どの契約の下で」「どの相殺・担保単位に属し」「誰を法的相手方としているか」を追跡することが中心となる。

2.主な商品と実務の関係者

先渡取引

将来の期日に合意価格・合意レートで売買する。為替予約や金利先渡取引が代表例である。

スワップ

一定期間の受払を交換する。金利スワップ、通貨スワップ、異なる変動金利を交換するベーシス・スワップなどがある。

オプション

所定条件で取引する権利を扱う。為替オプション、スワップション、金利キャップ・フロアなどがある。

信用デリバティブ

債務不履行などの信用事由に伴う損失を移転する。クレジット・デフォルト・スワップが代表例である。

商品デリバティブ

エネルギー、金属、農産物などを参照する先渡取引、スワップ、オプションである。

株式デリバティブ

株式・株価指数を参照するスワップや店頭オプションである。配当や企業行動も条件へ影響し得る。

役割具体的な主体・公開例主な役割
取引当事者銀行、証券会社、保険会社、事業会社、ファンドなど市場リスクの調整、投資、顧客取引の仲介などを目的に取引する。
業界文書・定義国際スワップ・デリバティブズ協会(ISDA)基本契約、商品定義集、担保文書などの標準的な枠組みを提供する。
中央清算機関日本証券クリアリング機構(JSCC)対象となる円金利スワップの債務を引き受け、証拠金・決済・破綻管理を行う。
参照金利の公表・運営日本銀行、全銀協TIBOR運営機関TONA、日本円TIBORなど、変動金利計算の基礎となる指標を公表・運営する。
照合・圧縮等のサービス電子照合事業者、担保照合事業者、圧縮サービス事業者取引条件の照合、担保差異の照合、取引件数・想定元本の圧縮を支援する。
実在企業名は、公表された制度上の役割を示すための例である。特定の二社が個別取引の当事者であることを示すものではない。

3.契約書類の階層

店頭デリバティブでは、複数取引に共通する基本契約と、個々の取引条件を記録する取引確認書を組み合わせる。 ISDA基本契約を用いる場合、標準条項を当事者間で修正・選択する個別修正条項と、担保条件を定めるCSA(Credit Support Annex:担保授受に関する付属契約)を関連付けるのが一般的である。

図3 契約書類と個別取引の関係

契約書名や優先関係は締結文書によるため、標準構造を固定的に当てはめない。

契約書類と個別取引の関係ISDA基本契約を上位に、個別修正条項と担保契約、取引確認書、個別取引を階層的に関連付ける代表的な構造を示す。ISDA基本契約複数取引に共通する法的枠組み個別修正条項準拠法・通知・選択条項担保契約(CSA)担保請求・適格担保・差異処理取引確認書想定元本・日付・金利・受払方向取引001円金利スワップ取引002為替予約取引003店頭オプション
文書・階層主な役割システム上の管理
基本契約支払、表明、債務不履行、期限前終了、法的相殺などの共通枠組み。契約識別番号、版、準拠法、契約当事者、発効日、終了日。
個別修正条項標準条項に対する当事者固有の選択・修正。選択条項、修正内容、適用開始日、文書原本、承認状態。
取引確認書個別取引の元本、レート、日付、参照指標、計算方法、受払方向。取引識別番号、確認状態、照合状態、不一致項目、確定日時。
担保契約担保評価、担保請求、最低移転額、適格担保、担保掛目、差異処理。担保契約識別番号、担保対象集合、条件履歴、適格担保、紛争条項。
版管理が必要である契約を改定しても旧版を上書きせず、適用開始日・終了日と対象取引を保持する。取引日現在に、どの版の契約・担保条件が適用されたかを再現できるようにする。

4.取引成立から確認まで

  1. 取引前確認
    契約締結状況、信用限度、商品権限、清算義務、担保条件、規制上の当事者分類を確認する。
  2. 条件交渉・価格提示
    商品、想定元本、通貨、満期、レート、受払方向、日付、任意解約条件などを合意する。
  3. 約定登録
    合意した経済条件を取引管理システムへ登録し、一意の取引識別番号を付与する。
  4. 取引確認・照合
    双方の取引条件を照合し、相違点を解消して取引確認書を確定する。
  5. 清算判定
    中央清算の義務・適格性・参加経路を判定し、対象取引を中央清算機関へ送信する。
  6. 担保・決済・報告へ連携
    非清算取引は担保契約へ、中央清算取引は清算口座へ関連付け、支払予定と規制報告を生成する。
金融システム担当者の視点約定日時、システム登録日時、取引確認日時、清算機関への送信日時、受理日時を一つの「成立日」で代用しない。訂正・取消し・再送・重複排除も履歴化する。

5.法的相殺と相手方信用リスク

相手方信用リスクとは、取引価値が自社にとってプラスであるときに、相手方の破綻などによって受取額を回収できないリスクである。 複数取引を相殺できる場合、取引ごとのプラス価値を単純合計するのではなく、契約で定めた対象範囲の純額を基礎として管理できる。

支払相殺

同一日・同一通貨など、契約で定めた条件を満たす複数の支払をまとめ、差額を決済する。日常の決済件数・資金量を減らす仕組みである。

期限前終了時の一括清算

債務不履行などの際に対象取引を終了・評価し、一本の純額債権または債務へまとめる。法的有効性の確認が前提となる。

確認対象主な内容システム上の注意
契約範囲どの基本契約・取引が同じ相殺単位に含まれるか。法人、支店、契約、商品、通貨を一つの相殺フラグへまとめない。
法的有効性準拠法、相手方法域、倒産手続、契約条項、法的意見。法的意見の対象・有効日・更新日・例外を保持する。
評価方法期限前終了額、通貨換算、価格取得、計算主体。通常時価と期限前終了額の定義を分ける。
利用目的担保、信用限度、会計、自己資本比率規制など。目的ごとの相殺要件を同じ判定結果として使い回さない。
経済的に反対方向の取引があることと、法的に相殺できることは同じではない。相殺対象集合は、締結契約と法的意見に基づいて設定する。

6.担保契約と日々の担保管理

CSAは、店頭デリバティブの担保授受条件を定める文書である。 日々の時価、既存担保、契約上の基準額、最低移転額などから担保請求額を計算し、相手方との照合後に現金・証券を移転する。

従来型・既存CSAと証拠金規制対応の契約

非清算店頭デリバティブの証拠金規制が導入されても、従来から締結していたCSAが一律に終了し、同じ形式の新しいCSAへ置き換わるわけではない。 当事者間の合意により、既存CSAを改定する方法、規制対象となる変動証拠金のためのCSAを別に締結する方法、既存取引を新しい契約の対象へ含める方法などがある。 そのため、本ページでは「旧CSA」ではなく「従来型・既存CSA」と表記する。

契約区分主な役割・対象契約関係の整理システム上の管理
従来型・既存CSA当事者間で合意した信用リスク管理。規制導入前の取引や規制対象外取引を含むことがある。そのまま存続する場合と、規制対応のため改定される場合がある。契約内容により規制対象取引を含むこともある。契約目的、対象取引、基準額、最低移転額、適格担保、版、適用期間を保持する。
規制対応VM CSAVM(現在までの時価変動を反映する変動証拠金)について、証拠金規制の対象取引へ対応する。既存CSAの改定または別CSAの締結などにより対応する。文書方式を一律に決め付けない。規制対象判定、対象取引集合、適用開始日、日次計算、請求・合意・決済を関連付ける。
IM関連契約IM(破綻後の処理期間中に生じ得る価格変動へ備える当初証拠金)の計算、授受、分別管理に対応する。CSAに加え、信託設定や第三者保管などの契約が組み合わされる場合がある。計算方法、規制上の基準額、分別管理、再利用可否、信託・保管先、担保の帰属を保持する。
金融システム担当者の視点「取引相手ごとにCSAは一つ」とは限らない。基本契約、CSA、担保計算単位、規制対象判定、個々の取引の対応関係を履歴付きで管理し、どの評価額をどのCSAの担保請求へ使用したかを再現できるようにする。
主な条件平易な意味管理上の注意
変動証拠金(VM)既に生じた時価変動による現在の信用額を埋める担保。評価日、請求額、合意額、決済額、未解決差額を分ける。
当初証拠金(IM)相手方破綻後、取引を解消・再構築するまでの将来変動へ備える担保。規制対象、計算方法、基準額、分別管理、保管先を確認する。
契約上の基準額信用額が一定額に達するまで担保移転を求めない条件。規制上の当初証拠金基準額とは別概念として持つ。
最低移転額少額の担保移転を繰り返さないための最小請求単位。端数処理と分け、請求・返還の双方で条件を確認する。
適格担保契約上差し入れ可能な現金・国債など。通貨、発行体、満期、集中制限、保管場所を保持する。
担保掛目価格変動や通貨差を考慮し、市場価値から差し引く割合。市場価値、掛目、担保評価額、適用日を別項目で持つ。
担保差異時価、担保残高、請求額などが双方で一致しない状態。争いのない金額、争点、期限、担当、解決履歴を管理する。
図4 担保評価から決済まで

担保請求額と実際の決済額は同じとは限らない。

担保評価から決済まで時価評価、請求額計算、請求送受信、照合、担保決済の順に日々の担保管理が進む。時価評価対象取引集合を共通時点で評価請求額計算既存担保と契約条件を反映請求送受信金額・通貨・期限・根拠を通知照合合意または担保差異として管理担保決済現金・証券を移転し残高更新
契約と規制を分けるCSAは当事者間の契約条件である。非清算デリバティブの証拠金規制は、対象当事者・対象取引に別途要件を課す。契約に記載があることだけで規制対応済みとは判断せず、規制判定結果と適用する契約を関連付ける。

7.非清算取引と中央清算取引

店頭で約定した取引は、当初当事者間に残る非清算取引と、中央清算機関へ送られる中央清算取引に分かれる。 中央清算では、債務負担または更改により中央清算機関が双方の法的相手方となり、証拠金・決済・破綻管理の仕組みが変わる。

図5 非清算と中央清算の二つの経路

約定時の相手方と、清算受理後の法的相手方を分けて持つ。

非清算と中央清算の二つの経路非清算取引では当事者AとBが直接相手方となり、中央清算では中央清算機関が双方の法的相手方となる。非清算取引当事者A当事者B基本契約・相殺・CSA担保相対決済中央清算取引清算参加者・顧客A中央清算機関双方の法的相手方証拠金・清算・決済清算参加者・顧客B
観点非清算取引中央清算取引
法的相手方原則として当初の取引当事者。清算受理後は中央清算機関。
相殺単位基本契約と法的意見に基づく相殺対象集合。中央清算機関の規則・口座区分に基づく清算単位。
担保・証拠金CSAと適用規制に基づく変動証拠金・当初証拠金。中央清算機関の規則に基づく変動証拠金・当初証拠金など。
主な識別情報原取引、基本契約、担保契約、相殺対象集合。原取引、清算取引、中央清算機関、清算参加者、顧客・自己口座。
破綻時の管理契約上の期限前終了・一括清算・担保実行。中央清算機関の破綻管理・証拠金・清算基金等の仕組み。

8.日本の中央清算を具体的に見る

日本証券クリアリング機構(JSCC)は、所定の条件を満たす円建て金利スワップを清算対象としている。 公開されている清算対象には、TONA(無担保コール翌日物金利)を参照するOIS(翌日物金利スワップ)、日本円TIBORを参照する固定対変動スワップ、期間の異なる日本円TIBOR間やOISと日本円TIBOR間のベーシス・スワップが含まれる。

公開されている具体例内容システム化の示唆
清算対象商品円建てTONA OIS、日本円TIBORの1か月・3か月・6か月物、同一指標の期間差・OISとのベーシス・スワップ。商品名だけでなく、通貨、参照金利、期間、満期、元本形態、日数計算等で適格性を判定する。
清算参加者公開一覧には、三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行、りそな銀行、野村證券、大和証券などが掲載されている。取引当事者、清算参加者、受託清算参加者、清算委託者を別の役割として持つ。
クライアント・クリアリング清算参加者を通じて、銀行、保険会社、ファンドなどの清算委託者が利用する仕組みがある。顧客・自己口座、清算委託者、受託清算参加者、担保・証拠金の帰属を区別する。
取引圧縮JSCCはTriOptima社のtriReduceやQuantile社のサービスを利用した一括コンプレッションの実施を公表している。圧縮前取引、解約取引、置換取引、残存取引を親子関係で追跡する。
証拠金試算JSCCはOpenGamma社による試算ツールやBloomberg経由の利用例を案内している。社内試算値と中央清算機関の正式請求額を区別し、計算版・時点を保持する。
公開一覧に名称があることは、清算資格・清算委託関係など公表された制度上の立場を示す。個々の相対取引の相手方関係を示すものではない。

9.金利スワップの基本構造

金利スワップは、同一通貨の想定元本を計算の基礎として、一定期間の金利受払を交換する店頭デリバティブである。 代表的な固定対変動金利スワップでは、一方が固定金利を支払い変動金利を受け取り、もう一方が反対方向の受払を行う。通常、想定元本そのものは交換しない。

図6 固定対変動金利スワップ

想定元本は金利計算の基礎であり、同一通貨の標準的な金利スワップでは通常交換しない。

固定対変動金利スワップ当事者Aが固定金利を支払い変動金利を受け取り、当事者Bが固定金利を受け取り変動金利を支払う。当事者A固定金利を支払う変動金利を受け取る当事者B固定金利を受け取る変動金利を支払う固定金利変動金利想定元本は金利計算の基礎同一通貨の標準的な金利スワップでは通常、元本自体は交換しない

各側に、金利、日数計算、計算期間、支払頻度、休日調整などを設定する。

通貨スワップとの違い同一通貨の標準的な金利スワップでは元本を交換しない。一方、通貨スワップやクロスカレンシー・スワップでは、異なる通貨の元本交換が条件に含まれる場合がある。

10.固定金利側と変動金利側

観点固定金利側変動金利側
金利約定時に固定金利を定める。参照金利と計算方法に従って期間ごとに変動する。
主な条件固定金利、日数計算、支払頻度、休日調整。参照金利、期間、上乗せ幅、観測方法、複利方法、日数計算。
金額確定元本・日付が変わらなければ将来金額を算出しやすい。必要な金利観測が完了するまで確定しない場合がある。
主な市場データ将来の固定金利受払を割り引く曲線。将来の変動金利を推計する曲線と割引曲線。

固定払い・変動受け

固定金利を支払い、変動金利を受け取る。固定金利資産の金利特性を変動化する場合などに利用され得る。

固定受け・変動払い

固定金利を受け取り、変動金利を支払う。変動金利資産・負債の金利特性を固定化する場合などに利用され得る。

固定払い・固定受けの適否は取引単体では決まらない。貸出、債券、預金、市場調達などを含むALM(資産・負債の総合管理)上の目的から判断する。

11.TONA・OIS・日本円TIBOR

TONAは、日本銀行が公表する無担保コール翌日物金利である。 OISは、TONAのような翌日物金利を期間中に観測し、契約で定めた複利計算などにより変動金利を求めるスワップである。 日本円TIBORは、全銀協TIBOR運営機関が算出・公表する銀行間取引金利指標であり、日本円TIBORを参照する金利スワップも存在する。

TONA OIS

期間中のTONAを観測し、後決め複利などの契約方式に従って利息を計算する。観測日・参照元・複利方法が重要である。

日本円TIBORスワップ

日本円TIBORの所定期間を参照し、あらかじめ定めた金利決定日に変動金利を確定する。

ベーシス・スワップ

TONAと日本円TIBOR、または日本円TIBORの異なる期間などを交換し、必要に応じて上乗せ幅を加える。

日本円TIBORとユーロ円TIBORを混同しないユーロ円TIBORは2024年末をもって恒久的に公表停止しているが、日本円TIBORは2026年時点でも公表されている。参照金利名称、通貨、期間、公表主体、停止・代替条項を明示する。
金融システム担当者の視点参照金利名だけでなく、参照期間、金利観測カレンダー、公表元、複利方法、観測日のずらし方、過去参照日数、訂正値の取扱いを持つ。

12.銀行が利用する理由

銀行は、貸出・債券・預金・市場調達から生じる金利リスクを調整するために金利スワップを利用する。目的は相場方向への投資だけではなく、資産と負債の固定・変動構成や金利更改時期を整えることにある。

固定金利資産の変動化

固定金利を受け取る貸出・債券に、固定払い・変動受けスワップを組み合わせ、経済的な金利特性を変動金利へ近づける。

変動金利調達の固定化

変動金利で調達する負債に固定払い・変動受けスワップを組み合わせ、変動支払と変動受取をおおむね相殺して、全体を固定金利支払へ近づける。

満期帯の調整

特定年限の金利感応度が偏っている場合に、対応する年限のスワップを利用して金利リスクを配分する。

顧客取引の再調整

顧客へ提示したデリバティブの市場リスクを、他の市場取引や中央清算取引で再調整する。

方向の記載に注意:「変動金利調達を固定化する」場合、元の調達で支払う変動金利を相殺するには、一般にスワップで変動金利を受け取り固定金利を支払う組合せを考える。商品名だけでなく、元取引とスワップの受払方向を図示して確認する。

13.金利観測から支払まで

変動金利側では、計算期間、金利観測、利率・利息確定、支払を区別する。TONA OISでは期間中の日々の金利を用いるため、一つの金利値だけで支払額が決まるとは限らない。

図7 変動金利側の代表的な時間軸

休日調整、観測方法、支払までの日数は契約条件に従う。

変動金利側の代表的な時間軸計算期間開始、金利観測、計算期間終了、利率・利息確定、支払の順に変動金利側の処理が進む。計算期間開始元本・期間を確定金利観測日次または所定日の金利取得計算期間終了日数・休日調整を確定利率・利息確定複利・上乗せ幅・端数処理支払相殺・決済指図・完了確認
管理項目主な内容注意
計算期間開始日、終了日、日数計算、短期・長期の変則期間。予定日と休日調整後の日付を分ける。
金利観測参照金利、観測日、公表日時、公表元、訂正値。初回値と訂正値を上書きせず保持する。
利息計算想定元本、利率、上乗せ幅、複利方法、日数計算、端数処理。計算式と規則版を再現可能にする。
支払支払日、通貨、金額、相殺キー、決済口座、状態。予定、確定、指図済み、決済済み、失敗を区別する。

14.時価評価と主なリスク

金利スワップの時価は、固定金利側と変動金利側の将来受払を市場金利から推計し、現在価値へ換算して求める。 将来の変動金利を推計する曲線と割引曲線を分ける場合があり、担保通貨や担保契約も評価へ影響し得る。

管理対象主な内容注意
将来受払想定元本、金利、上乗せ幅、日数計算、計算期間、支払日。未確定金利と確定値を区別する。
金利曲線将来金利の推計、割引、ベーシス、担保通貨。曲線識別番号、市場基準日、構築方法、補間方法を履歴化する。
時価各受払側の現在価値、取引全体の現在価値、経過利息、各種調整。担保請求、会計、リスク管理で定義・時点が異なる場合がある。
金利感応度金利が小幅に動いた場合の価値変化、年限帯別の感応度、ベーシス感応度。変化幅、年限帯、曲線、通貨、符号定義を保持する。

市場リスク

金利水準、金利曲線の形状、異なる指標間の価格差が動くリスク。

相手方信用リスク

取引価値がプラスのとき、相手方破綻により受取額を回収できないリスク。

担保・流動性リスク

追加担保・証拠金を期限までに確保できない、または担保価値が下落するリスク。

価格連動の不一致リスク

リスク調整対象とスワップの元本、参照金利、日付、日数計算等が一致しないリスク。

モデルリスク

曲線構築、補間、評価モデル、市場データ、手作業補正の誤りによるリスク。

法務・事務リスク

契約不備、確認未了、金利取得誤り、支払失敗、担保差異、報告誤りによるリスク。

金融システム担当者の視点取引部門の時価、担保請求用時価、会計時価、規制計算用時価が同じとは限らない。評価目的、評価日時、市場データ集合、モデル版、調整内容を必須項目とする。

15.決済・証拠金・取引期間中の変更

店頭デリバティブでは、商品条件から生じる金利等の受払、信用リスクを軽減する担保・証拠金、取引終了・変更に伴う受払を分けて管理する。

処理概要主な管理項目
契約上の受払金利、オプション料、元本交換、期限前終了金など。受払識別番号、発生原因、金額、通貨、支払日、相殺、決済状態。
担保・証拠金非清算取引の担保、中央清算取引の当初・変動証拠金など。必要額、請求、合意、担保資産、決済、返還、利息。
条件変更元本、金利、日付、参照指標などを当事者合意で変更。変更前後、適用日、理由、承認、確認書、規制報告。
部分解約想定元本の一部を満期前に終了。解約元本、残存元本、解約金、適用日、親取引。
取引移管・更改当事者または債務関係を置き換える。移管元、移管先、残存当事者、原取引・新取引の関係。
コンプレッション複数取引を終了・再構成し、取引件数・想定元本を圧縮。圧縮回次、解約取引、置換取引、残存取引、差額。
期限前終了契約・合意・債務不履行などに基づき満期前に終了。終了事由、終了日、計算額、決済、法的根拠。

代表的な状態遷移

取引

条件合意登録済み確認待ち照合済み有効満期・終了

中央清算

適格性判定送信済み受理・拒否債務負担済み清算中終了

担保請求

必要額計算請求送受信合意・差異決済指図決済済み・失敗

受払

予定金額確定相殺済み指図済み決済済み・失敗

取引変更

変更依頼影響確認双方合意適用報告・後続処理更新

16.金融システム担当者が持ちたいデータと状態

データ領域主な項目主な管理上の注意
当事者法人識別番号、法人名、支店、法域、業態、規制区分、信用限度法人と取引上の役割を分け、合併・名称変更も履歴化する。
基本契約契約識別番号、契約種別、版、準拠法、当事者、発効日、終了日取引日時点で適用された契約版を再現する。
担保契約担保契約識別番号、契約区分、契約目的、版、適用開始日・終了日、対象取引集合、基準額、最低移転額、端数処理、適格担保、担保掛目従来型・既存CSA、規制対応VM CSA、IM関連契約を単純な新旧区分にせず、契約条件と規制要件を別属性で管理する。
取引・CSA対応取引識別番号、基本契約識別番号、担保契約識別番号、担保計算単位、規制対象区分、適用開始日・終了日取引日時点で適用されたCSAと担保計算単位を再現し、契約改定・対象移管の履歴を残す。
取引取引識別番号、商品区分、取引日、開始日、満期日、通貨、想定元本、相手方原取引、訂正版、清算取引、置換取引を関連付ける。
受払側支払・受取、固定金利、参照金利、参照期間、上乗せ幅、日数計算、支払頻度二つ以上の受払側を商品名へ埋め込まず、独立して持つ。
日付予定計算開始日・終了日、金利観測日、金利決定日、支払日、休日カレンダー、変則期間予定日、休日調整後日、実処理日を区別する。
参照金利指標名、観測日、公表日時、金利、公表元、訂正状態初回公表値、訂正値、取得日時、欠損時処理を保持する。
受払受払識別番号、受払側、金額、通貨、支払日、相殺キー、決済状態予定、確定、相殺、指図、決済を別状態として持つ。
評価評価目的、評価日時、時価、通貨、金利曲線集合、市場データ時点、モデル版、感応度結果だけでなく入力・モデル・手作業補正を再現する。
相殺相殺対象集合、基本契約、対象取引、通貨、法的意見の状態・有効日支払、担保、会計、規制の相殺範囲を一つにしない。
担保資産担保資産識別番号、種類、通貨、発行体、市場価値、担保掛目、担保評価額、保管先、決済状態差入れ・受入れ、所有権、再利用可否、返還義務を区別する。
担保請求請求識別番号、担保契約、請求種別、信用額、必要額、請求額、合意額、差異額、期限計算結果、通知、合意、決済、残高を別記録にする。
中央清算清算状態、中央清算機関、清算参加者、顧客・自己区分、清算口座、原取引、清算取引原相手方と清算後の法的相手方を分ける。
取引期間中の変更処理識別番号、処理種別、適用日時、変更前後、親子取引、承認状態更新後の取引だけを残さず、変更の連鎖を追跡する。
規制報告清算義務、証拠金規制対象、報告状態、固有取引識別子、固有商品識別子、提出日時取引の訂正・変更・評価・担保報告まで関連付ける。
証跡情報源、処理者、処理日時、規則版、手作業補正、承認、根拠文書誰が、何を根拠に、どの値を変えたかを再現する。
データモデル上の分離取引 ≠ 基本契約 ≠ 担保契約 ≠ 取引・CSA対応 ≠ 規制判定 ≠ 相殺対象集合 ≠ 担保対象集合 ≠ 受払側 ≠ 日付予定 ≠ 参照金利 ≠ 受払 ≠ 評価 ≠ 清算取引 ≠ 担保請求 ≠ 取引期間中の変更。
一つの取引レコードへ全項目を押し込むと、非清算・中央清算・担保・訂正・圧縮を整合的に表現しにくい。

17.規制と取引情報報告

日本の店頭デリバティブ規制には、清算集中、取引情報の保存・報告、電子取引基盤、非清算取引の証拠金などがある。 適用可否は商品名だけでなく、当事者属性、取引規模、法域、グループ内取引、信託勘定、経過措置などにより変わる。

清算集中

金融庁長官が指定する取引について、対象当事者・取引規模・適用除外を判定し、金融商品取引清算機関等へ債務を負担させる。

取引情報の保存・報告

取引、変更、終了、評価、担保などの報告項目、識別子、提出期限、訂正履歴を管理する。

非清算取引の証拠金

対象当事者・対象取引を判定し、変動証拠金・当初証拠金、担保適格性、分別管理などを管理する。

健全性規制への連携

相手方信用リスク、信用評価調整、法的相殺、担保、中央清算機関向け信用額、流動性影響へ連携する。

判定単位確認例システム上のポイント
当事者業態、登録、国内外、取引規模、グループ関係。法人属性を基準日別に保持する。
取引商品、通貨、参照金利、期間、取引日、清算適格性。商品マスタだけでなく取引条件を使って判定する。
契約・勘定信託勘定、基本契約、担保契約、グループ内取引。会計勘定・契約関係を取引へ関連付ける。
報告固有取引識別子、固有商品識別子、取引状態、評価・担保情報。初回報告と変更・取消し・訂正報告を連鎖させる。
本章は制度全体の見取り図である。具体的な義務、閾値、対象外要件、報告期限は、最新の金融商品取引法、内閣府令、告示、金融庁資料、中央清算機関規則を確認する。

18.実務例・よくある誤解

例1 固定対変動金利スワップの期間受払

想定元本10億円、固定金利年1.00%、変動金利年1.20%、計算日数90日、日数計算を実日数/365日とする単純例を考える。 固定金利額は2,465,753円、変動金利額は2,958,904円となり、固定払い・変動受け側の差額受取は493,151円となる。 各金額は1円未満を四捨五入した例であり、実際は契約上の端数処理、休日調整、支払相殺に従う。

例2 担保掛目を反映した担保評価

市場価値1億円の国債へ2%の担保掛目を適用する単純例では、担保評価額は9,800万円となる。 市場価値、担保掛目、担保評価額を同じ項目へ上書きせず、評価日・価格源とともに保持する。

例3 変動証拠金の担保請求

相手方への現在の信用額が2億5,000万円、既に受け入れた担保評価額が1億8,000万円、契約上の基準額が0円、最低移転額が1,000万円とする。 担保不足は7,000万円であり、最低移転額を上回るため、この単純例の追加請求額は7,000万円となる。 実際は端数処理、未決済担保、利息、独立担保額なども確認する。

よくある誤解

誤解整理
店頭取引は中央清算されない。相対で約定した後、対象商品・当事者・条件に応じて中央清算される取引がある。
証拠金規制への対応では、旧CSAを新CSAへ一律に置き換える。既存CSAの改定、規制対応VM CSAの別締結、既存取引を新しい契約へ含める方法などがあり、契約構成は当事者間の合意による。
CSAを締結すれば信用リスクはなくなる。担保で軽減できるが、価格変動、担保差異、決済遅延、担保価値、法務のリスクは残る。
相殺は反対取引があれば自動的に認められる。契約範囲と法的有効性の確認が必要であり、目的ごとの規制要件も異なる。
金利スワップでは想定元本を交換する。標準的な同一通貨の固定対変動金利スワップでは通常、想定元本は計算の基礎であり交換しない。
清算受理後も元の相手方へ担保を差し入れる。中央清算取引では中央清算機関・清算参加者・口座の関係に基づき証拠金を管理する。
日本円TIBORとユーロ円TIBORは同じである。別の指標である。ユーロ円TIBORは公表停止しており、日本円TIBORは2026年時点で公表されている。

19.商品別リファレンス――スワップからオプションへ

本節は、本文で確認した共通構造を個別商品へ当てはめるための参照資料である。最初からすべてを読むことを前提とせず、通常は商品名だけを表示し、必要な商品を開いて確認できる構成としている。 並び順は市場規模や名称順ではなく、前の商品で理解した受払、参照指標、状態、決済の考え方を、後の商品へ段階的に利用できる順とした。

学習順の考え方 まず、権利行使のない線形商品であるスワップを用いて、複数の受払、金利決定、元本交換、原資産収益、信用事由を順に確認する。 次に、権利とプレミアムを持つオプションへ進み、基本形、金利オプション、複合商品、条件付き商品を理解した後、二つの通貨、行使、受渡しを同時に扱う通貨オプションを最後に確認する。
段階商品前段から追加される主な論点
1金利スワップ固定・変動金利、計算期間、金利決定、定期的な受払
2翌日物金利スワップ、ベーシス・スワップ日々の金利複利計算、異なる変動金利間の差
3通貨スワップ、為替スワップ複数通貨、元本交換、期近・期先の受渡し
4株式・商品・総合収益・信用スワップ価格・配当、商品仕様、総合収益、信用事由
5オプションの基本形権利と義務、プレミアム、行使、イン・ザ・マネー等の状態
6キャップ、フロア、カラー、スワップション金利スワップの知識を利用する金利オプション
7原資産別・条件付きオプション固定額、平均値、バリア到達等の条件
8通貨オプション二通貨の方向、通貨ペア、行使時の通貨受渡し、条件付き通貨オプション
商品名だけで処理を確定しない。
同じ商品名でも、取引場所、清算方法、参照指標、計算方法、期日、決済方法、担保条件等によって業務処理は変わる。各商品は、目的、契約関係、受払、商品形態、ライフサイクル、市場・清算・決済、データ関係、実装上の注意を同じ順で説明する。実装時には契約書、商品仕様、取引所・清算機関規則、会計方針、適用規制を確認する。
A.スワップ――受払の交換を基礎から広げる
S1 金利スワップ(IRS)――固定金利と変動金利を交換する基本形
金利スワップ(IRS:Interest Rate Swap)とは
同一通貨の想定元本を計算基礎として、固定金利に基づく利息相当額と、参照金利に基づく変動金利の利息相当額を複数の計算期間にわたり交換する店頭デリバティブである。通常は想定元本そのものを交換しない。

1.商品目的と基本構造

典型的には、変動金利借入れを実質的に固定金利化する、または固定金利資産の金利感応度を調整するために利用する。原資産の借入れ・債券とIRSは別契約であり、ヘッジ対象を自動的に同一取引とみなしてはならない。

固定金利支払・変動金利受取市場金利上昇時に変動金利受取額が増える構造。変動金利負債の金利上昇リスクを抑える目的等で用いる。
固定金利受取・変動金利支払市場金利低下時に変動金利支払額が減る構造。固定金利資産の金利リスク調整等で用いる。
想定元本利息計算の基礎であり、通常は元本受渡しを行わない。元本逓減・逓増・不規則元本も契約で定め得る。
二つの受払側固定側と変動側は、支払頻度、日数計算方式、休日調整、計算期間が一致するとは限らない。

2.契約当事者、参照対象、主な受払

固定金利支払側は同時に変動金利受取側であり、相手方はその逆となる。表示上のPay/Receiveだけではどの側を指すか曖昧になるため、固定側・変動側それぞれに支払者、受取者、条件を持たせる。

図8 金利スワップの固定側・変動側と主な受払

想定元本を共通の計算基礎としつつ、固定側と変動側を別々の条件で計算する。

金利スワップの固定側と変動側 固定金利額と変動金利額の反対方向の受払、側ごとの計算条件、元本非交換を示す。 固定金利支払側変動金利を受け取る 固定金利受取側変動金利を支払う 固定側想定元本 × 固定金利 × 日数 変動側想定元本 × 参照金利 × 日数 二つの側を別々に持つ支払頻度・日数計算・休日調整想定元本は通常、実際には受け渡さない
元本交換のない通常形を示す。元本交換を伴う商品と混同しない。

3.受払計算と主要条件

固定金利額想定元本 × 固定金利 × 固定側の日数計算期間。元本予定と利率予定を期間ごとに適用する。
変動金利額想定元本 ×(参照金利+上乗せ幅)× 変動側の日数計算期間。金利決定日、参照期間、代替金利規定を反映する。
主要日付取引日、発効日、開始日、各計算期間開始・終了日、金利決定日、支払日、満期日、期限前終了日。
計算規約支払頻度、日数計算方式、休日カレンダー、営業日調整、端数期間、丸め、負の金利の扱い。
元本構造一定元本、逓減元本、逓増元本、元本予定表。元本交換の有無は別属性とする。

固定側と変動側の計算結果を先に独立して確定し、その後に同一通貨・同一決済日・同一相手方等の契約条件を確認して差額化する。差額だけを保存すると、照合差異や再計算の根拠を失う。

4.商品形態と分類軸

分類内容
固定対変動最も基本的な形。固定側と単一の変動金利側を交換する。
アモタイジング/アクレーティング想定元本が期間ごとに減少/増加する。元本予定と受払予定を関連付ける。
フォワード・スタート約定後の将来日から金利交換を開始する。取引日と発効日を分ける。
ゼロクーポン型一方または双方の支払を満期等へ集約する。通常の定期支払型と受払生成が異なる。
期限前終了権付き解除権・延長権等を含む場合は、単純IRSにオプション性が加わる。

図9 固定側・変動側の計算期間と金利決定・支払

固定側と変動側は同じ想定元本を使っても、金利決定日、計算期間、支払頻度が一致するとは限らない。

金利スワップの計算期間と金利決定・支払固定側と変動側の計算期間、変動金利決定日、支払日を二つの時間軸で示す。固定側:各期間の固定金利額固定期間1元本×固定金利×日数固定期間2元本×固定金利×日数固定期間3元本×固定金利×日数固定期間4元本×固定金利×日数変動側:期間開始前後の金利決定と支払F1金利決定F2金利決定F3金利決定F4金利決定変動期間1変動期間2変動期間3変動期間4各側の計算額を個別確定 → 契約条件に従い差額または総額決済固定側と変動側の頻度・日数計算・休日調整は一致するとは限らない
側ごとの予定を生成してから受払を対応付ける。固定側・変動側の条件を一つの共通スケジュールへ押し込まない。

5.契約から満期までの業務事象

約定後は、契約確認、必要に応じた中央清算への債務負担、各期の金利決定、受払計算、決済、日次評価、証拠金授受が並行して進む。期限前解約や取引圧縮は満期とは異なる終了事由として管理する。

6.店頭・上場、清算、決済を分ける

約定場所主としてOTC(店頭取引)。当事者間または電子取引基盤等で条件を合意する。
中央清算標準化された一定のIRSはCCP(中央清算機関)で清算される。中央清算後の相手方・取引識別を原取引と分ける。
上場商品との違い金利先物やスワップ先物等は取引所商品であり、個別のIRSと同一ではない。
決済通常は同一通貨の金銭決済。差額決済の範囲、決済口座、カットオフを契約・清算条件で確認する。

『店頭約定』と『相対清算』は同義ではない。店頭で成立したIRSが中央清算される場合があるため、約定場所と清算方法を別属性で管理する。

7.金融システムで持つデータと関連

データ群主な項目
取引基本取引識別番号、原取引識別、清算後識別、相手方、取引主体、通貨、約定日、発効日、満期日。
受払側固定・変動区分、支払・受取、参照金利、利率、上乗せ幅、元本予定、頻度、日数計算方式、休日調整。
金利決定決定対象期間、決定日、参照値、情報源、公表・訂正状態、代替処理、確定者・確定日時。
計算・決済両側計算額、差額、通貨、支払日、決済口座、決済状態、取消し・再計算関連。
イベント部分解約、圧縮、移管、契約変更、期限前終了、満期、対象元本、効力日、根拠。

8.実装時に混同しやすい事項

  • 想定元本を元本受渡額とみなさない。
  • 固定側・変動側の支払方向を単一のPay/Receive項目だけで表さない。
  • 参照金利の値と、契約で参照する金利定義・代替規定を同一データにしない。
  • 両側の計算額を保存せず差額だけを記録しない。
  • 部分解約後に元取引を単純上書きせず、終了元本と残存元本の関連を残す。
  • 中央清算された取引を上場取引と誤認しない。

9.利用場面と確認資料

借入れ・債券・預貸金等の金利構成を調整するとき、IRS単体の条件だけでなく、ヘッジ対象との対応、利払い日、元本予定、参照金利の不一致を確認する。

個別案件での確認事項
取引確認書、基本契約、2021 ISDA金利デリバティブ定義、参照金利管理文書、清算機関の商品・証拠金・決済規則、社内の評価・会計方針を確認する。
次につながる知識:一つの変動金利を一回の決定値で扱う構造を確認した後、日々の翌日物金利を複利で積み上げる翌日物金利スワップへ進む。
S2 翌日物金利スワップ(OIS)――日々の翌日物金利を複利で積み上げる
翌日物金利スワップ(OIS:Overnight Index Swap)とは
固定金利に基づく利息相当額と、計算期間中の日々の翌日物金利を契約所定の方法で複利計算した変動金利額を交換する金利スワップである。日本円ではTONA(Tokyo Overnight Average rate:無担保コール翌日物金利)が代表的な参照金利となる。

1.商品目的と基本構造

OISでは一つの決定日に公表された期間金利を使うのではなく、計算期間内の営業日ごとの金利と適用日数を積み上げる。このため、最終金利だけでなく日次観測明細を再現できることが商品処理の中心となる。

固定側約定時に定めた固定金利を想定元本と計算期間へ適用する。
翌日物金利側日々の参照金利を各日の適用日数とともに複利で積み上げる。
後決め期間終了近くまで変動側金額が確定しないため、金利観測と支払準備の時間を確保する規約が重要となる。
計算証跡休日をまたぐ適用日数、欠測、訂正、観測日のずらしを日次明細で追跡する。

2.契約当事者、参照対象、主な受払

OIS取引の当事者は固定側と翌日物複利側を交換する。参照金利管理では、レート値だけでなく、どの日に適用する値か、何日分を複利へ組み込むかを保持する。

図10 翌日物金利スワップの日次観測と期間受払

翌日物金利の観測明細から複利計算して期間変動額を作る。

翌日物金利スワップの日次観測と期間受払 日々の翌日物金利を契約所定の方法で複利計算し、期間変動額と固定額を比較する。 変動側:日々の翌日物金利を積み上げる r1r2r3r4rn 契約所定の複利計算適用日数・観測シフト・休日分を反映 期間変動額日次明細から算出期間固定額固定金利から算出
最終金利だけでは訂正時に再計算できないため、日次観測と適用日数を保持する。

3.受払計算と主要条件

日次複利各適用日の翌日物金利と日数割合を用いて日次係数を作り、計算期間全体で連乗する。契約所定の丸めを各段階へ適用する。
観測規約観測期間のずらし、参照日の先行、支払日の後ずらし、金利固定期間等。名称だけで処理せず確認書の定義を使う。
休日処理休日カレンダー、翌営業日までの適用日数、年末年始等の連続休日を反映する。
公表・訂正速報・確報、公表時刻、未公表、訂正値、代替値の採否と確定時刻を管理する。
主要日付計算期間、観測期間、各観測日、金利適用日、カットオフ、支払日、満期日。

期間金利または最終受払額だけを受領して保存すると、休日連続日数や訂正値による差異を追跡できない。日次係数、累積係数、採用値、除外値を保持する。

4.商品形態と分類軸

分類内容
標準OIS固定側と翌日物複利側を定期的に交換する。
単一期間型開始日から満期までを一つの計算期間として満期に決済する。
観測期間シフト型金利観測期間と利息計算期間を所定日数ずらす。日付対応表が必要となる。
ルックバック/支払遅延等支払準備日数を確保するための規約。具体的意味は契約定義ごとに確認する。
フォワード・スタート将来の政策金利経路等を参照するため、将来日から開始する。

図11 日々の翌日物金利から期間複利金利・受払額を作る

各観測日の金利と適用日数から日次係数を作り、契約規約に従って期間全体を累積する。

翌日物金利の日次観測から期間複利金利まで観測日ごとの金利と適用日数から日次係数を作り、累積して期間金利と受払額を確定する。日次観測と適用日数r11日r21日r33日r41日r51日r6休日分等日次係数1+ri×適用日数÷年基準採用値・丸め・版を保持期間累積係数日次係数を契約規約で連乗観測シフト等を反映期間受払額期間金利へ換算元本・日数を適用未公表・訂正・休日例外は対象観測日から再計算最終金利だけでなく日次観測・日次係数・累積係数を関連付ける
休日をまたぐ適用日数、未公表、訂正、観測シフトが日次係数以降の全計算へ波及する。

5.契約から満期までの業務事象

OISでは、計算期間開始時に観測スケジュールを確定し、各営業日に公表値を取り込み、期間終了時に複利結果を確定する。単なる一回のフィキシング処理ではない。

6.店頭・上場、清算、決済を分ける

約定場所主としてOTC。標準化された条件を用いる場合でも個別取引は店頭で成立する。
中央清算一定の通貨・期間・商品仕様は金利スワップ清算の対象となり得る。清算機関の最新仕様を確認する。
上場商品との違い翌日物金利先物等は取引所商品であり、日々の値洗い・限月を持つためOISそのものではない。
決済同一通貨の金銭決済。固定側・変動側計算額と差額を保持する。

OISという商品名だけで清算可否を決めず、通貨、参照金利、満期、開始日、支払頻度等を清算機関の商品要件と照合する。

7.金融システムで持つデータと関連

データ群主な項目
契約条件参照翌日物金利、固定金利、元本、観測・計算期間、複利規約、日数計算方式、丸め、支払日。
観測予定観測日、金利適用日、適用日数、営業日区分、休日カレンダー、カットオフ対象。
日次実績公表値、情報源、公表状態、採用値、訂正値、日次係数、累積係数、処理版。
計算結果期間複利金利、固定側額、変動側額、差額、確定状態、再計算関連。
決済・例外支払日、決済状態、未公表理由、代替規定、差額調整、承認者、証跡。

8.実装時に混同しやすい事項

  • OISを『一回の変動金利決定を行うIRS』として実装しない。
  • 観測日、金利適用日、計算期間日を同一日付にまとめない。
  • 休日の翌日物金利を一日分として扱わない。
  • 最終複利金利だけを保存して日次明細を捨てない。
  • 速報値と確報値、訂正値を上書きだけで処理しない。
  • TONAという名称だけで複利規約を自動決定しない。

9.利用場面と確認資料

政策金利や翌日物資金調達に連動する金利リスクを管理するとき、固定金利との交換だけでなく、日次公表データの取得・訂正・休日処理まで業務要件に含める。

個別案件での確認事項
取引確認書、2021 ISDA金利デリバティブ定義、参照金利管理者の公表要領、日本銀行の無担保コールO/N物レート資料、清算機関の商品仕様を確認する。
次につながる知識:一つの翌日物参照金利を積み上げる構造を踏まえ、二つの異なる変動金利を交換するベーシス・スワップへ進む。
S3 ベーシス・スワップ――異なる変動金利を交換する
ベーシス・スワップ(Basis Swap)とは
同一通貨を基本として、異なる参照金利、異なる金利期間、異なる計算規約等を持つ二つの変動金利額を交換するスワップである。両指標間の価値差を調整するため、一方の受払側へスプレッド(上乗せ幅)を付すことが多い。

1.商品目的と基本構造

調達と運用で参照指標や金利期間が異なる場合、その差が変動するベーシスリスクを移転する。二つの変動側を独立した受払側として保持することが最重要である。

指標ベーシス異なる参照金利同士を交換する。
期間ベーシス同じ系列でも3か月物と6か月物等、参照期間が異なる金利を交換する。
スプレッド通常は片側へ加算するが、符号・適用側・単位を明示する。
スケジュール差二つの側で金利決定日、頻度、日数計算方式が異なり得る。

2.契約当事者、参照対象、主な受払

ベーシス・スワップは『変動金利』という共通項目を一つ持つだけでは表現できない。受払側A・Bそれぞれへ参照指標、期間、スプレッド、日付規約を関連付ける。

図12 ベーシス・スワップの二つの変動金利側

二つの変動側は、参照指標だけでなく金利期間や支払頻度も異なり得る。

ベーシス・スワップの二つの変動金利側 異なる参照指標とスプレッドを持つ二つの変動金利側を、別条件として示す。 変動側A支払者指標Aを支払う変動側B支払者指標Bを支払う 変動側A参照指標A + スプレッド 変動側B参照指標B 指標・金利期間・決定日・支払頻度は側ごとに異なり得る
側Aと側Bを一つの共通スケジュールへ押し込まない。

3.受払計算と主要条件

側A計算想定元本 ×(参照金利A+側Aスプレッド)× 側A日数割合。
側B計算想定元本 ×(参照金利B+側Bスプレッド)× 側B日数割合。
スプレッド適用側、加算・減算、ベーシスポイント等の単位、有効期間、段階変更を保持する。
日付各側の金利決定日、計算期間、支払日、休日カレンダー。支払頻度が異なる場合の差額化条件を確認する。
指標停止各参照金利ごとに代替指標・スプレッド調整・発効条件を管理する。

二つの変動側を単一の金利項目へ上書きすると、指標・期間・スプレッドの対応を失う。受払側を子明細として管理し、側ごとの計算結果を残す。

4.商品形態と分類軸

分類内容
異指標型異なる金利指標間を交換する。
異期間型同一系列の異なる期間の金利を交換する。
翌日物対ターム物日次複利の翌日物金利側と、期間開始前等に決まるターム金利側を交換する。
元本変動型元本予定が変化する。両側の元本が一致するか個別に確認する。
通貨間ベーシス異なる通貨を伴うクロスカレンシー・ベーシスは、通貨スワップとして二通貨元本・決済も管理する。

図13 二つの変動側で金利期間・決定頻度が異なる例

変動側AとBは、参照指標だけでなく金利期間、決定日、支払頻度も異なり得る。

ベーシス・スワップの二つの変動側変動側AとBが異なる決定頻度・支払頻度を持つ例を示す。変動側A:短い金利期間・高い決定頻度A1A2A3A4A5A6変動側B:長い金利期間・低い決定頻度B期間1指標B+スプレッドB期間2指標B+スプレッドB期間3指標B+スプレッド両側を一対一対応させず、側別スケジュールから支払対応を作る参照指標・金利期間・決定日・支払頻度・スプレッド適用側を個別管理
日付が近い受払を機械的に一対一対応させず、各側スケジュールと契約上の差額化条件を使う。

5.契約から満期までの業務事象

支払頻度が異なるベーシス・スワップでは、片側の複数受払と他側の一受払が対応することがある。日付が同じというだけで機械的に一対一対応させない。

6.店頭・上場、清算、決済を分ける

約定場所主としてOTC。指標・期間・スプレッドを個別に合意する。
中央清算一定の標準商品は金利スワップ清算の対象となり得るが、指標組合せ等に依存する。
上場商品との違い異なる金利先物の組合せ取引は市場リスク上似ても、単一のベーシス・スワップ契約ではない。
決済同一通貨の金銭決済が基本。両側の支払日・頻度が異なる場合の相殺条件を確認する。

商品名が同じでも、指標組合せ、テナー、スプレッド適用側により別商品同然となる。清算可否・評価モデル・市場データ曲線も条件に依存する。

7.金融システムで持つデータと関連

データ群主な項目
受払側A/B側識別、支払・受取、参照指標、期間、決定日、頻度、日数計算方式、スプレッド、元本予定。
指標値対象指標、適用期間、公表値、情報源、確定状態、代替値、訂正履歴。
計算結果側別利息額、期間、通貨、支払日、差額、丸め、再計算版。
評価各指標の割引・予測曲線、曲線版、評価日、感応度。
イベント指標停止、代替発効、契約変更、部分解約、期限前終了。

8.実装時に混同しやすい事項

  • 変動側を一つしか持てないデータ構造にしない。
  • スプレッドの符号と適用側を商品名から推測しない。
  • 金利期間と支払頻度を同じ概念として扱わない。
  • 二つの指標の代替規定を共通化し過ぎない。
  • 通貨間ベーシスを同一通貨ベーシスと同じ受払生成にしない。

9.利用場面と確認資料

資産と負債、調達と運用、ヘッジ対象とヘッジ手段の参照金利が異なる場合に、残る指標差リスクを調整する。

個別案件での確認事項
取引確認書、参照金利ごとの定義・公表要領、代替金利規定、2021 ISDA金利デリバティブ定義、清算機関の商品要件を確認する。
次につながる知識:二つの金利側を独立管理する考え方に、異なる通貨と元本交換を加えた通貨スワップへ進む。
S4 通貨スワップ(CCS)――異なる通貨の元本と金利を交換する
通貨スワップ(CCS:Cross-Currency Swap)とは
異なる二通貨の元本と、各通貨に基づく利息相当額を一定期間交換するスワップである。開始時の元本交換、期間中の利息交換、満期時の元本再交換を行う形が代表的だが、元本交換を省く契約もある。

1.商品目的と基本構造

外貨調達や異通貨の資産・負債構成の調整に利用する。金利スワップへ通貨・元本受渡し・為替決済を加えた商品であり、二通貨の受払側を分ける。

開始時元本契約為替レート等で対応付けた二通貨元本を交換する。
期間中利息各通貨の固定/変動金利額を反対方向に交換する。
満期元本契約条件に従い元本を再交換する。開始時レートを使う形等がある。
通貨間ベーシス一方の変動側へスプレッドを付し、通貨間の資金調達差等を反映する場合がある。

2.契約当事者、参照対象、主な受払

通貨A側・通貨B側は、それぞれ通貨、元本、固定/変動、参照金利、頻度、日数計算方式を持つ。元本受払と利息受払は種類を分ける。

図14 通貨スワップの二通貨元本・利息交換

開始時、期間中、満期時で受払の種類と通貨が変わる。

通貨スワップの二通貨元本・利息交換 開始時元本、期間中利息、満期時元本の二通貨受払を時系列で示す。 開始時通貨A元本通貨B元本 期間中通貨A利息:固定または変動通貨B利息:固定または変動 満期時通貨A元本を再交換通貨B元本を再交換
元本交換を省略する契約では、該当する受払を生成しない。

3.受払計算と主要条件

元本通貨A元本、通貨B元本、対応為替レート、開始時交換の有無、満期再交換の有無、元本予定。
利息各通貨側の固定/変動区分、参照金利、スプレッド、頻度、日数計算方式。
為替契約元本レート、評価用スポット・フォワード、元本再交換レート、換算通貨。
日付開始時決済日、各通貨計算期間・支払日、満期元本日、各通貨休日カレンダー。
決済各通貨の決済口座、支払指図、カットオフ、同時決済・決済リスク削減手段。

通貨換算後の単一差額だけを作るのではなく、実際に支払・受取する通貨別元本・利息を保持する。評価上の正味現在価値と決済上の受払を分ける。

4.商品形態と分類軸

分類内容
固定対固定両通貨側とも固定金利。
固定対変動一方が固定、他方が変動。
変動対変動両通貨側とも変動。クロスカレンシー・ベーシスを含む。
元本交換なし利息差等だけを交換する。通常形から元本受払を機械的に生成しない。
元本変動型為替レートや予定表等により通貨別元本が変化する場合がある。

図15 開始時元本・期間中利息・満期元本を分けた時間軸

代表的な通貨スワップでは、二通貨の受払が開始時、期間中、満期時に異なる種類で発生する。

通貨スワップの開始時・期間中・満期時の受払開始時元本交換、期間中の二通貨利息、満期時元本再交換を時間軸で示す。開始時期間中満期時元本交換通貨A ⇄ 通貨B交換なし契約もある利息交換通貨A利息 ⇄ 通貨B利息固定/変動・頻度は側別元本再交換通貨A ⇄ 通貨B契約為替条件を適用二通貨 × 元本/利息 × 複数日付の受払予定評価通貨へ換算した時価とは別に、実決済通貨・金額・口座・決済状態を保持
元本交換を行わない契約もある。図の基本形をそのまま受払生成せず、契約属性から各イベントを作る。

5.契約から満期までの業務事象

二通貨の決済日が休日調整でずれる場合や、利息支払頻度が異なる場合がある。通貨別受払の確定・指図・決済結果を親契約へ関連付ける。

6.店頭・上場、清算、決済を分ける

約定場所主としてOTC。通貨、期間、元本交換、金利条件を個別に合意する。
中央清算清算可否は商品・通貨・機関仕様に依存する。非清算取引も多く、最新要件を確認する。
上場商品との違い通貨先物や金利先物の組合せは、個別の元本・利息交換を持つCCSそのものではない。
決済二通貨の資金決済。CLS等の仕組みを利用する場合でも契約受払と決済サービス利用を別属性にする。

通貨スワップと為替スワップは名称が似るが、期間中の定期利息交換と契約構造が異なる。商品コードと受払パターンの両方で識別する。

7.金融システムで持つデータと関連

データ群主な項目
通貨側側識別、通貨、支払・受取、元本、固定/変動、参照金利、スプレッド、頻度、日数計算方式。
元本交換開始時・満期時区分、通貨別金額、契約為替レート、決済日、元本交換有無、状態。
利息受払計算期間、金利決定、通貨別計算額、支払日、差額化可否。
決済通貨別口座、指図識別、照合、同時決済区分、カットオフ、決済結果、失敗理由。
評価・イベント評価通貨、各通貨曲線・為替、期限前終了額、部分解約、残存元本。

8.実装時に混同しやすい事項

  • 評価通貨へ換算した額だけを決済額として扱わない。
  • 元本交換を必須として商品名から自動生成しない。
  • 開始時元本と満期元本を同一受払種類にまとめない。
  • 二通貨の決済状態を単一フラグにしない。
  • 通貨スワップを為替スワップの長期版だけと説明しない。
  • CCSという略語の社内定義を確認せず他商品コードへ流用しない。

9.利用場面と確認資料

外貨資金の調達・運用や異通貨資産負債のヘッジでは、通貨別元本・利息・決済口座を資金繰りへ正しく連携する。

個別案件での確認事項
取引確認書、ISDA基本契約・金利定義、通貨決済規約、参照金利資料、担保契約、清算機関・決済サービスの商品要件を確認する。
次につながる知識:複数通貨の元本・利息を交換する構造を踏まえ、期近と期先の二回の為替売買を一体で管理する為替スワップへ進む。
S5 為替スワップ(FXスワップ)――期近と期先の為替売買を組み合わせる
為替スワップ(FX Swap)とは
二通貨について、期近日に一方向の受渡しを行い、同時に合意した期先日に反対方向の受渡しを行う二つの為替取引を一体として約定する商品である。一般に期間中の定期利息交換は行わず、期近レートと期先レートの差へ金利差等が反映される。

1.商品目的と基本構造

短期外貨資金の調達・運用や為替持高の期日調整に用いる。期近と期先は別々の決済レッグだが、価格・利用目的・残高管理上は一つの親取引へ関連付ける。

期近レッグ近い決済日に通貨Aを売り通貨Bを買う等の現物受渡しを行う。
期先レッグ将来の決済日に反対方向の通貨受渡しを行う。
スワップ・ポイント期近レートと期先レートの差を表す。符号・表示単位・通貨ペア順に注意する。
資金取引為替持高を大きく変えずに一定期間だけ一方の通貨資金を調達する構造となり得る。

2.契約当事者、参照対象、主な受払

為替スワップは二つの為替レッグから成る。一方のレッグだけを訂正・取消し・決済失敗とする場合でも、親取引との関係を維持する。

図16 為替スワップの期近・期先二レッグ

期近と期先で二通貨の売買方向が反対になる。

為替スワップの期近レッグと期先レッグ 期近で交換した二通貨を、期先に反対方向で交換する二レッグ構造を示す。 期近レッグ通貨Aを売り、通貨Bを買う二通貨を同じ受渡日に交換 期先レッグ通貨Aを買い戻し、通貨Bを売る期近と反対方向・別の為替レート 期間中の定期利息交換は通常ない二つの為替取引を一体の契約として管理する
通貨スワップの期間利息交換とは異なる二レッグ構造である。

3.受払計算と主要条件

期近条件期近日、通貨A/B金額、期近レート、売買方向、決済口座。
期先条件期先日、通貨A/B金額、期先レート、期近と反対の売買方向、決済口座。
価格表示通貨ペア順、単位通貨、相手通貨、スワップポイントの桁・符号・加減算規則。
日付取引日、期近日、期先日、各通貨休日、共同営業日、ロール規則。
決済二通貨の指図、同時決済区分、ネッティング、カットオフ、決済失敗と再決済。

期先レートを期近レートとスワップポイントから導く場合も、約定値・計算値・表示値を区別する。通貨ペアの反転表示で符号や乗除を取り違えない。

4.商品形態と分類軸

分類内容
スポット・フォワード型期近を通常のスポット日、期先を将来日に設定する代表形。
フォワード・フォワード型期近・期先の双方が将来日となる。
短期型翌日物・翌々日物等の短い期間。休日・カットオフの影響が大きい。
ロール既存期先と新たな期近・期先を組み合わせて期日を延長する。原取引終了と新取引を区別する。
ノンデリバラブル型契約通貨を現物受渡しせず、参照レートにより所定通貨で差金決済する形。通常の現物決済型と分ける。

図17 通貨スワップと為替スワップの契約レッグ比較

いずれも二通貨を扱うが、通貨スワップは期間中利息、為替スワップは期近・期先二レッグが中心となる。

通貨スワップと為替スワップの構造比較通貨スワップの元本・利息交換と、為替スワップの期近・期先二レッグを上下で比較する。通貨スワップ(CCS)開始時元本二通貨を交換期間中利息各通貨で複数回満期元本二通貨を再交換為替スワップ(FXスワップ)期近レッグ通貨A売り・通貨B買い等期先レッグ期近と反対方向の二通貨受渡し期間中の定期利息交換は通常ない期間の長短ではなく、契約レッグと受払種類で商品を区別するどちらも参照・約定・決済条件に例外があるため商品名から自動補完しない
期間の長短だけで区別せず、元本・利息・期近・期先という受払種類と契約構造を確認する。

5.契約から満期までの業務事象

取引後は期近指図、期近決済、期先の時価・資金予定、期先指図・決済へ進む。期近片側のみ完了する等の例外状態を扱う。

6.店頭・上場、清算、決済を分ける

約定場所主としてOTC外国為替市場。相対、電子取引基盤、仲介等で成立する。
中央清算一般の現物受渡し型FXスワップでは相対決済が中心。適用商品・制度は最新要件を確認する。
上場商品との違い通貨先物は取引所で標準化された単一の期先契約であり、期近・期先二レッグのFXスワップではない。
決済二通貨の元本決済。CLS等を利用する場合でも取引約定と決済サービスを分けて記録する。

BISの市場統計上も、FXスワップは通常、スポット取引と後日のアウトライト・フォワードを組み合わせる商品として通貨スワップと区別される。

7.金融システムで持つデータと関連

データ群主な項目
親取引取引ID、相手方、通貨ペア、取引日、期近日、期先日、売買方向、ロール関連。
レッグ期近/期先、通貨別支払・受取、金額、レート、決済日、決済口座、指図ID。
価格単位通貨、相手通貨、期近レート、スワップポイント、ポイント単位、期先レート、丸め。
決済照合、同時決済区分、ネッティング、カットオフ、決済状態、失敗理由、再決済。
イベント取消し、訂正、ロール、期限前終了、補償金、元取引・新取引関連。

8.実装時に混同しやすい事項

  • 期近と期先を関連のない二取引として保存しない。
  • 親取引の一方向だけから期先レッグの方向を誤生成しない。
  • スワップポイントを金利や金額として扱わない。
  • 通貨ペア反転時に単純な符号反転だけで済ませない。
  • 期近決済済みを取引全体の決済済みとしない。
  • FXスワップと通貨スワップを期間の長短だけで区別しない。

9.利用場面と確認資料

短期外貨資金繰りでは、期近・期先の日付別、通貨別の元本額が直接資金予定へ影響するため、両レッグを完全に連携する。

個別案件での確認事項
取引確認書、FX・通貨オプション定義、通貨ペア・休日規約、決済指図・ネッティング契約、CLS等の決済要件を確認する。
次につながる知識:二通貨元本の交換から、原資産の価格変動や配当等を金銭で交換する株式スワップへ進む。
S6 株式スワップ――株式の価格収益・配当と資金調達側を交換する
株式スワップ(Equity Swap)とは
個別株式、株式バスケット、株価指数等の価格変動および契約により配当相当額を、固定金利・変動金利または他の株式収益等と交換する店頭デリバティブである。現物株式の所有権そのものを移転する契約とは限らない。

1.商品目的と基本構造

現物を直接売買せずに株式収益へのエクスポージャーを得る、保有株式の価格変動を移転する、資金調達条件と組み合わせる等に利用する。参照銘柄と契約当事者を分ける。

価格収益型期首・期末等の参照価格差を交換する。
総合収益型価格変動に配当等を加える。S8のTRSでは株式以外も含めて一般化する。
資金調達側固定/変動金利とスプレッド等を支払う。
コーポレートアクション分割、併合、合併、公開買付け、上場廃止等で数量・価格・終了条件が変わる。

2.契約当事者、参照対象、主な受払

契約当事者間では株式収益と資金調達側を交換する。参照銘柄の発行会社は通常、スワップ契約の当事者ではない。

図18 株式スワップの株式収益側と資金調達側

価格収益、配当、企業行動調整を株式収益側へ反映する。

株式スワップの株式収益側と資金調達側 価格収益、配当、企業行動調整から株式収益側を作り、資金調達側と交換する。 価格変動期末価格-期首価格配当等税・費用・調整 株式収益側価格収益+配当相当額+企業行動調整 株式収益受取側総収益を受け取る資金調達側受取側金利+スプレッドを受け取る 現物株式の所有権移転とは別。負の株式収益では受払方向が反転する
現物株式の法的所有と、スワップで移転する経済的収益を分ける。

3.受払計算と主要条件

株式収益数量または想定元本 ×(評価価格-基準価格)に配当等を加減し、契約の乗数・為替換算を反映する。
資金調達側想定元本 ×(固定/変動金利+スプレッド)× 日数割合。
評価条件初期価格、最終・中間評価日、参照市場、価格情報源、平均化、終値・出来高加重平均等。
配当実配当・予定配当、税・費用控除、配当落ち日・支払日、特別配当の扱い。
調整株式分割・併合、権利発行、合併、上場廃止、市場障害、受渡不能等。

価格収益と配当収益、資金調達側、手数料を別明細で計算する。純額だけでは収益源泉やコーポレートアクション調整の根拠を失う。

4.商品形態と分類軸

分類内容
個別株式一銘柄を参照する。銘柄固有イベントを処理する。
株価指数指数値と乗数等を参照する。指数再構成と銘柄イベントを区別する。
バスケット複数銘柄とウェイトを契約で定める。構成版・リバランスを管理する。
価格収益/総合収益配当等を含めるかで受払内容が変わる。
一方向/双方向収益が負の場合の支払方向、損失下限、早期終了条件等を確認する。

図19 価格収益・配当・企業行動調整から株式収益側を作る

株式収益側を一つの差額にせず、価格、配当、企業行動調整の構成要素へ分ける。

株式収益側の構成要素と資金調達側価格収益、配当、企業行動調整から株式収益を作り、資金調達側と交換する。価格収益評価価格-基準価格配当等税・費用・特別配当企業行動調整分割・合併・上場廃止等株式収益側価格収益+配当等+契約所定の調整株式収益負なら支払方向が反転資金調達側固定/変動金利+スプレッド
株式収益が負になる場合は支払方向が反転する。資金調達側と構成要素別計算結果を残してから純額化する。

5.契約から満期までの業務事象

契約開始後、初期価格確定、日次評価、配当・企業行動処理、定期リセット、受払、満期へ進む。市場障害時の価格決定や延期も契約規定に従う。

6.店頭・上場、清算、決済を分ける

約定場所主としてOTC。参照銘柄、数量、評価・配当条件を個別合意する。
中央清算一般に相対管理が中心。対象となるサービスの有無は市場・商品ごとに確認する。
上場商品との違い株価指数先物・上場オプションは標準化された取引所商品であり、個別の配当・資金調達側を持つ株式スワップとは異なる。
決済現金決済が基本だが、株式受渡しや終了時処理は契約条件を確認する。

参照銘柄の市場が上場市場でも、株式スワップ自体が上場取引になるわけではない。参照市場と約定場所を分ける。

7.金融システムで持つデータと関連

データ群主な項目
参照対象銘柄/指数/バスケットID、市場、通貨、数量、乗数、ウェイト、構成版。
価格・配当初期価格、評価価格、情報源、平均化、配当額、税・費用、確定状態。
資金調達側元本、固定/変動金利、スプレッド、期間、日数計算方式、支払日。
受払価格収益、配当収益、金利、手数料、為替換算、純額、決済状態。
企業行動事由、発表・基準・効力日、調整係数、旧新数量・価格、終了条件、決定根拠。

8.実装時に混同しやすい事項

  • 参照株式の発行会社を取引相手方とみなさない。
  • 価格収益型と総合収益型を同じ受払計算にしない。
  • 配当込み指数と配当相当額を二重計上しない。
  • 銘柄マスタを企業行動で上書きし、契約時点の条件を失わない。
  • 参照市場が取引所であることを理由にスワップを上場商品としない。

9.利用場面と確認資料

現物保有を伴わず株式収益へ連動する場合、所有権・議決権・配当受領とスワップ上の経済的受払を明確に分ける。

個別案件での確認事項
取引確認書、2002 ISDA株式デリバティブ定義、参照市場・指数規則、企業行動通知、評価・配当・市場障害の社内手順を確認する。
次につながる知識:株式という金融資産の価格・配当を参照する構造を、品質・数量単位・受渡地点を持つ商品スワップへ広げる。
S7 商品スワップ――固定価格と変動商品価格を交換する
商品スワップ(Commodity Swap)とは
原油、電力、ガス、貴金属、農産物等について、固定価格と市場価格または指数等に連動する変動価格の差を契約数量へ適用して受け払う商品デリバティブである。現金差額決済が代表的だが、契約により現物受渡しを伴う。

1.商品目的と基本構造

将来の仕入価格・販売価格を実質的に固定する、在庫や予定取引の価格リスクを調整するために用いる。商品名だけでなく、品質、場所、時間帯、数量単位を特定する。

固定価格支払側市場価格が上昇すると変動価格受取が増え、仕入価格上昇を相殺し得る。
固定価格受取側市場価格下落時の販売価格低下を相殺し得る。
価格平均一日価格ではなく月間・期間平均を使うことが多く、観測明細が必要となる。
現物条件同じ商品でも品質、地点、受渡月、時間帯が違えば別の経済価値となる。

2.契約当事者、参照対象、主な受払

契約当事者は固定価格と変動価格の差を交換する。参照市場・価格公表者・現物供給者は通常、スワップ契約当事者とは別である。

図20 商品スワップの仕様・価格観測・価格交換

商品仕様を確定してから価格観測と数量計算を行う。

商品スワップの仕様・価格観測・価格交換 商品仕様と価格源を特定し、観測価格または平均価格を固定価格と交換する。 契約対象を特定商品仕様・受渡地点・受渡月・数量単位原油・電力・金属等では価格だけで商品を特定できない 価格を確定P1P2P3P4Pn 変動価格または期間平均価格源・時刻・欠測・訂正・負価格を管理 固定価格支払側変動価格支払側
品質、地点、受渡月、数量単位が異なる価格を混在させない。

3.受払計算と主要条件

差額(変動価格-固定価格)× 契約数量 × 単位換算等。契約方向により符号を適用する。
商品仕様商品種類、等級・品質、受渡地点、受渡月・時間帯、価格通貨、数量単位。
価格観測価格情報源、公表時刻、観測日、単一値・算術平均、欠測・訂正・負価格の扱い。
数量固定数量、日次・月次予定、実績連動、許容幅、単位換算、熱量・密度等の換算条件。
決済現金差額または現物受渡し、支払日、現物指図、受渡し不能・代替価格。

価格と数量の単位を別々に正規化し、元の契約単位も保持する。原油のバレル、電力のMWh等を共通数値へ変換するだけでは契約証跡にならない。

4.商品形態と分類軸

分類内容
固定対変動代表的な商品スワップ。
平均価格型期間内の複数観測価格を平均して変動価格を作る。
指数差・ロケーション差異なる指標・地点価格の差を交換する。商品版ベーシス取引。
現金決済型現物を移転せず差額を金銭決済する。
現物関連型現物受渡しまたは供給契約と連動する。デリバティブと現物契約を分けて関連付ける。

図21 価格観測・平均・商品仕様・数量から差額決済へつなぐ

変動価格だけでなく、商品仕様、数量、単位換算を合わせて初めて支払額が決まる。

商品スワップの価格観測・平均・数量・決済日々の価格観測を平均し、商品仕様と数量を適用して固定価格との差額を決済する。価格観測列P1P2P3P4P5P6P7変動価格単一値/期間平均欠測・訂正・負価格商品仕様・数量品質・地点・受渡月単位・数量・換算固定価格との差額(変動-固定)×数量方向・通貨を適用現金差額決済差額・通貨・支払日現物関連決済品質・地点・指図・受渡し
現金差額型と現物関連型では、最後の決済処理が異なる。価格源が取引所でも商品スワップ自体が上場とは限らない。

5.契約から満期までの業務事象

評価期間中に価格観測と数量確定を繰り返し、期間終了後に平均・差額を確定する。現物型では指図、品質確認、数量差異も加わる。

6.店頭・上場、清算、決済を分ける

約定場所商品スワップは主としてOTC。商品・場所・期間を個別合意する。
中央清算一部標準商品に清算サービスがある市場もあるが、商品・地域ごとに確認する。
上場商品との違い商品先物・上場オプションは限月・数量・受渡条件が取引所で標準化され、個別OTCスワップとは別商品である。
決済現金差額または現物。現物契約、倉庫・輸送・受渡指図等との連携が必要な場合がある。

参照価格が取引所価格でも、商品スワップ自体はOTCである場合がある。参照市場と約定場所を区別する。

7.金融システムで持つデータと関連

データ群主な項目
商品定義商品、品質、地点、期間・時間帯、価格通貨、数量単位、換算規則。
観測観測予定日、価格情報源、公表値、採用値、欠測・訂正、平均対象、観測版。
数量契約数量、日次・月次予定、実績数量、許容差、単位換算、確定状態。
計算固定価格額、変動価格額、差額、平均値、換算係数、手数料、税等。
決済・障害現金/現物、支払・受渡日、口座・場所、指図、受渡不能、市場障害、代替価格。

8.実装時に混同しやすい事項

  • 商品名だけで品質・場所・数量単位を補完しない。
  • 価格の通貨と決済通貨を同一と決めつけない。
  • 平均値だけを保存して観測明細を捨てない。
  • 負価格をゼロへ丸めない。
  • 現物供給契約と商品スワップを同一契約として扱わない。
  • 取引所価格参照を理由にOTCスワップを上場商品としない。

9.利用場面と確認資料

実際の仕入・販売量とヘッジ数量の差、参照価格と実取引価格の差を残余リスクとして把握し、数量・場所・品質を業務要件に含める。

個別案件での確認事項
取引確認書、2005 ISDA商品デリバティブ定義、価格公表者の仕様、取引所・受渡市場規則、現物契約、負価格・市場障害条項を確認する。
次につながる知識:原資産価格と資金調達側を交換する考え方を、株式以外の債券・貸出債権等へ広げる総合収益スワップへ進む。
S8 総合収益スワップ(TRS)――参照資産の総合収益と資金調達側を交換する
総合収益スワップ(TRS:Total Return Swap)とは
債券、貸出債権、株式、指数、ポートフォリオ等の参照資産から生じる価格変動、利息、配当等を合わせた総合収益と、固定金利・変動金利およびスプレッド等の資金調達側を交換する取引である。参照資産の法的所有権を移さずに経済的リスクを移転できる。

1.商品目的と基本構造

総合収益受取側は参照資産を保有せずに経済的収益へ連動でき、総合収益支払側は資産を保有したまま市場・信用リスクの一部を移転し得る。CDSと異なり、信用事由発生時だけでなく通常時から価格・利息等を継続的に交換する。

総合収益受取側正の価格収益・利息・配当を受け、負の総合収益は支払う。
総合収益支払側参照資産を保有する場合もあるが、保有はTRSの成立要件とは限らない。
資金調達側想定元本へ固定/変動金利とスプレッドを適用する。
信用要素参照資産の信用悪化は価格下落等を通じ総合収益へ反映される。CDSの信用事由補償とは構造が異なる。

2.契約当事者、参照対象、主な受払

TRSでは参照資産の所有権、保管、利息・配当の法的受領者と、契約上の経済的受払を区別する。参照資産の実保有情報は別データとして関連付ける。

図22 総合収益スワップの参照資産収益と資金調達側

参照資産の複数の収益要素を総合収益として資金調達側と交換する。

総合収益スワップの参照資産収益と資金調達側 参照資産の価格変動、利息、配当、回収等を総合収益としてまとめ、資金調達側と交換する。 参照資産債券・貸出債権・株式・指数・ポートフォリオ 価格変動利息・配当回収・損失 総合収益側期間中の全経済収益を合算 総合収益受取側負の収益なら支払う資金調達側受取側金利+スプレッド
負の総合収益や信用悪化は、受払方向と終了処理へ反映する。

3.受払計算と主要条件

総合収益価格変動+利息・配当+元本回収等を契約条件に従い合算し、費用・税・回収金等を調整する。
資金調達側想定元本 ×(固定/変動金利+スプレッド)× 日数割合。
参照資産銘柄・債権・指数・バスケット、数量・額面、優先順位、通貨、満期、価格情報源。
リセット評価日ごとに総合収益と資金調達側を決済し、基準価格・想定元本を更新する条件。
信用・回収デフォルト、償還、元本削減、回収、債務再編、売却等の扱い。

価格収益、利息・配当、元本回収、資金調達金利、手数料を構成要素別に保存する。最終純額だけではCDS・株式スワップ・証券貸借等との照合ができない。

4.商品形態と分類軸

分類内容
単一資産TRS一銘柄・一債権等を参照する。
バスケット/ポートフォリオ複数資産と構成比率を参照する。構成版・追加削除を管理する。
指数TRS債券・株式等の指数総合収益を参照する。指数規則に従う。
資金移転を伴う型/伴わない型の経済性前払いや担保・資金移転を伴う設計もあるため、名称だけで資金受払を決めない。
期限前終了・資産処分連動参照資産の売却・信用悪化等で終了条件が発動する形がある。

図23 総合収益スワップとCDSの受払構造の違い

TRSは通常時から期間収益を交換し、CDSは通常時のプレミアムと信用事由発生時の補償を分ける。

総合収益スワップとCDSの支払構造の違い左にTRSの通常時からの総合収益交換、右にCDSの通常プレミアムと信用事由時補償を比較する。TRS:通常時から収益を交換収益受取側金利側を支払収益支払側収益側を支払各リセット期間価格変動+利息・配当・回収負の総合収益は支払方向が反転通常時から継続的に受払信用悪化は価格・回収・終了処理へ反映CDS:信用事由補償保護買い手プレミアムを支払保護売り手補償義務信用事由発生時判定・最終価格・適格債務現金または現物で補償決済通常時はプレミアム、事由時に補償TRSの期間収益計算とは別ロジック
いずれも信用リスクと関係し得るが、トリガー、通常時受払、損失反映、決済ロジックは別である。

5.契約から満期までの業務事象

初期価格・構成を確定した後、価格、利息・配当、元本変動、資金調達金利を各期間へ割り当て、リセット・決済する。

6.店頭・上場、清算、決済を分ける

約定場所主としてOTC。参照資産、収益範囲、資金調達条件を個別合意する。
中央清算相対管理が中心。清算サービスの対象は商品・市場ごとに確認する。
上場商品との違い参照資産や指数が上場していてもTRS契約自体は通常OTC。先物・ETF等とは別商品である。
決済定期的な金銭決済が基本。参照資産受渡し・売却連動は契約条件を確認する。

TRSは信用デリバティブとして分類される場合も、株式等の資産クラスで分類される場合もある。商品分類軸と参照資産分類軸を分ける。

7.金融システムで持つデータと関連

データ群主な項目
参照資産資産ID、発行体・債務者、銘柄、通貨、額面・数量、優先順位、満期、構成ウェイト。
収益構成基準・評価価格、価格収益、利息・配当、元本回収、費用・税、為替換算。
資金調達側元本、参照金利、スプレッド、期間、日数計算方式、支払日。
リセット・決済評価日、期間収益、純額、新基準価格・元本、決済状態。
イベント信用事象、償還、期限前返済、売却、構成変更、回収、期限前終了、根拠。

8.実装時に混同しやすい事項

  • 参照資産の発行体・債務者をTRS相手方とみなさない。
  • TRSをCDSと同じ信用事由時だけの支払商品にしない。
  • 参照資産の所有権移転を必須と決めつけない。
  • 価格収益と利息・配当・回収を純額だけで保存しない。
  • 指数・バスケット構成を最新値で過去取引へ上書きしない。
  • 資産クラス分類と商品種類分類を一項目へ混在させない。

9.利用場面と確認資料

債券・貸出債権等の経済的収益を移転する場合、参照資産のライフサイクルとTRSの受払・リセットを同期させる。

個別案件での確認事項
取引確認書、2007 ISDAマスター債券TRS文書等の適用定義、参照資産契約・指数規則、価格・回収情報、担保・期限前終了条項を確認する。
次につながる知識:通常時から総合収益を交換するTRSと対比し、信用事由発生時に補償を行うクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)へ進む。
S9 クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)――参照組織の信用リスクを移転する
クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)とは
CDSは、参照組織に契約所定の信用事由(クレジットイベント)が発生した場合の経済的損失を、プロテクションの買い手から売り手へ移転する信用デリバティブである。 買い手は通常時に定期的なプレミアム等を支払い、売り手は信用事由発生時に契約条件に従って補償する。 名称に「スワップ」を含むが、二つの市場金利を交換する金利スワップとは異なり、通常時のプレミアム側と、信用事由に条件付けられた補償側から構成される。
契約当事者CDS契約の当事者はプロテクションの買い手と売り手である。
参照組織信用状態を参照される企業、金融機関、国等であり、通常はCDS契約の当事者ではない。
参照債務参照組織の債務のうち、取引の優先順位や条件を特定するために参照する債務である。
受渡対象債務(受渡適格債務)現物決済等で受渡し可能となる要件を満たす債務であり、参照債務そのものに限定されるとは限らない。

1.契約当事者、参照組織、参照債務の関係

プロテクションの買い手は信用リスクの補償を受ける側、売り手は補償を提供する側である。参照組織は、信用事由の発生有無を判断する対象ではあるが、通常、CDS契約へ参加せず、プレミアムや補償金を受け払わない。 また、CDSの想定元本と、買い手が実際に保有する債券・貸出残高は別の概念である。CDS取引は、買い手と参照組織の間に債権債務関係がない場合にも成立し得るため、保有債権の存在や残高を商品名から補完してはならない。

図24 CDSの契約当事者と参照組織・参照債務の関係

CDS契約の当事者と、信用状態を参照される主体を分けて見る。

CDSの契約当事者と参照組織・参照債務の関係プロテクション買い手と売り手がCDSを契約し、参照組織と参照債務を参照する関係を示す。プロテクション買い手信用リスクを移転する側ヘッジまたは信用リスク取引プロテクション売り手信用リスクを引き受ける側信用事由発生時に補償CDS契約想定元本・期間・プレミアム信用事由・決済方法ISDA定義等を契約で参照通常時:プレミアム等信用事由発生時:条件に従う補償参照組織企業・金融機関・国等CDS契約の当事者ではない信用状態を参照信用状態を参照参照債務優先順位・取引条件等を特定
参照組織はCDS契約の外側にいる。参照組織の倒産情報等が存在しても、それだけで個々のCDS取引の信用事由認定が完了するわけではない。
用語意味システム上の分離
プロテクション買い手プレミアム等を支払い、信用事由発生時の補償を受ける側取引主体から見た買い・売りと、受払方向を保持する
プロテクション売り手プレミアム等を受け取り、信用事由発生時に補償する側原取引相手、清算後相手方、参照組織と混同しない
参照組織信用状態を参照する企業、金融機関、国等取引相手マスタではなく、参照対象として取引へ関連付ける
参照債務取引の優先順位や適用条件等を特定するために参照する債務債務識別番号、発行体、優先順位、通貨、満期等を保持する
受渡対象債務現物決済等で引渡し可能な要件を満たす債務参照債務と別に、受渡適格性、数量、選択、引渡結果を管理する
信用事由契約で定める破産、支払不履行、条件変更等の事由一般的な企業状態と、契約上の認定結果を分ける

2.CDSの主な商品形態

「CDS」を一つの商品コードだけで表すことはできない。少なくとも、参照対象の単位、損失を負担する範囲、契約の標準性を分ける必要がある。

商品形態参照対象と支払構造主な追加管理項目
シングルネームCDS一つの企業、金融機関、国等を参照する参照組織、取引種類、優先順位、参照債務、信用事由
インデックスCDS複数の参照組織から構成される標準的な指数を参照する指数名、シリーズ、版、構成銘柄、構成比率、除外・承継、指数係数
バスケット型CDS契約で選定した複数の参照組織を参照する構成組織、構成比率、信用事由の波及範囲、残存想定元本
エヌ・トゥ・デフォルト複数の参照組織のうち、契約で定めた何番目の信用事由で補償が発生するかを定める信用事由発生順位、既発生件数、対象除外、終了条件
トランシェ型指数等の損失を一定の開始点・終了点で区切った範囲について負担する損失開始点、損失終了点、累積損失、残存トランシェ元本

3.通常時と信用事由発生時の受払

CDSの受払は、通常時のプレミアム・レッグ(プレミアム側の受払)と、信用事由発生時のプロテクション・レッグ(補償側の受払)に分ける。 標準化された取引では定期的な固定率の支払に加えて、約定時の市場水準との差を調整する一括払額が発生する場合がある。したがって、契約レート、定期プレミアム、一括払額、発生時までの経過分を別項目として保持する。

図25 CDSの通常時と信用事由発生時の受払

通常時の定期支払と、信用事由に条件付けられた補償を分ける。

CDSの通常時と信用事由発生時の受払上段に通常時の定期プレミアム、下段に信用事由発生時の判定と補償を示す。通常時:信用事由が発生していない期間買い手プロテクションを保有売り手信用リスクを引き受ける定期プレミアム等支払予定日ごとに金額確定・決済信用事由がなければ、原則として補償支払は発生せず満期へ進む信用事由発生時:契約上の認定から決済へ参照組織破産・支払不履行等信用事由認定契約・決定手続に従う決済条件確定最終価格・適格債務等補償決済売り手から買い手へ信用事由発生日までの経過プレミアム、補償額、決済日を別々に確定する現金決済・現物決済・入札による最終価格等は契約条件に従う
プレミアム決済が完了していても、信用事由判定や補償決済が完了したことにはならない。受払種類と業務状態を分けて管理する。
受払主な内容主な管理項目
定期プレミアム想定元本、契約率、計算期間等に基づく定期的な支払契約率、日数計算方式、計算期間、支払頻度、支払日、金額、状態
一括払額標準的な定期支払率と約定時の市場水準との差等を調整する約定時受払受払方向、金額、通貨、支払日、算定根拠、決済状態
市場提示値・約定価格CDSスプレッド(信用リスクの取引水準を年率換算した指標)、価格、一括払率等市場の提示方法、契約上の固定率、実際の支払金額を分け、情報源と時刻を保持する
経過プレミアム信用事由発生日等までの期間に対応するプレミアム起算日、終了日、信用事由日、日数、確定額、補償額との相殺有無
補償支払信用事由発生後、契約所定の決済方法で支払う金額・額面決済方法、最終価格、想定元本、補償額、受渡債務、決済日、状態

4.信用事由の判定と取引の時間軸

信用事由は、企業マスタ上の「倒産」やニュース情報を直接CDS取引へ反映するものではない。契約に取り込まれた定義、対象となる参照組織・債務、事由の発生日、通知、決定機関等に従い、各取引への適用を判定する。 代表例には破産、支払不履行、債務の条件変更等があるが、適用される信用事由は取引種類、参照組織、契約条件によって異なる。金融機関や国を参照する取引では、政府介入、支払拒絶・支払停止等の固有条件が関係する場合もある。

図26 CDSの契約から信用事由・決済までのライフサイクル

取引成立後は定期支払を続け、信用事由の有無によって満期または補償決済へ分岐する。

CDSのライフサイクル約定、照合、定期プレミアム、信用事由監視、判定、決済または満期の流れ。契約・通常処理1約定条件合意2照合・確認契約・報告・清算申込3定期支払プレミアム予定生成4信用状態監視参照組織・債務満期信用事由なし信用事由の可能性を検知信用事由・決済処理通知・判定事由・発生日・対象入札等最終価格・適格債務補償決済現金または現物終了残高・報告更新
市場情報の検知、契約上の信用事由判定、最終価格の確定、補償決済、取引終了は別状態である。一つの「デフォルト済み」項目へ集約しない。
処理段階主な入力主な出力・状態
情報検知参照組織・債務に関する公表情報、通知、外部データ候補事象、情報源、検知日時、確認状態
信用事由判定契約定義、取引種類、参照組織、参照債務、決定内容事由種類、発生日、対象取引、適用可否、根拠
決済条件確定入札結果、最終価格、受渡適格条件、想定元本補償額、受渡対象債務、決済方法、決済日
取引終了決済結果、残存想定元本、指数構成の変更全部終了、部分終了、継続、残高・報告更新

5.現金決済、現物決済、入札による決済

現金決済では、契約所定の最終価格等を用いて経済的損失相当額を算出し、売り手から買い手へ支払う。概念上は「想定元本×(100%-最終価格)」で表されるが、実際には取引条件、指数係数、経過分、通貨、端数等を反映する。 現物決済では、買い手が要件を満たす受渡対象債務を売り手へ引き渡し、売り手が契約上の額面相当額を支払う。入札が行われる場合は、最終価格の形成と現物受渡しの需要・供給を集約し、契約条件に従って決済へ反映する。

図27 CDSの現金決済と現物決済の違い

同じ信用事由でも、決済方式により必要な資産・受払・データが異なる。

CDSの現金決済と現物決済の違い左に現金決済、右に現物決済の受払を示す。現金決済売り手補償額を支払う買い手補償額を受け取る補償額の計算想定元本 ×(100%-最終価格)契約条件・指数係数等を反映債券等の現物受渡しは行わない必要情報:最終価格、想定元本、通貨、決済日現物決済買い手債務を引き渡す売り手額面相当額を支払う適格債務額面相当額受渡対象債務の選定契約所定の適格要件を確認銘柄・額面・優先順位・通貨等参照債務と受渡債務は同一とは限らない必要情報:受渡適格性、銘柄、数量、決済口座
実際の標準取引では入札結果を利用する場合がある。決済方式、最終価格の情報源、受渡適格条件を契約単位で保持する。

6.店頭取引、中央清算、上場信用先物を分ける

CDSは主としてOTC(店頭取引:取引所を介さず当事者間で条件を合意する取引)で成立する。店頭で約定したCDSは、買い手と売り手が直接相手方となる相対清算の場合と、対象取引をCCP(中央清算機関:売り手と買い手の間に入り双方の法的相手方となる機関)が債務負担する中央清算の場合がある。 中央清算されたCDSは、清算方法が中央清算へ変わるのであって、取引所上場商品へ変わるわけではない。

海外には、社債指数等を参照する取引所上場の信用先物が存在する。ただし、信用先物は標準化された先物であり、参照組織の信用事由に対して補償するCDSとは別商品である。商品分類では、CDSか信用先物か、単一参照組織か指数か、店頭か取引所か、相対清算か中央清算かを独立して持つ。

図28 店頭CDSの相対清算・中央清算と上場信用先物

約定場所、清算方法、商品種類を一つの区分にまとめない。

店頭CDSの相対清算・中央清算と上場信用先物店頭CDSの相対清算、店頭CDSの中央清算、取引所上場信用先物を三列で比較する。店頭CDS・相対清算買い手相手方A売り手相手方B当事者間の契約原取引相手を継続管理担保・相殺も契約単位約定場所:店頭清算方法:相対CDS契約の相手方信用リスクを各当事者が管理する店頭CDS・中央清算プロテクション買い手清算参加者・清算委託者等CCP双方の法的相手方証拠金・清算・決済保証プロテクション売り手清算参加者・清算委託者等店頭約定後に債務負担原取引相手と清算後相手方を分離約定場所:店頭清算方法:中央清算中央清算されても上場商品ではない取引所上場の信用先物取引所市場標準化された先物を売買板取引・限月・建玉参照対象社債指数等現金決済の標準商品約定場所:取引所商品種類:信用先物CDSとは別商品信用事由補償契約ではない
日本証券クリアリング機構は店頭CDSの清算サービスを提供している。清算対象にはインデックスCDSとシングルネームCDSがあるが、いずれも「店頭CDSを中央清算する」位置付けである。
分類軸代表的な区分管理項目
商品種類CDS、信用先物商品系統、契約類型、受払生成方法、信用事由条件
参照対象単一参照組織、指数、契約選定バスケット参照対象識別番号、指数シリーズ・版、構成組織
約定場所店頭、取引所取引基盤、取引所、注文・約定識別番号
清算方法相対清算、中央清算原取引相手、CCP、清算参加者、清算口座、債務負担状態

7.金融システムで持つデータと関連

CDSでは、参照組織を取引相手として持ったり、参照債務を保有有価証券明細から直接参照したりすると、契約関係と信用参照関係が混在する。 CDS取引を中心に、契約当事者、参照組織、参照債務、構成銘柄、プレミアム予定、信用事由、決済、清算を別データとして関連付ける。

図29 CDS取引を中心とした主なデータ関係

取引レコードへすべての項目を集約せず、更新単位の異なるデータを関連付ける。

CDS取引を中心とした主なデータ関係中央のCDS取引から、当事者、参照組織、参照債務、プレミアム、信用事由、決済、清算へ関連するデータ構造。CDS取引取引識別番号・商品形態想定元本・期間・方向契約・決済・清算区分契約当事者取引主体・原取引相手基本契約・相殺・担保参照組織組織識別番号・名称・国取引種類・優先順位承継・名称変更履歴参照債務債務識別・通貨・満期優先順位・受渡適格性指数・構成組織指数名・シリーズ・版構成比率・指数係数清算相対/中央清算CCP・清算参加者・口座債務負担・証拠金状態プレミアム予定定期・一括・経過分計算期間・金額・支払日信用事由候補・判定・発生日決定主体・根拠・対象取引補償・決済最終価格・補償額受渡債務・決済日・状態当事者参照参照・適格性構成清算予定生成判定決済
インデックスCDSでは、一つの取引から複数の構成参照組織へ関連する。信用事由により指数係数や残存想定元本が変化する場合、変更履歴と適用日を保持する。
データ領域主な項目設計上の注意
商品・取引内部商品識別番号、CDS形態、買い・売り、想定元本、通貨、開始日、満期日、取引種類シングルネーム、指数、バスケット、トランシェ等を商品名だけで判定しない
契約条件適用定義、基本契約、確認書、準拠法、信用事由、決済方式、計算代理人定義の版と個別取引の選択・修正条件を再現可能にする
参照組織参照組織識別番号、名称、組織種類、国、取引種類、優先順位、承継先相手方、発行体、保証人との役割関係を明示する
参照債務債務識別番号、証券・貸出区分、通貨、満期、優先順位、保証、標準参照債務区分保有明細や受渡対象債務と同一視しない
指数・構成指数、シリーズ、版、構成参照組織、構成比率、指数係数、適用日シリーズ更新と、既存取引の参照シリーズを切り分ける
プレミアム契約率、支払頻度、日数計算、計算期間、定期額、一括払額、経過分、支払状態プレミアム率、価格、金額を別項目として保持する
信用事由事由種類、候補発生日、認定日、決定主体、参照組織、対象債務、根拠、適用取引外部ニュース、企業状態、契約上の判定を別状態にする
補償・決済現金・現物区分、最終価格、回収率、補償額、受渡対象債務、額面、決済日、状態計算結果と使用した入札・市場データを証跡化する
清算相対・中央清算、CCP、清算参加者、清算口座、債務負担日、証拠金、清算状態原取引相手と清算後相手方を分ける
評価・リスク信用スプレッド、金利曲線、回収率前提、評価モデル、感応度、評価調整契約上の最終価格・回収率と評価用前提を混同しない

8.実装時に混同しやすい事項

  • 参照組織 ≠ 取引相手:参照組織が倒産しても、CDSの支払義務を負うのは契約上の売り手または中央清算後の相手方である。
  • 参照債務 ≠ 受渡対象債務:現物決済で実際に選択された債務を別明細で管理する。
  • 企業の倒産状態 ≠ CDSの信用事由認定:事由種類、発生日、契約への適用、決定主体を保持する。
  • 中央清算 ≠ 上場:店頭約定されたCDSをCCPが清算しても、取引場所は店頭のままである。
  • CDS ≠ 上場信用先物:信用先物は社債指数等を参照する標準先物であり、信用事由補償契約ではない。
  • プレミアム率 ≠ プレミアム金額:契約率、一括払額、期間別金額、経過分、決済状態を分ける。
  • 想定元本 ≠ 保有債権残高:CDS取引と現物債券・貸出の保有関係は、別のヘッジ関係等として管理する。

9.公開資料で確認できる市場構造

日本証券クリアリング機構は、CDSを店頭デリバティブ清算として位置付け、2011年7月に清算を開始している。同機構の2025年9月16日時点の案内では、インデックスCDSおよびシングルネームCDS60銘柄が清算対象とされている。 また、同機構は、参照組織は参照される立場でありCDS契約の当事者ではないこと、買い手と参照組織の間に債権債務関係がない場合も取引可能であることを説明している。

ISDA(国際スワップ・デリバティブ協会)は、多くの信用デリバティブ取引で使用される基本用語・取扱いを信用デリバティブ定義として整備している。実際の取引では、適用する定義、取引種類、個別確認書、追加条項、清算機関規則等を確認する必要がある。

次につながる知識:CDSでは、通常時の受払と条件発生時の補償を分けた。次は、買い手が行使を選択できるオプションへ進み、権利と義務の非対称性を確認する。
B.オプション――権利、状態、条件判定を積み上げる
O0 オプションに共通する基本構造――商品別説明の前提
オプション(Option)とは
買い手がプレミアム(権利の対価)を支払う代わりに、所定の期日または期間に、あらかじめ定めた条件で原資産を売買し、または差金を受け取る権利を得る契約である。売り手は、買い手が有効に行使したとき契約上の義務を履行する。

1.商品目的と基本構造

先渡・スワップのように双方が対称的な義務を負う線形商品と異なり、買い手は権利、売り手は義務を持つ。価格状態、契約状態、行使可能状態を分ける。

買い手プレミアムを支払い、行使するか失効させるかを契約条件内で選択する。
売り手プレミアムを受け取り、有効な行使に応じて現物または金銭を決済する義務を負う。
価格状態ITM(イン・ザ・マネー)、ATM(アット・ザ・マネー)、OTM(アウト・オブ・ザ・マネー)は経済的状態である。
契約状態未行使、有効、行使済み、失効、ノックアウト等は法的・業務的状態であり、ITM等と同一ではない。

2.契約当事者、参照対象、主な受払

契約当事者、原資産、権利方向、買い・売りを明示する。『コール買い』等の短い表示だけで受払方向を補完すると、通貨・複合商品で誤る。

図30 オプションの権利・プレミアム・行使

買い手の権利と売り手の義務は非対称である。

オプションの権利・プレミアム・行使 買い手の権利、売り手の義務、プレミアム、行使または失効の関係を示す。 オプション買い手プレミアムを支払うオプション売り手行使時の義務を負う 買い手の権利所定条件で行使する/行使しない 有効に行使現物または現金決済行使しない・失効追加受払なし等 価格状態、権利状態、契約状態、決済状態を別々に管理する
価格状態、権利状態、契約状態、決済状態を別々に表現する。

3.受払計算と主要条件

プレミアム金額・通貨・単位・支払日。後払い・分割・条件付き等は行使時受払と分ける。
権利行使価格原資産を売買または差金計算する基準価格。単位、通貨、倍率を持つ。
行使方式ヨーロピアン、アメリカン、バミューダン。行使可能日・期間・通知締切を具体的に保持する。
価格状態判定価格、情報源、判定日時、コール/プットの方向からITM・ATM・OTMを算出する。
決済現物受渡し、現金差額、先物・スワップ等の別取引生成。決済資産、通貨、日付、口座を持つ。

価格状態は評価日時点で変化し得る一方、行使済み・失効等の契約状態はイベント履歴である。両者を一つのステータスコードにまとめない。

4.商品形態と分類軸

分類内容
コール/プット買う権利/売る権利。通貨オプションでは購入通貨・売却通貨も明示する。
買い/売りロング/ショート。権利と義務、時価の符号、受払方向が異なる。
ヨーロピアン原則として所定の単一行使日に行使する。
アメリカン行使可能期間内に行使できる。
バミューダン契約所定の複数行使日に行使できる。

図31 行使方式と権利状態を分けて管理する

行使方式は『いつ権利を使えるか』、契約状態は『権利が今どうなっているか』を表す。

行使方式と権利状態ヨーロピアン、アメリカン、バミューダンの行使可能時点と、権利の状態変化を示す。行使方式:いつ行使できるか開始満期ヨーロピアン:原則として満期日に行使アメリカン:行使可能期間中の各日に行使可能バミューダン:契約所定の複数日に行使可能権利状態:価格状態と契約状態は別有効未行使・未失効行使済み決済処理へ失効・消滅満期・条件事由
ITM・ATM・OTMはこの図の契約状態とは別である。有効なオプションがOTMであることも、行使済み取引が過去にITMだったこともある。

5.契約から満期までの業務事象

行使可能日が一日か複数か、連続期間かを日付データで表し、行使通知の受付日時・時刻帯・取消可否を記録する。

6.店頭・上場、清算、決済を分ける

上場オプション取引所が原資産、限月、権利行使価格、取引単位、行使・決済規則を標準化する。
店頭オプション当事者が原資産、満期、権利行使価格、条件、決済方法等を個別合意する。
中央清算上場は通常CCPを通じて清算される。店頭は相対または対象商品を中央清算する。
決済現物、現金、先物・スワップ等の生成がある。商品仕様とポジションで決まる。

『オプション』は契約類型であり、上場・店頭の双方に存在する。商品種類、約定場所、清算方法を別軸にする。

7.金融システムで持つデータと関連

データ群主な項目
取引・権利買い/売り、コール/プット、原資産、数量、乗数、権利行使価格、通貨。
行使条件方式、行使開始・終了・所定日、通知期限、時刻帯、自動行使、最小単位。
プレミアム金額、通貨、単位、支払日、決済状態、返還・リベート条件。
評価・状態判定価格、情報源、日時、ITM・ATM・OTM、内在価値、時間価値、権利状態。
イベント・決済行使通知、割当、失効、条件到達、決済資産・通貨・日付・口座、生成取引ID。

8.実装時に混同しやすい事項

  • 買い/売りとコール/プットを同じ分類軸にしない。
  • ITMを行使済みとみなさない。
  • 満期日だけを持ち、行使可能期間・通知期限を省かない。
  • プレミアムと行使時受払を同一の決済イベントにしない。
  • 自動行使・通知行使・割当を一つの状態変更で済ませない。
  • 上場・店頭を商品名から固定しない。

9.利用場面と確認資料

オプション共通基盤では、権利条件、原資産固有条件、価格・観測、契約状態、受払・決済を分離し、後続の特殊条件を拡張できる構造にする。

個別案件での確認事項
取引所商品仕様または取引確認書、適用されるISDA各資産クラス定義、行使・割当規則、清算・決済規則、価格情報源を確認する。
次につながる知識:共通の権利・義務・行使方式を踏まえ、最も基本的なコールとプットの損益・決済を確認する。
O1 コール・プット――オプションの最も基本的な形
コール・オプション/プット・オプション(Call / Put Option)とは
コールは原資産を所定価格で買う権利、プットは原資産を所定価格で売る権利である。買い手はプレミアムを支払い、売り手は権利行使時に義務を履行する。

1.商品目的と基本構造

原資産価格の上昇・下落リスクを限定的に移転する基本形である。コール/プットと買い/売りの組合せにより四つのポジションが生じる。

コール買い上昇時の利益機会を得て、失効時の損失は原則プレミアムに限定される。
コール売りプレミアムを受ける代わりに上昇時の義務を負う。
プット買い下落時の補償効果を得る。
プット売りプレミアムを受ける代わりに下落時の義務を負う。

2.契約当事者、参照対象、主な受払

コール買い手は行使時に原資産を買い、プット買い手は売る。売り手側の義務はその反対になる。

図32 コール・プットと買い・売りの四つの組合せ

コール/プットと買い/売りを別軸として確認する。

コール・プットと買い・売りの四つの組合せ 権利方向とポジション方向を組み合わせた四つの契約上の立場を示す。 コール:原資産を買う権利コール買いプレミアム支払行使する権利コール売りプレミアム受取行使された場合の義務 プット:原資産を売る権利プット買いプレミアム支払行使する権利プット売りプレミアム受取行使された場合の義務 権利方向とポジション方向を分けるコール/プット × 買い/売りの四つを明示する
『コール』だけでは権利保有者か義務負担者かを判定できない。

3.受払計算と主要条件

満期時内在価値コールは原資産価格-権利行使価格の正部分、プットは権利行使価格-原資産価格の正部分を基礎とする。
損益内在価値または差金からプレミアム・費用を反映する。売り手は買い手の反対符号となるのが基本。
数量・乗数原資産数量、契約単位、乗数、部分行使単位を適用する。
価格判定参照市場、最終価格、判定日時、情報源、市場障害・訂正を管理する。
決済現物受渡しでは原資産と権利行使代金、現金決済では契約所定の差金を受け払う。

ITM・ATM・OTM判定と、プレミアム込みの損益分岐点は別である。ITMでも支払済みプレミアムを回収できない場合がある。

4.商品形態と分類軸

分類内容
コール買い/売り買う権利の保有/義務。
プット買い/売り売る権利の保有/義務。
現物決済行使時に原資産と代金を受け渡す。
現金決済参照価格と権利行使価格の差等を金銭決済する。
上場/店頭標準化された銘柄または個別条件で取引する。

図33 コール買いとプット買いの満期損益

権利行使価格を境に、コールは上昇側、プットは下落側で内在価値が生じる。

コールとプットの買い手損益左にコール買い、右にプット買いの満期損益を示す。コール買い:買う権利権利行使価格損益価格上昇で利益拡大最大損失はプレミアムプット買い:売る権利権利行使価格損益価格下落で利益拡大最大損失はプレミアム
図は買い手の単純化した満期損益である。売り手は概ね反対の形となるが、実務では数量、乗数、プレミアム、費用を反映する。

5.契約から満期までの業務事象

ポジションは数量を持ち、部分行使・反対売買・期限前解約で残高が変わる。取引履歴と未行使残高を分ける。

6.店頭・上場、清算、決済を分ける

上場限月・権利行使価格・取引単位が標準化され、建玉・行使・割当を市場規則で処理する。
店頭満期、価格、数量、行使・決済条件を個別設計する。
中央清算上場は通常中央清算。店頭は相対または対象商品の清算サービスに従う。
決済原資産により現物、現金、先物建玉等の生成となる。

同じコール・プットでも、上場銘柄と店頭契約では識別階層・行使・割当・決済処理が異なる。

7.金融システムで持つデータと関連

データ群主な項目
商品・銘柄原資産、コール/プット、権利行使価格、限月・満期、取引単位、乗数。
ポジション買い/売り、取引数量、未行使数量、反対売買、清算口座。
価格・評価原資産価格、変動率、金利・配当等、ITM状態、時価、感応度。
行使方式、可能日、通知、割当、部分数量、自動行使、取消し、失効。
決済現物/現金、原資産数量、代金、差金、通貨、日付、口座、状態。

8.実装時に混同しやすい事項

  • コール/プットだけで買い手・売り手を決めない。
  • ITM判定と損益分岐点を同一にしない。
  • 行使と割当を一イベントにまとめない。
  • 部分行使後の残存数量を元取引へ上書きだけで処理しない。
  • 原資産数量と契約数量・乗数を混同しない。
  • 現金決済と現物決済で同じ受払明細を使わない。

9.利用場面と確認資料

基本の四ポジションを明確に実装すると、後続のキャップ、スワップション、デジタル、バリア、通貨オプションの権利・方向を一貫して表現できる。

個別案件での確認事項
取引所商品仕様または確認書、行使・割当規則、原資産市場規則、清算・決済規則、適用されるISDA定義を確認する。
次につながる知識:一つの満期に対するコール・プットを理解した後、各金利計算期間に小さなオプションが並ぶキャップ・フロア・カラーへ進む。
O2 キャップ・フロア・カラー――金利の上限と下限を設定する
金利キャップ/フロア/カラー(Interest Rate Cap / Floor / Collar)とは
キャップは参照金利が上限金利を超えた期間の超過分を受け取る一連の金利オプション、フロアは参照金利が下限金利を下回った期間の不足分を受け取る一連の金利オプションである。カラーはキャップとフロア等を組み合わせて金利変動範囲を限定する。

1.商品目的と基本構造

変動金利借入れの上昇リスクを抑えつつ低下メリットを残す、または変動金利資産の低下リスクを抑える。各計算期間のキャップレット/フロアレットを明細として扱う。

キャップ買い参照金利が上限を超えた期間に超過分を受け取る。
フロア買い参照金利が下限を下回った期間に不足分を受け取る。
カラー一方を買い他方を売る等して上限・下限を同時設定する。
期間別権利各計算期間は個別に判定・確定・決済される。

2.契約当事者、参照対象、主な受払

キャップとフロアは、同じ参照金利・想定元本を使っても判定方向が反対である。カラーは両者を組み合わせるため、構成取引IDを持つ。

図34 キャップ・フロアの金利上限・下限

計算期間ごとの参照金利と上限・下限を比較する。

キャップ・フロアの金利上限・下限 参照金利が上限を超えた期間と下限を下回った期間で、異なる受払が生じる。 上限下限各期間の参照金利 キャップ上限超過分を受け取るフロア下限不足分を受け取る カラーはキャップとフロア等の買い・売りを組み合わせる
カラーでは構成するキャップとフロアの買い・売りを個別に保持する。

3.受払計算と主要条件

キャップレット支払想定元本 × max(参照金利-上限金利, 0)× 日数割合。
フロアレット支払想定元本 × max(下限金利-参照金利, 0)× 日数割合。
主要条件参照金利、上限・下限、元本、金利決定日、計算期間、支払日、日数計算方式、プレミアム。
構成キャップレット/フロアレットの開始・終了・判定・支払を期間別に生成する。
カラー買い・売り、上限・下限、各プレミアム、ゼロコスト設計等の構成条件を別明細にする。

契約全体の最終損益だけを計算せず、各期間の参照金利、判定結果、支払額を保存する。カラーは構成取引を相殺しても元の計算結果を残す。

4.商品形態と分類軸

分類内容
キャップ上限超過を補償するキャップレット列。
フロア下限割れを補償するフロアレット列。
カラーキャップとフロア等の買い・売りを組み合わせる。
デジタル型条件成立時の固定額等を支払う金利デジタル。通常型と支払式が異なる。
元本変動型期間ごとに想定元本が変化する。ヘッジ対象の元本予定と照合する。

図35 キャップレット列とカラーの組合せ

キャップは一つの満期オプションではなく、各金利期間に対応する権利の集合である。

キャップレット、フロアレット、カラーの組合せ上段に各計算期間のキャップレット、下段にキャップとフロアを組み合わせるカラーを示す。キャップ:各計算期間の小さなオプション(キャップレット)の列期間1金利>上限なら支払期間2金利>上限なら支払期間3金利>上限なら支払期間4金利>上限なら支払期間5金利>上限なら支払カラー:買ったキャップと売ったフロア等を組み合わせるキャップ買い上限超過分を受け取るフロア売り下限割れ分を支払う金利変動の範囲を上下で限定各構成取引のプレミアム・方向・権利を別々に保持
カラーの経済条件は構成取引の組合せで決まる。ゼロコストと呼ぶ場合でも、各構成プレミアム・時価・権利を記録する。

5.契約から満期までの業務事象

プレミアム決済と、期間ごとの条件付き支払を分ける。期限前解約では未到来期間と確定済み期間を区別する。

6.店頭・上場、清算、決済を分ける

約定場所主としてOTC。参照金利、期間、上限・下限を個別合意する。
中央清算相対管理が中心。対象可否は清算サービス仕様を確認する。
上場商品との違い金利先物オプションは取引所の先物を原資産とし、キャップレット列そのものではない。
決済金利差額の金銭決済。各期間の支払日とプレミアム日を分ける。

キャップ・フロアは金利オプションであり、金利スワップの固定・変動差額を定期交換する商品とは支払の条件性が異なる。

7.金融システムで持つデータと関連

データ群主な項目
契約・構成キャップ/フロア/カラー、構成取引ID、買い/売り、上限・下限、プレミアム。
期間明細キャップレット/フロアレットID、計算期間、決定日、支払日、元本、状態。
金利・判定参照金利、情報源、決定値、上限・下限との比較、ITM状態、訂正。
計算・決済超過・不足幅、日数割合、支払額、通貨、純額、決済状態。
イベント構成変更、部分解約、期限前終了、金利訂正、差額処理。

8.実装時に混同しやすい事項

  • キャップを一つの満期支払だけで表さない。
  • カラーを単一商品条件へ潰し、構成する買い・売りを失わない。
  • 上限金利と権利行使価格を別意味の項目として重複させない。
  • 金利決定日と支払日を同一にしない。
  • プレミアム相殺と権利・義務の消滅を混同しない。

9.利用場面と確認資料

変動金利資産・負債の上限・下限管理では、ヘッジ対象の元本・金利期間と各構成オプションの対応を期間単位で照合する。

個別案件での確認事項
取引確認書、2021 ISDA金利デリバティブ定義、参照金利資料、プレミアム・期限前終了条件、評価モデル仕様を確認する。
次につながる知識:金利オプションの期間別判定を踏まえ、行使すると金利スワップが開始するスワップションへ進む。
O3 スワップション――将来スワップを開始する権利
スワップション(Swaption)とは
所定の行使日に、契約で定めた条件の金利スワップを開始し、またはその価値に基づく差金を受け取る権利である。ペイヤー・スワップションは固定金利を支払うスワップ、レシーバー・スワップションは固定金利を受け取るスワップを開始する権利を指す。

1.商品目的と基本構造

将来の借入れ・債券発行・投資等に備えて金利条件を保護しつつ、行使しない選択肢を残す。オプション契約と行使後の対象スワップを別取引として関連付ける。

ペイヤー固定支払・変動受取のスワップを開始する権利。一般に金利上昇への備えとなる。
レシーバー固定受取・変動支払のスワップを開始する権利。一般に金利低下への備えとなる。
物理決済行使時に対象スワップを生成・開始する。
現金決済対象スワップの価値等に基づく契約所定の差金を決済する。

2.契約当事者、参照対象、主な受払

買い手・売り手のオプション関係と、行使後の固定支払・固定受取方向は別軸である。ペイヤー/レシーバーを誰の視点か明示する。

図36 スワップションの行使と決済分岐

行使後に金利スワップを生成する場合と差額決済する場合を分ける。

スワップションの行使と決済分岐 行使後に対象金利スワップを生成する場合と、価値差額を現金決済する場合を示す。 スワップション将来スワップを開始する権利行使判定行使日・通知・市場金利 物理決済ペイヤーまたはレシーバーIRSを生成現金決済対象スワップ価値の差額を支払う オプション取引と行使後の金利スワップを同じ取引IDへ上書きしない
元のオプションと行使後取引の関連を残す。

3.受払計算と主要条件

権利ペイヤー/レシーバー、買い/売り、ヨーロピアン/バミューダン等。
対象スワップ通貨、想定元本、固定金利、参照金利、スプレッド、開始日、満期、頻度、日数計算方式。
行使行使日・複数行使日、通知期限、時刻帯、自動行使、部分行使。
現金決済決済金利・参照曲線・評価方法・年金現価等、差金通貨・決済日。
プレミアム金額、通貨、支払日、分割・後払い等。

オプションの時価と、行使後対象スワップの時価を混在させない。現金決済額の算出方法は確認書で定義し、単純にスワップ時価と同じとしない。

4.商品形態と分類軸

分類内容
ペイヤー固定支払スワップを開始する権利。
レシーバー固定受取スワップを開始する権利。
物理決済行使時にIRS取引を生成する。
現金決済契約所定の方法で差金決済する。
バミューダン/キャンセラブル構造複数行使日やスワップの解除権を含み得る。権利対象を明示する。

図37 行使後に開始するペイヤー/レシーバー金利スワップ

スワップションの方向は、行使後に買い手が固定金利を支払うか受け取るかで表す。

スワップション行使後に開始する金利スワップスワップション契約、行使判定、ペイヤーまたはレシーバー金利スワップ開始の分岐を示す。スワップション契約買い手がプレミアムを支払う行使判定行使日・金利・通知期限ペイヤー・スワップション固定金利支払・変動金利受取のIRS物理決済なら対象スワップを生成レシーバー・スワップション固定金利受取・変動金利支払のIRS現金決済なら差額のみを生成
物理決済では対象IRSを新規生成し、原スワップションと関連付ける。現金決済では差金明細を生成し、IRS残高は作らない。

5.契約から満期までの業務事象

契約時に対象IRS条件を凍結し、行使可能日まで評価・担保を管理する。行使後はオプション終了と対象IRS開始を関連付ける。

6.店頭・上場、清算、決済を分ける

約定場所主としてOTC。対象スワップと行使条件を個別合意する。
中央清算スワップション自体は相対管理が中心。行使後IRSの清算可否は別途判定する。
上場商品との違い金利先物オプションは先物を原資産とし、IRS開始権であるスワップションとは異なる。
決済物理的にIRSを開始するか、契約所定の現金差額を支払う。

行使後のIRSが清算対象でも、スワップション約定時から中央清算取引になるとは限らない。原オプションと生成取引を分ける。

7.金融システムで持つデータと関連

データ群主な項目
オプション買い/売り、ペイヤー/レシーバー、プレミアム、行使方式・日、満期。
対象IRS通貨、元本、固定・変動条件、開始・満期、頻度、日数計算方式。
評価・決済金利曲線、変動率、決済金利、評価方法、物理/現金、差金額。
行使・生成通知、行使数量、生成取引ID、生成日時、清算判定、残存数量。
状態未行使、行使済み、部分行使、失効、期限前終了、決済済み。

8.実装時に混同しやすい事項

  • ペイヤー/レシーバーを売り手視点で反転しない。
  • 対象IRSを行使前から実残高として計上しない。
  • 物理決済と現金決済で同じ生成処理をしない。
  • スワップションと行使後IRSの取引IDを同一にしない。
  • 対象IRSの開始日・満期をスワップションの取引日・満期と混同しない。

9.利用場面と確認資料

将来の調達・運用に備える場合、対象IRS条件と実際の予定取引条件の対応を確認し、行使後のフロント・清算・決済・会計連携まで設計する。

個別案件での確認事項
取引確認書、2021 ISDA金利デリバティブ定義、対象スワップ清算要件、現金決済方法、行使通知・期限前終了条項を確認する。
次につながる知識:オプションが別の商品を生成する構造を確認した後、原資産が株式・指数・債券・商品へ変わると必要データがどう変わるか比較する。
O4 原資産別のバニラ・オプション――基本形を株式・債券・商品へ当てはめる
バニラ・オプション(Vanilla Option)とは
複雑な平均・バリア等を加えていない標準的なコールまたはプットを指す。権利の基本構造は共通するが、原資産によって数量、価格単位、イベント、行使・決済資産が変わる。

1.商品目的と基本構造

共通オプションエンジンと原資産固有処理を分けるための比較区分である。『バニラ』は単純という意味であって、上場または店頭を表す言葉ではない。

個別株式株数、配当、分割・合併、現物受渡し等を扱う。
株価指数指数値、乗数、最終清算数値、現金決済を扱う。
債券・債券先物額面、価格表示、限月、受渡適格銘柄等を扱う。
商品品質、地点、数量単位、限月、現物・先物・現金決済を扱う。

2.契約当事者、参照対象、主な受払

共通条件には権利・買売・行使価格・満期等を持たせ、原資産別条件には価格源、数量単位、固有イベント、決済資産を持たせる。

図38 原資産別バニラ・オプションの固有条件

権利の基本構造は共通でも、原資産ごとに数量・イベント・決済が変わる。

原資産別バニラ・オプションの固有条件 共通のコール・プット構造に、株式、債券、商品等の固有条件を重ねる。 バニラ・オプション共通条件権利・買売・行使価格・満期・決済 個別株式・指数株数・乗数・企業行動債券・先物額面・限月・受渡条件 商品品質・地点・数量単位決済方式現物・差金・最終清算値 原資産が変われば数量、イベント、価格情報源、決済資産も変わる
商品名だけから原資産固有条件を補完しない。

3.受払計算と主要条件

共通条件コール/プット、買い/売り、行使価格、満期、行使方式、数量、プレミアム。
株式株数、取引単位、配当、企業行動、権利調整、現物/現金。
指数指数コード、算出主体、乗数、最終清算数値、差金決済日。
債券・先物額面、価格単位、対象先物限月、受渡適格性、最終取引・受渡条件。
商品品質、地点、数量単位、限月、参照価格、現物・先物・差金決済。

共通の内在価値式へ原資産固有の乗数・数量・価格単位を適用する。企業行動等で調整前後の行使価格・数量が変わる場合は履歴を保持する。

4.商品形態と分類軸

分類内容
個別株式オプション銘柄固有イベントと現物受渡しを扱う。
株価指数オプション指数と乗数による現金決済が代表的。
債券/債券先物オプション額面、先物建玉・受渡規則を扱う。
商品オプション商品仕様・限月・現物/先物/現金を扱う。
上場/店頭同じ原資産でも標準化銘柄と個別契約がある。

図39 共通オプション条件と原資産固有条件の分離

権利・行使の共通項目へ、各原資産の数量・価格・イベント・決済仕様を組み合わせる。

共通オプション条件と原資産固有条件中央のバニラオプション共通条件から、株式、指数、債券、商品の固有条件へ分岐する。バニラ・オプション共通条件コール/プット・買い/売り・権利行使価格満期・行使方式・プレミアム・決済方法個別株式株数・企業行動価格源・イベント株価指数乗数・最終清算値価格源・イベント債券・先物額面・限月・受渡価格源・イベント商品品質・地点・数量価格源・イベント
同じ項目名でも単位・意味が異なる。株数、指数乗数、債券額面、商品数量を一つの数量項目だけで処理しない。

5.契約から満期までの業務事象

上場では銘柄定義・限月・行使価格別建玉、店頭では確認書条件を基礎に処理し、原資産イベントで条件調整を行う。

6.店頭・上場、清算、決済を分ける

上場株式・指数・債券先物・商品等の標準化オプションがある。商品仕様は取引所ごとに異なる。
店頭数量、満期、行使価格、条件を個別設計する。
中央清算上場は通常中央清算。店頭は相対または対象清算サービス。
決済現物、現金、先物建玉等。原資産別仕様で決まる。

『上場株式を参照する店頭オプション』と『取引所上場株式オプション』を区別する。参照資産の上場性とオプションの約定場所は別である。

7.金融システムで持つデータと関連

データ群主な項目
共通コール/プット、買い/売り、行使価格、満期、行使方式、プレミアム。
原資産資産種類、銘柄・指数・商品、通貨、市場、価格情報源。
数量・単位株数、指数乗数、債券額面、商品数量・単位、取引単位。
イベント配当、分割、合併、償還、信用事由、限月、品質・地点変更。
決済現物/現金/先物、受渡資産、数量、代金、差金、日付、口座。

8.実装時に混同しやすい事項

  • バニラを上場商品と同義にしない。
  • 参照資産が上場していることとオプション約定場所を混同しない。
  • 異なる原資産の数量・乗数を同じ単位で扱わない。
  • 企業行動調整を銘柄マスタの上書きだけで済ませない。
  • 先物オプション行使で現物資産を直接生成しない。

9.利用場面と確認資料

共通エンジンと資産別拡張を分けることで、新しい原資産を追加しても権利・行使の基本ロジックを維持できる。

個別案件での確認事項
取引所商品・銘柄仕様または確認書、資産別ISDA定義、原資産市場・指数規則、企業行動・受渡通知を確認する。
次につながる知識:原資産が変わっても共通する基本形を確認した後、条件成立時に固定額等を支払うデジタル・オプションへ進む。
O5 デジタル・オプション――条件成立時に定めた金額等を支払う
デジタル・オプション(Digital / Binary Option)とは
判定時点で原資産価格が契約条件を満たした場合に、あらかじめ定めた金額または原資産を支払うオプションである。バニラの支払額が権利行使価格からの差に応じて変わるのに対し、条件境界で支払額が段階的に変化する。

1.商品目的と基本構造

特定水準の到達・未到達に対して固定的な受払を設計する。境界値の等号、判定時刻、価格情報源のわずかな違いが支払有無を変える。

キャッシュ・オア・ナッシング条件成立時に固定金額を支払う。
アセット・オア・ナッシング条件成立時に原資産またはその価値を支払う。
上側/下側価格が水準以上/以下等の判定方向を定める。
単一/複数判定満期一時点または複数条件を使う契約がある。

2.契約当事者、参照対象、主な受払

買い手は条件成立時の支払権利を持つ。原資産・価格公表者は契約当事者とは別であり、価格訂正時の扱いも定める。

図40 デジタル・オプションの条件判定と固定支払

条件境界の成立可否によって支払額が段階的に変化する。

デジタル・オプションの条件判定と固定支払 境界条件を満たすかどうかで、所定の固定額等を支払う段階的な支払構造を示す。 判定時点の価格と条件水準条件水準固定支払額条件不成立:支払なし等 判定価格・時刻・等号支払金額・通貨・支払日
使用価格、比較演算子、丸め、判定時刻、支払通貨を判定結果と一緒に残す。

3.受払計算と主要条件

判定判定価格、条件水準、上側/下側、以上・超過・以下・未満、判定日時、情報源。
支払固定額または原資産、金額・数量、通貨、支払日。
プレミアム金額、通貨、支払日、返還・条件付きの有無。
市場障害価格未公表、取引停止、訂正、代替価格、判定延期。
複合条件複数水準、複数原資産、バリア等との組合せは条件式と構成要素を分離する。

判定結果だけでなく、演算子、判定対象値、元データ、時刻帯、丸め前後を保存する。微小な丸め差で支払有無が変わるためである。

4.商品形態と分類軸

分類内容
固定金額支払条件成立時に契約所定の金額を支払う。
原資産支払条件成立時に原資産または相当価値を支払う。
コール型/プット型上側/下側の条件方向。
ワンタッチ/ノータッチ等期間中の到達有無を使う形はバリア観測も必要となる。
複数資産・複数条件AND/OR、最良・最悪等の条件式を明示する。

図41 デジタルとバニラの支払額の違い

デジタルは境界を超えた時点で固定額へ跳ぶのに対し、バニラは差額に応じて連続的に増える。

デジタルとバニラの支払額比較原資産価格が権利行使価格を超えたとき、デジタルは固定額、バニラは差額に応じて増えることを示す。デジタル・コール判定水準条件成立で固定額バニラ・コール権利行使価格差額に応じて増加
図は単純化したコール型の支払額である。契約によって境界の等号、固定額、原資産支払、複数条件が異なる。

5.契約から満期までの業務事象

約定・プレミアム決済後、判定日時まで評価し、所定価格を取得して条件式を評価し、成立時支払または失効へ進む。

6.店頭・上場、清算、決済を分ける

約定場所主としてOTC。判定条件・支払額を個別設計する。
上場標準化された類似商品が存在する市場もあるが、商品仕様で確認する。
中央清算相対管理が中心。対象可否は商品・市場ごとに確認する。
決済現金または原資産。判定と決済の通貨・日付を分ける。

『デジタル』『バイナリー』『ワンタッチ』等の名称は市場慣行で使い分けがあるため、支払式・観測条件を主情報とする。

7.金融システムで持つデータと関連

データ群主な項目
条件原資産、条件水準、上側/下側、比較演算子、判定日時・時刻帯、価格情報源。
支払固定額/原資産、金額・数量、通貨、支払日、プレミアム。
判定実績元価格、丸め前後、採用価格、条件式版、判定結果、確定者・日時。
例外未公表、市場障害、代替価格、延期、訂正、再判定、取消し。
決済支払ID、金額・資産、口座、状態、失効、差額調整。

8.実装時に混同しやすい事項

  • 『以上』と『超える』、『以下』と『未満』を同一にしない。
  • 表示丸め値だけで判定しない。
  • 判定結果だけを保存して使用価格・条件式を失わない。
  • デジタルとバニラを同じ連続的支払式にしない。
  • ワンタッチ等を満期一時点判定として処理しない。

9.利用場面と確認資料

境界条件の厳密さが最も重要な商品であり、テストでは境界直下・一致・直上、未公表・訂正・時刻帯を網羅する。

個別案件での確認事項
取引確認書、適用ISDA定義・タクソノミー、価格情報源、判定・市場障害・訂正条項、決済条件を確認する。
次につながる知識:一時点または到達有無の条件判定を理解した後、複数の観測価格から平均値を作るアジアン・オプションへ進む。
O6 アジアン・オプション――一定期間の平均価格を用いる
アジアン・オプション(Asian / Average Option)とは
契約期間中の複数の観測価格から算出した平均価格を、支払額または権利行使条件へ用いるオプションである。単一時点の価格ではなく価格経路の観測列を必要とする。

1.商品目的と基本構造

一定期間に分散して生じる仕入れ・販売等の実価格へヘッジを近づけ、一時点の価格変動の影響を抑える目的等で用いる。観測予定と観測実績を分ける。

平均価格型観測価格の平均と固定された権利行使価格を比較する。
平均権利行使価格型満期価格と観測価格の平均を比較する。
算術/幾何平均平均方法により結果が異なるため明示する。
観測明細各観測日の値、採否、ウェイト、補完、訂正を保存する。

2.契約当事者、参照対象、主な受払

価格情報源は契約当事者とは別である。各観測の公表時刻・訂正と、契約上の採用可否を管理する。

図42 アジアン・オプションの観測列と平均値

複数の観測明細から平均値を確定して行使・支払判定へ使う。

アジアン・オプションの観測列と平均値 複数の価格観測、採否・補完、平均値計算、行使・支払判定の順を示す。 複数の観測日P1P2P3P4Pn 観測明細を検証採用・欠測・補完・訂正・ウェイト 算術平均または幾何平均平均価格型/平均行使価格型 行使・支払額判定平均値と契約条件を照合
最終平均値だけでなく各観測値の採否・補完・訂正を保存する。

3.受払計算と主要条件

観測予定観測開始・終了、観測日一覧、頻度、時刻、価格情報源、休日調整。
平均方法算術/幾何、単純/加重、ウェイト、丸め段階、観測数。
欠測未公表、市場障害、休日、代替日・代替価格、除外条件。
平均価格型平均原資産価格と固定行使価格の差等を用いる。
平均行使価格型満期価格等と平均化された行使価格の差等を用いる。

観測値の丸め、平均値の丸め、最終支払額の丸めを区別する。分母となる観測数を予定数と採用数のどちらにするか契約条件で確認する。

4.商品形態と分類軸

分類内容
平均価格型平均価格を原資産価格として使う。
平均権利行使価格型平均価格を権利行使価格として使う。
算術平均観測値を加重合計しウェイト等で除する。
幾何平均観測値の積に基づく平均。算術平均と計算・評価が異なる。
固定/可変ウェイト観測日ごとのウェイトを契約で定める場合がある。

図43 観測列から平均値・支払判定へつなぐ

複数の観測値を取得・検証してから平均値を確定し、最後に行使・支払額を判定する。

アジアン・オプションの観測列と平均値確定複数の観測日から採用値を集め、平均値を計算して支払判定へ使う。観測期間1価格12価格23価格34価格45価格56価格6観測明細採用/欠測/補完/訂正日付・価格・ウェイト・版平均値算術平均/幾何平均平均価格/平均権利行使価格行使・支払額判定平均値と契約所定の比較対象を照合
欠測補完や訂正で採用値が変わると、平均値と支払額の版も変わる。各段階を関連付ける。

5.契約から満期までの業務事象

観測予定を契約時に生成し、値取得・採否・補完・訂正を反映する。平均確定後の訂正可否と差額処理も定める。

6.店頭・上場、清算、決済を分ける

約定場所主としてOTC。観測列・平均方法を個別設計する。
上場平均価格を使う標準化商品がある市場もあるが、仕様を確認する。
中央清算相対管理が中心。対象可否は商品・市場ごとに確認する。
決済現金差額が代表的。現物・先物等の扱いは契約条件による。

『アジアン』という名称だけで算術平均、日次観測、平均価格型を決めず、具体的な観測・平均・支払式を保持する。

7.金融システムで持つデータと関連

データ群主な項目
観測条件開始・終了、観測日、頻度、時刻帯、価格情報源、休日・市場障害規則。
観測実績予定日、実観測日、価格、採否、ウェイト、補完・訂正、状態、版。
平均計算算術/幾何、分子・分母、観測数、平均値、丸め、計算版。
権利・判定平均価格型/平均行使価格型、比較対象、ITM状態、行使・失効。
決済支払額、通貨、決済日、口座、再計算差額、状態。

8.実装時に混同しやすい事項

  • 最終平均値だけを保存して観測明細を失わない。
  • 予定観測日数と採用観測数を混同しない。
  • 算術平均と幾何平均を同じ計算式にしない。
  • 観測終了日と満期・決済日を同一にしない。
  • 価格訂正時に平均値だけを上書きしない。

9.利用場面と確認資料

大量の観測データを扱うため、再現性、例外処理、版管理、差額再決済がシステム設計の中心となる。

個別案件での確認事項
取引確認書、価格情報源、観測・平均・欠測・市場障害条項、適用ISDA定義、評価モデル仕様を確認する。
次につながる知識:価格経路を観測する仕組みを踏まえ、一定水準への到達事実で権利が発生・消滅するバリア・オプションへ進む。
O7 バリア・オプション――一定水準への到達で権利が発生・消滅する
バリア・オプション(Barrier Option)とは
原資産価格が監視期間中に契約所定のバリア水準へ到達したかどうかで、オプションの権利が発生(ノックイン)または消滅(ノックアウト)する条件付きオプションである。現在価格だけでなく過去の価格経路を利用する。

1.商品目的と基本構造

通常のバニラより条件を限定してプレミアムを調整する、特定価格帯でのみ保護・投資効果を得る等に用いる。到達イベントを永続化する。

ノックインバリア到達によって権利が有効になる。
ノックアウトバリア到達によって権利が消滅する。
アップ/ダウン現在水準より上/下のバリア到達を判定する。
監視連続、所定時刻、終値等。契約で観測方法を定める。

2.契約当事者、参照対象、主な受払

バリア条件という契約属性と、実際の観測・到達イベントを分ける。二つのバリアや複数観測源も明細化する。

図44 バリア・オプションの価格経路と状態変化

現在価格ではなく監視期間中の価格経路が権利状態を変える。

バリア・オプションの価格経路と状態変化 監視期間中の価格経路がバリアへ到達し、ノックインまたはノックアウトを生じさせる。 監視期間中の価格経路バリア水準到達 ノックイン到達により権利が発生ノックアウト到達により権利が消滅 価格が戻っても到達済み状態は原則として戻らない
到達後に価格が戻っても、到達イベントを自動的に取り消さない。

3.受払計算と主要条件

バリアアップ/ダウン、ノックイン/アウト、水準、単一/二重、監視開始・終了。
観測連続/離散、観測日時、価格情報源、買値・売値・中値等、等号、時刻帯。
状態未到達、到達候補、到達確定、有効化、消滅、取消し・再判定。
リベート到達時/満期時等の金額、通貨、支払日、条件。
基礎権利コール/プット、買い/売り、行使価格、満期、行使方式、決済方法。

現在の価格がバリア外へ戻っていても、過去到達により権利状態が変わっている。取引再構築に市場データ履歴だけを頼らず到達イベントを保存する。

4.商品形態と分類軸

分類内容
アップ・アンド・イン/アウト上側水準への到達で有効化/消滅。
ダウン・アンド・イン/アウト下側水準への到達で有効化/消滅。
ダブル・バリア上下一組のバリアを監視する。
連続/離散監視全時間帯または所定時刻だけを観測する。
リベートあり/なし権利消滅時等の補助支払を定める。

図45 バリア到達による権利状態の変化

同じ到達イベントでも、ノックインは権利を有効化し、ノックアウトは権利を消滅させる。

バリア到達によるノックイン・ノックアウトの状態変化監視開始から価格観測、バリア到達、権利有効化または消滅までを分岐表示する。監視開始未到達・条件有効価格観測連続/離散・情報源バリア到達日時・価格・方向ノックイン到達により権利が有効化以後は通常の行使判定へノックアウト到達により権利が消滅リベートがあれば支払へ到達後に価格が戻っても契約状態は原則として戻らない取消し・訂正は別イベントとして履歴化し、到達根拠を保持する
監視条件、到達価格、判定日時、情報源、決定者を保存し、現在価格だけから状態を再計算しない。

5.契約から満期までの業務事象

連続監視をシステムが直接行うか、外部判定結果を受けるかでデータ粒度が異なる。少なくとも到達根拠を監査可能にする。

6.店頭・上場、清算、決済を分ける

約定場所主としてOTC。バリア条件を個別設計する。
上場標準化された類似商品がある場合もあるが、商品仕様を確認する。
中央清算相対管理が中心。清算・証拠金は対象商品要件による。
決済基礎オプションの現物/現金に、リベート等が追加される。

『バリア』という名称だけでは状態遷移を決められない。方向、イン/アウト、監視、等号、リベートを組み合わせて商品を識別する。

7.金融システムで持つデータと関連

データ群主な項目
基礎権利コール/プット、買い/売り、行使価格、満期、行使方式、決済。
バリア条件イン/アウト、アップ/ダウン、水準、単一/二重、等号、監視期間。
観測予定・実日時、価格、情報源、時刻帯、採否、連続/離散、状態。
到達イベント候補・確定、到達日時・価格、判定者、根拠、取消し・訂正関連。
状態・決済未到達、有効化、消滅、行使、失効、リベート、差額調整。

8.実装時に混同しやすい事項

  • 現在価格から過去の到達状態を推測しない。
  • バリア条件と到達イベントを同じ項目にしない。
  • ノックインとノックアウトを真偽フラグ一つで反転表現しない。
  • 連続監視と日次終値監視を同じ観測列にしない。
  • ノックアウトを契約処理完了と即断しない。
  • 価格訂正で元到達イベントを削除しない。

9.利用場面と確認資料

状態依存商品なので、契約条件、観測、判定、状態遷移、受払をイベント駆動で設計し、境界テストと訂正テストを重視する。

個別案件での確認事項
取引確認書、1998 FX・通貨オプション定義のバリア補足等の適用文書、価格源、監視・市場障害・リベート条項を確認する。
次につながる知識:コール・プット、価格表示、二通貨受渡し、バリア等を組み合わせる通貨オプションを最後に確認する。
O8 通貨オプション(FXオプション)――二つの通貨と行使時受渡しを扱う
通貨オプション(FX Option / Currency Option)とは
所定の期日または期間に、一方の通貨をあらかじめ定めた為替レートで買い、同時に他方の通貨を売る権利を対象とする取引である。権利の買い手はプレミアムを支払って行使するかどうかを選び、権利の売り手はプレミアムを受け取る代わりに、有効に行使された場合の二通貨受渡しまたは差金支払の義務を負う。一方の通貨のコールは他方の通貨のプットでもある。

1.商品目的と基本構造

将来の外貨受払レートを保護しつつ、有利な為替変動の利益を残す目的等で用いる。通貨Aを買う権利を買う場合だけでなく、その権利を売る場合、通貨Aを売る権利を買う場合、その権利を売る場合がある。権利方向と買い/売りを別々に明示する。

通貨Aコールの買い通貨Bを渡して通貨Aを受け取る権利を取得する。
通貨Aコールの売り通貨Aコールを付与し、行使時に通貨Aを渡す義務を負う。
通貨Aプットの買い通貨Aを渡して通貨Bを受け取る権利を取得する。
通貨Aプットの売り通貨Aプットを付与し、行使時に通貨Bを渡す義務を負う。
為替表示単位通貨、相手通貨、通貨ペア順、乗除方向を明示する。
決済二通貨現物受渡しまたは所定通貨の差金決済。プレミアム通貨は別に持つ。

2.契約当事者、参照対象、主な受払

『USDコール』等の表示は相手通貨とポジション方向を省略している。通貨Aコールを買う取引では、買い手は行使時に通貨Bを渡して通貨Aを受け取る権利を持つ。通貨Aコールを売る取引では、売り手は行使された場合に通貨Aを渡して通貨Bを受け取る義務を負う。システムでは購入通貨・売却通貨・権利方向・買い/売りを分離する。

図46 通貨オプションの権利方向と買い・売り

通貨Aコール/プットについて、権利を買う場合と売る場合を分ける。

通貨オプションの権利方向と買い・売り 通貨Aコールと通貨Aプットについて、権利を買う場合と売る場合の受払・義務を示す。 通貨Aコール:通貨Aを買い、通貨Bを売る権利 権利を買うプレミアムを支払う行使時:Bを渡しAを受取権利を売るプレミアムを受け取る行使時:Aを渡しBを受取 通貨Aプット:通貨Aを売り、通貨Bを買う権利 権利を買うプレミアムを支払う行使時:Aを渡しBを受取権利を売るプレミアムを受け取る行使時:Bを渡しAを受取 通貨Aコール=通貨Bプット権利方向と買い/売りを別項目として保持する
購入通貨・売却通貨と、権利の買い・売りを別の項目として保持する。

3.受払計算と主要条件

権利方向通貨Aを買う権利か、通貨Aを売る権利か。通貨Aコールは通貨Bプットでもある。
ポジション方向権利を買うのか、権利を売るのか。売り手は行使された場合の義務を負う。
権利行使レート単位通貨に対する相手通貨額、通貨ペア順、価格単位、小数桁、乗除方向。
通貨金額購入通貨額、売却通貨額、基準とする金額、部分行使単位。
プレミアム支払者・受取者、通貨、金額、単位、支払日。購入・売却通貨と別の場合がある。
行使・判定行使方式・日、通知期限、判定レート、情報源、通貨ペアから見た有利・不利の方向。
決済現物二通貨または差金、決済通貨、参照レート、日付、口座、同時決済。

通貨ペアを反転表示するとレートは逆数関係となり、コール/プット、上昇/下落、バリア到達方向も反転する。単純な文字列反転や符号反転で変換しない。

4.商品形態と分類軸

分類内容
デリバラブル有効に行使された場合、購入通貨と売却通貨を現物で受け渡す。
ノンデリバラブル契約所定の判定レートを用い、差額を一つの決済通貨で支払う。
行使方式ヨーロピアン、アメリカン、バミューダン等により、行使可能日・期間が異なる。
条件付きバリア、デジタル、アジアン等では、価格経路、条件判定、観測列を追加する。
上場/店頭標準化された銘柄または個別に合意した条件で取引する。

図47 通貨Aコールを行使した場合の二通貨受渡し

権利の買い手と売り手では、契約時プレミアムと行使時の通貨A・通貨Bが異なる方向に動く。

通貨Aコールを行使した場合の二通貨受渡し 通貨Aコールの買い手と売り手の間で、プレミアムと行使時二通貨が異なる方向に受け渡される。 権利の買い手通貨Aコールを保有権利の売り手行使時の義務を負う 契約時:プレミアム 現物決済で行使売り手から買い手へ通貨A買い手から売り手へ通貨B 差金決済の場合二通貨受渡しを作らず、契約式による一通貨支払
現物決済では二通貨の受渡しを別明細で管理する。差金決済では契約式による一通貨支払へ置き換える。
4-1.バリア型通貨オプション

基礎となる通貨オプションに、為替レートが契約所定のバリア水準へ到達した場合の効果を加える。ノックインは到達により権利が発生し、ノックアウトは到達により権利が消滅する。アップ/ダウンは通貨A/通貨B等の表示レートが上昇・下落する方向を表すため、通貨ペアの表示順を変えると判定方向も変わる。

基礎権利通貨コール/プット、権利の買い/売り、行使レート、満期、現物/差金決済。
バリア条件アップ/ダウン、イン/アウト、単一/二重、水準、等号、監視開始・終了。
監視連続または所定時刻、価格情報源、時刻帯、市場障害、到達候補・確定。
到達後権利の有効化・消滅、リベート、基礎オプションの行使可否、訂正・取消し。

図48 バリア型通貨オプションの表示方向と到達判定

通貨ペアの表示方向を固定し、監視期間中の為替レートがバリアへ到達したかを判定する。

バリア型通貨オプションの表示方向と到達判定 通貨ペアの表示方向を固定したうえで価格経路を監視し、到達時に権利状態を変更する。 例:通貨A/通貨Bの表示レート上側バリア到達 ノックイン通貨オプションが有効化ノックアウト通貨オプションが消滅 通貨ペアを反転すると、表示レートと上昇・下落の意味も反転する
アップ/ダウンは表示レートの方向で決まる。通貨ペアを反転した場合に文字列だけを置き換えてはならない。
4-2.デジタル型通貨オプション

契約所定の為替条件を満たした場合に、固定額等を支払う。満期等の一時点で判定するヨーロピアン型と、期間中に水準へ到達したかを判定するワンタッチ/ノータッチ型等では、必要な観測データと状態遷移が異なる。

判定条件通貨ペア、比較対象レート、条件水準、以上/超過等の演算子、判定日時。
経路判定ワンタッチ、ノータッチ、ダブルタッチ等では監視期間と到達イベントを持つ。
支払固定額または所定通貨額、支払通貨、支払時期、条件成立時/不成立時の扱い。
証跡使用価格、情報源、時刻、丸め、等号、判定結果、訂正・再判定。

図49 デジタル型通貨オプションの判定と固定支払

満期等の一時点で判定する型と、監視期間中の到達有無で判定する型を分ける。

デジタル型通貨オプションの判定と支払 満期一時点の条件判定と、期間中の到達判定を分け、成立時の固定支払を示す。 満期一時点判定の例判定レート固定額を支払う ヨーロピアン型満期等の一時点で判定ワンタッチ型等期間中の到達有無で判定 支払通貨、固定額、判定時刻、価格情報源、等号を明示する
条件成立時の支払額・支払通貨・支払時期は、購入通貨・売却通貨とは別に定義する。
4-3.アジアン型通貨オプション

複数の観測日の為替レートから平均値を算出し、支払額または行使条件へ用いる。平均レート型は平均レートと固定行使レートを比較し、平均行使レート型は満期レート等と平均化した行使レートを比較する。

表示基準全観測を同じ通貨ペア順・同じ価格単位へ揃える。反転レートを混在させない。
観測予定観測日、時刻、価格情報源、ウェイト、休日調整、欠測時の代替規則。
平均計算算術/幾何、単純/加重、観測値・平均値・支払額の各丸め段階。
訂正観測値訂正時に、平均値、行使判定、支払額をどの時点まで再計算するか。

図50 アジアン型通貨オプションの観測レートと平均

同じ表示方向の為替レートを複数日観測し、契約所定の平均レートを作る。

アジアン型通貨オプションの観測レートと平均 複数の為替レート観測から平均レートを作り、平均レート型または平均行使レート型の判定へ使う。 通貨A/通貨Bの観測レートR1R2R3R4Rn 平均レートを確定表示方向・観測日・ウェイト・欠測・丸め 平均レート型平均値と固定行使レートを比較する平均行使レート型満期レートと平均化した行使レートを比較する 通貨ペアを反転したレートを混在させず、全観測を同じ表示基準へ揃える
観測値、採否、ウェイト、欠測補完、訂正、丸めを残し、最終平均値だけを保存しない。

5.契約から満期までの業務事象

満期・行使日と実際の通貨決済日は異なる場合がある。行使通知後に通貨別指図を生成し、決済結果を追跡する。

6.店頭・上場、清算、決済を分ける

約定場所OTC外国為替市場が中心だが、取引所上場の通貨オプションも存在する。
中央清算上場は通常中央清算。OTCは相対管理が中心で、対象制度は確認する。
上場商品との違い上場では通貨ペア、限月、価格、単位、行使・決済が標準化される。
決済現物二通貨または差金一通貨。決済サービス利用を約定場所と分ける。

BISの市場統計でもFXオプションはOTC外国為替商品の一分類として扱われる一方、上場商品もある。個別取引の約定場所で判定する。

7.金融システムで持つデータと関連

データ群主な項目
当事者・ポジション権利の買い手・売り手、プレミアム支払者・受取者、取引主体から見た買い/売り。
通貨役割購入通貨、売却通貨、単位通貨、相手通貨、プレミアム通貨、決済通貨。
権利コール/プット、権利の買い/売り、行使方式・日、通知期限、数量・部分行使。
価格行使レート、表示順、単位、小数桁、判定レート、情報源、時刻帯、丸め。
バリアアップ/ダウン、イン/アウト、水準、等号、監視期間、到達日時・価格、リベート。
デジタル判定条件、ヨーロピアン/タッチ型、固定支払額、支払通貨・時期、判定結果。
アジアン観測予定・実績、表示基準、価格、採否、ウェイト、欠測補完、平均値、訂正。
決済現物/差金、通貨別金額・口座・指図、同時決済、片側状態、再決済。
イベント行使、失効、到達、権利発生・消滅、価格訂正、再判定、差額調整。

8.実装時に混同しやすい事項

  • 通貨Aコールの「買い」と「売り」を同じ権利保有状態にしない。
  • コール/プットだけで購入通貨・売却通貨を省略しない。
  • 通貨ペア反転を単純な文字列・符号処理にしない。
  • プレミアム通貨を購入通貨または売却通貨と決めつけない。
  • バリア、デジタル、アジアンを一つの条件フラグで表現しない。
  • バリア到達、デジタル判定、アジアン観測を現在価格だけから再構築しない。
  • 現物型と差金型で同じ受払生成をしない。
  • 行使日と通貨決済日を同一にしない。
  • 片側通貨決済済みを取引全体の完了としない。

9.利用場面と確認資料

二通貨方向、価格表示、権利、観測、決済を同時に扱うため、前段の商品で分離した各データ要素を統合して確認する総仕上げとなる。

個別案件での確認事項
取引確認書、適用中の1998 FX・通貨オプション定義と各補足、2027年11月22日に実施予定の2026 FX定義への移行方針、通貨ペア・価格情報、行使・市場障害・決済・バリア条項、取引所仕様を確認する。
次につながる知識:通貨オプションまでで、スワップの受払、オプションの権利、複数通貨、観測、条件イベント、決済を一つのデータ構造へ分解する考え方がつながる。

20.参考資料

主な公開資料