ALM(資産・負債の総合管理)の基礎とシステム実務

資産・負債、金利、流動性、資金調達、収益性を一体で捉え、バランスシートを経営判断へつなげる

基準時点:2026年8月16日 作成:AddWisteria Lab 対象:金融系システムエンジニア・銀行実務の学習者

このページで分かること

ALMはAsset Liability Management(資産・負債の総合管理)の略である。 銀行全体の資産、負債、オフバランス取引について、金利、期間、通貨、資金調達、流動性、収益性を一体で捉え、 経営方針、リスク許容度、収益計画に沿うようバランスシートを運営する枠組みをいう。

本ページでは、契約キャッシュフローと顧客行動を反映したキャッシュフロー、満期・金利更改ギャップ、 NII(Net Interest Income:資金利益)とEVE(Economic Value of Equity:資本の経済価値)、 流動性・資金調達、通貨、ヘッジ、ストレステスト、FTP(Funds Transfer Pricing:行内の資金移転価格)、 ALCO(Asset and Liability Management Committee:資産・負債管理委員会)による意思決定までを整理する。 後半では、ALMシステムのデータ、計算、システム間データ連携、照合、統制を扱う。

最初に押さえる要点
ALMは、資産と負債の金額を一致させる作業でも、一つの規制比率を計算する作業でもない。 同じバランスシートを、収益、経済価値、流動性、資金調達、資本という複数の視点から将来へ展開し、 取るリスク、抑えるリスク、価格へ反映するコスト、実行するヘッジや調達を決める経営管理である。
本ページは、金融庁「主要行等向けの総合的な監督指針」、日本銀行の金融システムレポート・調査論文、 バーゼル銀行監督委員会の銀行勘定の金利リスク、流動性リスク管理、リスクデータ集計に関する公開資料を基礎に一般化している。 個別金融機関のALM方針、リスク限度、顧客行動モデル、ヘッジ判断、規制計算、会計判断を示すものではない。

1. ALMとは何か

銀行は、要求払いまたは比較的短期の預金を受け入れ、その資金を中長期の貸出や有価証券へ運用する。 この満期変換は銀行の重要な機能であり、収益の源泉である一方、金利変動と資金流出に対する構造的なミスマッチを生む。 ALMは、このミスマッチをゼロにするのではなく、銀行の経営体力と戦略に照らして許容可能な範囲に管理する。

収益を守り、創る

貸出・有価証券の運用利回りと、預金・借入等の調達費用を将来の金利シナリオで見積もり、 資金利益の安定性と収益機会を評価する。

価値とリスクを管理する

将来キャッシュフローの現在価値が金利変動でどの程度変わるかを把握し、 資産・負債とデリバティブを含む全体の金利リスクを管理する。

支払能力を確保する

資金流出、担保需要、未使用枠の実行等を見積もり、平常時とストレス時に必要な資金を調達できる状態を維持する。

ALMの基本サイクル

1.現状把握残高、金利、期間、通貨、キャッシュフローを集約する
2.将来展開計画と顧客行動を反映し、収益・価値・流動性を予測する
3.評価限度、予算、リスク許容度、規制指標と比較する
4.意思決定価格、運用、調達、ヘッジ、流動性準備を決める
5.検証実績差、モデル差、限度使用、施策効果を確認する
ALMと統合リスク管理は同じではない
ALMは主としてバランスシート構造、金利、流動性、資金調達、収益性を横断する。 統合リスク管理は、信用リスク、市場リスク、流動性リスク、オペレーショナルリスク等を銀行全体で把握し、 資本やリスクアペタイト(経営として受け入れるリスクの種類と量)との関係を管理する、より広い枠組みである。

2. 銀行のバランスシートとALM

会計上の貸借対照表は基準日時点の資産、負債、純資産を示す。 ALMでは、それぞれを残高だけでなく、金利条件、次回金利更改日、契約満期、顧客行動、通貨、担保利用、換金可能性、 将来の実行・更新見込みへ分解する。オフバランス取引と将来計画も含めなければ、将来の収益と資金繰りを捉えられない。

資産・資金運用

  • 現金・日本銀行預け金・銀行預け金
  • 貸出金、コミットメント実行見込み
  • 国債、地方債、社債、株式、投資信託
  • レポ・コールローン等の短期運用
  • デリバティブ受払、担保受入・差入

負債・純資産・資金調達

  • 普通預金、当座預金、定期預金
  • コールマネー、レポ、借入金
  • 社債、劣後調達、中央銀行調達
  • デリバティブ受払、偶発的な資金流出
  • 純資産、資本、利益の蓄積
会計残高をALMへ展開するときに追加する主な情報
会計で見えるもの ALMで追加して見るもの 主な用途
基準日残高・簿価 元本、未収未払、時価、金利感応残高、利用可能残高 基準残高、経済価値、流動性準備を区別する。
契約満期日 次回金利更改日、返済予定、期限前返済、早期解約、ロール見込み 金利更改ギャップ、NII予測、行動キャッシュフローを作る。
表面金利 参照金利、スプレッド、金利フロア・キャップ、改定ルール 金利シナリオ別の利息とオプション性を計算する。
会計科目・商品区分 ALMポートフォリオ、通貨、拠点、法人、部門、顧客セグメント 経営管理の集計軸と責任単位へ変換する。
オフバランス残高 実行率、取消可能性、担保需要、デリバティブ将来受払 偶発的な資金需要と金利・流動性リスクを見積もる。
実績 予算、新規実行、解約、再投資、調達、ヘッジの計画 静態分析から動態的なバランスシート予測へ広げる。

会計区分、銀行勘定・トレーディング勘定の区分、ALMポートフォリオの区分は目的が異なる。 一つのコードを三つの目的へ流用せず、元取引を共通識別子で関連付けながら、それぞれの分類結果を保持する必要がある。

3. ガバナンスとALCO

ALMは計測部門だけで完結しない。取締役会・経営会議が経営方針とリスク許容度を定め、ALCOが資産・負債運営を横断的に審議し、 財務・資金・市場・営業・リスク管理等の部門が施策を実行する。独立したリスク管理部門は、計測、限度遵守、モデル、ストレス結果を検証し、 内部監査部門は枠組みと統制の有効性を評価する。

取締役会・経営会議

経営戦略、リスクアペタイト、重要な方針・限度、資本・流動性・収益の目標を承認し、重大な超過やストレスへの対応を決定する。

ALCO

金利見通し、残高計画、NII・EVE、資金繰り、調達構成、ヘッジ、FTP、限度使用状況を横断して審議し、実行方針を調整する。

財務・資金・市場・営業部門

資金調達、運用、ヘッジ、商品金利、販売計画を実行する。実行責任と、独立した計測・監視責任を混同しない。

リスク管理・モデル検証・内部監査

計測方法、前提、データ品質、限度、例外を検証する。モデル開発者と検証者、実行部門と監視部門の独立性を確保する。

ALCO資料に必要な五つの要素

  1. 事実:基準日時点の残高、金利、期間、通貨、調達、流動性準備を示す。
  2. 見通し:金利・為替・残高・顧客行動・市場環境の前提を明示する。
  3. 影響:基準・シナリオ別のNII、EVE、資金ギャップ、限度使用、規制指標を示す。
  4. 要因:前回差、予算差を、金利、残高、商品構成、顧客行動、モデル、データへ分解する。
  5. 選択肢:価格改定、調達、運用、ヘッジ、流動性準備等の施策と、その効果・費用・実行期限を示す。
会議資料の集計値だけでは意思決定できない
指標が悪化した場合に、どの商品、通貨、期間帯、拠点、仮定が原因かを掘り下げられなければ、対応策を選べない。 経営集計から契約・ポジション明細へ追跡できるデータ系譜と、前提変更前後を比較できる版管理が必要である。

4. 管理範囲・軸・判定単位

ALMの対象範囲は、銀行の規模、業務、法人構造、通貨構成、管理目的によって異なる。 ただし、連結合計だけを見ると、法人・拠点間で資金を移動できない場合や、特定通貨の不足を別通貨の余剰で埋められない場合を見落とす。 銀行全体の集計と、意思決定に必要な細分化を両立させる。

ALMで使う主な管理軸
管理軸 主な区分 確認する理由
組織 連結、単体、法人、支店、海外拠点、部門、ブック 資金移動制限、現地規制、責任部署、内部取引消去を反映する。
通貨 円、米ドル、ユーロ、その他重要通貨 金利曲線、調達市場、流動性、為替換算が通貨ごとに異なる。
商品・ポートフォリオ 預金、貸出、有価証券、短期市場、デリバティブ、オフバランス 金利改定、顧客行動、換金性、ヘッジ方法が異なる。
期間帯 翌日、1か月、3か月、6か月、1年、3年、5年、10年超等 資金受払、満期、金利更改、現在価値感応度を時間軸へ配置する。
金利指標 固定、短期プライムレート、TIBOR(Tokyo Interbank Offered Rate:東京銀行間取引金利)、TONA(Tokyo Overnight Average rate:無担保コール翌日物金利)、国債利回り等 同じ期間でも異なる指標間の動きが一致しないベーシス・リスクを捉える。
顧客・行動 個人、法人、金融機関、安定性、期限前返済、早期解約、実行率 契約どおりでない実際のキャッシュフローと金利追随を見積もる。
シナリオ 基準、金利上昇・低下、カーブ変化、預金流出、市場閉鎖、複合ストレス 単一の予測では見えない損失・資金不足と対応余力を確認する。

一つの判定単位へ揃えない

契約・取引単位

貸出、預金、債券、デリバティブ等の元本、金利条件、満期、受払を保持する最小単位である。 契約変更、部分返済、ロット、ヘッジ関係を追跡する。

キャッシュフロー単位

元本、利息、手数料、担保、証拠金等を支払日・受取日へ展開する単位である。 一契約から複数のキャッシュフローが生じる。

モデル・セグメント単位

普通預金の滞留、貸出の期限前返済等を、顧客・商品・チャネル等の同質的な集団で推計する単位である。

経営報告単位

法人、部門、通貨、ポートフォリオ、期間帯、限度等へ集計する単位である。 集計値から元の契約・モデルへ遡れることが必要となる。

5. 契約・行動キャッシュフロー

ALM計測の土台は、資産・負債・オフバランス取引から生じる将来キャッシュフローである。 まず契約条件どおりの元本・利息・手数料を生成し、そのうえで、預金の滞留、貸出の期限前返済、定期預金の早期解約、 コミットメントの実行等の行動仮定を目的別に反映する。

キャッシュフローを作るための主な日付・条件
対象 主な項目 注意点
元本 実行日、返済日、満期日、分割返済、残高、償還率 契約全体を最終満期へ置かず、元本部分ごとに展開する。
利息 利払日、固定・変動、参照金利、スプレッド、日数計算、営業日調整 利息支払日と、金利が決まる更改日・決定日を区別する。
オプション 期限前返済、早期解約、コール、プット、延長、フロア、キャップ 契約上の権利と、顧客が実際に行使する見込みを分ける。
オフバランス 未使用枠、保証、信用状、担保・証拠金、デリバティブ受払 現在の会計残高がゼロでも、将来の資金需要が生じ得る。
新規・更新 新規実行、満期更新、再投資、預金増減、商品金利、調達計画 既存残高だけの静態計測と、将来計画を含む動態計測を区別する。

契約キャッシュフローと行動キャッシュフロー

契約キャッシュフロー

契約上の期日と条件に基づく受払である。再現性が高く、契約データとの照合に向く。 一方、要求払い預金を全額翌日流出とするなど、実際の行動と大きく異なる場合がある。

行動キャッシュフロー

過去実績、顧客属性、金利差、経済環境等を用いて、実際の残存・返済・解約・実行を推計する。 モデル、仮定、適用範囲、検証、保守性、版の管理が不可欠である。

目的別のキャッシュフローを混同しない
会計利息、NII予測、EVE、内部流動性、LCR(Liquidity Coverage Ratio:流動性カバレッジ比率)、 NSFR(Net Stable Funding Ratio:安定調達比率)では、対象範囲、時間軸、行動仮定、規制上の取扱いが異なる。 共通の契約事実から、目的別の変換結果を生成し、同じ「残存期間」や「満期」の項目へ上書きしない。

6. 満期・金利更改ギャップ

ギャップ分析は、資産と負債を期間帯へ配置し、その差を把握する基本的な方法である。 ただし、何の日付で期間帯へ置くかによって意味が変わる。資金繰りを見る満期ギャップと、金利変動への反応を見る金利更改ギャップを分ける。

満期ギャップ

ある期間帯の資金流入と資金流出の差を見る。元本返済、償還、預金払戻し、調達満期等を時間軸へ置き、 資金不足がいつ生じるかを把握する。

金利更改ギャップ

一定期間内に金利が改定される資産と負債の差を見る。変動金利商品は最終満期ではなく次回更改日、 固定金利商品は原則として満期・返済日へ配置する。

金利更改ギャップ = 金利感応資産 - 金利感応負債
簡略例:1年以内の金利更改ギャップ 1年以内に金利更改される資産が1,200億円、負債が900億円であれば、ギャップは+300億円である。 他の条件が変わらず、両者の適用金利が同時に0.25%上昇し、その影響が1年間続くと単純化すると、 年間資金利益への影響は300億円×0.25%=+7,500万円となる。

この計算は方向感をつかむ近似にすぎない。実際には、資産・負債の金利改定時点、金利追随率、参照指標、フロア・キャップ、 顧客行動、新規取引、日数、通貨、複利、残高変化を反映する。正のギャップであっても、預金金利が貸出金利より速く上昇すれば収益が悪化する場合がある。

期間帯設計の注意点

  • 短期の資金繰りには日次・週次の細かい期間帯を用い、中長期の金利リスクには年単位まで広げる。
  • 期間帯境界の前後へ取引が集中していないかを確認し、集計帯だけでなく実日付へ掘り下げる。
  • 普通預金のように契約上の満期がない商品は、行動仮定を適用した結果と契約上の扱いを併記する。
  • ギャップ合計が小さくても、期間帯ごと、通貨ごと、金利指標ごとの大きな相反ポジションを相殺して隠さない。

7. 資金利益(NII)の視点

NIIはNet Interest Income(資金利益)の略で、主として貸出・有価証券等の利息収益から、預金・借入等の利息費用を差し引いたものである。 ALMでは、基準シナリオと金利変動シナリオの下で、一定期間のNIIがどのように変化するかを予測する。 これは収益の時間軸から金利リスクを見る視点である。

予測NII = 各資産の予測利息収益 - 各負債の予測利息費用 ± ヘッジ等の受払
NIIシミュレーションで必要となる主な仮定
仮定 内容 主な影響
金利経路 短期・長期金利、通貨別カーブ、参照指標、変動時期 更改後金利、再投資利回り、調達費用を決める。
金利追随 市場金利変化のうち、貸出・預金金利へ反映する割合と遅れ 預貸金利鞘の拡大・縮小を左右する。
残高計画 新規貸出、預金増減、満期更新、有価証券再投資、調達 静態バランスシートと動態バランスシートの差を生む。
顧客行動 期限前返済、早期解約、普通預金の流出・移替、未使用枠実行 利息発生残高と金利更改時期を変える。
商品条件 スプレッド、フロア、キャップ、優遇、手数料、キャンペーン 市場金利との非線形な関係を生む。

静態分析と動態分析

静態バランスシート

基準日の残高構成を概ね維持する、または既存取引だけを満期まで展開する。 金利感応構造の比較がしやすい一方、事業計画や新規取引を表さない。

動態バランスシート

新規取引、更新、商品金利、調達・運用方針等を計画へ反映する。 経営計画と結び付くが、前提が増えるため、基準ケース・施策・市場要因を分けて管理する必要がある。

NIIと会計利益は一致しない
NIIは主に利息収支を見る指標であり、信用コスト、手数料、売買損益、評価損益、経費、税金等をすべて含む最終利益ではない。 また、管理上のNII定義にヘッジ受払やFTPをどこまで含めるかは金融機関により異なり得るため、指標定義を明示する。

8. 経済価値(EVE)の視点

EVEはEconomic Value of Equity(資本の経済価値)の略で、資産・負債・オフバランス取引の将来キャッシュフローを現在価値へ換算し、 資産側の現在価値から負債側の現在価値を差し引いて捉える考え方である。 金利シナリオごとのEVE変化は、バランスシートが持つ中長期的な経済価値の金利感応度を示す。

EVE = 資産キャッシュフローの現在価値 - 負債キャッシュフローの現在価値 ± オフバランス取引の現在価値
ΔEVE = 金利ショック後EVE - 基準EVE
簡略例:資産の期間が負債より長い場合 5年後に1,000億円を受け取る資産と、1年後に900億円を支払う負債だけがあり、同一の割引率を用いると仮定する。 割引率1%では資産現在価値が約951.47億円、負債現在価値が約891.09億円で、EVEは約60.38億円である。 割引率が2%へ上昇すると、資産現在価値は約905.73億円、負債現在価値は約882.35億円となり、EVEは約23.38億円へ低下する。 この簡略例のΔEVEは約-37.00億円である。

資産のキャッシュフローが負債より長期であるため、金利上昇時に資産価値の減少が相対的に大きくなった例である。 実際の計測では、利息を含む全キャッシュフロー、通貨別の割引曲線、期間別ショック、スプレッド、顧客行動、オプション、ヘッジを反映する。

NIIとEVEの違い
比較項目 NIIの視点 EVEの視点
主な問い 今後一定期間の資金利益がどう変わるか。 将来キャッシュフロー全体の現在価値がどう変わるか。
時間軸 1年、2年、3年等の収益予測期間。 原則として残存する全期間。
主な感応 金利更改、金利追随、残高計画、新規・更新。 キャッシュフローの時期、デュレーション(キャッシュフローの期間と金利感応度を表す指標)、割引率、オプション。
経営上の意味 期間収益と予算への影響。 長期的な価値と資本への潜在的影響。
弱点 予測期間外の価値変化を捉えにくい。 直近の会計利益・資金繰りを直接示さない。
内部管理EVEと監督上のΔEVEを区別する
IRRBB(Interest Rate Risk in the Banking Book:銀行勘定の金利リスク)の監督上のΔEVEには、対象範囲、金利ショック、行動仮定、開示等の定めがある。 内部ALMで用いるシナリオ・モデルと一致するとは限らない。共通データを使いながら、内部管理結果と規制・監督上の結果を別の計算目的・ルール版として保持する。

9. 流動性・資金調達の視点

金利収益が見込めても、支払期日に必要な通貨の資金を用意できなければ業務を継続できない。 ALMでは、契約上・行動上の資金流入と資金流出、利用可能な流動性資産、担保、調達余力を期間別・通貨別に把握し、 平常時とストレス時の資金繰りを管理する。

期末流動性余力 = 期首利用可能資金 + 期間内資金流入 - 期間内資金流出 + 実行可能な追加調達
簡略例:一期間の流動性ラダー 期首の利用可能資金が300億円、期間内の資金流入が800億円、資金流出が1,000億円で、追加調達を見込まない場合、 期末流動性余力は300億円+800億円-1,000億円=100億円である。 ただし、受取遅延、預金流出、担保追加差入、未使用枠の実行、市場調達停止をストレスとして重ねると結果は変わる。
流動性・資金調達管理の主な構成要素
要素 主な内容 ALM上の問い
資金流入 貸出返済、債券償還、預け金回収、デリバティブ受取、新規調達 予定日に全額受け取れるか。再運用するか。
資金流出 預金払戻し、借入・社債返済、貸出実行、担保・証拠金、決済 契約外・偶発的な流出をどこまで見込むか。
流動性バッファー 現金、中央銀行預け金、売却・担保利用可能な高流動性資産 法的・業務的に自由に利用でき、ストレス時に換金できるか。
調達構成 個人・法人預金、市場調達、担保付・無担保、短期・長期、中央銀行 特定の市場、顧客、期間、通貨へ集中していないか。
調達余力 借入枠、担保余力、発行余力、資産売却、通貨スワップ 平常時の名目枠ではなく、ストレス時に実行できる金額はいくらか。
危機対応 早期警戒指標、エスカレーション、CFP(Contingency Funding Plan:緊急時資金調達計画)、連絡・実行手順 誰が、どの兆候で、どの調達・資産処分を発動するか。

CFPでは、ストレステストで判明した不足へ対応するため、発動条件、責任者、調達手段、担保、優先順位、対外連絡、実行手順を平常時から定める。 計画書があるだけでなく、利用可能担保と市場アクセスを定期的に確認し、訓練・更新することが重要である。

LCR・NSFRだけでは内部流動性管理を代替できない
LCRは主に30日間のストレスに対する適格流動資産、NSFRは1年の時間軸を念頭に安定調達構造を見る規制指標である。 ALMではこれらに加え、日中・日次の決済、通貨別資金繰り、資金調達集中、担保余力、内部限度、固有シナリオ等を管理する。

10. 通貨別・金利指標別の管理

報告通貨へ換算した連結合計が均衡していても、特定通貨の資金不足は解消されない。 通貨ごとに資金市場、決済時間、中央銀行制度、担保、調達先、金利曲線が異なるため、重要通貨は個別に管理する。 通貨間の資金移転に外国為替スワップや通貨スワップを使う場合は、満期、ロール、担保、相手方、市場流動性も含める。

通貨別流動性

通貨別の流入・流出、流動性バッファー、担保、調達余力を管理する。 外貨余剰を円換算しただけで、外貨支払能力があるとは限らない。

為替リスク

資産・負債の通貨不一致と、将来受払の為替感応を把握する。 換算差額と実際の資金不足を区別する。

クロスカレンシー調達

一通貨で調達し別通貨へ交換する場合、金利差だけでなくベーシス、ロール、担保、決済、相手方集中を評価する。

同じ通貨の中にもベーシス・リスクがある

ベーシス・リスクとは、同じ期間または通貨であっても、資産と負債が参照する金利指標や金利改定規則が異なり、 その差が変動するリスクである。例えば、貸出金利がTIBORに連動し、ヘッジがTONAを参照する OIS(Overnight Index Swap:翌日物金利を参照する金利スワップ)に連動する場合、TIBORとTONAの差が動けば、期間が揃っていても受払は完全には相殺されない。

通貨・指標管理で保持する主な情報
区分 主なデータ 主な計測・統制
通貨 取引通貨、元本通貨、決済通貨、担保通貨、報告通貨 通貨別残高・キャッシュフローと換算後合計を併存させる。
金利指標 参照指標、テナー、スプレッド、リセットラグ、フォールバック 指標別ギャップ、ベーシス感応、指標変更時の契約処理を管理する。
曲線 予測曲線、割引曲線、FTP曲線、通貨・担保別曲線 用途ごとの曲線を区別し、市場データ日・構築方法・版を保存する。
為替 直物、フォワード、換算レート、シナリオ、決済日 経済的ポジション、会計換算、実際の資金受払を分ける。

11. 顧客行動・オプション性

銀行商品のキャッシュフローは、契約書だけでは確定しないことが多い。 顧客は金利、経済環境、資金需要、競合商品、デジタルチャネル等に応じて、預金を移す、貸出を期限前返済する、定期預金を中途解約する、 コミットメントを実行する。こうした行動オプション性を重要性に応じて反映する。

代表的な行動モデル・仮定
対象 契約上の姿 行動上の論点 主な影響
流動性預金 要求に応じて払い戻す。 残高の安定部分、減衰、金利追随、他商品への移替。 満期、デュレーション、NII、EVE、流動性。
固定金利貸出 契約返済日まで固定金利。 金利低下時の期限前返済、借換え、繰上返済手数料。 資産期間の短期化、再投資利回り低下。
定期預金 満期まで固定条件。 早期解約、満期更新、更新後テナー・金利。 調達期間、費用、資金流出。
コミットメント 条件内で将来実行可能。 実行率、信用状態・市場環境との連動、取消可能性。 貸出残高、資金需要、流動性、収益。
有価証券・調達 発行条件どおりに利払・償還。 発行体コール、投資家プット、償還延期、期限前償還。 期間、価値、再投資・再調達。

NMDとコア預金

NMDはNon-Maturity Deposits(満期の定めがない預金)の略で、普通預金・当座預金等が代表例である。 このうち、預金者が随時払い出せるにもかかわらず、実績上一定期間滞留すると見込む部分をコア預金として扱う場合がある。 定義、残高上限、満期配分、金利追随の仮定によって金利リスク量が大きく変わるため、過去データだけで機械的に決めない。

モデル開発

目的、対象セグメント、説明変数、推計期間、外れ値、構造変化、保守性、限界を文書化する。

独立検証

理論、データ、実装、感応度、バックテスト、ベンチマーク、限界を開発者から独立した立場で確認する。

継続監視

実績との差、顧客構成、商品条件、金利環境、チャネル変化を監視し、再推計・再承認の条件を定める。

用途別管理

内部NII、内部EVE、監督上のIRRBB、流動性、FTPで用いる仮定を区別し、差異理由を説明できるようにする。

過去の安定性が将来を保証するわけではない
金利上昇、競争激化、預金保険限度、オンライン送金、評判悪化等により、預金行動は過去と異なる可能性がある。 基準モデルだけでなく、保守的な代替仮定とストレス流出を併用し、結果の幅を経営へ示す。

12. ヘッジとデリバティブ

ALMでは、資産・負債の構成変更に加え、金利スワップ、先物、債券、外国為替スワップ、通貨スワップ等を用いて、 金利、通貨、資金調達のミスマッチを調整する。ただし、ヘッジは一つの指標だけを改善するものではなく、収益、経済価値、流動性、会計、担保、相手方リスクへ影響する。

代表的なALMアクションと主な波及
アクション 主な目的 同時に確認する事項
固定受け・変動払いの金利スワップ 固定金利運用を経済的に増やす、または変動金利負債とのミスマッチを調整する。 NII、EVE、ベーシス、CSA(Credit Support Annex:担保授受に関する契約文書)に基づく担保、中央清算、相手方、会計ヘッジ。
固定払い・変動受けの金利スワップ 固定金利資産の金利上昇リスクを抑える。 金利低下時の機会損失、預金金利追随、解約・期限前返済。
有価証券の売却・入替え デュレーション短縮、流動性確保、利回り・信用構成の変更。 実現損益、会計区分、税、売却可能性、再投資、資本への影響。
長期調達・預金施策 資金調達期間の延長、通貨不足の解消、調達集中の低減。 調達費用、商品金利、顧客行動、担保、発行余力、FTP。
外国為替・通貨スワップ 通貨別資金不足、為替・金利ミスマッチを調整する。 ベーシス、満期ロール、担保通貨、決済、相手方、市場閉鎖。

経済ヘッジと会計ヘッジ

経済ヘッジ

経済的な金利・為替・流動性リスクを減らす目的で行う。ALM上の感応度やキャッシュフローが相殺されるかを重視する。

ヘッジ会計

会計上の要件を満たすヘッジ関係について、ヘッジ手段と対象の損益認識時期の不一致を調整する。 経済的に有効でも会計要件を満たさない場合や、その逆の管理差があり得る。

ヘッジ後の新しいリスクを見る
デリバティブで金利感応を抑えても、担保・証拠金の流動性需要、相手方信用リスク、清算・決済リスク、ベーシス・リスク、 モデル・会計の不一致が生じる。取引前後のNII、EVE、流動性、会計、規制、限度を同じ施策IDで比較する。

13. 計画・シナリオ・ストレス

ALMは基準日のリスク計測だけでなく、将来の事業計画と市場環境を結び付ける。 残高、商品金利、新規取引、満期更新、資金調達、ヘッジ、経費・信用コスト等の計画を整合させ、 基準シナリオ、代替シナリオ、厳しいが起こり得るストレスで収益・価値・流動性・資本を評価する。

感応度分析

一つの変数を動かし、金利+0.25%、預金金利追随率+10%等の影響を確認する。要因理解に向く。

シナリオ分析

金利曲線、残高、顧客行動、信用、調達市場等を整合的な物語として同時に変化させる。

ストレステスト

重大な損失・資金不足を生む厳しい状況を想定し、限度・資本・流動性と経営対応の実行可能性を確認する。

ALMで組み合わせる代表的なシナリオ要素
要素 代表例 主な影響経路
金利 平行上昇・低下、短期先行、長期先行、スティープ化(長短金利差の拡大)、フラット化(長短金利差の縮小) 貸出・預金金利、債券価格、再投資、調達費用、NII、EVE。
顧客行動 預金流出、普通から定期への移替、期限前返済、未使用枠実行 残高、金利追随、資金需要、キャッシュフロー時期。
市場流動性 無担保調達停止、レポ掛目上昇、資産売却価格下落、ヘッジ困難 調達余力、担保需要、実現損失、CFP発動。
信用・評判 格下げ、信用スプレッド上昇、預金流出、担保追加差入 調達費用、流動性、評価、相手方制限。
事業計画 貸出成長鈍化、預金減少、証券運用増加、調達長期化 収益、期間構造、リスク量、資本、流動性。

ストレス結果を経営対応へつなげる

  1. 脆弱性を特定する:どの通貨、期間帯、商品、顧客行動、調達源が損失・不足を生むか確認する。
  2. 管理余力を確認する:限度、資本、流動性バッファー、担保、調達枠までの余裕を把握する。
  3. 施策を試算する:価格改定、資産売却、調達、ヘッジ、貸出抑制等の効果と副作用を比較する。
  4. 実行可能性を検証する:ストレス時の市場容量、所要時間、会計損失、顧客影響、意思決定権限を確認する。
  5. 早期警戒へ落とす:発動指標、閾値、責任者、報告先、期限、CFP・事業計画との関係を定める。

14. 行内の資金移転価格(FTP)

FTPはFunds Transfer Pricing(行内の資金移転価格)の略である。 顧客部門が行った貸出・預金等について、資金の調達費用・運用便益、期間、通貨、流動性、オプション等を内部価格として付与し、 顧客取引の採算と銀行全体の金利・流動性リスクを分けて管理する仕組みである。

貸出側の考え方

顧客から得る貸出金利から、同じ通貨・期間の資金コスト、流動性プレミアム、オプション費用等を控除し、 さらに信用コスト・経費を考慮して顧客取引の採算を評価する。

預金側の考え方

預金が銀行全体へ提供する資金価値をFTPクレジットとして付与し、顧客へ支払う預金金利や業務コストとの差から、 預金部門の貢献を評価する。

簡略例:貸出の内部採算 貸出金利1.50%、基準資金コスト0.80%、期間・流動性プレミアム0.20%、信用・業務コスト0.25%とすると、 簡略化した残余マージンは1.50%-0.80%-0.20%-0.25%=0.25%である。 実際には、資本コスト、オプション費用、手数料、税、期待損失、利用率等も定義に応じて考慮する。
簡略例:預金が提供する資金価値 預金へ付与するFTPクレジットが0.80%、顧客へ支払う預金金利が0.20%であれば、業務コスト等控除前の差は 0.80%-0.20%=0.60%である。預金の安定性・満期・金利追随の仮定が変わればFTPも変わる。
FTP設計の主な要素
要素 主な内容 統制上の論点
基準曲線 通貨・期間別の無リスクまたは調達基準となる曲線 市場データ、構築方法、適用日、例外を版管理する。
期間対応 契約満期、金利更改、行動満期、償還スケジュール 一律の短期FTPで長期資産を評価しない。
流動性 安定調達コスト、流動性バッファー費用、偶発流動性 費用だけでなく、安定預金等が提供する便益も一貫して配分する。
オプション 期限前返済、早期解約、未使用枠、金利フロア等 商品特性に応じた費用を価格と採算へ反映する。
責任分離 顧客スプレッド、信用コスト、資金・金利リスク 顧客部門とALM・財務部門の管理責任を明確にする。
FTPは会計仕訳そのものではない
FTPは内部管理価格であり、外部顧客との契約金利や財務会計上の利息とは異なる。 財務会計、管理会計、商品価格、業績評価へどこまで反映するかを明示し、曲線変更による損益差を実取引の損益と混同しない。

15. 限度・報告・経営アクション

ALM指標は計算するだけでは意味を持たない。経営方針とリスクアペタイトに沿って限度・警戒水準・目標を設定し、 実績、予測、ストレス結果を定期的に比較する。超過または悪化の兆候がある場合は、原因、影響、対応策、責任者、期限を明確にしてエスカレーションする。

ALMで用いる代表的な指標と対応
領域 代表的な指標 悪化時の主な確認・対応
期間収益 NII、NII感応度、預貸金利鞘、金利追随率、予算差 商品金利、残高計画、預金移替、再投資、ヘッジ、FTPを見直す。
経済価値 EVE、ΔEVE、期間別感応度、デュレーション、通貨別金利リスク 有価証券期間、固定・変動構成、スワップ、行動仮定、資本余力を確認する。
流動性 期間別資金ギャップ、生存期間、バッファー、担保余力、LCR 追加調達、資産売却、担保確保、預金施策、CFP発動可能性を評価する。
安定調達 調達期間、調達先集中、預金構成、無担保・担保付比率、NSFR 長期調達、通貨別調達、顧客・市場分散、資産成長計画を見直す。
市場・通貨 為替ポジション、指標別ギャップ、クロスカレンシー調達、担保需要 ヘッジ、通貨スワップ、期間ロール、相手方・市場容量を確認する。
モデル・データ バックテスト差、未分類残高、データ欠損、手修正、処理遅延 保守的代替、再処理、モデル再検証、データ是正、利用制限を行う。

限度・警戒水準・目標を分ける

限度

超えてはならない、または超過時に正式な承認・是正を要する境界である。例外承認を常態化させない。

警戒水準

限度へ達する前に分析・報告・予防措置を始める境界である。先行指標や予測値にも設定する。

目標・予算

経営として目指す収益・構成・余力の水準である。規制最低水準や限度と同じ値にしない。

指標からアクションまで追跡する

  1. 検知:実績・予測・ストレス値が警戒水準または限度へ接近・超過したことを検知する。
  2. 確証:データ欠損、遅延、モデル変更、システム処理誤りではないかを確認する。
  3. 要因分解:金利、残高、通貨、期間、商品、顧客行動、調達、ヘッジへ影響を分解する。
  4. 選択:複数の対応策について、NII・EVE・流動性・会計・規制・顧客への副作用を比較する。
  5. 決裁・実行:権限に従って承認し、取引・価格・調達・ヘッジ・計画変更へ落とす。
  6. 事後検証:実行結果、費用、指標改善、残存リスクを確認し、意思決定記録を保存する。

16. 会計・リスク・規制との関係

ALMは、銀行会計、リスク管理、規制報告、経営計画の間に位置する。 会計残高を出発点としながら、将来キャッシュフロー、行動仮定、市場シナリオ、経営計画を加えて内部管理指標を作る。 同じ貸出・預金・債券・デリバティブでも、目的ごとに対象範囲と計算方法が異なる。

同じ取引を見る目的の違い
領域 主な目的 主な基準・結果 ALMとの関係
財務会計 財政状態・経営成績を外部報告する。 簿価、時価、利息、評価損益、財務諸表。 基準残高・実績損益を提供する。ALMの経済価値・行動満期とは一致しない場合がある。
ALM 収益・価値・流動性・調達を横断してバランスシートを運営する。 NII、EVE、ギャップ、流動性余力、FTP、シナリオ。 経営判断のため、会計・リスク・計画を結ぶ。
市場リスク管理 金利、為替、株価等の変動による価値・収益の損失を管理する。 感応度、VaR(Value at Risk:一定の確率水準で想定する損失額)、ストレス、限度等。 ALMの金利・通貨リスクと重なるが、トレーディングを含む範囲や日次管理が異なり得る。
IRRBB 銀行勘定に内在する金利リスクを識別・計測・監視・管理する。 監督上のΔEVE、将来収益への影響、行動仮定、開示等。 ALMの主要領域であるが、監督上のシナリオ・計算要件を別管理する。
流動性リスク管理 支払義務を履行し、調達困難・不利な資産売却を避ける。 資金繰り、流動性バッファー、ストレス、CFP、通貨別管理。 ALMの資金調達・流動性視点を、日中・危機対応まで深掘りする。
流動性規制 短期流動性と中長期の安定調達を客観的基準で確保する。 LCR、NSFR、告示上の区分・係数。 内部ALM結果と並行管理し、規制固有の範囲・仮定へ変換する。
資本・統合リスク管理 銀行全体のリスクを資本・収益・戦略と整合させる。 リスク資本、自己資本、ストレス損失、リスク調整後収益。 ALM施策が資本・他リスクへ与える影響を受け渡す。

一致させるものと、差を説明するもの

  • 一致させる:対象を揃えた会計元本・残高・通貨・法人・基準日と、ALM入力残高。
  • 調整してつなぐ:未収未払、評価、引当、相殺、内部取引、オフバランス、ヘッジ、連結範囲。
  • 差を説明する:契約満期と行動満期、会計簿価と経済価値、内部シナリオと規制シナリオ。
  • 共有する:取引・顧客・商品・通貨・日付等の事実データ、市場データ、組織マスター。
  • 分離する:会計ルール、ALMモデル、規制ルール、FTPルール、経営計画の版と承認。
結果が一致しないこと自体は誤りではない
目的が異なれば値が異なるのは自然である。問題は、対象範囲、基準日、残高定義、キャッシュフロー、仮定、曲線、シナリオ、集計、手修正のどこで差が生じたかを説明できないことである。

17. システムで管理するデータ

ALMシステムでは、会計残高の集計値だけでなく、契約条件、金利更改、キャッシュフロー、顧客行動、通貨、担保、調達、計画、 市場データ、モデル・シナリオを再現可能な形で管理する。基準日、処理時点、適用版を明示し、同じ入力と版から同じ結果を再計算できることが基本となる。

ALMシステムの主なデータ領域
領域 主な項目 設計上の着眼点
組織・範囲 連結・単体、法人、拠点、部門、ブック、内部取引、法域、報告通貨 会計連結、規制連結、ALM管理範囲、資金移動可能性を別属性にする。
契約・商品 契約ID、商品、顧客、元本、通貨、約定・実行・満期、返済方式、ステータス 元取引、変更、更新、部分返済、取消し、後続取引を追跡する。
金利条件 固定・変動、参照指標、スプレッド、次回更改日、リセット、フロア、キャップ、日数計算 支払日、金利決定日、金利更改日、適用期間を一つの日付へ集約しない。
残高・会計 元本、簿価、未収未払、時価、評価損益、引当、勘定科目、会計日 会計残高とALM残高の調整項目を保持し、GL(General Ledger:総勘定元帳)へ照合できるようにする。
キャッシュフロー 元本・利息・手数料、受払日、金額、通貨、契約・行動・計画区分、生成元 一契約から複数明細を生成し、生成ルール・仮定・シナリオへ紐付ける。
顧客行動 セグメント、滞留率、減衰、期限前返済率、早期解約率、実行率、金利追随率 実績、モデル値、上書き、保守的代替を分け、適用範囲と有効期間を管理する。
市場・曲線 金利、為替、信用・流動性スプレッド、予測・割引・FTP曲線、ボラティリティ 情報源、観測時刻、休業日、補間、構築方法、用途、品質状態、版を保存する。
流動性・担保 利用可能資産、担保設定、掛目、借入枠、調達先、決済口座、証拠金、処分制約 保有額ではなく、特定時点・通貨・法人で実際に利用できる額を判定する。
デリバティブ・ヘッジ 取引、レッグ、ネッティング、CSA、担保、清算、ヘッジ対象・手段、会計関係 経済的受払、担保流動性、会計ヘッジ、相手方を別々に追跡する。
計画・シナリオ 残高計画、商品金利、新規・更新、調達・運用・ヘッジ計画、金利・行動・ストレス 実績、基準計画、施策、代替・ストレスをシナリオIDで分離する。
モデル・ルール キャッシュフロー、行動モデル、割引、FTP、集計、限度、マッピングの版 適用開始・終了日、承認、検証、変更理由、旧版、ロールバックを管理する。
結果・証跡 NII、EVE、ギャップ、流動性、FTP、限度、要因分解、手修正、承認、アクション 集計結果だけでなく、入力スナップショット、中間計数、実行ID、判断記録を保存する。

日付を意味別に持つ

取引日、実行日、受渡日、会計日、利払日、金利決定日、金利更改日、返済日、契約満期日、行動満期日、評価日、 市場データ日、シナリオ基準日、処理日時、承認日時を区別する。一つの「基準日」や「満期日」だけでは、再計算と差異分析ができない。

正本と派生値を区別する

正本となる事実

契約条件、元本、取引状態、顧客、通貨、実際の受払等である。更新責任を持つ業務システムを明確にする。

派生する管理値

行動満期、予測キャッシュフロー、EVE、NII、FTP、限度使用等である。入力、モデル、シナリオ、実行IDへ紐付ける。

不明値を黙って補完しない
欠損、期限切れ、矛盾、未分類は品質状態として可視化する。 代替値を使う場合は、適用理由、値、優先順位、承認、期限、影響額を保存し、恒久対応まで追跡する。

18. 計算・システム間データ連携・統制

ALMは、預金、融資、有価証券、デリバティブ、市場、会計、顧客、担保、計画等の複数システムからデータを集める。 したがって、計算ロジックだけでなく、システム間データ連携の完全性、適時性、再処理、照合、データ系譜が結果の信頼性を左右する。

1.業務・会計契約、取引、残高、受払、仕訳、担保、顧客
2.共通データ基準日固定、名寄せ、マッピング、品質検証、調整
3.計算キャッシュフロー、行動仮定、曲線、NII、EVE、流動性、FTP
4.集計・報告法人、通貨、部門、期間、シナリオ、限度、要因分解
5.意思決定ALCO、価格、調達、運用、ヘッジ、計画、事後検証

処理の基本順序

  1. 計算目的を確定する:内部NII、内部EVE、流動性、FTP、計画、ストレス等の目的、対象範囲、基準日を決める。
  2. 入力を固定する:契約、残高、会計、市場、担保、顧客、計画のスナップショットを実行IDへ紐付ける。
  3. 品質を検証する:件数・金額・重複・欠損・日付・通貨・残高・会計照合を行い、保留・代替を決める。
  4. 契約キャッシュフローを生成する:元本、利息、手数料、デリバティブ、担保・証拠金等を実日付へ展開する。
  5. 行動・計画を適用する:預金滞留、期限前返済、実行率、新規・更新、価格・調達施策を目的別に反映する。
  6. 市場・シナリオを適用する:通貨別金利曲線、為替、スプレッド、顧客行動、ストレスをシナリオIDで適用する。
  7. 指標を計算する:ギャップ、NII、EVE、流動性、FTP、感応度、限度使用等を算出する。
  8. 集計・要因分解する:法人、通貨、部門、商品、期間、シナリオへ集計し、前回差・予算差を分解する。
  9. 照合・承認する:会計、資金繰り、リスク、規制、前回結果と照合し、差異・手修正・承認を保存する。
  10. 結果とアクションを固定する:ALCO資料、決定、担当、期限、実行取引、事後検証を計算結果へ関連付ける。

システム間データ連携で保持する管理情報

インターフェース単位の主な統制
管理項目 主な内容 検証例
連携契約 送信元・受信先、データ責任者、項目定義、粒度、頻度、締切、再送条件 仕様変更時に送受信双方が同じ版を承認しているか。
識別 連携ID、ファイル・メッセージID、基準日、抽出時点、処理日、版 重複受信・欠落・順序逆転を検知できるか。
件数・金額 送信・受信・採用・除外・保留の件数、元本、簿価、通貨別金額 差異が許容範囲内か、除外理由を明細で説明できるか。
品質状態 正常、警告、エラー、保留、代替、手修正、再処理、確定 エラーを正常値へ上書きせず、状態遷移と承認を残しているか。
再送・再処理 元実行、再送理由、対象範囲、再実行ID、取消し、差分・全件 同一データを二重計上せず、変更前後を比較できるか。
データ系譜 元項目、変換、マッピング、計算、中間結果、集計、報告セル 経営指標から元契約・市場データ・仮定へ遡れるか。

基準日と処理時点を二軸で管理する

2026年8月15日基準の残高を、8月16日に計算し、8月17日に再処理する場合、残高基準日は変わらないが処理日時と実行版は変わる。 システム間データ連携では、業務上の基準日、元システム抽出時点、受信時刻、計算実行時刻、確定時刻を別々に保持する。 遡及訂正がある場合は「当時利用可能だった情報による結果」と「後日訂正後の結果」を区別する。

主な照合

入力から経営報告までの照合例
照合 確認すること 代表的な差異
業務システム ↔ 会計 対象を揃えた元本、簿価、未収未払、通貨、法人、勘定。 計上時点、評価、引当、決算調整、未処理、科目マッピング。
会計 ↔ ALM入力 会計残高が網羅され、対象・除外・調整へ分類されていること。 オフバランス追加、内部取引、ALM対象外、集計時点、手修正。
契約 ↔ キャッシュフロー 元本収支、利息条件、残存元本、満期、通貨が整合すること。 金利更改、休日調整、期限前返済、端数、最終回、欠落。
ALM ↔ 資金繰り 短期の実際受払と予測キャッシュフローの差を説明できること。 決済時点、日中流動性、未確定取引、担保、予測更新頻度。
ALM ↔ 規制 共通残高から、IRRBB・LCR・NSFR固有の変換差を説明できること。 範囲、シナリオ、行動仮定、期間帯、適格性、係数、相殺。
計算 ↔ ALCO資料 承認済み実行IDの結果だけが報告され、転記・集計が一致すること。 旧版使用、Excel補正、丸め、再処理未反映、報告マッピング。

手修正・Excel・エンドユーザー計算

一時的なデータ補正や経営シナリオの試算に表計算を使う場合でも、入力元、数式、版、作成者、確認者、承認、利用期限、最終システム結果との差を管理する。 手修正を恒久的なシステム間データ連携や計算ロジックの代替にせず、根本原因と恒久対応を追跡する。

ALMシステムの完了条件
最終指標が表示されることだけではない。元契約・会計残高・市場データ・顧客行動・計画・モデル・シナリオから、 キャッシュフロー、中間計数、集計、限度、ALCO報告、経営アクションまでを再現・追跡でき、 システム間データ連携の件数・金額・状態・再処理差を説明できることが必要である。

19. よくある論点と導入手順

Q1. ALMは金利リスク管理だけを指すのか

金利リスクは重要な中心領域だが、それだけではない。 資産・負債構成、期間、通貨、資金調達、流動性、収益性、FTP、計画、ストレス、経営アクションまでを横断する。

Q2. 資産と負債の残高が一致していれば、ALM上も均衡しているか

一致しているとは限らない。貸借対照表は資産=負債+純資産として一致するが、満期、金利更改、通貨、金利指標、行動特性が異なれば、 NII、EVE、流動性のミスマッチが生じる。

Q3. ギャップがゼロなら金利リスクもゼロか

ゼロとは限らない。期間帯内の実日付、金利追随、参照指標、カーブ形状、オプション、通貨、顧客行動が異なればリスクが残る。 ギャップは有用な一次指標だが、NII・EVE・ストレス分析と併用する。

Q4. 金利上昇は銀行収益に必ずプラスか

必ずしもプラスではない。資産・負債の更改速度、預金金利追随、固定金利資産、有価証券評価、期限前返済、調達構成、ヘッジによって異なる。 NIIが増えてもEVEが減少し、流動性・信用コストが悪化する場合もある。

Q5. 普通預金は翌日満期として扱えば安全か

契約上の保守的な見方として必要な場面はあるが、内部NII・EVEでは実際の滞留と金利追随を捉えられない。 契約上の扱い、行動モデル、規制上の扱い、ストレス流出を目的別に保持する。

Q6. NIIが改善すればEVEも改善するか

同じ方向とは限らない。NIIは一定期間の資金利益、EVEは将来全期間の現在価値を見る。 長期固定金利資産を増やすと当面の利息収益を固定できても、金利上昇時の経済価値感応が大きくなる場合がある。

Q7. ALMとLCR・NSFRの計算を一つにまとめればよいか

共通データは再利用できるが、計算は目的別に分ける。 内部ALMと規制指標では対象範囲、キャッシュフロー、行動仮定、期間、適格性、係数、相殺が異なるためである。

Q8. デリバティブで金利感応を相殺すれば管理は完了か

完了ではない。ベーシス、担保・証拠金、相手方、中央清算、流動性、会計ヘッジ、ロール、市場容量等の新しいリスクを確認する。

Q9. FTPは一つの平均調達金利で十分か

商品・通貨・期間・オプション・流動性が重要であれば、平均金利だけでは採算とリスクの責任を適切に分けられない。 ただし、複雑化自体を目的にせず、重要性、説明可能性、運用負荷を踏まえて設計する。

Q10. 会計残高とALM残高が一致しないのは誤りか

対象を揃えた元本・簿価は照合すべきだが、オフバランス、行動仮定、計画、内部取引、連結範囲、経済価値等により差が生じる。 誤りか正当な調整かを、明細と調整表で説明する。

Q11. 精緻なモデルを導入すればデータ品質問題は解決するか

解決しない。契約条件、日付、通貨、金利指標、残高、顧客セグメント、履歴が不正確であれば、精緻なモデルほど誤った確信を与える。 データ品質、単純な基準計測、モデル検証を段階的に整備する。

Q12. ALCO資料をExcelで作れていればシステム化は不要か

規模・複雑性によるが、手作業が多い場合は、再現性、適時性、変更管理、属人性、誤転記、危機時の追加分析に限界がある。 まずシステム間データ連携、共通残高、キャッシュフロー、版管理、照合を整備し、判断に必要な手動分析との役割を分ける。

段階的な導入・再構築手順

  1. 目的と経営判断を定義する:どの会議で、誰が、どの指標を使い、何を決めるかを明確にする。
  2. 対象範囲と用語を統一する:法人、通貨、商品、ブック、残高、満期、更改、NII、EVE等の定義を決める。
  3. 入力と正本を棚卸しする:業務・会計・市場・顧客・担保・計画データの正本、責任者、品質、履歴を確認する。
  4. システム間データ連携と照合を固める:件数・金額・状態・再処理・データ系譜を整備し、会計残高へ接続する。
  5. 契約キャッシュフローを確立する:商品別の元本・利息・オプションを実日付へ再現し、単純計測を安定させる。
  6. 行動・計画・シナリオを追加する:重要な預金・貸出からモデル化し、基準・代替・ストレス結果を比較する。
  7. 限度・FTP・アクションへつなぐ:指標を商品価格、調達、運用、ヘッジ、経営計画、事後検証へ反映する。
  8. 独立検証と継続改善を行う:データ、モデル、実装、報告、意思決定、システム変更を定期的に検証する。
設計の最終チェック
「どの取引が、どのキャッシュフローを生み、どの仮定・曲線・シナリオで、どの指標・限度へ集計され、 どの経営判断と実行取引につながったか」を基準日時点で説明できれば、ALMの制度・業務・システムが一続きになっている。

20. 主な公開資料

  1. 金融庁 主要行等向けの総合的な監督指針 III 主要行等監督上の評価項目 本稿基準時点で確認。収益性、統合リスク管理、市場リスク、銀行勘定の金利リスク、流動性リスク、LCR・NSFRに関する監督上の着眼点。
  2. バーゼル銀行監督委員会 Interest rate risk in the banking book 2016年4月21日公表、バーゼル統合フレームワークへ統合。IRRBBの識別、計測、監視、管理、EVE・収益、ショック・ストレス、行動・モデル仮定の基礎。
  3. バーゼル銀行監督委員会 Recalibration of shocks for interest rate risk in the banking book 2024年7月16日公表。IRRBBの所定金利ショックを再調整し、改訂基準は2026年1月1日までに実施することとされた。国内適用は日本の法令・監督資料を別途確認する。
  4. バーゼル銀行監督委員会 Principles for Sound Liquidity Risk Management and Supervision 2008年9月25日公表、現行ガイドライン。流動性リスク許容度、資金流動性、ストレス、緊急時資金調達計画、担保・日中流動性、業務への流動性コスト・便益・リスク配分。
  5. バーゼル銀行監督委員会 Principles for effective risk data aggregation and risk reporting 2013年1月9日公表、現行ガイドライン。リスクデータ集計・報告のガバナンス、正確性、完全性、適時性、適応性等。
  6. バーゼル銀行監督委員会 Implementation of the Principles for effective risk data aggregation and risk reporting 2026年1月6日公表。BCBS 239に関する現行の課題として、ガバナンス、データ系譜、分散したデータ環境、適時・正確・完全な臨時報告等を整理。
  7. 日本銀行 コア預金モデルの特徴と留意点――金利リスク管理そしてALMの高度化に向けて 2011年11月24日公表、2014年3月31日更新。ALMの基本的な位置づけと、コア預金モデルの特徴・検証上の留意点。
  8. 日本銀行 金融システムレポート(2026年4月号) 2026年4月21日公表。金融機関収益、円貨金利リスク、金利上昇時の耐性、将来のバランスシート構成とポートフォリオ管理に関する直近の分析。
  9. 日本銀行 金融システムレポート別冊「コロナ禍における地域金融機関のバランスシート運営」 2022年1月27日公表。預金・貸出・有価証券の残高変化と、銀行勘定全体の金利リスク・バランスシート運営の関係。
ALMの対象範囲、モデル、限度、FTP、ヘッジ、流動性、規制計算は、金融機関の規模・業務・通貨・契約・内部方針により異なる。 実務では、基準日現在の法令・告示・監督指針、バーゼル文書、会計基準、契約、モデル方針、リスク管理規程、ALCO・取締役会の承認を確認する。