金融SE(金融システムエンジニア)向けに、クロスボーダー資金決済と証券保管・決済を分け、銀行間決済口座・金融メッセージ・グローバルカストディアン・証券振替機関まで整理する

基準時点:2026年8月18日 / 作成:AddWisteria Lab
コルレスとカストディは、ともに「自社だけでは直接処理できない海外市場の業務を別の金融機関等へ委託する」 場面で登場するが、目的は異なる。 コルレスは主として資金・送金の決済、カストディは主として証券の保管・決済・権利処理を担う。 同じ銀行が双方のサービスを提供することはあるが、システムではサービス・契約・口座を分けて管理する必要がある。 外国為替取引の基本構造では二通貨の交換と決済を扱い、本ページでは、その決済を支える銀行間のサービス関係・口座と、証券の保管階層・資産管理業務を掘り下げる。

1.コルレスとカストディは何が違うか

コルレスとカストディの全体像。コルレスでは顧客・企業の外国送金や外貨決済を、依頼銀行、コルレス銀行、受取銀行、ノストロ・ボストロ口座、現地決済制度を通じて処理する。カストディでは投資家・運用会社の証券をグローバルカストディアン、サブカストディアン、証券振替機関を通じて保管・決済し、配当・利金、コーポレートアクション、税務、照合・報告を行う。
図1 コルレス・カストディの全体像。コルレスは主として資金決済、カストディは主として証券管理・決済・権利処理を担い、いずれも複数の金融機関・口座・市場インフラを通じて国境をまたぐ取引を支える。
観点 コルレス・バンキング カストディ
主な対象 資金・送金・外貨決済 有価証券・証券決済・権利処理
代表的な口座 ノストロ/ボストロ等の銀行間決済口座 保管口座、証券口座、資金口座等
主なサービス 送金、外貨支払、受取、資金決済、口座明細・入出金報告等 証券保管、売買決済、配当・利金、権利処理、議決権、税務処理等
主なインフラ Swift(金融機関間のメッセージ通信網)、各国の即時グロス決済(RTGS)等の決済システム、コルレス口座 証券集中保管・振替機関(CSD)、国際証券集中保管・振替機関(ICSD)、現地カストディアン、証券メッセージ・照合基盤
代表的リスク 決済、流動性、マネー・ローンダリングおよびテロ資金供与対策(AML/CFT)、制裁、相手先・事務処理リスク 保管、決済未了、権利処理、税務、資産分別、サブカストディアン等のリスク
外国為替取引ページとの役割分担: 外国為替取引ページは、約定した二通貨をどのように受け渡すかという決済過程を扱う。 本ページは、その過程に登場するコルレス契約、銀行間口座、中継銀行の役割と、証券保管・資産管理の仕組みを中心に扱う。
最初に分ける 「海外銀行へ何かを頼んでいる」という点は共通していても、
コルレス = 資金・送金サービス
カストディ = 証券保管・資産管理サービス

2.コルレス銀行とは何か

日本銀行の決済システムレポートでは、コルレス契約を 「クロスボーダー送金の支払い等について委託または受託する契約」と整理している。 送金銀行と受取銀行が直接この契約・口座関係を持つ場合、 コルレス口座を通じて資金を移動できる。

直接のコルレス関係がない場合は、 双方またはいずれかが契約を持つ中継銀行を経由して送金することがある。 したがって、最終受取銀行へ送金メッセージを出せば必ず直接決済できるわけではない。

金融SE向け: 決済相手、コルレス銀行、中継銀行、受取銀行を一つの銀行識別子だけで表現しない。 送金案件ごとに「どの役割で登場しているか」を保持する。

実務で見ると――円決済と米ドル決済の代表例

通貨・サービス 公式資料で確認できる代表例 実務上の見方
円資金決済 三菱UFJ銀行は、海外金融機関向けにコルレス円口座を入口とする円資金決済、CLSSettlement(CLS Bank Internationalが提供する多通貨決済システム/サービス)を利用する金融機関向けの円建てノストロ・エージェント、コルレス口座の情報照会等を案内している。 海外銀行が日本の円決済市場へ接続するため、円口座、決済経路、時限性の高い支払処理、緊急払込み、日中流動性、口座明細を組み合わせて利用する例である。
米ドル資金決済 Citiは、金融機関・法人向けの「24/7 USD Clearing」を通じ、米ドルのクロスボーダー決済と流動性管理を案内している。 米ドル決済を提供する銀行の一例である。利用可能な国・時間・経路・最終受取人への入金条件は、契約や受取銀行等により異なる。
CLS・CLSSettlement・ノストロ・エージェントを分ける CLSは外国為替取引の決済関連サービスを提供する組織・金融市場インフラの名称、CLSSettlementはCLS Bank Internationalが提供する多通貨決済システム/サービスである。 ノストロ・エージェントは、参加金融機関のために対象通貨の払込み、資金手当、口座管理等を支える別の銀行サービスである。
上記は、各社の公式資料で確認できるサービスの代表例であり、「日本のコルレス銀行」「米国のコルレス銀行」という固定的な会社分類ではない。 実際に利用する金融機関は、通貨、国、送金経路、決済時間、契約、信用・制裁管理等によって異なる。

3.ノストロ・ボストロ口座

ノストロ口座(Nostro Account)は、ある銀行が他の銀行に保有している自行名義の口座を、 その口座を保有する側から見た呼称である。 日本銀行のクロスボーダー送金例では、送金銀行Aが受取銀行Bに開設している口座を、 Aから見てノストロ口座として説明している。

ノストロ口座(Nostro)

「自行が相手銀行に持つ口座」という視点。 外貨資金残高、支払、受取、口座明細を自行側で管理する。

ボストロ口座(Vostro)

「相手銀行が自行に持つ口座」という視点。 他行が自行に持つ口座を、自行側から見た呼称として使う。

ノストロ/ボストロは同じ口座関係をどちら側から見るかという呼称である。 「ノストロ用口座」と「ボストロ用口座」という別種類の商品が必ず2つ存在するわけではない。

4.クロスボーダー送金の基本フロー

送金人支払を依頼する顧客送金銀行A依頼確認・不正送金対策顧客口座から引落しSwift等で指図受取銀行BA行のノストロ口座を管理送金内容・適法性確認A行口座へ出金記帳受取人へ入金記帳受取人資金を受け取る顧客送金依頼送金メッセージ入金メッセージの流れと資金の流れは同じではないSwift等:送金内容を伝えるコルレス口座:実際の銀行間残高へ出金・入金を記帳メッセージ処理済み ≠ 資金決済完了この例は直接コルレス関係がある場合。ない場合は中継銀行が追加される。
図2 日本銀行「決済システムレポート(2024年9月)」のクロスボーダー送金例を基礎に単純化。 実際には通貨、国、金融機関、制裁・AML/CFT、決済インフラ等により経路が異なる。

5.中継銀行はなぜ入るのか

送金銀行と受取銀行が直接コルレス契約を締結しておらず、 相互に利用可能な決済口座を持たない場合、 両者と関係を持つ第三の銀行を経由して資金決済を行うことがある。 日本銀行はこの第三の銀行を中継銀行として説明している。

送金銀行A直接口座関係なし中継銀行Cコルレス銀行A・Bとの口座関係を利用資金を中継受取銀行B最終受取銀行中継銀行が増えると管理項目も増える送金経路・中継銀行・手数料・締切時刻・制裁確認・処理状態・修正最終受取銀行だけで決済経路を復元できるとは限らない
図3 直接のコルレス関係がない場合の中継銀行利用の概念図。

6.銀行はコルレス先を何で選ぶか

コルレス先は市場全体で一律に固定されるものではない。 全銀協の説明では、各銀行が事業環境や顧客ニーズを踏まえて どの銀行とコルレス契約を締結するかを個別に決めている。

通貨・国のカバレッジ

必要通貨を決済できるか、対象国・地域へ送金ネットワークを持つか。

顧客ニーズ

送金先国、企業顧客の取引先、件数・金額、必要サービス等。

信用・コンプライアンス

相手銀行の信用、マネー・ローンダリング対策、制裁対応、国・地域リスク、取引開始前審査等。

決済・流動性

締切時刻、資金効率、ノストロ口座への資金手当、日中流動性、口座明細・残高の可視性等。

オペレーション

人手を介さない自動処理率、メッセージ標準、修正処理、問い合わせ、時差、業務継続等。

価格・手数料

送金、口座、流動性管理、送金調査等のコストを総合的に判断する。

上記は公開資料から一般化した実務上の判断観点である。 各銀行の個別の選定基準・審査ルールは内部規程・契約・リスクアペタイト等によって異なる。

7.Swiftと資金決済の違い

Swiftは、金融機関等の間で標準化された金融メッセージを交換する通信網・サービスであり、 コルレス・バンキングを支える重要な通信インフラである。 ただし、Swiftメッセージ自体が銀行間口座の最終的な資金移転ではない。

分けて考える Swift/ISO 20022(金融メッセージの国際標準)等 = 「何を支払うか」を伝える仕組み
コルレス口座/即時グロス決済等 = 実際の資金残高を移す仕組み
システムでは: 送金指図、送受信メッセージ、銀行口座の入出金明細、最終決済を別データにする。 「Swift受付済み」を「資金決済済み」に読み替えない。

実務で扱う代表的なメッセージ・資料

用途 代表例 システムで確認する点
銀行間の顧客送金 ISO 20022のpacs.008(金融機関間顧客送金) メッセージ識別子、送金人・受取人、中継銀行、通貨、金額、資金決済日、処理状態。
処理結果の通知 pacs.002(支払処理状態の報告) 受付、拒否、保留等の状態と理由。資金決済完了とは別に管理する。
口座明細 camt.053(口座明細)、camt.054(入出金通知) ノストロ口座の記帳日、資金決済日、金額、外部参照番号、自社送金との対応。
契約・運用資料 コルレス契約、口座開設書類、署名権限、決済条件表、手数料表、日次口座明細、送金調査依頼 契約先、対象通貨、利用サービス、締切時刻、連絡先、承認者、有効期間。
送金実務では、必須項目不足、制裁確認による保留、ノストロ口座の残高不足、締切時刻超過、重複送信、手数料控除、返金・組戻し等が起こり得る。 送金監視画面では、メッセージ状態だけでなく、保留理由、修正履歴、資金手当、口座記帳、最終受取銀行までの追跡状態を確認できるようにする。

8.カストディとは何か

カストディは、投資家等に代わって有価証券を保管・管理し、 売買決済、利子・配当・償還金の受領、権利処理(コーポレートアクション)、議決権行使等の 資産管理サービスを行う業務である。 現在の有価証券は振替制度上の記録によって管理されるものが多く、ここでいう「保管」は、証券を物理的に預かることだけでなく、口座記録、残高、名義、権利を継続的に管理することを含む。

信託協会の有価証券管理信託でも、受託者が有価証券の保管、 公社債の利子・償還金の取立て等を行うことで、 委託者の管理事務を軽減する仕組みが説明されている。 ただし、カストディは証券保管・資産管理という業務機能を表すのに対し、信託は委託者が財産を受託者へ移し、信託目的に従って管理・処分する法的な仕組みであり、両者は同義ではない。

「保管」だけではない 証券保管 + 売買決済 + 配当・利金等 + 権利処理 + 税務 + 報告 + 照合

9.グローバルカストディアン・サブカストディアン・証券振替機関

海外証券を保有する場合、投資家が各国の証券振替機関へ直接口座を持つとは限らない。 グローバルカストディアンが投資家から複数市場の管理を受託し、 各国の現地カストディアン/サブカストディアンや証券振替機関を介して証券を管理する構造が一般的に用いられる。

資産保有者年金・銀行・保険等グローバルカストディアン複数市場を一元管理指図・残高・権利処理・報告各国の現地受託網サブカストディアン現地カストディ銀行現地市場への接続振替機関口座・決済・権利処理証券振替機関(CSD)証券振替・記録運用会社投資判断・売買指図実質保有者と登録名義人・口座名義人は一致しない場合がある各階層の口座名義・最終投資家・委託者を別データで保持する
図4 グローバルカストディアン・サブカストディアン・証券振替機関の一般化した保管階層。 実際の階層、口座名義、ノミニー(名義保有者)の利用等は市場・契約により異なる。

証券振替機関と国際証券振替機関の違い

区分 主な役割 実在例 システム上の見方
証券集中保管・振替機関(CSD) 主として特定の国・市場で発行された証券の記録、口座振替、決済を担う。 日本の証券保管振替機構(JASDEC) 市場、制度、参加者口座、銘柄、決済場所を対応付ける。
国際証券集中保管・振替機関(ICSD) 複数の国・市場にまたがる証券、国際債券等の保管・決済・資産管理への共通の接続口を提供する。 Euroclear Bank、Clearstream Banking S.A. 国内市場との接続先、保管経路、決済通貨、資金口座、証券口座を分けて管理する。
役割を固定しない: グローバルカストディアンは投資家の窓口となるサービス提供者、CSD・ICSDは証券の記録・振替・決済を担う市場インフラという違いがある。 同じ企業グループや銀行が複数機能を提供する場合でも、法人、契約上の役割、口座、実際の決済場所を別に保持する。

実在するサービス・市場インフラの例

役割 公式資料で確認できる代表例 このページでの位置付け
グローバルカストディ 三菱UFJ信託銀行は、海外子会社のネットワークを通じたグローバルカストディ、証券貸借、外国為替等のサービスを案内している。 投資家の窓口として複数市場の保管・決済・資産管理をまとめる例である。
日本の証券振替・決済基盤 証券保管振替機構(JASDEC)は、株式、社債、短期社債(CP)、投資信託等の振替制度、決済照合システム、外国株券等保管振替決済を運営している。 証券振替機関、決済照合基盤、外国株券等の保管・権利処理を具体的に理解する例である。
国際証券振替・決済基盤 Euroclear BankとClearstream Banking S.A.は、国際証券集中保管・振替機関として、国境をまたぐ証券の保管・決済・資産管理サービスを提供している。 国内の証券振替機関だけでは完結しない国際証券の保管・決済経路を理解する例である。

オムニバス口座と分別口座

オムニバス口座は、複数の顧客分を上位のカストディアンや証券振替機関ではまとめて記録し、下位の自社台帳で顧客別残高を管理する口座構造である。 分別口座は、特定の顧客または区分ごとに上位口座を分ける構造である。 どの単位まで分別されるか、倒産時にどのような保護を受けるかは、市場の法制度、口座規則、契約によって異なる。

金融SE向け: 上位機関の口座識別子、口座構造、口座名義人、実質保有者、顧客別残高を別項目として保持する。 上位口座が一つでも、下位台帳では複数顧客へ正確に配賦・照合できる必要がある。
上記は代表例である。実際の保管階層や利用先は、投資対象国、市場、証券種類、口座形態、委託契約等によって異なる。

10.カストディ業務で何をしているか

業務 主な処理 システムで中心となるデータ
証券保管 証券口座・残高・名義・分別状態を管理する。 証券口座、保有残高、保有者、口座区分、証券振替機関。
売買決済 売買に基づく証券・資金の受渡指図と処理状態を管理する。 決済指図、証券と資金を連動させる決済(DVP)/資金を伴わない振替(FOP)、相手先、決済場所。
配当・利金等 配当、利金、償還金等を受領し顧客へ配賦する。 権利明細、権利確定日、支払日、税引前/税引後金額、税額。
権利処理 株式分割、公開買付け、権利行使、償還、選択型イベント等を通知・処理する。 イベント識別子、イベント種別、選択肢、回答期限、顧客指図、権利明細。
議決権行使 顧客の議決権行使指図を受け、現地で行使する。 株主総会、権利確定日、議決権行使指図、回答期限。
税務 源泉税、租税条約、軽減税率適用、還付請求等を処理する。 税率、投資家属性、税務書類、還付請求状態。
報告 残高、取引、未決済、収益、権利処理等を顧客へ報告する。 報告書、基準日時、情報源、照合状態。
金融SE向け: 保管残高は、投資判断上の運用残高と同じとは限らない。 保管台帳、運用台帳、会計台帳をどの粒度で照合するかを明確にする。

常設決済指図(SSI)

常設決済指図(SSI:Standing Settlement Instructions)は、通貨・市場・相手先等ごとに通常利用する決済銀行、資金口座、証券口座、証券振替機関等をあらかじめ登録した標準的な決済指図である。 JASDECの決済照合システムでも、ファンドごとの証券・資金口座番号等の決済条件を事前登録し、約定照合後のデータへ付与して決済指図を作成する仕組みが説明されている。

SSIは固定値として上書き管理せず、適用開始日、失効日、変更前後の版、承認状態、対象通貨・市場・相手先を保持する。 誤ったSSIは、指図不一致、誤送信、決済未了の原因となり得る。

実務資料・画面・例外処理

実務資料

カストディ契約、口座開設書類、常設決済指図、売買・決済指図、残高明細、権利通知、税務書類、議決権行使指図等を扱う。

代表的な画面

証券口座・残高、決済照合結果、未決済一覧、権利処理の回答期限、配当・利金、税務書類、照合差異等を確認する。

決済の例外

指図不一致、証券・資金不足、締切時刻超過、部分決済、取消し、決済未了等を、理由・担当・期限とともに管理する。

権利・税務の例外

顧客回答の期限超過、権利数量差、入金不足、税率差、必要書類不足、還付未了等を追跡する。

11.非居住者の日本証券取引

JASDECの決済照合システムでは、非居住者取引について、 カストディ業務を行う銀行・証券会社等の決済代理人間で 非居住者の対日証券取引に関する決済指図データの照合を行う。 国内取引とは異なり、同システム上では非居住者取引の約定照合は行わず、決済照合を行う。

海外投資家日本国外の投資家日本側カストディアン決済代理人証券・資金口座決済指図送信JASDEC決済照合決済前照合システム(PSMS)非居住者取引は決済指図を照合約定照合と決済照合を分ける約定内容の確認は海外投資家・証券会社等の別フロー非居住者機能ではカストディアン間の決済指図を照合
図5 JASDEC決済照合システムの非居住者取引を単純化したイメージ。
公開されている例外処理の具体例 JASDECの公式FAQでは、非居住者取引の決済金額は差額が100円以下であれば一致と判定する「誤差照合」が示されている。 また、照合一致後の取消しには相手方の対応や締切時刻が関係し、決済日当日の締切時刻経過後には取消しできない場合がある。 システムでは、完全一致/誤差照合一致、取消依頼、相手方応答、締切時刻、受渡実行可否を別の状態として管理する必要がある。
画面で見ると: JASDECの公式FAQでは、統合Web端末の「照会」から「照合結果一覧」を開き、取引を特定する検索条件を指定して照合結果を確認する手順が公開されている。 一般の決済管理画面でも、取引番号、銘柄、決済日、相手方、数量・金額、照合結果、決済可否、取消状態を一つの案件として追跡できることが重要である。

12.海外証券を日本から保有する構造

JASDECは、国内取引所に上場する外国株券等について、 現地カストディアンを通じた保管サービスを提供している。 JASDECの説明では、保管される外国株券等は、 現地カストディアンにJASDEC名義または現地カストディアン名義で登録される。

またJASDECは、外国株券等の振替決済だけでなく、 配当・株式分割等の権利処理、実質保有者の報告に基づく配当等の分配、 議決権行使の代行、権利処理の通知等も行っている。

投資家自身の名前が現地の証券振替機関・発行会社の最上位記録に直接出るとは限らない。 登録名義人、ノミニー(名義保有者)、保管口座、実質保有者の関係を市場ごとに確認する。

13.権利処理・配当等・税務

カストディでは、取引決済が終わった後も業務が続く。 配当・利金・償還等の支払イベントや、 株式分割、合併、公開買付け(TOB)、新株引受権、任意選択型イベント等を保有者へ伝え、 必要に応じて顧客指図を現地市場へ連携する。

  1. イベント受信:証券振替機関、サブカストディアン、情報ベンダー等から権利処理情報を受ける。
  2. 正規化:イベント種別、日付、選択肢、適用率、対象銘柄等を自社形式へ変換する。
  3. 権利算定:権利確定日の残高等から顧客別の権利数量・金額を計算する。
  4. 顧客通知:強制/任意等のイベント種別に応じて通知し、必要なら指図を受ける。
  5. 指図集約:顧客指図を市場・サブカストディアンへ送信する。
  6. 支払・証券受領:資金・証券を受領し、顧客へ配賦する。
  7. 税務処理:源泉税、租税条約の適用、還付請求等を行う。
  8. 照合:通知、権利、実受領、顧客配賦を照合する。
金融SE向け: 権利処理は、銘柄マスターの「イベント日」1列では表現できない。 イベント、選択肢、権利明細、顧客指図、支払を別データにする。

14.残高・取引・決済の照合

コルレスでもカストディでも、 自社帳簿と外部金融機関・市場インフラの残高・取引が一致しているかを継続的に照合する。 Swiftも証券決済・残高照合の標準化されたメッセージを提供している。

照合 自社側 外部側 差異例
ノストロ口座照合 自社の想定資金台帳 コルレス銀行の口座明細 未着金、重複、手数料差、資金決済日差、未認識の入出金。
証券残高照合 自社の保管残高 カストディアン/証券振替機関の残高明細 決済待ち、権利処理未反映、口座誤り、数量差。
決済照合 決済指図/決済予定 カストディアン/証券振替機関の処理状態 指図不一致、決済未了、部分決済、取消し、市場締切時刻超過。
配当・利金等の照合 想定権利額 実際の受取額 税率差、権利確定日残高差、為替換算差、未受領。
照合は単なる後処理ではない 海外業務では外部機関・時差・複数口座・中継機関が増えるため、 照合結果と差異管理そのものが中核業務となる。

15.金融システム担当者が持ちたいデータと状態

データ領域 主な項目例 理由
金融機関 法人名、BIC(金融機関等の事業体を識別するコード)、所在国、支店、信用グループ、利用状態 銀行本体と支店・サービスロールを分ける。
サービス関係 コルレス銀行、グローバルカストディアン、サブカストディアン、決済代理人、契約日、通貨・市場 同じ銀行でも複数サービスを提供し得る。
コルレス口座 ノストロ/ボストロ、通貨、口座番号、口座保有者、口座管理銀行、締切時刻、利用状態 通貨別の銀行間資金決済口座を管理する。
送金経路 送金銀行、中継銀行、コルレス銀行、受取銀行、利用する決済システム クロスボーダー送金経路を再現する。
送金メッセージ メッセージ識別子、Swift/ISO 20022の種別、UETR(国際送金を一意に追跡する番号)、送受信時刻、処理状態 指図メッセージと実決済を分離する。
ノストロ口座入出金 入出金区分、資金決済日、金額、外部参照番号、明細基準日、照合状態 資金残高・口座明細の照合に利用する。
保管口座 口座識別子、市場、証券振替機関、カストディアン、サブカストディアン、実質保有者、分別方式 保管階層・分別方式を管理する。
口座構造 オムニバス/分別、上位口座、下位顧客口座、口座名義人、実質保有者、適用開始日 上位機関の記録と顧客別残高の対応関係を管理する。
証券残高 ISIN(証券の国際識別コード)、口座、決済済残高、受取待ち/引渡待ち、利用可能数量、拘束数量 保管残高・利用可能残高を分ける。
証券決済 決済指図識別子、SSIの版、決済場所、DVP/FOP、相手先、約定日、決済日、照合状態、受渡可否、決済状態、部分決済数量 売買と証券受渡を結び、照合から外部決済までを追跡する。
権利処理 イベント識別子、種別、権利確定日、権利落日、支払日、選択肢、回答期限 市場イベントを構造化する。
権利明細 顧客、計算基礎残高、税引前金額・数量、税額、税引後金額・数量 顧客別の権利を計算する。
顧客指図 顧客の選択肢、数量、回答時刻、市場回答期限、処理状態 任意の権利処理・議決権等を管理する。
税務 課税国、租税条約上の税率、必要書類、軽減税率適用/還付請求、処理状態 国・顧客属性ごとの税務処理に必要。
照合 照合識別子、比較元A/B、想定値/実績値、差異種別、担当者、未解消日数、解消内容 資金、証券残高、決済、配当・利金等の差異を管理する。
処理状態 メッセージ状態、照合状態、資金準備状態、証券準備状態、外部決済状態、取消状態、状態理由、更新時刻 受付済み、照合一致、受渡可能、決済完了等を同じ状態として扱わない。
証跡 外部メッセージ、口座・残高明細、市場通知、手動修正、承認、記録時刻 国際業務の経路・判断・修正を追跡する。

16.システム設計上のポイント

① 法人とサービスを分ける

特定の銀行を「コルレス銀行」と固定せず、通貨・市場・契約ごとのサービス上の役割を持つ。

② メッセージと決済を分ける

Swiftの送受信と、ノストロ口座の入出金・証券振替機関での振替を別イベントにする。

③ 実質保有者と名義を分ける

投資家、ノミニー、カストディアン、証券振替機関の口座名義人を別の役割として管理する。

④ 資金と証券を別台帳にする

ノストロ口座の資金残高とカストディの証券残高を関連付けるが、同一の残高モデルにはしない。

⑤ 権利処理をイベント化する

市場通知、権利算定、顧客選択、支払を分離して追跡する。

⑥ 照合を独立した管理データにする

差異を表計算ファイルだけで管理せず、差異内容、担当者、期限、解消、再発をシステムで管理する。

⑦ 状態を一列にまとめない

メッセージ受付、照合一致、資金・証券の準備、外部決済、取消しを別の状態として記録し、それぞれの理由と更新時刻を保持する。

データモデル上の分離 法人 ≠ サービス関係 ≠ 口座 ≠ 送金指図 ≠ メッセージ ≠ 資金入出金
≠ 保管口座 ≠ 証券残高 ≠ 証券決済 ≠ 権利処理 ≠ 照合。
メッセージ状態 ≠ 照合状態 ≠ 資金準備状態 ≠ 証券準備状態 ≠ 外部決済状態 ≠ 取消状態。

17.参考資料

主な公開資料